旭化成株式会社
人事部 人財採用室
佐久田 淳司 氏 博士(工学)
旭化成グループは、マテリアル、住宅、ヘルスケアの3つの領域で、さまざまな事業を展開する総合化学メーカーです。「昨日まで世界になかったものを。」をスローガンとする同社は、化学やバイオの分野を中心に、情報や物理、電気、機械なども含めた、幅広い分野の博士を、毎年多数採用しています。
多様な製品や技術だけでなく、幅広い専門性を持った人財のダイバーシティが新たな社会価値創出の鍵。旭化成は、不確実で変化の早い時代においても先を見通す力、課題を発掘する力、研究をやり遂げる力など、多彩な能力と専門性を備えた博士と手を携え、世界で戦える高品質な製品・サービスを提供し続けています。
旭化成グループ(以下旭化成)では、ケミカル・繊維・エレクトロニクス事業からなるマテリアル領域、住宅・建材事業からなる住宅領域、医薬・医療・クリティカルケア事業からなるヘルスケア領域と、3つの領域で事業を展開しています。
博士の新卒採用の実績は毎年10~20名ほど。従来は化学やバイオの分野が採用の中心でしたが、最近は、サステイナビリティやデジタルトランスフォーメーションに代表される社会の急速な変容に伴い、情報、物理、数理解析、機械、電気など、幅広い分野の博士が活躍できる場が広がってきていると実感しています。
旭化成では博士学生の早期選考を行っています。例年、博士2年の秋頃から応募受付を開始し、順次選考を進めます。早期選考に参加しなかった方には、3月以降の本選考に応募する機会もあります。毎年、多数の博士を採用していますが、「博士を何名採用する」という枠が特に設定されているわけではなく、学位を問わず、研究者・技術者としてレベルの高い人財を採用するのが私たちの方針です。当社が求める人財像に多くの博士課程の学生があてはまるためと理解しています。
自立した研究者として専門性を深く広く身につけることは重要ですが、単に修士から3年間研究を続けて専門性を深めただけではなく、博士論文として研究成果を体系化する過程でプラスαの能力開発や取り組みをしていること、そしてそれが企業に就職して3年間で得られるものとは質的に異なっていることも大切です。例えば「共同研究を提案して推進した」「研究室外で新しい技術、専門性を習得した」「留学で知見を広げた」など、自身の研究の価値を高めるための取り組みです。私自身これまでの採用活動で、これらを本当に高いレベルで実践している博士の学生に多く出会い、博士への期待をますます高めるようになりました。
また、インターンシップや共同研究などで博士学生との接点を広げることも今後さらに重要になると考えており、文部科学省が推進するジョブ型研究インターンシップ推進協議会(1)などにも参画しています。
企業で研究を進めるにあたり、課題設定が重要かつ難しいものだと、私自身が痛感しました。ニーズの把握、技術開発、競合優位確立、スケールアップ、コスト、品質や安全性の保証など、事業化に向けた課題は山ほどありますが、企業の研究で特に重要なのはお客さまや世の中が抱えている課題、すなわちニーズです。特に昨今の不確実な世の中は、自明でない課題を発掘し、科学的な言語で表現して技術課題に落とし込む力を求めています。そんな中、幅広く深い専門性を備え、「テーマ探索・テーマ設定・研究の遂行・論文としての体系化」に至る一連の研究プロセスをやり抜いてきた博士に、期待が高まっていると考えています。また、多様な課題に取り組み、事業化を目指すには、チームで研究を進めることが多くなるため、コミュニケーション力や行動力、柔軟性、マネジメント力も欠かせません。
研究テーマが進むにつれて、その時々で、取り組む内容やアプローチ方法が変わるのも大学の研究と違う点です。こうした変化をプラスと捉えて楽しめる人、自ら変化を起こせる人、進んで新しいことに挑戦して自身の幅を拡げられる人であれば、企業でも楽しみながら活躍できると思います。
旭化成では、「挑戦」や「創造」という価値観を大切にしており、若手でも一人の技術者としての裁量を持って仕事をする風土があります。決められたタスクをこなすのではなく、自ら考え挑戦するからこそ、やりがいを感じ、成長もできると思います。変化に対応するだけではなく、発掘した課題から新しいテーマを提案して仕事を創出する、すなわち、「変化を起こす」ことも技術者には求められています。その点で、自立した研究者として自らの意志と行動で研究をやり遂げてきた博士は、旭化成との親和性が高いと思います。
企業に就職される場合は、事業内容や研究テーマといった短期的な視点だけではなく、より長い時間軸で自己実現できる環境なのかという視点を加えて、企業を選ぶことをお勧めします。研究者としての成長、経営を見据えた多様な経験、グローバルな活躍など、自分が目指す姿やキャリアステップを想定し、それが実現可能か、自分次第でキャリアを拓ける土壌があるか、もしくは自分の可能性を広げることができるか、を検討するということです。
そのためには、個人的にOB/OG訪問をしたり、博士学生向けの説明会に参加したりして、現場で働く博士の生の声を聞き、自身が企業で活躍するイメージを作るのが一番です。
私たちは、不確実で変化の早い時代を見通す力、課題を発掘する力、進むべき方向性を定める力、そして何より最後までやりきる力、そうした能力を備えた博士に大いに期待しています。多様な専門性を備えたプロの研究者・技術者集団で世界と戦い、より高品質な製品・サービスを提供していきたいです。
記事の内容は、2022年3月取材時点の情報に基づき構成しています。
(1)ジョブ型研究インターンシップ推進協議会 https://coopj-intern.com/ (参照 2022-03-23)