大学等

果敢に世界に打って出る人に、

チャンスは訪れる。

国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)

人材部門・人材開発室 室長

磯部 雅朗 氏 博士(工学)(右)

マテリアル基盤研究センター 独立研究者

中野 晃佑 氏 博士(情報科学)[卓越研究員](左)

国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)は、物質・材料科学技術に関する基礎研究および基盤的研究開発等の業務を総合的に行うことにより、物質・材料科学技術の水準の向上を図ることを目的とした研究所です。近年世界的に大きな課題となっている、持続可能な成長に向けた環境・エネルギー・資源問題の解決に向けて、新材料に関する研究をプロジェクトとして進めています。近年はデータサイエンスにも力を注ぐ同研究所では、高い専門性を有し、グローバルな視点を持った研究者が多数活躍しています。

研究者として優秀であることに加えて、外部に向けた視点が大切

磯部 当研究所は、世界的に見ても珍しい物質・材料に特化した研究所です。もともとは、金属材料技術に関する基本的、総合的研究および試験を行っていた金属材料技術研究所(NRIM)と、 無機材質の創製に関わる材料研究を専門的に行っていた無機材質研究所(NIRIM)のふたつの国立研究所が統合してつくられた研究所です。近年は世界的にもデータサイエンスに注目が集まっており、NIMSでは7年ほど前から材料情報学(マテリアルズ・インフォマティクス)分野にも注力しています。

中野さんは2022年にNIMSに採用され、まさにその分野を研究するマテリアル基盤研究センターに所属して、材料物性計算手法の開発と機械学習への展開に関する基礎分野の研究に従事してもらっています。

中野 私の専門は第一原理計算です。世の中にある膨大な物質のうち、測定によって物性が測定されているものは数千個ほどしかありません。物性は、通常は実験して確かめないとわかりませんが、莫大な時間がかかってしまいます。その代わりにコンピュータを使って予測しようとするのが、この研究分野です。私はもともと修士課程までは京都大学で新しい超伝導体を見つける実験系の研究に携わっていました。その研究過程で、計算で実験の一部を代替できるのではないか? (マテリアルズ・インフォマティクス)と興味を持ち、第一原理計算の分野に進みました。修士号を取得後に企業に就職して5年ほど勤務する間に、北陸先端科学技術大学院大学の博士課程にて博士号を取得しました。その後イタリアのトリエステにある大学院大学 (Scuola Internazionale Superiore di Studi Avanzati/SISSA)に3年間勤務した後、卓越研究員事業(1)を利用して当研究所に採用されました。私の年齢と専門分野でPIのポジションを用意してくれるところは、国内では他にはないと思いますし、近接分野の専門家や応用先である材料の研究者もたくさん所属している素晴らしい研究環境に満足しています。

磯部 当研究所では、研究者として優秀であることは勿論のこと、外部に向けた視点を持つ人材を求めています。NIMSの中で研究を行うことに加え、是非、NIMS外の人とも協力関係を築いて研究の幅を広げて欲しいと思います。その上で研究コミュニティの中で自身の立ち位置を確立し、「この分野にこの人あり」と言われるような研究者になっていただきたいと思っています。

中野さんは若い頃から海外に滞在し、現在では、欧州の第一原理計算プログラム開発のコミュニティの中で先進的な地位を築いています。今後も海外の研究機関と積極的に共同研究を行い、ご自身の力を最大限に発揮してくれるものと、大いに期待しているところです。

中野 私が外部にも目を向ける背景には、実は日本のアカデミアの問題もあると思っています。日本では伝統的に、材料科学分野におけるソフトウェア開発の重要性があまり認識されてこなかったと聞いております。これまでも十分なサポートがなかったことで独自の取り組みが失われてしまい、その結果、海外のソフトウェアを使用するために現在多くのコストを支払っている状況です。今は、研究に集中できる環境を用意して頂いているので、しっかりとこの分野における、日本のプレゼンスを確立したいと考えています。

後悔も挑戦も、若いうちに経験することが大切

中野 私はキャリアの中でひとつ後悔していることがあります。それは「博士だと就職できない」といった俗説に惑わされて、修士号取得後すぐに博士課程に進まなかったことです。私の場合は、余暇を使って博士を取得することができましたが、様々な事情で、そうはいかない場合も多いと思います。博士号を取得するチャンスがあるのであれば、できるだけ早く挑戦しておいた方がいいと思います。ただ一方で、博士を取得したからといって、大学に残るのが唯一の正解とは思いません。企業の研究は全てを公開することができないため、アカデミアの人には伝わらないことも多いのですが、非常に面白い研究をやっています。例えば、大規模言語モデルなど、分野によっては、大学より企業の方が先進的な研究に携われる場合もあります。なにより研究の出口が見えやすいですし、社会に直接的に貢献する仕事にやりがいを見出す人は多いと思います。

磯部 時代背景や近年の社会情勢などの影響で、若い人の気持ちが内向き・安定志向になる事情はよくわかります。しかし、挑戦がなければ発展はありません。実は、私も一度企業に就職した経験があります。アカデミアに戻ったときは収入が減ってしまいましたが、とにかく研究をしたいという気持ちが強く、頑張ることができました。大胆な挑戦は若いうちにしかできませんから、ぜひ果敢に打って出てほしいと思います。そういう人には必ずチャンスが来ると思います。

就職活動では一喜一憂せずに、ある程度テクニックを覚えておくことも大切

中野 私も就職活動が全てうまくいったわけではありません。公募ではかなりの数、書類選考で弾かれています。経験から言わせていただくと、もしマッチングが失敗したとしても、一喜一憂しないこと。大学受験と違って就職活動には正解がありません。採用側の意向もありますから、切り替えて次につなげようという意識が大切だと思います。実践的なアドバイスとしては、オーディエンスがなにを知りたいか意識することをお勧めします。とかく研究者は自分の専門分野の内容をこまごまと伝えようとしがちですが、採用する側からしてみれば、それよりも組織との相性やその人の将来性を図りたいと思っているはずです。もちろんコアとなる専門性があることは前提ですが、その見せ方を工夫することが大切だと思います。こうしたテクニックは研究の本質からは外れるかもしれませんが、人に伝える意識は研究者としても必要ですから、常に頭の片隅に置いておいてもいいのではないでしょうか。

(取材 2023年3月)

(1)卓越研究員事業 https://www.jsps.go.jp/j-le/index.html (参照 2023-03-29)

このコンテンツは令和4年度「卓越研究員事業」の一環として作成されました。
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