企業

互いを理解し、

共に歩める関係性を築く。

株式会社日産アーク

分析・解析ソリューション企画推進部 部長

穐場 亨 氏(右)

分析・解析ソリューション企画推進部 数理解析企画推進室 計算科学・インフォマティクスチーム

金子 敏宏 氏 博士(工学)(左)

株式会社日産アークは、材料の分析・解析のスペシャリスト集団として、高度な計算と解析技術、その結果から導かれる仮説や提案といったサービスを顧客に提供しています。従業員の2割ほどを博士人材が占め、比較的博士人材の採用実績が豊富な同社ですが、これまで博士人材の離職やポジションのミスマッチといった事例も多く経験してきました。現在は、「大切なのは博士人材が企業で働く上での順応性と企業側の理解である」という考えのもと、インターンシップの実施などプロセスと合意を重視した採用活動を行っています。

面接やインターンシップを通して互いに適性を判断したのちに採用を決定

穐場 当社は自動車関連を中心とした分析と解析の会社です。お客さまからいただいたさまざまな分析・解析依頼に応じて、測定した数値そのものを納品することもありますし、測定結果から得られた仮説やその裏付けを報告書にまとめて納品することもあります。日産自動車の完全子会社ではありますが、日産自動車からの業務は全体の3分の1ほど。主に製造業や素材関係の企業からご依頼をいただいています。

金子 お客さまによって対象となる素材や計算の進め方も異なるため、日々の勉強が大切ですし、それが楽しくもあります。お客さまとのやりとりが多い部署ですが、測定結果の見せ方や論理的な文章の書き方など、アカデミアでの研究経験が活かせていると感じる場面は意外にも多いです。

私が博士号を取得したのは今(2022年)から10年ほど前なのですが、その後海外を含め4つの大学研究室に所属して、高分子や燃料電池などの計算をテーマにした研究を行ってきました。そのままアカデミアでキャリアを積む選択肢もあったのですが、研究生活のなかで私が一番面白く感じていたのが、自分で計算した結果を共同研究先や他の研究者に説明する場面だったのです。一方で、大学に所属しながら研究者としてのブランドを構築して、自分で資金を獲得しながら研究を続けるのは将来像とは違うとだんだんと感じたため、企業でのキャリアを志向するようになりました。

卓越研究員事業(1)に応募したのは4年ほど前でしたが、当時はまだアカデミアで研究者を続けるつもりでした。主な応募の動機は、もし自分が研究室を主宰したら、こんな研究テーマ、こんな研究計画で、いくらの予算が必要で、といった形で自分の研究を一度まとめてみようという気持ちからでした。

ですが、それがきっかけとなり企業でのキャリアを意識するようになりました。そして、当時所属していた大学の研究所が主催した若手研究者就職支援イベントで私の研究に興味を持ってくれたのが日産アークでした。

穐場 計算科学の博士人材を探していたところ、その大学の教員から金子さんを紹介してもらったのです。よい人材と出会うためには大学との情報共有も大切だと感じています。

当社には博士人材が25〜26名在籍していますが、従業員が120名ほどなので比較的博士の割合が多い会社です。ただ、これまで博士の離職率は低くはありませんでした。なぜなら、それまで研究ひと筋だった人が企業に就職すると、自分の研究以外の業務をこなさなければならず、全員が頭を切り替えられるかというと、必ずしもそうではないからです。ですから当社では就職希望の博士人材に対して、少し表現は強いかもしれませんが「研究者としてのキャリアを諦められますか?」という確認をしています。またインターンシップのように実際に業務・職場を体験できる機会を設けて、業務内容だけではなく会社の雰囲気を感じ、就職後の生活をイメージしてもらえるように工夫しています。

研究生活で培った能力を活かせる場所を用意することも大切

穐場 当社が博士人材に求めるのは、専門性と順応性。特に後者は重要です。お客さまの依頼内容次第で原理原則の異なるさまざまな計算が必要な場合もあり、常に新しい分野への挑戦、順応が求められるからです。当社で働く博士人材には、博士課程やその後の研究生活のなかで培ってきた順応性や粘り強さといった素養を、大いに活かしてほしいと思っています。

金子 確かに、業務ではどんな計算が必要となるかわからないので、手法に対するこだわりが強い方はやりにくいだろうと思います。私は「自然法則に反しない手法はなんでもあり」くらいの柔軟な姿勢で取り組んでいるので、日々の業務を楽しめています。

現在は、大学での研究とは異なる内容の業務に就いていますが、だからといってこの世の中の物理法則や自然現象が変わるわけではありません。どのような場においてもこれまで学んできたことや経験は活かせますから、若手研究者の方にはぜひ研究以外の世界にも目を向けて、自分の居場所を見つけて活躍してほしいと思います。

穐場 研究のレンジの広さも重要かもしれません。企業では、何年も勤めるうちに事業の重心が変わることもあります。そうなると、ピンポイントのスキルのみに長けた人材は、居場所がなくなってしまう場合もある。その点金子さんは研究内容が幅広く、面接等でも人当たりがよかったので、この人なら大丈夫かな、と感じたことを覚えています。

それから、チームをまとめる役割を担ってもらうことも考えられますので、勤怠管理や安全管理など、研究以外のマネジメント能力も重視するポイントのひとつです。ただ、研究に没頭してきた人材にそこまで求めるのは酷ではないかという思いもあります。国や大学にトレーニングプログラムなどを設置していただけると、企業にとってはありがたいですね。またインターンシップのように、企業側もある程度博士の資質を見極め、彼らが持つ能力を活かす工夫をしたうえで迎え入れることも大切だと思います。

(取材 2022年12月)

(1)卓越研究員事業 https://www.jsps.go.jp/j-le/index.html (参照 2023-02-06)

このコンテンツは令和4年度「卓越研究員事業」の一環として作成されました。
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