■1. 液状化とは■

Q1.なぜ新潟地震以降に、液状化現象が災害として認識され始めたのですか。

Q2.地震以外でも液状化被害は発生するのですか。

Q3.震災時の消化・救助活動の障害になると感じられるマンホールの突き出し量はどのくらいですか。

Q4.近年の主な地震におけるライフラインの復旧日数を教えてください。

Q5.液状化対策はどの程度効果があるのですか。


■2. 液状化による被害■

Q6.液状化が発生した場合、必ず被害は発生するのですか。

Q7.噴砂・噴水の発生するメカニズムをもう少し詳しく教えてください。

Q8.液状化はいつ生じて、どのくらい続くのですか。

Q9.液状化した地盤はなぜ沈下するのですか。

Q10.地盤が液状化すると、なぜマンホールや地中埋設管が浮き上がるのか、もう少し詳しく教えてください。

Q11.液状化に伴う現象(メカニズム)と構造物の被害の関係をまとめてください。

Q12.石油タンクの被害はどのようなメカニズムで起こるのですか。

Q13.液状化が発生した場合、どのように復旧を進めるのですか。


■3. 液状化のメカニズム ■

Q14.砂は透水性が良いのにどうして過剰間隙水圧が発生するのですか。

Q15.液状化が発生する粒度範囲を教えてください。

Q16.液状化した地盤は、また液状化するのですか。

Q17.液状化で人はおぼれるのですか。

Q18.自然地盤以外で、液状化しやすい場所はどこですか。


■4. 液状化の再現方法■

Q19.液状化を再現する室内要素試験にはどのようなものがありますか。

Q20.要素試験と振動台実験の違いは何ですか。

Q21.振動台実験では、どのようにして振動を発生させるのですか。

Q22.どうして遠心場での振動実験を行う必要があるのですか。

Q23.原位置振動実験の詳細を教えてください。

Q24.個別要素法でどのように液状化を再現するのですか


■5. 液状化発生の予測方法 ■

Q25.様々な液状化判定予測のうち、どの方法を採用するかの選択・判断基準はありますか。

Q26.最も多く用いられる予測手法はどの方法ですか。

Q27.液状化の程度の予測は可能なのですか。


Q28.予測方法の違いにより液状化判定予測に違いは出るのですか。

Q29.限界N値を変えるパラメーターにはどのようなものがありますか。



■6. 構造物の被害推定技術 ■

Q30.開放型地盤流動はどのようにして発生するのですか。

Q31.液状化の判定・液状化地盤の地盤変位量の推定に、有効上載圧で補正したN値がよく利用される理由は何ですか。

Q32.液状化による建物のめりこみ沈下には、建物の重量は影響しないのですか。

Q33.動的FEM解析法とはどのような解析法ですか。

Q34.有効応力解析法とはどのような解析法ですか。


■7. 液状化危険度マップ ■

Q35.ハザードマップとはどのようなものですか。

Q36.液状化危険度マップにおけるグレード1・2・3に関してもう少し詳しく解説してください。

Q37.地震の大きさを表す加速度(gal)と震度、マグニチュードの違いを教えてください。

Q38.GISは日常のどんなところで利用されていますか。

Q39.ライフラインのハザードマップ作成はどのような効果がありますか。

Q40.ハザードマップ作成上の課題はありますか。


■8. 液状化対策技術 ■

Q41.対策工法の環境対応性とは具体的にどのようなものですか。

Q42.締固め工法にはどのような特徴がありますか。

Q43.固化工法にはどのような特徴がありますか。

Q44.石油タンクの改良範囲の決定はどのように行いますか。

Q45.グラベルドレーン工法に使用する砕石の材料特性に決まりはありますか。



■9. 既設構造物の液状化対策技術 ■

Q46.既設構造物下の地盤が液状化する場合は必ず対策しなければならないのでしょうか。

Q47.既設構造物基礎下の地盤改良(液状化対策)方法について詳しく教えてください。

Q48.高耐力マイクロパイル工法とはどのようなものですか。

Q49.シートパイルによる液状化時の変形抑制が鉄道盛土に適用された事例はありますか。


Q50.排水機能付き鋼矢板について詳しく教えてください。


Q51.タンクのような断面の大きな構造物に対しても鋼矢板を周囲に打設する対策効果はあるのですか。



■10. 防災戦略への活用 ■

Q52.「防災基本計画」はどのような計画ですか。

Q53.災害対策基本法はどのような法律ですか。

Q54.中央防災会議はどのような組織ですか。

Q55.地震防災戦略とは何でしょうか。

Q56.東海地震および東南海・南海地震ではどのような被害が想定されていますか。



■1. 液状化とは■


Q1
なぜ新潟地震以降に、液状化現象が災害として認識され始めたのですか。


A1
新潟地震以前にも、大地震で液状化が起こっていました。しかし、これより以前には、液状化が起こりやすい地盤、たとえば低湿沖積地盤は稲田になっていたりして、液状化が起きても構造物にはほとんど被害を及ぼしませんでした。液状化時の地盤変形によって被害を受けやすい、ガス水道通信などの埋設ライフラインもあまり普及していませんでした。また、近年液状化災害が頻発する大規模埋立地もほとんど存在していませんでした。都市の広がりと埋立てが増大したところに発生した大地震が、新潟地震やアラスカ地震だったといえます。

