大学等

実践的なキャリアプログラムでアカデミア、産業界をリードする人材を育成

早稲田大学

理工学術院 教授

朝日 透 氏

早稲田大学は、2006年から博士人材が自らの専門性を活かしながら社会で活躍していくためのキャリア支援に取り組んできました。2021年には、これまでの博士課程のキャリアパス多様化に向けた活動実績とノウハウを活かした全学的プログラム、「早稲田オープン・イノベーション・エコシステム挑戦的研究プログラム(W-SPRING)」を新たに始動。ジョブ型インターンシップ制度の施行やエフェクチュエーション・ワークショップやアントレプレナーシップ講座など実践的なキャリア開発・育成プログラムを積極的に取り入れています。

10年以上にわたる博士キャリア支援の実績

早稲田大学では、2006年に「ポスドク・キャリアセンター」、2008年に「博士キャリアセンター」をそれぞれ設立し、文系・理工系の博士課程学生、博士課程への進学を検討している学部生・修士生を対象とした、多角的なキャリアパス支援を行ってきました。

様々な取り組みの中でも、企業での長期インターンシップは開始当初、他大学ではほとんど実施されていない海外企業でのインターンシップなど独自の取り組みにも注力しました。また、リーダーシップ、ネゴシエーション力、コミュニケーション力、コーチングなどトランスファラブルスキルを学ぶ実践的科目「博士実践特論」を他の大学に先駆けて企画・開発し、博士後期課程の正規科目として単位化しました。

10年以上にわたるキャリア支援の歴史を経て、両センターが持つ機能を整理し、学内の「キャリアセンター」に移管して、博士人材育成の仕組みを内製化しました。2021年4月には「早稲田オープン・イノベーション・エコシステム挑戦的研究プログラム」(以下W-SPRING)を新設し、博士人材が経済的支援を受けつつ、産業界で幅広く活躍するための素養の獲得と、社会実装を目指す研究に取り組めるよう支援するプログラムを開始しました。2021年度は、書面・面接審査の上、180名の学生が支援対象となり、キャリア開発プログラム、国際性を高めるためのプログラム、企業への中長期インターンシップといったカリキュラムを提供しています。

起業家のマインドを学ぶ場も提供

W-SPRINGのプログラム内でも特に好評なのが、イノベーションを起こしたり、新規事業や独創的研究をゼロから立ち上げたりするために必要なマインドを養うための「エフェクチュエーション」や「アントレプレナーシップ」を学ぶ講座です。アントレプレナーシップ教育に関して本学は後発ではあったものの、現在は国内トップレベルのプログラムであるという自負があります。

とはいえ、グローバルな視点で見れば、まだ日本の博士人材に対するキャリア支援は十分ではないとも感じます。諸外国における新しい人材育成やキャリア支援に関する取組みにも常にアンテナを張りながら、産業界や海外大学との連携の中で得たアイデアを学内の人材育成プログラムに還元していくことが、大学に必要とされる姿勢だと考えています。

学内外に同志の輪を広げることが不可欠

W-SPRINGを実現できたのは、学内外に同志がいたからこそだと考えています。まず、これまで積み上げてきたキャリア支援の実績やそのビジョンに共感し、学生の審査や育成で協力する教員・職員の存在は大きかったです。部署や学術院をまたいだ連携体制を新しく構築するのは容易ではありませんが、皆さん時間を割いてコミットしています。特定分野の教授だけではなく、総長・副総長をはじめとし、事務方も含めた大学全体の協力体制がしっかりとできていることから、学生に対して幅広い支援ができる。それが、早稲田大学の強みの一つではないかと考えています。

そして、我々の取り組みに賛同してくれる大企業やベンチャー企業も心強い存在です。また、どの大学にも言えることだと思いますが、OB・OGが協力的である点も大きいと感じています。大学院時代にアントレプレナーシップやトランスファラブルスキルを学んだ経験が、社会に出てからも活きていると考えてくれているOB・OGは、声を掛ければ快く協力してくれます。実際に、現在、アカデミアや産業界で活躍するOB・OGとの繋がりをきっかけに、希望する進路に進んだ博士学生も少なくありません。

さらに、企業で活躍する社会人をプログラムのゲストスピーカーとして招いたことから、企業との繋がりの輪が広まった例もあります。積極的な姿勢でプログラムに参加する学生の様子を見たゲストスピーカーらが、社内で我々のプログラムについて宣伝をしてくれる。OB・OGやゲストスピーカーらが起点となって、企業の中で出身大学や部署の垣根を超え本学への支援の繋がりができていく。こうした産学連携を基盤とした支援のネットワークの広がりによってプログラムが上手く回るようになれば、優秀な学生が博士課程に進むキャリアデザインを描くこと自体にバリューを感じるようになるはずです。

博士課程では自身の”軸”となる研究にプラスアルファの学びを

博士課程の学生にお伝えしたいのは、研究を進めるために必要な知識や経験といった自分の”軸”となる専門性を作ることに加え、アントレプレナーシップやトランスファラブルスキルを身に付けること、そして専門分野や世代を超えたネットワークを広げることも大切にしてほしいということです。アカデミア・企業を問わず、軸となる研究を大きくしたり、様々な分野に活用したりする時にはそうしたマインドセット、スキル、繋がりが重要となります。

「研究は得意で自分の軸は作れる。でも、話すことがなかなか上手になれない」など、人それぞれ得意・不得意があると思います。そのような場合も、自分が不得意なことを得意とする人とチームを組めば、共同研究やビジネスを通して研究の社会実装や新分野開拓はできます。ネットワークを広げる方法を身に付ければ、仲間と一緒に希望するキャリアを築いていけるのです。自分の大きな幹となる研究に加えて、わずかな時間でもよいので、新しい観点を得るための学びにも目を向けてみて下さい。

記事の内容は、2022年3月取材時点の情報に基づき構成しています。