企業

「博士」という個性を有する、

同じ思いを持つ仲間として。

ランドブレイン株式会社

取締役 兼 国土政策グループ グループ長

吉戸 勝 氏(右)

地域政策・事務局チーム 主任

古波藏 契 氏 博士(現代アジア研究)[卓越研究員](左)

ランドブレイン株式会社は「知恵と技術で社会に貢献する」を社是に掲げるシンクタンク事業会社です。地域にある資源や社会で発生している課題に対してアイデアや事業計画を提案し、国の各省庁や地方自治体、各地の事業者や地域団体をつなぎながら事業化することで、地域の活性化と課題解決をサポートしています。プロジェクトごとに性格や解決方法がさまざまなことから、社員には広範な知識と対応力が求められます。そのため博士人材については専門性や分析力を高く評価し、「地域づくりを担う仲間」として期待をかけています。

顕在化した課題や解決方法に囚われずに、本質的な課題解決という目的を共有できる人材として期待

吉戸 当社の業務においては、さまざまな関係者と対話をするなかから当事者でも気づいていないような根本的な課題を見つけ出し、最適な解決策をとりまとめて提案する必要があります。そのため社員一人ひとりが広範かつ専門的な知識を有しつつ、提案力や行動力も求められます。

現在、当社の社員約130名のなかで博士人材は数えるほどで、特に博士人材に絞った採用活動を行っているわけではありません。ただ、売上や利益の追求といった企業理論に偏ることなく、客観的立場俯瞰して物事を見ることができ、既成概念にとらわれずに探求精神を有する人材はとても貴重だと考えています。それは博士人材に限った話ではなく、地域課題の解決という同じ目的を持った仲間と一緒に仕事がしたいという思いの延長線上にあるものだと思っています。

古波藏さんと出会ったのは、沖縄県の宮古島で地域住民による「小さな拠点」づくりをお手伝いしていたときのことでした。卓越研究員事業(1)のブリッジプロモーターから、主に沖縄をフィールドとして研究している方として紹介していただいたことから、「まずは私たちの仕事っぷりを見ていただこう」と考え、その成果発表会に出席いただきました。

古波藏 まさか面接の前に現場で顔を合わせるとは思っていなかったので、驚きました。最初に「執行役員(当時)」の肩書の入った名刺をいただいたときには緊張しましたが、宮古島の方々から「吉戸、吉戸」と呼びかけられて、とても親密に接している様子を見て、現場に近い会社なのだと肌で感じるとともに、一緒に仕事がしたいという思いが強まりました。

私は沖縄出身ということもあり、沖縄社会が抱えている問題について研究を重ねてきました。近年強く関心を持っていたのは沖縄のコミュニティの再構築というテーマだったのですが、座学だけでは限界があることを感じ、実践的な現場に飛び込みたいと考え始めていました。そこで卓越研究員としての研究費も含めて、私の研究に興味を持ってくれそうな企業を探したところ、JREC-IN Portalでランドブレインの募集を見つけたのです。そこからブリッジプロモーターに繋いでいただいた形です。

私がランドブレインに感じた魅力は、現場に近いところで仕事ができて、かつ政策提言までを幅広く学び実践できること。また、誰が何をやっているのか見渡せる規模の会社で、大掛かりな管理システムなどを必要としない血の通った組織であることでした。JREC-IN Portalで人材を募集していたので、博士人材に対する抵抗感があまりなさそうに感じたことも、応募へのひとつの動機になりました。

キャリアパスの選択肢を広く持ち、自分の可能性を柔軟に捉えることが第一歩

吉戸 これまで企業勤めの経験がないということで、正直最初は不安もありましたが、宮古島で1日ご一緒することで「この人なら大丈夫そうだな」と実感しました。古波藏さんが研究されている歴史や文化は積み重なってコミュニティの絆になると考えることから、その研究経験が、間違いなく当社で業務に役立つと感じました。 博士人材の受け入れに対しては、当社の中でも部署によって適否があると思いますが、私たちの部署では、地域の方から行政の方まで多様な属性の方とコミュニケーションを取る機会が多いので、全く抵抗はありませんでした。

古波藏 私としても、初めて企業で働くことになるので心配な部分はありました。名刺の渡し方や電話の取り方といったビジネスマナーをきちんと学ぶのも初めてでしたし、博士人材ということで同僚の方々からどのような接し方をされるかもわからない。自分の選択ですからどのような扱いになろうと気にしないつもりではいましたが、入社後すぐにその懸念は杞憂だったことがわかりました。OJTも丁寧ですし、他部署の社員からも気軽に声をかけてもらえるとても働きやすい環境です。実際の業務でも、地域の課題を抽出する際や、調査の設計をする際にはアカデミアで培ってきた自分の引き出しが役に立っている感覚を得られています。座学では味わえない現場の動きを肌で感じられる機会も多く、アカデミアともまた違う、大きなやりがいを感じています。

吉戸 ひとつの物事をつきつめて考える能力や仕入れた情報を活用する能力は当社の業務において必要不可欠ですが、当社社員もたゆみない努力で磨いていく必要があります。博士人材である古波藏さんの業務へのアプローチ方法や姿勢が社内によい影響を与えてくれることに期待していますし、ゆくゆくは社員教育やマネジメントといった活動にも携わってほしいと思っています。

古波藏 博士人材のなかには、「就職とは研究を諦めることであり、それは負けに等しい」という意識が強い人もいます。それまで「○○先生」と呼ばれていた自分が「○○君」と呼ばれて、名刺の渡し方から学ばなければいけないことに対する拒否感もあるかもしれません。でもそれは不要なプライドだと知ることが大切だと思います。また、特に若手の皆さんには、できれば一度社会人経験を積むことをおすすめしたいですね。「自分がやりたいことができる環境は、今見えている選択肢に限らないかもしれない」と考えられれば、自分の可能性を柔軟に捉えられるようになるのではないでしょうか。

(取材 2023年1月)

(1)卓越研究員事業 https://www.jsps.go.jp/j-le/index.html (参照 2023-02-06)

このコンテンツは令和4年度「卓越研究員事業」の一環として作成されました。
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