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超階層的視点を養う博士教育で、物質科学分野の将来を担うリーダーを輩出

大阪大学

国際共創大学院学位プログラム推進機構インタラクティブ物質科学・カデットプログラム 部門長

大学院基礎工学研究科物質創成専攻未来物質領域 教授

芦田 昌明 氏

大阪大学では、2013年に開始されたインタラクティブ物質科学・カデットプログラムを中心に、広角的な視点と柔軟な思考を持つ博士人材を育成してきました。これをさらに拡大・発展させた科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業(1)の超階層マテリアルサイエンスプログラムでは、専門分野の研究のみならず、異分野との共同研究や長期の企業インターンシップ、博士号取得後のキャリアにつながるカリキュラムも充実。研究分野や手法、視点の違いを超えたインタラクティブな研究を通じて、産学官を問わず活躍できる博士人材の育成に取り組んでいます。

他分野の学生や企業との交流で

複眼的思考力と俯瞰的視点を養う

大阪大学のフェローシップ創設事業である超階層マテリアルサイエンスプログラム(以下超階層プログラム)は、博士課程教育リーディングプログラムとして開始したインタラクティブ物質科学・カデットプログラム(以下カデットプログラム)が基盤となっています。カデットプログラムは修士から博士修了までの5年間、超階層プログラムは博士課程の3年間を対象としており、どちらも社会のリーダーとして活躍するための俯瞰的視点や企画力、汎用力を養うことを目的としています。

超階層プログラムは、「皆で育てる」がキーワードです。現在、このプログラムには基礎工学・理学・工学の3研究科18専攻が部局を超えて参加しており、18専攻の教員が未来の真のリーダーを「皆で育てる」姿勢で取り組んでいます。そうした環境の中では、階層の異なる別専攻の学生同士が自然に交流を深め、異分野の専門力を幅広く身に付けていきます。例えば、化学の学生が物理の基礎を、物理の学生が化学の基礎を学ぶことで、異分野の相互理解が深まり、異なる視点から物事を考察できるようになります。また、合宿や国際シンポジウムも、異分野交流を生み、発展的な議論を生む機会となっています。積極的な交流やディスカッションを経て、新たな共同研究が生まれ、そこから論文が出来上がることも少なくありません。こうした交流は学生同士にとどまらず、プログラムに関わる教員や参画企業にとっても、新たな視点を得る機会となっています。

ターミノロジーを乗り越え

汎用力を養う独自プログラム

超階層プログラムには、大学内の他の研究室で学ぶ研究室ローテーションや、企業内の研究室を経験する国内研修、博士論文促進に役立つ海外研修など、自分の研究室や大学を離れて行う計9カ月間の長期研修が含まれています。これらは、異分野や異文化の理解、基礎研究と社会のつながりの理解など、社会で活躍するための汎用力を育む重要なカリキュラムです。

学生の自主活動支援も本学の博士課程教育の特徴の一つです。過去には、学生たちが自ら志願し、「物性物理100問集」「物質化学100問集」という問題集を作成し、出版したこともありました。また登壇してほしい先生を学生たちが自分で招待し、企画から当日の進行まで、すべて自分たちで行う国際シンポジウムが年1回開催されています。こうした取り組みが研究や論文の妨げになるのではと危惧する声もありますが、自主活動の経験がイノベーティブな共同研究を生み、博士論文につながることもあります。事実、問題集を作成しながら国際シンポジウムの実行委員も務めていた学生は、カデットプログラムの5年間で10報もの論文を書き上げました。企業との共同研究がネイチャー系列誌に掲載された学生もいます。

学生のキャリアプランをサポートするメンター制度も好評です。将来ビジョンの策定や目標実現のために必要な能力の見極めを支援するのがメンターの主な役割で、企業の研究所や事業企画責任者の経験を持つシニアメンターと助教として活動している若手メンターが、学生のサポートをしています。コアとなる目標を見失わず、社会に必要な汎用力を獲得していく上で、メンターの存在は学生の大きな支えになっています。

就職率は100%

充実のキャリアパス支援

企業が求める専門性と汎用性を備えた博士人材を養成するため、超階層プログラムは、20社を超える企業のヒアリングを土台に構築されました。プログラムの最終試験では、文化功労者や学長経験者、企業経営幹部などの外部評価委員を招いて論文評価を行うなど、質保証のための取り組みにも力を入れています。

カデットプログラム修了者の就職率は現在まで100%。就職後も、俯瞰力・問題解決力・企画力・成長力や国際性の面で、企業・アカデミアの双方から高く評価されています。進路としては、企業が7、アカデミアが3の割合ですが、カデットプログラムを開始した時点では、その逆で、3:7でアカデミア志望が多かったのです。プログラムを通して企業との共同研究や長期インターンシップに参加するうちに、視野が広がり、多様な可能性が見えてくるのでしょう。

今、世界では、企業も含めて研究者の博士号取得が標準になっています。日本も今後、世界標準に合わせた研究が主流になると思われます。アカデミアの道を進む場合はもちろん、企業で活躍される場合も、これからは博士号取得の意義がより強く明確になると考えます。

政府が推進する科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業、次世代研究者挑戦的研究プログラム(2)では、研究専念支援金 (生活費相当額)や研究費が支給されます。経済的な心配をせずに研究できる環境がありますので、博士課程でさらなる知を追求し、社会にイノベーションを起こすリーダーをぜひ目指していただきたいと思います。

記事の内容は、2022年3月取材時点の情報に基づき構成しています。

(1)科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業 https://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/fellowship/index.htm (参照 2022-03-15)

(2)次世代研究者挑戦的研究プログラム https://www.jst.go.jp/jisedai/ (参照 2022-03-15)