研究人材

研究キャリアを継続するには、

戦略を立てて臨む意識が大切。

白石 希典 氏

公立諏訪東京理科大学 工学部 共通・マネジメント教育センター 准教授

公立諏訪東京理科大学は、東京理科大学が「工学と経営学の融合教育」を掲げて開学した諏訪東京理科大学を前身とし、長野県の諏訪地域6市町村からなる諏訪広域公立大学事務組合が設立した公立大学法人です。学生は工学部のふたつの学科に分かれて所属し、修士・博士後期課程においては工学・マネジメント研究科で学ぶことができます。2022年から同学の共通・マネジメント教育センターで教鞭を取る白石氏は、専門である宇宙論の理論研究を突き詰めながら、そこで得たものを活かして、学生の興味を惹起し、ポテンシャルを引き出す教育にやりがいを見出しています。

研究・教育経験を存分に活かして大学教員に就職

私は今年度から本学で勤務しており、1〜2年生の学科共通科目で物理、数学、数値解析の授業を担当しています。

そこでは、最新の研究成果や発展的な内容を取り入れたり、プログラミングを伴う実習のような内容にしたりと、学生の興味を惹く講義を心がけています。雑談がてら私の専門である宇宙論の話もするのですが、宇宙に興味がある学生も多く、反応はとてもいいです。

基礎物理分野では、日本国内の大学・高等研究機関における任期なし教員の募集は年に数回あれば良い方です。倍率がときに100倍を超えるような狭き門を突破するには、ほとんどの場合で、卓越した研究業績に加え、教育業績もかなり必要となります。

教員選考時に行った模擬授業では、最初に携帯アプリを用いた簡易クイズを行い、前時の復習と今時のイントロをゲーム感覚で体感してもらいました。今時の学習内容の解説では、関連するアニメーション資料を示したり、敢えてきっちり板書したりしながら、わかりやすさを追求しました。また、この内容が今後学生の人生においてどのような役に立つのかということも度々強調しました。これらは高専での授業で実践していたことですが、今回の選考では高評価につながったようです。

一方で、前者に関しては、宇宙の研究を世界の第一線でやっていることの強みが活かせたと思います。宇宙は人の知的好奇心をそそる対象であるため、授業や一般講演会などでの最先端の研究成果の還元を通して、学生や地域の人々の学びや探究活動へのモチベーターとなることが期待されています。また、本学における宇宙分野の研究アクティビティの向上に寄与することも期待されています。研究活動の国際性や学際性の高さもプラスに働いたようです。

武器と言えば、卓越研究員事業(1)の一環としてご提供いただいたブリッジプロモーターの支援には、非常に感謝しています。2年ほど前から、大学への就職を見据えてブリッジプロモーターのアドバイスを受けていたことで、本学の選考にも準備を整えて臨むことができました。

なかでも印象深かったのは、面接時における基本的なコミュニケーションの重要性についての指摘です。ともすると相手の意図を先読みしてしまい、焦って返答しがちだった部分を改めて、相手の話をよく聞いて確実な答えを返す意識を持てるようになりました。

何事もそうかもしれませんが、大学教員の職を得る上でも、相手(学生、教員)に寄り添うことが大事なのかなと思います。

本学に赴任してみて

公立諏訪東京理科大学では、比較的充実した教員生活を送れています。授業に関しても準備の段階から楽しく取り組めていますし、学生の成長をサポートできる仕事に面白さを感じています。

研究に関しては、授業や校務と並行しなければならないですし、周りに同じ分野の研究者がいないという意味では理想的な環境とは言い切れないかもしれません。ですが、宇宙論や基礎物理分野の理論研究は基本的にはひとりでコツコツとやるものですし、議論をしたければ学外の研究者とリモートでつながることもできます。そう考えれば決して研究を続けることが不可能な環境ではないと思います。

我々は、研究で多忙なあまり、キャリア戦略を練る暇もないという状況に陥ってしまいがちです。ですが、任期切れが迫ってきた段階で慌てて書類を出して次のポストを得て、という生活を続けていると、だんだんと研究することが辛くなっていくような気もします。

卓越した研究業績を上げることは、大学・高等研究機関にて研究キャリアを築く上での必須条件だと思います。一方で、基礎物理分野では、研究業績のみが評価対象となる任期なし教員の募集は今となっては非常に稀で、自分の研究内容にマッチするものとなると10年待っても出ないかもしれません。そのような厳しい状況ですので、教育義務のある任期つき大学教員、非常勤講師、高専教員などを若いうちから経験し、教育業績を積んでおくことも、(研究活動との両立はとても大変ですが)キャリア戦略上重要なのかもしれません。ただ、海外での研究キャリア継続を目指す場合は、この通りではないかもしれません。

一方で、アカデミアを離れてメーカーや金融系の企業に就職し、活躍されるケースもあると聞きます。宇宙論は総合学問でして、研究者は数学、データサイエンス、スーパーコンピュータなどに関する最先端の知識・スキルも持ち合わせていますので、企業では非常に有用な人材として評価されるのだと思います。適性にもよりますが、フィールドを変えても活躍できる研究者は多いと思います。

本学に来てから知ったのですが、長野県は宇宙県と呼ばれるほど天文を愛する文化が根付いており、愛好家も集まる地域なのだそうです。本学でも宇宙分野を推進する機運が高まっています。LiteBIRDという宇宙の始まりの解明を目的としたJAXA(宇宙航空研究開発機構)主導の国際宇宙観測プロジェクトにかねてより参画しているのですが、LiteBIRD衛星本体や搭載する超伝導マイクロ波検出器の開発実験を行える環境を本学に構築できれば、とても盛り上がるのではと思っています。

若者こそ自由であれというのが私の信条ですし、自分の経験やコネクションを活かして学生の自由で主体的な学びやその先の探求活動を応援できるなら、これほど面白いことはありません。

(取材 2023年2月)

(1)卓越研究員事業 https://www.jsps.go.jp/j-le/index.html (参照 2023-03-14)

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