研究人材

研究者としての能力を突き詰めれば

専門を変えても、就職できる

宮原 建太 氏

富士フイルム株式会社 解析技術センター

2018年に、京都大学大学院理学研究科 原子核理論研究室で博士号を取得した宮原氏。博士課程で携わった基礎研究から活躍の場を大きく変え、現在は富士フイルム株式会社で機械学習やシミュレーションによる創薬支援研究に従事。ご自身の研究がビジネス化され、広く社会に役立つことにやりがいと面白さを感じながら仕事をされています。博士課程での研究でも、企業の研究でも共通して求められたのは、「自ら動く力」でした。

研究成果を社会に役立てられるフィールドを目指したい

博士課程では原子核理論研究に携わっていました。研究成果を社会の役に立てたいという思い、安定した生活基盤を整えたいという思いから企業に就職する道を選びました。ただ、企業への就職を目指す上で、専門領域を変える必要がありました。

就職先として、機械メーカーや化学メーカー、コンサル企業を志望していました。就職活動中に化学メーカーを第一志望にしたのは、製品の上流部分に関わる研究ができ、研究成果が幅広い分野に活用される可能性が高いのではと考えたためです。

中でも、富士フイルムへの志望度を高めたのは、同じ研究室の先輩へのOB訪問がきっかけです。既存の技術を使って研究を進めるだけでなく、自分で技術をつくりだし、新しいアルゴリズムの開発までできると聞き、理論研究で培った力を発揮できる場だと感じました。

採用にあたって評価された大きなポイントは博士課程で積み重ねた業績です。3年間、かなりのハイペースで論文を書きました。その数が、研究に必要な力が身についているという証明になりました。また、多数の共同研究を立ち上げてきたことで「研究を主導する力」があると判断してもらえた気がします。

主体的に動き、自分の力を直接伝えることの重要性

就職活動で大切にしていたことは、自らアピールできるチャンスを掴むこと、そして博士独自の強みをアピールすることです。

実は、同じ研究室で就職を目指す同期2人と就職活動を始めたのですが、博士2年次、夏のインターンシップの選考で、3人とも不合格になったことが転機になりました。自分たちの専門が、企業内の研究と直結しないという現状を踏まえた上で、何をアピールすべきか、どうやってアピールすべきかを話し合ったり、さまざまな方にエントリーシートを見せ、アピールポイントが的外れでないかをチェックしてもらったりして、エントリーシートや面接の応対をブラッシュアップしました。同期の存在は大きかったですね。

学生の方に特に実践してほしいのが、OB・OG訪問です。企業に就職した先輩研究者に話を伺うことで、どんな人材が求められているのか、実際にどんな仕事をしているのかが少しずつ見えてきます。そうすれば、エントリーシートや面接でどんな能力をアピールすれば良いかも、自ずと定まるはずです。

OB・OG訪問をするには、会社へのコンタクトが必要になります。私は、博士限定の就職イベントにできるだけ参加し、気になる会社の担当者に名刺をいただいて、先輩社員をご紹介いただけないかとメールすることが多かったです。本選考が始まってからは、エントリーシートの提出前に人事担当者や事前にやり取りしたOBに連絡を取り、自らアピールのチャンスをつかむよう意識しました。特に、博士課程での専門性を直接活かせない企業を志望する方は、書類選考で門前払いされることも多いため、志望する会社の社員と直接話せる機会を求めると良いと思います。

大学側が、企業のリクルーターと出会える機会をつくってくれたことも、とてもありがたかったです。リクルーターから就職活動のアドバイスをいただけることもあり、そのような機会は逃さず活用していただきたいです。

博士課程の研究で培った力が、存分に活かせる職場

入社以来、社内で解決が困難だったテーマを任されることが多く「突破できるはずだ」と期待してもらっている現状をありがたく感じます。その期待に応えるため、これまでになかった視点でのアプローチを心がけています。

博士課程で主体的に研究した経験は、企業での研究にも生かされています。難しいテーマを解決するにはどんなアプローチが必要か、どんな専門家の力を借りて研究を進めたらいいか考え、自分から声をかけて協働する。これは、博士課程での経験があってこそだと考えています。

社内で活躍している博士人材は、研究主導力が高いです。自分の提案を正面からぶつけるだけではなく、相手の興味に合わせて見せ方を変えたり、他の研究者に事前にレクチャーして提案時に援護してもらったりといったコミュニケーション力やネゴシエーション力がありますね。また、会社に必要な研究と、自分が取り組みたい研究を関連づける力があり、どんな場面でも自分の強みを活かしています。

メッセージ

もし、「特定の会社で特定の研究をしたい」という希望がなければ、博士課程では自分が極めたい研究にとことん打ち込むことをお勧めします。日々の研究に没頭して成果を残すことが、研究者としての力の証明となり、就職活動の結果につながるからです。

会社が求める専門性と自身の専門性がマッチしていたとしても、入社後、全く別の分野を学び直さなければならない、といったことは多々あります。会社の方針や事業内容が変わり、自分の専門が活かせなくなる可能性もあります。それなら学生時代にどの分野を選んでも、大きな差はありません。研究に打ち込んで身につけた力は、入社後も必ず役立ちます。

研究そのものが好きという方、さまざまな分野に好奇心を持っている方は、就職という道もお勧めです。ぜひ、ご自身の研究を突き詰めて、「課題設定力」や「研究主導力」を磨いてください。

記事の内容は、2022年3月取材時点の情報に基づき構成しています。