Spiber株式会社
Biotechnology部門 部門長 高橋 徹 氏 博士(農学)(右)
Biotechnology部門 Bioproductionセクション 研究員 津山 研二 氏 博士(生命科学)(左)
世界に先駆けてバイオプロセスによる構造タンパク質素材の繊維材料としての量産化に成功したSpiber株式会社。タイに大型プラントを持ち、高性能な素材を幅広く実用化。現在も多様なニーズに応えるため、さまざまな配列の構造タンパク質の開発に取り組んでいます。開発者の中には、博士人材として入社し、その強みを発揮して活躍中のメンバーも多数。新しい価値を創出し、サステイナブルな社会実現のための挑戦を続けています。
高橋 当社は取締役兼代表執行役の関山が、2007年に博士課程在学中に仲間と、山形県鶴岡市にベンチャーを起業したのがルーツです。現在も遺伝子レベルから人工的にデザインし、微生物に発酵生産されるタンパク質素材「Brewed Protein™(ブリュード・プロテイン)™」の開発を通じて、持続可能な社会実現を目指し、全研究員が技術力を磨いています。
素材になりうる構造タンパク質は、代表的なものが繊維で、その他にも輸送機器、医療品、化粧品、食品など多様なアプリケーションを研究開発しており、消費市場はアパレル、自動車業界、医療業界や環境面に考慮する事業者からのニーズが拡大しています。技術力を高めるために、当社では博士人材を求めています。
高橋 微生物でタンパク質を大規模に作るスキルは、大学ではほぼ学べないので、入社後の人材育成で補完していきます。そのため採用ではスキルだけではなく、能力と人間性を重視します。当社の技術範囲は広く、遺伝子、微生物、発酵、精製、糸やその他素材への加工などレイヤーが多く、多様な人と連携をとりながらの仕事になるので、素直に学び、他人からの意見を受け止められる姿勢、信頼関係を構築できる人間性が欠かせません。
また、ベンチャーではさまざまな仕事が同時進行しています。いかに効率よく、どうしたら価値を最大化できるかを追求する課題解決能力も重要です。博士課程の研究経験で培った、物事の本質をいち早く掴む能力は大きな武器になるでしょう。
津山 入社のきっかけは、学内セミナーに参加し、「蜘蛛の糸を人工的につくる会社」という発表を聞いて興味を持ったためです。博士課程での研究は、Spiberの技術領域とはマッチしませんでしたが、就職しても好きな実験や研究を続け、新しい価値を生み出すことができれば社会貢献に結びつけられると魅力を感じました。またベンチャーなら、自分の成長と会社の成長がリンクする醍醐味があると飛び込んだのです。大学院時代には、真理を追究し、研究途中に疑問点があれば、立ち止まって深掘りしていけました。しかし、企業では研究のゴールと期限が決まっているため、深掘りする内容を取捨選択しなければならないこともあります。そこは長所でもあり短所でもあると感じますが、優先順位を考えて柔軟に対応する能力が鍛えられていると思います。
高橋 当社は博士に限らず、全研究者が望めば様々なことにチャレンジできる文化を大切にしています。やりたいことに取り組んでいただくことで、モチベーションも上がりますし、個々の能力開発を後押し、人間力も磨かれます。それが、企業にもプラスに還元されます。
博士人材なら、山の頂上をめざし、ルートをみつけて、必要なリュックやギアを自分で考えて、楽しんで登っていけるはずです。細かい指示は出しません。私自身も博士号を持っていますが、細かく指示されるとモチベーションが下がった経験があります。研究者には一人一人、どういう気持ちで仕事をしているか話を聞いて、ヘルプを求められれば一緒に考えて伴走します。押し付けのないサポートを心掛けています。
津山 入社後、ハードルの高い新しい仕事を振られて、戸惑いもありましたが、自分の能力を最大限に発揮すればクリアできるギリギリの難易度になっているのです。そうした仕事では、達成感も大きいですし、同時に自己研鑚へのモチベーションもアップします。社風は、学歴・社歴・性別・国籍など関係なくフラットで情報交換も盛ん。早い段階で馴染むことができました。
高橋 外で戦うには、博士号の資格や語学力以上に、文化が違う人達とどのように意思疎通するかを考え、どれだけ視野を広く持てるかが、コミュニケーションを左右します。そういった意識を持った人材が国際的に活躍しています。
津山 博士課程に進むなら、研究には悔いのないように徹底的に取り組むべきです。私も真剣に真理を追究し、世界で知られていない部分を少しだけ知ることができました。それが現在、企業で研究を続けていく上での自信になっています。
高橋 博士人材のみなさんは、課題点を見つけ出すのは上手ですが、その後に解決策を具体的に考え、アクションにまで結びつける機会や経験は少ないと思います。当社では、いかに生産に結びつけるかがゴールになります。ラボでの研究なら一人でもできますが、仕事は一人ではできません。これは、私自身の後悔ですが、博士課程でもっと遊んで、様々な人と交流しておけばよかったと思っています。研究に集中するあまり、社会に出てみると、人との付き合い方が下手になっていることを痛感しました。コミュニケーション能力は、仕事をする上では必須です。そういう意味でも、ビジネスセンスを磨きつつ研究できる企業とアカデミアをミックスした人材育成の場があると理想だと感じます。企業からも大学からも教員と学生が参加し、同じ目線で学べる枠組みがあれば、企業が望む即戦力人材が育成できると期待します。
記事の内容は、2022年3月取材時点の情報に基づき構成しています。