広島大学
理事・副学長(学術・社会連携担当)
安倍 学 氏
広島大学では、平成26年度に山口大学、徳島大学と共同で次世代研究者育成プログラム「未来を拓く地方協奏プラットフォーム」(HIRAKU)を開始。博士人材のキャリア支援に取り組み、人材育成はもちろん若手研究者の自立・流動化を促進してきました。広島大学のキャリア支援における強みは、自治体や企業との連携に加え、学生に社会との接点を持つきっかけを与えるプログラムやイベントの企画力にあります。今後は学生に対する経済的支援も強化しながら、学生がより一層安心して研究に専念できる環境整備を進めています。
広島大学が博士人材育成のために取り組んできた「未来を拓く地方協奏プラットフォーム」(以下HIRAKU)は、「イノベーション創出人材の実践的養成・活用プログラム」と、「テニュアトラック導入による若手研究者の自立・流動促進プログラム」の2つの柱で成り立っています。大学法人・公的研究機関・非営利団体・民間企業42社の合計68機関と連携し、トランスファラブルスキルの養成や長期インターンシップ制度、企業とのマッチング支援など、若手研究人材の育成に向けて活動してきました。平成26年度から令和3年度までの8年間にわたるHIKARUの取り組みで培った経験や連携企業とのつながりは、フェローシップ制度での取組にも活かしていきます。
HIRAKUの中でも広島大学ならではの特徴的な取り組みとしては、若手研究者ポートフォリオ「HIRAKU-PF」の運用と、スピーチ大会「未来博士3分間コンペティション」の企画・運営が挙げられます。
「HIRAKU-PF」は、学生を含む若手研究者のキャリア・能力開発の支援ツールです。学生たちは、システム上の診断機能を使って、自己の強みを把握し、自身の成長を定量的にチェックできます。また、このシステムには連携企業にも登録いただいており、学生と企業のマッチングを図るための機能も用意しています。学生はシステム上で自身をアピールすることができ、企業側は検索機能を通じて様々な学生を見つけることが可能です。学生・連携企業の双方にメリットのある点が、このシステムの特徴でしょう。
「未来博士3分間コンペティション」は、博士課程学生が一般聴衆に向けて、自身の研究内容やその魅力を3分間で伝えるスピーチ大会です。社会に出れば、専門用語が通じない方に対しても自身の研究について分かりやすく説明する力が重要となります。「3分間コンペ」はその能力を養うためのイベントです。この大会では、2019年までは連携大学を中心に、2020年からは全国から参加学生を募っていますが、広域の大会として開催する理由は、「他大学の学生との接点を新しい学びにつなげてほしい」「学生にイベントに対しての誇りやプライドを持ってもらいたい」という思いがあるからです。また、審査員として参加いただいた企業が学生のスピーチの内容に興味を持ったことをきっかけに、研究交流や就職につながったという事例もあり、学生のスキル向上以外の波及効果もありました。
自治体や地元企業との連携が取れている点も、広島大学のキャリア支援における強みの一つです。大学の本部がある東広島市はそれほど人口の多い街ではありませんが、キャンパス周辺エリアは人口に占める広島大学関係者の割合が高く、まさに大学都市です。地域との関係性を深めやすい環境であることは、大都市圏の大学にはない魅力といえるでしょう。
東広島市と広島大学はトップ同士が未来志向で決定も早いため、新しいことにもスピーディーに着手できます。「Town & Gown Office」と呼ばれる共同プロジェクトがその好例です。このプロジェクトは持続的な地域の発展と大学の進化を目指すための構想で、現在は東広島市と協力しながらスマートシティの計画や田園都市計画を支えていくための取り組みを進めています。このプロジェクトには複数の企業からの出資もいただいており、現在キャンパス内では自動運転の電気自動車や、ローカル5Gの社会実装実験が盛り上がりを見せているところです。
広島大学では「次世代研究者挑戦的研究プログラム(1)」の採択に伴い、博士課程後期学生が安心して研究に集中できる環境を整えるための「広島大学大学院支援プロジェクト」を開始しています。その一環として、研究専念支援金の支給を行う3つの支援制度、「広島大学大学院リサーチフェローシップ制度」「広島大学創発的次世代研究者育成・支援プログラム」「広島大学女性科学技術フェローシップ制度」を創設しました。
「広島大学創発的次世代研究者育成・支援プログラム」では、採択者の学生が自らの専門領域を超えて社会の発展について議論できる場を設置しています。今後は大学側で企画したセミナーを実施するだけでなく、学生側からも能力向上のための企画を自由に提案いただき、良いアイデアについては事業統括経費から活動支援を行う予定です。もちろん、HIRAKUで行ってきたようなキャリア支援・能力開発のプログラムも継続していきます。
学生たちが経済的な不安を抱えることなく、自分のやりたいことを自由に研究できる環境整備が進んでいます。ぜひ、多くの方に博士後期課程にチャレンジしていただきたいです。大学としては、今後の社会を動かす博士人材を育て社会に送り出すという大事な使命を果たすため、今後も多くの学生が支援の恩恵を受けられるよう努めていきます。
記事の内容は、2022年3月取材時点の情報に基づき構成しています。
(1)次世代研究者挑戦的研究プログラム https://www.jst.go.jp/jisedai/ (参照 2022-03-17)