大学等

世界の未来を拓く理科大を目指し

幅広い視野を持つ博士人材の育成を強化

東京理科大学

総括副学長 倉渕 隆 氏(左)

常務理事 兵庫 明 氏(右)

東京理科大学は140年余の歴史の中で、真に実力を持った人材だけが卒業できる「実力主義」の教育を貫いてきました。今後も世界視野での研究力の向上を目指して取り組みを続けていきます。世界をリードする創造的研究拠点として、研究力の要となる優秀な博士人材を多数輩出するために、「共創によるイノベーション創出を促進するための外部機関との連携強化」、「研究者が集う特色ある研究拠点の整備」、「研究環境・支援体制のさらなる充実」など、多様な学生に寄り添う具体的な施策を実行していきます。

手厚い生活支援とキャリア形成サポートで、ほぼ100%の就職率

倉渕 博士課程在籍者には、日本学術振興会の特別研究員や研究奨励金の獲得、JASSOや本学独自の奨学金制度の活用を推奨し、学生の約6割がなんらかの給付型奨学金等による経済的支援を受けています。東京理科大学では、特定科目の単位を取得しなければ進級できない関門制度や、日々の実験、レポート提出も多いなど、学部時代から厳しさがあります。それが自己研鑚となり、講義の履修は学部3年生で終え、4年生はほぼ研究に没頭しています。修士までの内部進学率も高く、学会発表等にも積極的で、真面目な学生が多いです。論文投稿や海外研究発表の支援、若手研究者向け研修会の実施で、成長を後押ししてきました。彼らの能力が評価され、博士課程修了者の進路決定率はほぼ100%。アカデミアの教員や研究員だけなく、日本を代表するリーディング企業やスタートアップ企業など幅広い進路に羽ばたいています。

兵庫 博士人材を増やすことを目標にしていますが、修士から博士への内部進学者はわずか5%程度です(2021年度現在)。博士課程への進学不安を解消する方策の一つとして、「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業(1)」、「次世代研究者挑戦的研究プログラム(2)」を学内で水平展開し、博士課程進学者や進学を検討している修士学生の指導に役立てようとしています。大学側もコミュニケーションの場、発表会、プレゼンテーション指導、論文書き方講座、イノベーション基本理論講座など、博士研究でイノベーションを起こせるようなきっかけづくりを一層推進していきます。

博士人材のキャリアパスの選択肢を広げる意識改革

倉渕 これまで学位取得者の進路は、自分の研究分野に関連する大学や企業の研究所という思い込みが強かったように思います。学生の視野を広げる、異分野との交流機会をこれまで以上に設けると同時に、指導教員側の意識改革が重要です。博士学生が民間企業でのインターンシップを希望した場合など、博士人材の持つ研究心や問題解決力等の幅広い可能性を理解して、学生の背中を押す存在になっていただきたいです。指導教員が柔軟な発想を持ち、博士学生の進路選択にあたって適切なアドバイスができるよう、その参考になるようなセミナーの実施を考えています。

今や海外企業では、博士号は新たな価値を見出す能力のある人材と認識されるパスポートです。われわれ教員も本来の専門領域は狭い場合が多いですが、専門外の問題を突きつけられて、一から勉強して問題解決に取り組むことも少なくありません。企業の皆さんにも博士人材のポテンシャルをもっと評価していただきたいと願っております。

60年以上続く、博士人材のコミュニティ「理窓博士会」の効果

兵庫 60年以上続いている博士課程修了者の同窓会組織「理窓博士会」(りそうはかせかい)の存在も大きいと思います。学位(博士)新取得者記念講演会や表彰を行い、ノーベル賞受賞者など一流の研究者を招待し講演いただいています。しかし、現役の学生がなかなかアクセスできないのが課題でした。そこで2015年に、学生主体の「学生博士会」を大学側で立ち上げました。両者の連動により、博士進学や進学後の悩みを抱える学生へ、OB・OGがアドバイスするオンラインディスカッションなどが実現しています。「博士の生活ってどうなの?」、「修了できるの?」、「修了した後にちゃんと就職できるの?」といった赤裸々な悩みに対し、OB・OGが直接回答しています。リアルな情報交換がかなう場として好評で、学生のメンタルケアやモチベーションアップにも有効に機能しています。活動内容自体は自主性に任せており、大学は組織の維持や活動の活性化をサポートしています。

自分の研究を客観視すれば、可能性は無限に広がる

倉渕 博士課程へ進学する方に期待するのは、自分の研究を深めると同時に、自分の研究を客観視して、社会に対してどういう意味があるのか、幅広い視点で見つめ直していただくこと。キャリアパスについても研究者だけではなく、さまざまな選択肢があるという意識を持って、日々の研究に取り組み、幸せなキャリアを築いていただきたいです。基礎系の研究であっても、思いもよらぬ応用の可能性があります。異文化との交流を通し、新たな気づきが得られるような機会を大学側は提供していきますので、積極的に活用してほしいと思います。

兵庫 理工系総合大学として、これまでも世界標準で教育と研究を推進してきました。ここからもう一歩、二歩、研究力を高め、社会貢献につなげる技術に変える人材をより多く育成したいと取り組んでいます。博士課程で身に付けた専門知識や研究過程で得た考え方に自信を持って世界に羽ばたいていただきたい。大学側も全力で支援していきます。

記事の内容は、2022年3月取材時点の情報に基づき構成しています。

(1)科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業 https://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/fellowship/index.htm (参照 2022-03-18)

(2)次世代研究者挑戦的研究プログラム https://www.jst.go.jp/jisedai/ (参照 2022-03-18)