研究人材

インターンシッププログラムで出会った、博士の能力を生かせるシンクタンク

貝 蕾 氏

EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部 気候変動・サステナビリティサービス(CCaSS)国際公共チーム シニア

中国で修士課程を終え、横浜国立大学国際社会科学府で博士号を取得した貝氏は、現在、EY新日本有限責任監査法人 国際公共チームでコンサルタントとして活躍しています。キャリア構築のきっかけとなったのは、2008年に設置され、現在も文部科学省の「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業(1)」を推進するお茶の水女子大学「お茶大アカデミックプロダクション」。

インターンシップで多様性に満ちたグローバルな企業に出会い、博士課程で培ったリソースを生かしつつ、活動の幅を広げています。

国費留学生として渡日し、博士号取得

2015年より、4大監査法人のひとつ、EY新日本有限責任監査法人に勤務しています。私が所属している国際公共チームは、主に国内外の政府や公共機関を対象としたコンサルティング業務を行っています。特に人材活用や地方創生にまつわる案件をメインに担当しており、人材活用ではダイバーシティ&インクルージョンの推進や外国人の受け入れ政策の検討、地方創生では少子化対策や働き方改革に取り組んでいます。

私は、中国で修士課程を終えた後、国費留学生として、2010年10月に横浜国立大学国際社会科学府の博士課程に入学し、中国と日本における地方公務員の激励制度に関する研究をしていました。修士課程で、交換留学生として同校で学んだ経験があったため、環境やシステムの違いに戸惑うことなく、スムーズに研究を進められたと思います。博士号を取得してから、1年のポストドクターを経て、「自分の研究を生かせる会社で働きたい」という私の希望に合致した、EYアドバイザリー株式会社(現EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社)を就職先として選びました。その後、チームごと同じEYグループのEY新日本有限責任監査法人に転籍しています。

ポストドクター支援のプログラムを通じ、能力が生かせる職場と出会う

2013年に博士号を取得した後、いったん中国に戻りましたが、お茶の水女子大学が実施していたお茶大アカデミックプロダクション(以下アカプロ)の存在を知り、応募しました。当時のアカプロは、博士人材をポストドクターとして雇用しながら、長期インターンシップを通じてキャリア形成を支援するプログラム(文部科学省 「ポストドクターの人材育成・キャリア開発事業(2)」)を実施していました。このインターンシップでEYアドバイザリー株式会社(現EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社)と出会い、現職へとつながったのです。会社とのやり取りの方法など、インターンシップ中に不安や疑問が生じた時は、アカプロのキャリアコーディネーターに相談できました。当時の私を支え、きめ細かなサポートをしてくださったコーディネーターに本当に感謝しています。

アカプロでは、自身のロールモデルとなる女性起業家や女性研究者の話を聞く機会が豊富にありました。いろいろなキャリアの選択肢があると気付けたのは、こうした機会のおかげです。実は、アカプロに参加した時点では、キャリアの方向性に強いこだわりはありませんでした。ただ、私自身の研究テーマが社会的な改善策を見出すという性質のものでしたので、当時からシンクタンク業界は気になっていました。

思考力・情報力・分析力。シンクタンク・コンサルティング業界には人文系博士の力が必要

コンサルティング会社の業務内容は私の研究に合致することが多く、研究で培った知識や技術を存分に生かせます。若干違う点は、博士課程では深く狭くテーマを追求していきますが、コンサルタントには深さとともに横への展開を求められます。また、個人ではなくチームでテーマに取り組む点、一年間で多数のテーマに取り組む点も、博士課程とは異なります。

「企業に就職したら自分の興味とは関係ない研究をしなくてはならないのでは」と危惧する人もいますが、私のいる環境では、数多くのテーマの中から自分の経験や知見を生かせるプロジェクトを選択できます。私が入社後に初めて担当したのは、企業のダイバーシティ経営推進関連プロジェクトで、博士課程の研究とも関連するものでした。現在は、テクノロジーを活用して子育てを支援する、ベビーテックの普及に関わるプロジェクトを担当し、子育て負担の軽減、育児と仕事を両立しやすい環境の構築、自治体の役割の検討などに関わっています。出産を経験した後、子育ての環境に関連する問題を実感したため、自らこのテーマを希望したのです。このように、自分の経験を含めて案件を選ぶこともできますので、アカデミアで培った力を生かしつつ、経験の幅を広げたい人には、シンクタンク・コンサルティング業界はおすすめです。

シンクタンク・コンサルティング業界では、理系だけでなく人文系博士の力も大きく評価されており、特に政府系の案件では、人文系博士の持つ思考力・情報力・分析力が求められていると思います。また、分野を問わず、博士号を持つ同僚を見ていると、モノとモノのつながりを見つける、既存リソースから新しいことに対するアプローチ方法を見つけるなど、横への展開力に強みがあると感じます。論理的思考力が強いため、自分の持っているリソースの活用方法を見出すのが得意なのでしょう。

インターンシップやジョブフェアなど、博士と企業が触れ合える機会を

自分のキャリア構築に最も役立ったのは、やはり長期のインターンシップ経験です。職場環境を知り、互いを理解することで、就職後のギャップも少なくなります。私は中国からの留学生だったため、言語面での不安があったのですが、実際に働いてみると、周辺には外国人の同僚も少なくない上、言語力より外国人としての異なる視点や考え方が求められているとわかりました。また、キャリア構築のロールモデルとなる人や自分と同じ経験をした人からの話を聞けたことも、私のキャリアの選択に影響を与えました。

博士人材に特化した長期インターンシップやジョブフェア、多様なキャリアを持つOB/OGを招いた交流会など、専門性の高い人材を求めている企業や先輩と触れ合える機会がもっと増えれば、博士のキャリア構築に役立つと思います。また、博士学生も、こうした触れ合いの機会を積極的に活用して自己アピールし、自分の研究リソースを生かせる職場をぜひ見つけていただきたいです。

記事の内容は、2022年3月取材時点の情報に基づき構成しています。

(1)科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業 https://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/fellowship/index.htm (参照 2022-03-17)

(2))ポストドクターの人材育成・キャリア開発事業 (事業委託先JSTのHP) https://www.jst.go.jp/phd-career/ (参照 2022-03-17)