東京大学大学院
公共政策学連携研究部教授・未来ビジョン研究センター長
城山 英明 氏(左)
工学系研究科機械工学専攻特任教授
笠原 茂樹 氏(右)
未来社会デザインをはじめ、情報・AI、量子、マテリアルの分野で実施している「東京大学博士フェローシップ」、博士課程全体で取り組む「グリーントランスフォーメーション(GX)を先導する高度人材育成プロジェクト」など、博士学生のキャリア開発・育成のためのプログラムを多数実施する東京大学。プロジェクト・ベースド・ラーニングとインターンシップでは、国内外の企業はもとより、OECDやWHOなどの国際機関とも連携し、研究分野をまたいだ分野横断的なチームでプロジェクトに取り組み、博士のキャリア選択の幅を広げています。
城山 東京大学には博士学生のキャリア形成を支援するプログラムが充実しています。私が担当する未来社会デザインフェローシッププログラムは、リーディング大学院のオールラウンド型であった社会構想マネジメントを先導するグローバルリーダー養成プログラムや本学の未来社会協創国際卓越大学院をベースに構築されました。
未来社会デザイン演習の中でも、プロジェクト・ベースド・ラーニング(PBL)は、国内外の企業や国際組織と連携し、分野横断的なチームで未来の問題解決をテーマに取り組むカリキュラムで、重要な位置付けとなっています。社会の中で新しいことを行うには、関心や視点が異なる人に対し、相手のコンテクストに沿った説明を行い、異なる観点を持つ人をつなぎ合わせる力が必要です。社会的な視点や異分野の異なる考え方をPBLで学び、違いを体感することが大切だと考えます。
笠原 私が担当する工学系でもPBLを重視しています。参加企業から提供されたテーマごとに学生5~6人と若手教員がチームとなって取り組み、教員と企業メンバーがスーパーバイザーとして参加します。工学系の学生ばかりだとテクノロジーに走りがちですが、文系の学生もチームに入ることで、社会実装するための政策提言や規格整備などの視点が学べます。また、ディスカッションは英語がベースとなり、技術開発と社会実装の双方の視点からスーパーバイザーが指導しています。
ここでの取り組みが製品化や特許化につながったこともあるなど、PBLは企業にとっても新しい発見と情報共有の機会となっているようです。
城山 国内外の企業や国際機関でのインターンシップもキャリア支援の重要な要素です。国際関係のインターンシップは、組織的に連携協定を結んでいるところが中心です。例えば、公共政策分野であればOECD(経済協力開発機構)、アジア開発銀行研究所などがあります。また、WHO(世界保健機関)も受け入れ機関の一つで、国際保健や公共政策を専攻する学生が実務や政策提言に携わっています。
忙しい業務の中で、インターンシップ生に関心を寄せてくれる協力者を探すのは簡単ではありませんが、試行錯誤をしながら、新しいテーマと協力者の発掘に尽力しています。
また、学生の自主的な研究をサポートするStudent Initiative Project (以下SIP)というプログラムがあり、ここから革新的なプロジェクトが生まれることもあります。例えば、宇宙工学の修士号を持ち、公共政策の博士課程に進学した学生が中心となって進めたASEANの宇宙開発プログラムのキャパシティビルディングを支援するプロジェクトは、実務的に十分な役割を果たした上、最終的に英文の本まで出版されました。こうした成功例は、学生の活力にもなりますので、引き続き支援していきたいと考えます。SIPの活動にはアントレプレナーシップも必要になりますので、ベンチャーキャピタルやアクセラレーターの方に審査をお願いすることもあれば、時には寄付をいただいて、それを原資にプロジェクトを進行することもあります。
城山 WHOでインターンシップを経験した後、海外のシンクタンクに勤務するなど、シンクタンクやコンサルティング会社の実務的なキャリアを選択する文系博士も増えています。また、大企業だけでなく、ベンチャー企業を選ぶ学生も増え、博士のキャリアは多様化しています。他方、研究一筋に邁進する人も多く、アカデミアへの人材輩出にも寄与しています。
笠原 工学系のキャリアパス支援は、インターンシップなどの具体的な個別指導が主になります。アカデミア志向の博士学生が多いですが、自分の研究を社会に実装して役立てるには、メーカーや官庁で活躍するという道も当然ありますので、学生と社会との多様な接点を設けるように意識し、選択肢を広げられるように工夫をしています。
大学全体でアントレプレナーシップの促進を図るプログラムを実施していることもあり、起業する人も増えています。
城山 専門性を深めるだけではなく、自分で課題設定し、解決方法の設計を行い、自立して研究を進めるのが博士課程です。博士号をとるということは、他分野でも生かせる汎用性のあるプロジェクトマネージメントを学ぶということであり、その力は多様な形で将来に生かすことができることを、ぜひ知っていただきたいと思います。
笠原 将来世界の研究者の一員として活躍していこうとするなら、博士号を持つことが必須条件です。理工系においては、世界の研究者や技術者と対等に会話をするためのパスポートとも言えます。
就職や経済的な不安から、博士課程に進むことを躊躇する学生もいるでしょう。しかし、東京大学には未来社会デザインフェローシップやSPRING GX(「グリーントランスフォーメーション(GX)を先導する高度人材育成」プロジェクト)のような学生のための経済支援やキャリア支援、教育的支援が拡充されていますので、こうした大学のリソースをぜひ活用していただきたいと思います。
博士課程に進むということは、自分の研究を深めることと同時に、さまざまなことに目を配るための能力を養うということです。研究成果を社会実装につなげ、社会に役立てることを意識して、充実した博士課程を過ごしてください。
記事の内容は、2022年3月取材時点の情報に基づき構成しています。