大学等

豊富な実績を持つメンターが集結、

新大学でも世界に羽ばたく人材育成を

大阪公立大学

副学長(社会連携担当)、SPRING事業運営責任者

重松 孝昌 氏(左)

副学長(産学官連携教育担当)、フェローシップ事業運営責任者

松井 利之 氏(右)

2022年4月、大阪公立大学が誕生しました。(旧)大阪市立大学と(旧)大阪府立大学が合併した新大学は幅広い学問領域を網羅し、1万6千人の全国最大規模の公立総合大学です。前身の二校はそれぞれ人材育成に注力し、優秀な人材を世に輩出してきました。多くの学生と向き合い支援を続けてきた松井利之氏と重松孝昌氏に、これまでの取り組みの特徴や強み、さらに新大学での展望をうかがいました。

10年間で161名というインターンシップに豊富な実績

松井 (旧)大阪府立大学では、深い専門知識と確固たる研究力を持ち、他者と共創し新しい価値を創造できる人材の育成に取り組んできました。博士課程教育リーディングプログラム「システム発想型学際科学リーダー養成学位プログラム」や、 グローバルな視座を持ちイノベーションを起こす人材の育成を目指す「グローバルアントレプレナー育成促進事業」などを通じて、総合知を得られる出会いの場を提供しています。複数の文部科学省補助金事業も活用し、10年間で160名以上の学生・ポスドクを中長期のインターシップに派遣し、2020年には文部科学省より特別賞もいただきました。これには産業界出身のメンターたちの「つなぐ」力が大きく貢献しています。博士人材が中長期のインターシップを考えるには、単純なスキルマッチではなく不安の解消が必須です。学生、指導教員、企業とその意義などを十分に意見交換するなど、学生のキャリアに寄り添うメンターの働きが重要です。

重松 次世代研究者挑戦的研究プログラム(1)でも総合知の獲得を重要視していますが、これは言うは易しで大きな課題です。学生と向き合いリアルに感じてきたのは、多くの研究者は自己の研究内容は興味深く掘り下げられますが、それを社会還元に結びつける視点が不足していること。(旧)大阪市立大学でも、企業出身のメンターが、専門性を社会に還元するために幅広い知識が必要と指導し、学生たちの気づきを促す効果につながっています。

メンターの定期的な個別指導で、キャリア形成を支援

松井 メンターは1、2か月ごとに学生としっかり時間をかけた面談を実施しています。ルーブリックを用いた客観的な評価基準を学生と共有し、グローバルな素養が弱点とわかれば海外連携のワークショップ、産業界で自分の技術を活かす視点の強化をするならスタートアップイベントへの参加を促すなど、具体的なアドバイスはもちろん、日々の学生生活での悩みや不安にも耳を傾け、メンタル面もしっかりとサポートをしているのが特徴です。

重松 私も博士課程の学生を面談する機会があります。さまざまなプログラムを経て、表現豊かに話しができるように成長している姿を目の当たりにします。人材育成プログラムでの経験や学びにより、各方面に視野を広げ、複合知を習得しているのは指導側にとってもうれしい刺激です。学生が自分自身でも気が付いていない能力を開花させるプランを提案できるメンターを、今後も増やしていきたいと思います。

文系理系、年齢、性別にとらわれない人材育成

松井 博士人材活用は理系が注目されがちですが、文系出身者も統計的手法を扱う力や分析力、人を巻き込む力などが評価され民間企業に就職しています。その経験を持ってアカデミアに戻り、メンターとして活躍している方もいらっしゃいます。メンターがつないだことがきっかけで、可能性を広げている成功例は多数あります。大学側でもメンター育成のプログラムを2年前からスタートし、幅広い年代の方に参加いただき、教える側の意識も高めています。

経済的・精神的、様々な支援を積極的に活用し、学んでほしい

重松 経済的な理由で博士課程への進学を諦めてしまう学生さんは、実際に多いです。科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業(2)や次世代研究者挑戦的研究プログラムなどの活用で、一定の経済的支援を受け、不安なく学びを進められるチャンスがあることを情報発信していかなければなりません。進路について遠慮なく相談でき、サポートも整っていると知っていただけるように大学側も務めていきます。

そして企業の方には視野を広く持った表現力の豊かな学生に、大いに期待を寄せていただければと思います。「都市は大学とともに、大学は都市とともに」は(旧)大阪市立大学のキャッチフレーズでしたが、都市の課題解決方策の探求が世界への貢献に結びつきます。世界貢献へ熱意と意欲を持つ人材を育てることが、新しい価値を生み出し、持続可能な社会を実現していくための大学の使命であると考えています。

松井 社会も人の価値観も桁違いの速さで変貌する時代です。世界がどう変わろうと、他者から求められる人材であり続けられれば、気概を持った生き方ができるのではないでしょうか。長い人生の中で、博士課程への進学は自分を一つ強くする柱になるでしょう。

大阪の地で学んだ経験を活かして、世界で活躍していただき、さらなる学びが必要な時にはいつでも戻ってきてほしいと思います。教育はその人の根っこをつくること。その根っこを太く幅広くできるように、創造性、柔軟性、対話力、リーダーシップ、異文化理解などを磨ける環境が常に整っている総合大学を我々も目指していきます。博士人材に限らず、人生を豊かにしたいと考えた時に、あらゆる方に活用していただけるよう開かれた大学として、受け皿を広げてお待ちしています。

記事の内容は、2022年3月取材時点の情報に基づき構成しています。

(1)次世代研究者挑戦的研究プログラム https://www.jst.go.jp/jisedai/ (参照 2022-03-17)

(2)科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業 https://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/fellowship/index.htm (参照 2022-03-17)