企業

企業の事情を理解し、

マッチングの可能性を探れば活躍できる場所はあるはず。

株式会社新日本科学

総務人事本部 人事部 人財採用課 課長

立石 大志 氏(右)

安全性研究所 薬効薬理研究部 薬効薬理研究室 主幹

増田 明 氏 博士(学術)(左)

株式会社新日本科学は医薬品開発受託(CRO)事業、トランスレーショナルリサーチ(TR)事業、メディポリス(社会的利益創出事業)の三つの事業を軸としており、CRO事業における非臨床試験の国内トップシェアを誇ります。同社が得意とする非ヒト霊長類を用いた薬効薬理試験は世界的に需要が高まっており、新たな試験の系を確立できるような高いサイエンスレベルを持った人材の活躍が期待されています。

需要が増えているCROの分野で、博士が活躍できる環境を整備

増田 私が勤務している薬効薬理研究部の薬効薬理研究室では、製薬企業などからの依頼に基づいて非臨床試験を進めるのが基本的な業務です。ただ、経験のある試験であれば前例を参考にしながら進めれば良いのですが前例がないことも多く、その場合はまずクライアントの要望に叶う試験ができるかどうかを調査・検討する段階を踏む必要があります。そのようにして対応できる試験の幅を広げていくことが、薬効薬理研究室及び私が取り組んでいることです。

なかでも自分の専門を活かした視覚・眼科系の要素技術開発や新たな評価系を確立させるということに注力しています。私はもともと博士課程から脳の神経活動を観察する電気生理学を専門としており、博士号取得後は、脳の神経活動に関する研究を経て、視力の再生や視覚野の電気活動の測定を通した見え方の評価などの研究に携わっていたので、今の業務はこれまでの取り組みとかなりオーバーラップしています。

とはいえ、研究環境は大学とはかなり違います。試験の進め方は詳細に決められていますし、管理体制も研究設備も洗練されていると感じます。

立石 当社は創立から60年以上、CROのノウハウを蓄えてきた会社です。研究職の社員は700名を数え、博士だけでなく修士も学士も含まれます。社内ではさまざまなキャリアモデルがあり、自分の興味に沿ったキャリアを追いかけられる環境はかなり整っていると思います。

薬効薬理研究室には現在20名ほどの部員が在籍しており、そのうち博士は増田を含めて3名ほど。彼らには専門性や学会での発表経験といった博士ならではの能力や知見を業務に活かしてほしいと思っています。特に非ヒト霊長類の病態モデルをつくるためには、非常に高いサイエンスレベルが求められます。近年は核酸医薬品や抗体医薬品など非ヒト霊長類を使わなければ開発が進められない医薬品の試験依頼が増えていますから、増田の持つ幅広い神経科学の知識と研究経験には、即戦力として大いに期待をかけています。

社会への還元の道筋が見える環境で自分の能力を活かしたい

増田 私が企業への就職を考えるようになったのは、アカデミアでの研究に限界を感じたことが大きな要因です。自分が携わっている基礎研究の成果を社会に還元できるようになるまでの道のりを考えると、とてもではないけれどひとりの力で成し遂げることはできそうにない。それに大学で少数の研究者とひとつの研究に打ち込むよりは、企業で大きな基盤を持ち、社会に近いところで働く方が充実感を得られるはず。そう考えて、3年ほど前から企業への就職の道を探すことにしたのです。

そんな経緯で卓越研究員事業(1)に応募し、転職サイトにも情報を登録していました。あるとき転職サイトの登録情報を見た新日本科学の方から連絡をいただきました。

会社自体は知っていたのですが、事業展開や研究についてはほとんど知らなかったので、話を聞いてみて「こんなにすごい会社があったのか」と驚いたのが最初の印象です。その後働く現場を見させてもらう機会があり、この環境であれば自分の経験を活かして会社に貢献できる上、自分のサイエンスレベルも向上できると感じて応募を決めました。

入社後まだ半年ほどしか経っていませんが、社会への還元の道筋が見える環境で、仕事の意義を感じながら働けていることに大いに満足しています。

立石 当社ではかなり分業制が進んでいるので、大学での研究者に多い「全てを自分の力で成し遂げたい」という希望を持っている人には向いていない環境かもしれません。企業ですから残業時間も限度が決まっていますし、アカデミアから転職される場合には、働き方に対する感覚を変えていただく必要があります。面接の際にはその点について必ず尋ねるようにしています。

博士人材であればこちらが求めるサイエンスレベルに達している場合が多いです。しかし、企業が見ているのはそこだけではないという点は、就職を希望する博士人材の方には知っておいてほしいと思います。企業では自分がやりたくないことをやらなければいけない場合もありますから、そういった状況に臨機応変に対応できる人かどうかは、どの企業も重視するポイントではないでしょうか。

増田 就職活動をしていろいろな企業の方と話しましたが、実は研究者が持っている技術や知見のうち、企業で活かせる可能性を持つものはかなりあるのではないかと感じています。

もっとオープンにマッチングの可能性を話し合える機会があれば、より自分が志向するキャリアを実現できるチャンスが増えると思います。ただ企業側の事情を鑑みると、今進んでいるプロジェクトや求める人材など、自社の情報を詳しく公開できない場合も多いのです。一方、クローズドな場面では詳しい話もできるようになります。面接まで進んだ段階で初めて得られる情報の多さには、私も驚きました。

そういった事情を知ることだけでも、世界観が少し変わるのではないでしょうか。会社のホームページや募集要項だけで応募対象から外してしまうのではなく、少しでも自分の専門分野と関係する可能性があるなら応募や問い合わせをする価値はあると思います。

逆に、博士人材から自分の情報を開示していくことも大切だと思いますし、企業側もなにかしらの開示努力をしてくれると、よりWin-Winなマッチング環境がつくれるかもしれませんね。

(取材 2023年3月)

(1)卓越研究員事業 https://www.jsps.go.jp/j-le/index.html (参照 2023-03-29)

このコンテンツは令和4年度「卓越研究員事業」の一環として作成されました。
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