大学等

民間の視点を取り入れて、研究力と社会実装力を兼ね備えた博士人材を育成

立命館大学

大学院キャリアパス推進室 副室長

理工学部 教授

荒木 努 氏(左)

大学院キャリアパス推進室 コーディネーター

板倉 朋宏 氏(右)

立命館大学では、組織横断的な学生支援体制を早期から構築して立体的なキャリア支援を実現。さらに企業より現職の研究人事担当者を出向者として受け入れ、キャリア支援コーディネーターに任命、人材採用者側の視点を取り入れたキャリア支援施策を打ち出しています。博士後期課程への進学率の低さと、根強い「博士はアカデミアへ」という意識の改革を課題としながらも、積極的な情報発信と、研究・キャリア両面の手厚いサポートにより、研究力と社会実装力を兼ね備えた博士人材の育成を追求しています。

積極的な情報提供と立体的なキャリア支援体制

荒木 立命館大学は学部生、大学院生ともに人数が多いなか、博士後期課程に進学する学生の少なさが一つの課題となっています。また、博士の進路としてアカデミックポジションをイメージする学生や教員もまだ多い状況です。

そのような状況で、まず必要とされているのは、情報発信の強化だと考えています。「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業(1)」(以下大学フェローシップ)や「次世代研究者挑戦的研究プログラム(2)」のような、研究費だけでなく生活費相当の経済的支援も受けられる事業の存在や、企業とのマッチングを促す取り組みなどについての積極的な情報発信が将来の不安を低減し、博士人材のキャリア支援並びに博士後期課程への進学率向上に寄与することを期待しています。

また、立命館大学ならではの取り組みとして、学内の複数の部署が連携した学生サポート体制が挙げられます。学生の教育学修支援を行う「教学部」、研究支援を行う「研究部」、キャリア支援を行う「キャリアセンター」が連携する組織として「大学院キャリアパス推進室」を設置し、部署間で情報を共有したり、教職員が行き来したりすることで、学部や修士課程から博士課程まで一貫し、かつ留学生、社会人など多様な属性を持つ人材をカバーする立体的な支援が可能となります。

それからもう一つ、企業で研究人事担当経験を持つ専任のキャリア支援コーディネーターの存在も大きな特徴です。

板倉 私は、2021年度からキャリア支援コーディネーターとして勤務しています。私のような民間人をこうした職種に就けようという発想は、産学連携の盛んな立命館大学ならではのものですし、とても面白く感じています。

着任して感じたのは、立命館大学の博士後期課程キャリア支援に対する力の入れようです。2021年度に大学フェローシップで採択された学生(以下フェローシップ生)は15名。これは私立大学では最多であり、外部から見ても博士人材の育成に注力していることがよくわかります。

能力可視化プログラムで学生の成長を促す

荒木 人材育成という意味では、まず博士人材にとってどんな能力が必要なのかを可視化する必要があると考えています。例えば大学フェローシップのプログラムでは、イギリスの非営利組織「Vitae」が開発した、研究者に必要な能力を体系化したフレームワーク「Researcher Development Framework」(以下RDF)を活用して、現状の自分の能力をグラフや数値を通して確認できるプログラムを取り入れています。

板倉 今後、RDFの各項目に対応した研修プログラムを用意して、学生が自分の成長に役立つプログラムを選択しやすいように工夫していく予定です。そのうえで私たちコーディネーターが学生や指導教員と面談して、一人一人の確実な成長につなげていきます。

ただ、きめ細かいフォローは博士後期課程の学生が少ないという課題とも表裏一体です。年度を重ねるごとにフェローシップ生も増えるでしょうし、博士後期課程に進学する学生の増加も視野に入れながら、より学生が主体となってプログラムを選択できる体制を構築することが理想です。

荒木 また、立命館大学が独自に展開する企業や地域、学外のメンターに指導を受けながら社会課題の解決策を考えていく課題解決型学習(PBL)の仕組みを今後も発展させていく予定です。一例として、「SDGs課題の解決策を考える」というテーマで、SDGs達成に向けて自身の研究成果を生かしたプランを立命館守山高校3年生に対して発表するといったPBLを実施しました。世代・知識の違う高校生に対する研究発表は大学院生にとっても多くの気づきがありましたし、高校生にとっても大学院進学を知る一つの良い機会になったと、双方の満足度の高い取り組みを実施できました。このように、自分の研究室から外に出て、専門外の人たちと協力しながらチャレンジする経験を通して、博士人材として大きく成長してくれることを期待しています。

専門性と社会実装力を身につけられる環境を

板倉 博士人材に、より多くの学びや出会いの機会を提供しているのも立命館大学の大きな特徴だと思っています。北海道大学が主幹する「連携型博士研究人材総合育成プログラム」の参加機関になっているため、他大学のキャリア支援プログラムに参加することもできます。また企業側との接点として、京奈地域の企業と博士人材とが交流できる「京都クオリアフォーラム」という取り組みも始まっています。

これらの取り組みをさらに推進して、私のような現役の民間企業社員が持つ情報やもともと産学連携を推進してきた立命館大学ならではの強みを生かしながら、多くの社会実装力を身につけた博士人材を育成していきたいと考えています。

荒木 博士人材は専門分野の探求が本分です。まずは自分のやりたいこと、芯になるものを極めてもらいたいと思っています。その過程で磨かれた専門力と胆力は社会で活躍するうえで貴重な能力であり、企業の皆さんにもぜひ評価していただきたい部分です。私たちとしても、博士人材が多様な分野で活躍できる能力を磨く支援を提供し続けていきたいと思います。

記事の内容は、2022年3月取材時点の情報に基づき構成しています。

(1)科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業 https://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/fellowship/index.htm (参照 2022-03-18)

(2)次世代研究者挑戦的研究プログラム https://www.jst.go.jp/jisedai/ (参照 2022-03-18)