|
Q1.プロパンのポテンシャルエネルギー図とエタンのポテンシャルエネルギー図の違いは。
Q2.1,2-ジエン(RCH=C=CHR)はなぜ光学活性ですか。
Q3.種々の置換基の優先順位についてもう少し詳しく説明してもらえませんか。
Q4.アクリロニトリルを出発原料として(S)-グルタミン酸を合成するにはどうすればよいのですか。
Q5.ラセミ化とエピメル化の違いは。
Q6.dl体とメソ体の違いは。
Q7.なぜ不斉合成が重要なのか。
Q8.不斉増殖と不斉増幅の違いは。
Q9.不斉な化合物を得るのに酵素を用いる方法と分子触媒を用いて人工的に行う方法がありますが、どちらの方が有利ですか。
Q10.我々の生命を担うタンパク質の構成要素であるアミノ酸がすべてS体であるのはなぜか。
Q1
プロパンのポテンシャルエネルギー図とエタンのポテンシャルエネルギー図の違いは。
A1
下の二つの図に示すようにほとんど差はない。いずれの場合もねじれ形と重なり形の二種類だけが存在する。
Q2
1,2-ジエン(RCH=C=CHR)はなぜ光学活性ですか。
A2
二重結合が二つ連続した化合物をアレンとよぶ。非対称に置換されたアレンには一対の鏡像体が存在する。すなわち光学活性である。不斉であるための必要かつ充分な条件はa≠bである。系の一端にあるa,
b両基を含む平面が他端のa, b基の平面と直交するため不斉となる。
Q3
種々の置換基の優先順位についてもう少し詳しく説明してもらえませんか。
A3
問題を解きながら具体的に優先順位を考えてみて下さい。
次の各組の置換基を優先順位の高い順に並べよ。
(a) メチル、ブロモメチル、クロロメチル、エチル
(b) 2-メチルプロピル、1-メチルエチル、シクロヘキシル
(c) ブチル、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル、1,1-ジメチルエチル
(d) エチル、1-クロロエチル、1-フルオロエチル、2-ブロモエチル
解答
(a) ブロモメチル>クロロメチル>エチル>メチル
(b) シクロヘキシル>1-メチルエチル>2-メチルプロピル
(c) 1,1-ジメチルエチル>1-メチルプロピル>2-メチルプロピル>ブチル
(d) 1-クロロエチル>1-フルオロエチル>2-ブロモエチル>エチル
Q4
アクリロニトリルを出発原料として(S)-グルタミン酸を合成するにはどうすればよいのですか。
A4
次の反応式に従って合成すればよい。まずオキソ法を用いてアクリロニトリルをβ-シアノアルデヒドに導く。次にシアン化水素をアルデヒドに付加させた後、二つのシアノ基を加水分解してカルボン酸とする。最後にこのカルボン酸を光学活性な塩基を用いて光学分割する。
Q5
ラセミ化とエピメル化の違いは。
A5
ラセミ化とは光学活性な物質の半分がその鏡像体に変化し旋光性を失う現象。たとえばR体の化合物がR体とS体の50:50の混合物になることをいう。熱や光などのエネルギーを与えることによって起こる場合と、酸やアルカリの添加で起こる場合とがある。一方エピメル化とは二つ以上の不斉炭素をもつ化合物においてその一つの不斉炭素の立体配置だけが変化することをいう。もとの化合物のジアステレオマーが生成する。
Q6
dl体とメソ体の違いは。
A6
2,3-ジブロモブタンを例にとって説明する。下記のように2つの組からなる合計4つの構造を書くことができる。はじめの組は(R,
R)と(S, S)の配置をもっておりエナンチオマーの対である。dl体とよばれる。一方2番目の組では(S,
R)体とその鏡像である(R, S)体は重ね合わせることができる。つまり同じ化合物である。このように二つの立体中心をもちながら鏡像と重ね合わせることのできる化合物はメソ体とよばれる。
Q7
なぜ不斉合成が重要なのか。
A7
我々の生命を担うタンパク質やDNAは光学活性な化合物から構成されている。そのため身の回りにある光学活性化合物の立体構造は我々の生活や健康に大きな影響をもっている。たとえば薬をとりあげても一方の光学活性化合物とその鏡像体とでは効き方が異なる。一方の鏡像体が効果的に作用してももう一方の鏡像体はききめがないとか、あるいは毒になる場合さえもある。味や臭いも同様である。我々が健康で快適にすごすためには提供される化合物は目的にあった100%純粋な光学活性体でなければならない。そうした光学活性化合物を効率よく作る方法として最も有効なのが不斉合成なのである。
Q8
不斉増殖と不斉増幅の違いは。
A8
不斉増殖というのはキラルな分子1個から多数のキラル分子を生成することをいう。数が増えるので増殖という。これに対し不斉増幅とは、光学純度が増えることをいう。たとえば光学純度が20%の化合物Aを用いて反応を行い、光学純度が80%の化合物Bを得ることをいう。反応を行うことによって光学純度が20%から80%に増幅されたということで不斉増幅とよぶ。
Q9
不斉な化合物を得るのに酵素を用いる方法と分子触媒を用いて人工的に行う方法がありますが、どちらの方が有利ですか。
A9
簡単にどちらが有利とはいえない。それぞれ長所、短所がある。酵素を用いる反応は不斉収率が高いのが特徴である。しかしながら基質の範囲がせまいこと、また一方のエナンチオマーしか合成できないといった欠点がある。これに対し、分子触媒を用いる反応では両方の鏡像体を簡単に作り分けることができる。(+)体と(ミ)体の二つのキラル触媒が容易に入手可能なためである。しかしながら高いeeを与える触媒の設計には長い経験とねばり強い努力が必要である。
Q10
我々の生命を担うタンパク質の構成要素であるアミノ酸がすべてS体であるのはなぜか。
A10
多くの種類のアミノ酸や糖が一方の鏡像体だけでできていることは、タンパク質やDNA、RNAを構成する際に厳密なしっかりした構造を創り出すのに都合がよいからだろうと想像できる。ところがそれではなぜR体でなくS体なのかという問いに対する答は今のところ見つかっていない。現在残されている大問題のひとつである。その理由を自分なりに想像して下さい。
|
|
|