企業

自分の研究を信じられれば、

活躍の受け皿はきっとある。

日本電信電話株式会社

NTTコミュニケーション科学基礎研究所

企画担当(研究総括)担当部長

大石 康智 氏 博士(情報科学)(左)

メディア情報研究部/基礎数学研究センタ 研究主任

宮﨑 弘安 氏 博士(数理科学)(右)

NTTコミュニケーション科学基礎研究所は、NTTが持つ14の研究所のなかのひとつ。情報と人間を結ぶ新しい技術基盤の構築に向けて、「人間情報科学」「多様脳科学」「メディア処理」「データと機械学習」の分野で基礎研究に取り組んでいます。所属するのはアカデミアや企業で研鑽を積んだ博士人材たち。それぞれの専門性を活かしながらも分野の垣根を超えて相互に影響を与え合いながら研究活動を行うことで、新たなイノベーションの芽を育んでいます。

基礎研究を大切にする姿勢を見て応募を決断

大石 NTTの研究所はそれぞれ特徴を持っており、応用を見据えた研究所もある一方で、当研究所は自由な発想で基礎研究に取り組んでいただくことを目的としています。在籍している研究者は、学生の指導やその他の業務に追われることなく基礎研究に専念できる環境を求めて来られた方、企業の研究所ということで、事業化を見据えた研究に魅力を感じて来られた方などさまざまです。大学教員やポスドク、企業研究者など多様なキャリアパスを歩んできた人材が所属しています。人材を採用する際には、深い専門的知識を持っていることを大前提として、その特化した研究内容を専門外の人に対してもわかりやすくプレゼンテーションできる能力を重視しています。

宮﨑さんの採用に際しては、2年ほど前に当研究所内に基礎数学の研究を推進する新組織である基礎数学研究センタを設立したことを受け、日本でも有数なモチーフ理論の研究者であり、異分野との連携にも意欲的に取り組まれている点が新組織とマッチするのではないかと判断して、こちらからお声かけした形になります。

宮﨑 当時「NTTが基礎数学の分野ですごいことを始めるらしい」という噂は聞いていました。そのタイミングでかねてよりお世話になっていた若山正人さん(NTT数学研究プリンシパル)からお誘いをいただいたのが、当研究所を志望したきっかけです。民間企業が基礎研究に専念する人材を雇用するという試みが面白いと感じたこと、他分野の方々とコミュニケーションを取りながら研究するのが楽しいと感じていたこと、なによりこんなに面白そうなプロジェクトへの参画を断るのは人生経験上もったいないと考えたことから、応募を決めました。

と言いながら、実は応募を決めるまで1週間ほど悩みました。なぜなら本当に企業の研究所で基礎数学だけを研究していいのか、基礎数学の枠はあるとはいえ、他分野を専門とする周りの方々が受け入れてくれるのかという点に不安があったからです。ですが、話をお聞きするうちに、NTTが本当に基礎研究を大切に考えていることが伝わってきましたし、応募前に所内セミナーで講演させていただいたのですが、それを聞いた皆さんの反応がとてもポジティブで、私の研究に興味を持ってくださっていることがわかったので、安心して応募できました。

自分の研究に対する姿勢を信じて、新たな場所に飛び込んでほしい

宮﨑 私の研究分野は整数論と呼ばれる分野と幾何学と呼ばれる分野の中間あたりにある数論幾何学という分野なのですが、こうした分野に企業が投資するという話はあまり聞いたことがありません。入所して1年ほどになりますが、研究に専念できる一点だけでもここに来てよかったと感じています。

それに加えて、数学に限らず若手研究者がなかなか職を得られず、得られたとしても教育や雑務に忙殺されて研究に専念できないことも多い現状のなかで、数学者が企業のなかで活躍できる場所を切り拓く役割を担っているという自負が、非常に大きなやりがいにつながっています。一方で、職場がリモートスタンダードになってしまったことで、皆さんとより深い関係を築くのが難しくなってしまった点には少しジレンマを抱えているところです。

大石 数学分野では特にリアルなコミュニケーションやディスカッションが重要だと理解はしていますので、リモートスタンダードにおける研究の進め方については引き続き改善の余地があると思っています。

ただ宮﨑さんはこの1年で論文も発表していますし、海外からいろいろな方を招いてディスカッションするなど、これまで築いてきた経験やネットワークを存分に発揮しながら活発に活動してくれていると評価しています。

当研究所では研究分野をひたすら切り拓いていくキャリアと、研究組織を率いてマネジメントしていくキャリアというふたつの流れがあり、適性によって分かれていくのですが、宮﨑さんであれば両方とも対応できる可能性があるのではないかと期待しています。

宮﨑 自律的な研究が100%できなくても、あるいは専門と異なるテーマであっても、自分の専門性を活かして挑戦してみたいと考えている研究者は案外多いのではないかと感じています。そして、そういったニーズの受け皿は案外多いと思っています。

私も正直、基礎数学研究センタができる前は企業での研究はほとんど考えたことはありませんでした。ですが一方で、やりたい研究ができるのであれば場所にこだわりがあるわけでもありませんでしたし、新しい場所であれば、自分の意思を通すチャンスが多いだろうとも思っていました。前職の理化学研究所でも数理研究の新しい組織が出来るタイミングでポストを得たこともあり、そうした実体験があったからこそ得られた考え方でもあります。

ですから、キャリアを築く上で大切なのは、新しいポジションが開けたときに、まずはそこに飛び込んでいけるかどうか。裏を返すと自分の研究に対する姿勢を信じ切れるかどうかだと思います。博士人材の皆さんにはぜひ既成概念に捉われずに新しい環境に挑戦していただきたい。私も今後、その先達として成果を残していきたいと思っています。

(取材 2023年1月)

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