未来志向の知的好奇心を持つ博士人材と、
新たな価値を創出し続けたい。
コニカミノルタ株式会社
開発統括本部 要素技術開発センター長、技術フェロー
北 弘志 氏
博士(理学)
コニカミノルタ株式会社は、創業1873年、世界150か国に約200万社の顧客基盤を持ち、従業員数は約4万人、売上は約1兆円を誇るグローバル企業です。同社は、長年培ってきた「材料分野・画像分野・光学分野・微細加工分野」の4つのコア技術を活用し、時代に合わせた社会的価値を創出しています。現在は、コア技術にICTを掛け合わせ、さまざまな商品やサービスを開発。主力製品であるオフィス向け複合機にサーバーを搭載し、中小企業のIT化を支援するなど、社会課題の解決に積極的に取り組んでいます。
博士人材の8、9割が、コーポレート横断のR&D(研究開発)部門配属となり、先端技術融合開発職として活躍してもらっています。博士人材には当社の4つのコア技術(材料分野、画像分野、光学分野、微細加工分野)に限らず、将来、会社の柱となる高度技術について研究を深め、新規事業の立ち上げ、未知の領域に踏み込んだ開発も期待されています。
急激な働き方の変化により主力事業であるオフィスプリント(複写機・複合機等)事業の成長は頭打ちになることが予想されます。同事業で安定的に収益を確保できている間に、本気で新規事業を立ち上げる必要があるのです。博士人材は、当社の技術開発をけん引する幹部候補生です。社内ベンチャーのような形で挑戦を続け、新しい柱を何本も立ててほしい。主体的に研究を深め、会社を支え、社会に価値を提供していただきたいと思っています。
当社で働く博士人材のバックグラウンドは多様で、化学、機械、物理、電気、情報はもちろん、最近は天文、地学、生物、農学などの出身者もいます。高い専門性を有しながらもさまざまな知識や技術を貪欲に吸収している印象です。
入社する博士人材の多くが、就職活動が本格的にスタートする前の「リモート見学会」へ参加しています。半日ほどかけて、博士学生、当社社員15名前後でさまざまなテーマについてディスカッションをし、交流を促すいくつかの工夫を凝らしたイベントを行います。
また、コーポレート部門では、博士学生を対象に2、3か月のインターンシップも実施しています。採用目的ではありませんが、社員とともに研究する間に会社の雰囲気も掴めるようで、その後エントリーしてくれる方も多いです。
採用選考時は、私を含め、研究開発部門の社員との面談の機会をつくっています。じっくりお話しして、能力の高さ、当社への適性、将来性などを確認させていただいていますが、「より良い未来を拓きたい」という想いが伴った知的好奇心の有無に注目しています。「将来こんな世界になったらいいな。そのために必要なこと、必要なアプローチはなんだろう」と考え、実際に学びや研究に打ち込める方と一緒に働きたいと思っています。
当社は、データを基に進める「データ駆動型開発」を主軸に、技術開発DXやものづくりDXに取り組んでいます。しかし、例えば、ある生産現場のデータを元に工場内の生産指揮系統の変革を進めようとしても、データ解析結果だけを示しても、変革に関わる現場の社員にはなかなか納得してもらえません。
博士人材に期待しているのは、データサイエンスを活用して、データから解決策を導き出す帰納的な提案力に加えて、その解決策の有効性を理論的に示す演繹的な考察力です。分野を問わず、研究や論文の執筆で、演繹的な考察力を鍛え抜かれた博士人材は、「データは◯◯という事実を示している」にプラスして「~~の法則と、~~の定理を使うと説明がつくので、このデータが示していることは正しい。だから、生産指揮系統はこのデータに基づいてこう変革した方がよい」というロジカルな説明ができるのです。
データサイエンスを活用し、論理的に説明ができる博士人材は、現場を一気に変える力となります。社内でも教育プログラムを用意しているので、学生時代にデータサイエンスが身近でなかった博士学生の方にも安心してチャレンジしていただきたいです。
多様な専門性、そしてデータサイエンスと未来志向の知的好奇心が掛け合わされると、ものすごいシナジーを生みます。博士人材には、そのシナジーを生み出す力があります。修士課程の学生でも「就職後も、研究者としてグローバルに技術開発をしたい」と思われている方がいたなら、博士課程で研究を続けることをおすすめします。国際的なプロジェクトや研究者の中でリーダーシップをとって協業するには、博士号が必要条件です。
また、博士課程では、後輩の指導も重要です。皆さまの多くは、将来、部下や後輩を指導する役割を担うはずなので、その経験も生かせます。
博士課程での経験は、悔いのない研究者人生を送る力になると思います。
「博士課程に進むと就職に不利になりそうで、進学を勧められない」というお話をされる大学教授としばしばお会いします。企業側にも、「博士人材は扱いにくい」という考えがあったかもしれません。しかし、私自身、10年前から広島大学の客員教授としても活動する中で、それは全くの誤解だと知りました。これまで出会った博士課程の学生は意欲的で、多様な人と協働できる方がほとんど。基礎能力も非常に高く、社内の技術力向上をミッションとする私にとって、入社してほしいと思う方ばかりです。当社だけでなく、ポスドクや博士人材の採用イベントへ参加する企業は年々増え続けています。先生方には、企業が博士人材の積極採用に舵を切り始めたことを知っていただき、有望な学生こそ博士課程への進学を推奨していただければ幸いです。
記事の内容は、2022年3月取材時点の情報に基づき構成しています。