Q1.気体は圧縮性流体だと思うのですが、非圧縮性流体として取り扱われるのはなぜでしょうか?

Q2.渦潮や台風などの自然界の流れも「連続の式」と「運動の式」で説明できるのでしょうか?

Q3.高粘度流体は全て、非ニュートン流体と考えて良いでしょうか?

Q4.ケチャップはチクソトロピック流体ですが、これを保存しておくと粘度が小さくなるのでしょうか?

Q5.層流域と乱流域の境目はどのように考えるのでしょうか?

Q6.レイノルズ数を計算する際、円管でない場合にはどのように考えればよいのでしょうか?

Q7.いろいろなレイノルズ数で分子の形が違いますが、どうしてでしょうか?

Q8.円管内にビンガム流体を流すような操作をすることは実際にあるのでしょうか?

Q9.ニュートン流体の入った同心2重円筒槽では、内筒の回転速度によらず流体の速度は変わらないということでしょうか?

Q10.レイノルズ数の他に流動状態を規定する無次元数には、どんなものがあるのでしょうか?

Q11.どんな流体が粘弾性流体でしょうか?

Q12.抵抗力Dが物体の速度uが増大するに連れてuからu2に比例するように変化するのはなぜですか?

Q13.境界層は平板上だけで発生するのでしょうか?

Q14.フォークボールやシンカーなどの変化球もベルヌーイの定理で説明できるのでしょうか?

Q15.スポーツ車の後部に付けられている翼のようなものは、どのような働きをしているのですか?

Q16.輸送機の動力Wから所要動力Wpを求めるときにでてくる効率ηとはどのようなものでしょうか?

Q17.優れた流速計LDVがあれば、他の流速計測器は不要ではないでしょうか?

Q18. LDV計測のために使われるトレーサーはどのようなものですか?

Q19.流れの可視化手法には他にどのようなものがあるのでしょうか?

Q20.流れの数値シミュレーションを行うためには、高価なコンピュータが必要でしょうか?


Q1
気体は圧縮性流体だと思うのですが、非圧縮性流体として取り扱われるのはなぜでしょうか?


A1
気体は圧力を掛けることで容易に圧縮されますが、流体力学では流れの場において流体の密度変化が流れに影響するかどうかで圧縮性・非圧縮性の区別が行われます。例えば、圧縮されやすい空気の場合でも、流れの中で大きな密度変化を生じていなければ、非圧縮性流体として取り扱われます。この区別の目安となるのは、マッハ数と呼ばれる無次元数で(流速/音速)で定義されます。この値が1より充分小さい場合は、非圧縮性としての取り扱いが可能です。風速20m/sの強風が吹いている場合でもマッハ数は0.06程度です。でもジェット機やミサイルのまわりの流れを問題とする場合には、圧縮性流体として取り扱う必要があります。

Q2
渦潮や台風などの自然界の流れも「連続の式」と「運動の式」で説明できるのでしょうか?


A2
円管内の流れや簡単な物のまわりの流れに比べ、自然界の流れは、大変複雑であり、大規模であることがほとんどです。しかし、それらの流れも基本となる式は「連続の式」と「運動の式」であることに変わりはありません。

Q3
高粘度流体は全て、非ニュートン流体と考えて良いでしょうか?


A3
高粘度流体は、ニュートンの粘性法則から外れる非ニュートン流体である場合が、多く見受けられますが、必ずしもその全てが非ニュートン流体であるわけではありません。例えば、水飴は常温で水の1000倍以上の粘度を示しますが、ニュートン流体です。あるポリエステル系の高分子液では、さらに高粘度の場合でも、ニュートンの粘性法則に従う場合が知られています。

Q4
ケチャップはチクソトロピック流体ですが、これを保存しておくと粘度が小さくなるのでしょうか?


A4
時間依存性流体の時間とは、剪断を掛けている時間ということです。つまり剪断をかけ続けていると粘度が下がるのがチクソトロピック流体です。従って、ケチャップを保存しているだけでは、粘度は低下しません。

Q5
層流域と乱流域の境目はどのように考えるのでしょうか?


A5
通常、レイノルズ数が、2300以下を層流域、4000以上を乱流域、2300から4000を両者の遷移域としていますが、2300の値を境目として層流、乱流と判定することもしばしばなされています。

Q6
レイノルズ数を計算する際、円管でない場合にはどのように考えればよいのでしょうか?


A6
流路が円管でない場合には、代表径を動水半径rH の4倍として定義します。rH は、流路の断面積を流路において流体が接する壁の長さ(濡れ辺長)で除した値として定義されます。

Q7
いろいろなレイノルズ数で分子の形が違いますが、どうしてでしょうか?


A7
レイノルズ数の分子である慣性項は[密度]×[代表長さ]×[代表速度]で定義されます。この[代表長さ]と[代表速度]の選び方で分子の形が変わってきます。例えば撹拌レイノルズ数では、[代表長さ]として撹拌翼の直径dを、[代表速度]として翼先端の速度に相当するndを用いるので[密度]×[代表長さ]×[代表速度]=ρnd2となります。

Q8
円管内にビンガム流体を流すような操作をすることは実際にあるのでしょうか?


A8
建設現場で用いられるコンクリートや下水処理場で発生する汚泥はビンガム流体と考えられます。また化粧品や食品工業においてもビンガム流体は、よく取り扱われます。これらのものは、多くの場合、パイプ(円管)を使って輸送されます。

Q9
ニュートン流体の入った同心2重円筒槽では、内筒の回転速度によらず流体の速度は変わらないということでしょうか?


