大学等

社会にイノベーションを起こす

総合知を持つ博士人材を育成

九州大学

工学研究院 教授

片山 佳樹 氏

九州大学は次世代研究者挑戦的研究プログラム(1)、先導的人材育成フェローシップ事業、卓越大学院プログラムなど、多彩な博士課程の支援プログラムを提供しています。真の研究能力を育む伝統のリサーチプロポーザルやDX型研究法で企業と学生の長期的なリレーションシップにつなげる発展型プログラム、研究型あるいはジョブ型インターンシップなど、博士人材のキャリア構築を支援する独自のプログラムも豊富に組み込み、社会に新しい価値観を提供できるクリエイティブかつイノベーティブな博士人材の育成を目指しています。

転換期にある社会に求められるのは俯瞰力とレジリエンスを備えた博士

九州大学では、専門性の殻を破り、自分の知識やスキルを他分野にも広げられる、俯瞰的視野を持つ博士人材の育成を目標としています。高度な技術を持つ人材が修士ならば、ゼロベースから新しい価値を創出できる人材が博士です。社会が大きな転換期を迎えている今、イノベーションを起こせる人材、問題に直面しても柔軟に適応できるレジリエンスの高い人材が求められています。

本学では、社会のニーズに応える優秀な博士人材の育成はもちろん、博士人材のキャリア構築につながる実践的かつ継続的な取り組みも積極的に推進しています。リサーチプロポーザルや院生融合プロジェクト、企業インターンシップ、企業コンソーシアムなどの従来のプログラムを、次世代研究者挑戦的研究プログラム(以下SPRING)や科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業(2)(以下フェローシップ)、卓越大学院プログラムなどの文部科学省プロジェクトに組み込むことで、研究を通じて産学の協力関係が育まれ、それが博士人材のキャリア構築に大きな役割を果たしています。

リサーチプロポーザルで企業と学生の長期的な関係を構築

九州大学が誇る博士課程のカリキュラムに「リサーチプロポーザル」があります。元々は工学部のみで実施していたプログラムですが、リーディング大学院で理学部・システム情報部にも同プログラムを取り入れました。複数の分野で有用性が確認できたことから、さらにSPRINGで全部局へとプログラムの活用を広げています。

本学のリサーチプロポーザルでは、自分の研究とは異なる分野で研究計画を立て、未解決の重要なポイントを探し出し、どのように解決していくかを提案していきます。企業と一緒にディスカッションを重ねたり、異分野の学生がチームを組んで計画を立案したりと、自分の専門とは異なる方法論を取り入れることで、視野が大きく広がりグローバルな思考が育まれます。リサーチプロポーザルから着想を得て特許を取得する人、起業する人、新たな知見を求めて海外を志す人が現れています。また、リサーチプロポーザルで知財戦略や商品戦略、マーケット戦略を身に付けることで、その後の中長期の研究型インターンシップやジョブ型インターンシップの効率が向上するという報告も寄せられています。

学生・研究者・企業がともに育つ挑戦的で融合的な教育環境を

学生だけでなく、企業やわれわれ指導者も、皆一緒に育っていくのが、九州大学の博士人材育成プログラムの特徴です。企業コンソーシアムやリサーチプログラムを通じ、自分の研究に関するディスカッションを企業と繰り広げたり、企業のニーズや意見をヒアリングしたり、博士課程の全期間にわたって企業と関わる機会を多く設けています。

インターンシップだけでは限定的なキャリアパスになりかねませんが、本学では学生と企業が継続的に関わるプログラムを構築しています。産学一体となった研究プロジェクトの中で、企業側は自社にマッチする優秀な博士人材を見出すこともできますし、学生側は自分の研究を社会に生かす方法を知り、具体的に未来のキャリアを描くことができます。

もちろん、一朝一夕でこのプログラムが完成したわけではありません。教員が自ら様々な企業に直接参加を呼び掛けたり、各方面の意見を聞きながらプログラム内容のブラッシュアップをしたり、1年以上の準備期間を費やしました。現在は、オープンサイエンスプラットフォームを利用した交流とインターンシップや院生融合プロジェクトを組み合わせるなど、SPRINGやフェローシップを活用しつつ、挑戦的で融合的な教育環境を提供しており、企業・学生の双方から高い評価を得ています。

高度な専門知識と総合知を併せ持つ博士が求められる時代へ

現在、日本は時代の岐路に立っています。技術を磨くだけでなく、新しいものを生み出す力が博士には求められています。海外では修士と博士の役割やスキルがはっきりと分かれており、博士になるメリットが明確です。そのため、本学で学ぶ留学生はほぼ全員が博士課程に進みます。日本では長きにわたり、博士の力を生かす舞台が不足していたため、海外と比較すると博士になる意義を感じづらかったかもしれません。しかし、時代の岐路に立つ今、日本には技術力だけではなく、新しい価値を生み出す博士の能力が必要になっています。専門的な知識を持ち、なおかつ俯瞰的な視野を持つ総合知の高い博士人材が求められます。

新しいものの創出にはリスクが伴いますが、リスクを最小限に抑えつつ、イノベーティブな挑戦を行うためにも、企業には博士人材の力を存分に活用していただきたいと考えます。また、博士課程を志す方、博士課程で学んでいる方は、「知」と「価値創出」のプロとしてその能力を社会に還元する義務があります。ぜひその能力を生かし、未来の創出に貢献してください。

記事の内容は、2022年3月取材時点の情報に基づき構成しています。

(1)次世代研究者挑戦的研究プログラム https://www.jst.go.jp/jisedai/ (参照 2022-03-15)

(2)科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業 https://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/fellowship/index.htm (参照 2022-03-15)