A9
円周方向速度Vθを内筒の回転速度で除した無次元速度Vθの径方向に沿った分布形状が変化しないということです。内筒を速く回せば、それぞれの位置でのVθの値は大きくなります。

Q10
レイノルズ数の他に流動状態を規定する無次元数には、どんなものがあるのでしょうか?


A10
ニュートン流体では、レイノルズ数Reとフルード数Frで流動状態は規定されます。フルード数は[慣性項]/[重力項]で定義され、慣性項が支配的となる乱流域で重要となります。擬塑性流体やビンガム流体では、レイノルズ数の中の粘度を見かけ粘度(装置内の代表粘度)で置き換えることにより、レイノルズ数が決定されます。ビンガム流体では、この他に[降伏応力項]/[粘性応力項]で定義されるビンガム数Biがあります。さらに粘弾性流体では、[弾性応力項]/[粘性応力項]で定義されるワイゼンベルグ数Weがあります。

Q11
どんな流体が粘弾性流体でしょうか?


A11
溶融したポリマーやポリマー溶液に多く見られます。納豆やオクラの糸やとろろも粘弾性流体で、水の中にペプチドやタンパク質あるいは多糖類などの天然高分子が溶けています。

Q12
抵抗力Dが物体の速度uが増大するに連れてuからu2に比例するように変化するのはなぜですか?


A12
抵抗力D には、uに比例する粘性抵抗とu2に比例する慣性抵抗とがあり、uの増大に伴い、粘性抵抗から慣性抵抗の影響力が支配的になるためと考えることができます。

Q13
境界層は平板上だけで発生するのでしょうか?


A13
境界層は平板上だけでなく、流れ場にある全ての固体表面上で発生します。

Q14
フォークボールやシンカーなどの変化球もベルヌーイの定理で説明できるのでしょうか?


A14
フォークボールやナックルボールのように回転をなくして投げる変化球は違いますが、シュートやシンカーなどボールに回転を与える変化球は基本的にはベルヌーイの定理で説明できます。ただし、ベルヌーイの定理では、粘性効果やボール表面の境界層の影響を無視しており、定量的な説明ではありません。これには「マグヌス効果」や「クッタージュコフスキーの定理」など、より厳密な取り扱いをする必要があります。さらに実際の変化球では、ボールの縫い目がボールまわりの流れに少なからず影響を及ぼしていることが、最近、数値シミュレーションにより明らかとなってきました。

Q15
スポーツ車の後部に付けられている翼のようなものは、どのような働きをしているのですか?


A15
車も飛行機と同様、速度が増すに連れて、車体を浮き上がらせる方向に力を受け、走行が不安定になります。これを抑えるために、車体の後部に付けられた翼は、飛行機の翼とは逆に、車体を路面に押し付ける力を発生させる目的で付けられています。この翼は、飛行機の翼とは反対に上向きに反り上がった形状となっているのが確認できるでしょう。

Q16
輸送機の動力Wから所要動力Wpを求めるときにでてくる効率ηとはどのようなものでしょうか?


A16
ポンプ等の輸送機では、与えられたエネルギーが全て流体の輸送に使われるわけではありません。例えばモータ内部の機械的な摩擦は、熱や音になって失われています。効率ηはそのようなエネルギーロスを考慮して、正味流体輸送に使われているエネルギーを見積もるための値です。

Q17
優れた流速計LDVがあれば、他の流速計測器は不要ではないでしょうか?


A17
優れた特徴を持つLDVも万能ではありません。LDVの欠点の1つは、外部から光を照射し、その散乱光を検知するために、透明な装置の流速しか計れないことです。実際の計測では、1種類の計測法に頼るのではなく、複数の計測法を駆使して測定値の妥当性を検証していくことが大切といえるでしょう。

Q18
LDV計測のために使われるトレーサーはどのようなものですか?


A18
LDV計測の観測部である干渉縞の大きさは、数十μmであり、干渉縞の間隔は数μmです。トレーサー粒子は、この干渉縞の間隔より大きすぎても小さすぎても良好なドップラー信号を得ることはできません。流体として水道水をそのまま使うときには、その中に含まれる不純物がトレーサー粒子代わりとなることもありますが、通常約2μmで粒径の揃ったポリスチレン粉末が使われます。

Q19
流れの可視化手法には他にどのようなものがあるのでしょうか?


A19
本レッスンで紹介した可視化法の他にも沢山の優れた可視化法があります。例えばレッスンで学んだ粒子追跡法は大きくはトレーサー法と呼ばれます。粒子だけでなく、トレーサーとして染料を用いる着色法や、電気分解で発生させる水素の微小な気泡を用いるものもあります。なおトレーサー法は、連続的にトレーサーを注入するのは、流脈法、間歇的に投入するのは、流跡法と区別して呼ばれています。レッスン3で学んだレイノルズの実験は流脈法ということになります。またトレーサー法の他には、固体表面に残った流れの痕跡から流動状態を知る壁面トレース法、流れ場における光の屈折率の違いから流動状態を知る光学的可視化法等があります。

Q20
流れの数値シミュレーションを行うためには、高価なコンピュータが必要でしょうか?


A20
数年前までは、大型計算機でしか実現されなかった計算速度が、今では家庭用のパソコンで可能であるように、近年のコンピュータの性能は飛躍的に向上しています。流れの数値シミュレーションソフトも多くのものがパソコンで使用可能です。エンジニアリングワークステーション(EWS)であれば大概の問題を、取り扱うことができると考えて良いでしょう。ただし、大気循環のように極めてスケールが大きく複雑な系を対象としたり、乱流計算を精密に解析する場合には、今でもスーパーコンピュータに因らざるを得ない問題もあります。