Q2
地震以外でも液状化被害は発生するのですか。


A2
液状化現象は、原理的には地震に限らず、連続した機械的振動のようなものでも力のバランスを崩すような力が加われば起きます。実際に、砂の液状化に対する性質を調べるために、サンプリングした試料(直径5センチメートル、長さ10センチメートル程度)を使って試験が行われていますが、そのときにには連続した機械的な振動を与えて液状化させています。しかし、実際の地盤で地震に匹敵するような振動が起きることはほとんどなく、地震以外の原因によって液状化が起きたという例は聞きません。核爆発は、人工地震としては最大級のものですが、爆心の近くでは液状化が起きる可能性があるかもしれませんが、これとて地震のマグニチュードにして1〜2程度です。地震の力がいかに大きいものか、これでもわかります。

Q3
震災時の消化・救助活動の障害になると感じられるマンホールの突き出し量はどのくらいですか。


A3
液状化によりマンホールが浮上して道路面に突き出すような事態が生じれば、消防車等の通行の障害となります。関東と関西の消防局機関員を対象に、消化・救助活動の現場に向かう際、通行の障害となると感じられる突き出し量についてアンケートをとった結果を下図に示しました。幅員5m程度の狭い道路においては、平均値で13.1cm、幅員16m程度の広い道路においては、平均値で22.9cmでした。

上 側:狭い道路(幅員5m程度)、下側:広い道路(幅員16m程度)



Q4
近年の主な地震におけるライフラインの復旧日数を教えてください。


A4

Q5
液状化対策はどの程度効果があるのですか。


A5
新潟地震の際に、非改良地盤の上のオイルタンクは沈下・傾斜などの著しい被害があったにもかかわらず、バイブロフローテーション工法を用いて締め固めた地盤上のオイルタンクは2〜3cmの均等な沈下が生じただけで再使用の可能な状態であったことが報告されています。
1993年の釧路沖地震に際して、釧路港では港湾施設の甚大な被害を被りましたが、西港区第一埠頭南側岸壁ではサンドコンパクションパイル工法、ならびにグラベルドレーン工法による液状化対策を実施してあったため被害を生じなかったことが報告されています。


■2. 液状化による被害■


Q6
液状化が発生した場合、必ず被害は発生するのですか。


A6
例えば、何もない広野で噴砂が生じ、その下の地盤が液状化したことが明らかであったとしても、これを直ちに被害とは言いません。そこに構造物や施設が存在し、これらに機能障害や変状がもたらされたときに初めて被害となります。
亀裂などの変状が発生すると、木造家屋などでは不同沈下によって大きな被害に結びつきます。下図は、亀裂などの地盤変状が発生する液状化層厚とその深さを、最大加速度をパラメータとして示したものです。この図から、液状化層厚が比較的薄い場合には、十分な厚さの非液状化層厚が存在することによって、液状化が被害に結びつかない場合もあることがわかります。


Q7
噴砂・噴水の発生するメカニズムをもう少し詳しく教えてください。


A7
地震の前後における地盤内の間隙水圧の深度方向分布を下図に示します。(a)は地震前の状態で、静水圧による圧力水頭に位置水頭を加えた全水頭は、どの深度でも一定となります。一方、(b)は完全な液状化の状態で、静水圧と過剰間隙水圧の和が上方の地盤の自重による土被り圧と釣り合っています。このとき全水頭は深くなるほど大きくなり、地盤中には上向きの浸透流が生じます。その結果、弱部を突き破って地盤の一部が噴砂・噴水として地上へ噴き出します。

Q8
液状化はいつ生じて、どのくらい続くのですか。


A8
液状化は、地震中(土要素が繰返しせん断を受けている最中)に生じると考えられています。ただし、その際に生じた過剰間隙水圧が周辺地盤に伝播することによって(表層へ消散する過程で)、地震後に別な場所で液状化が生じる可能性もあります。
液状化の継続時間は、地震の長さや液状化した地盤の厚さ、透水性などによって変化します。地盤の厚さや透水性が関係する理由として、過剰間隙水圧の消散に要する時間が地盤の厚さの2乗と圧密係数の逆数(透水係数と体積圧縮係数の比に相当)にほぼ比例するためです。したがって、液状化は地震が収まってからもしばらく続くこともあります。

Q9
液状化した地盤はなぜ沈下するのですか。


A9
地盤は土粒子と間隙水と間隙空気で構成されています。液状化するような地盤は間隙空気がほとんどなく、土粒子が配置された間隙を水が満たしています。
液状化するような地盤では、地震などの揺れにより土粒子の形成する間隙が小さくなるように土粒子が動こうとします。しかし間隙は水で満たされており、この間隙水は土中では瞬時に移動することができません。このため、水で満たされた注射器の先端が閉じられているときにピストンを押すと、ピストンがほとんど動かずに内部の水の圧力が上昇するように、地盤内の間隙水も水圧が上昇します。これを過剰間隙水圧といいます。
地震後には間隙水が圧力の低い方へゆっくりと移動していきます。これにより、過剰間隙水圧が消散していくとともに、水が移動した体積分だけ土粒子の形成する間隙が小さくなっていきます。これは全体的にみると体積が収縮することになります。また地盤内では、一般に水と異なり鉛直方向の圧力が水平方向の圧力よりも大きいため、体積収縮が鉛直方向に卓越することになります。これが地盤の沈下という現象となります。

Q10
地盤が液状化すると、なぜマンホールや地中埋設管が浮き上がるのか、もう少し詳しく教えてください。


A10
地中にある構造物は地盤内の間隙水の影響で浮力を受けています。液状化した地盤は流体的なふるまいをするため、間隙水だけでなく液状化地盤全体の影響で浮力が働きます。
液状化地盤の比重は土粒子の重量も含まれるため、水の比重よりも大きくなり、その分だけ地中構造物に働く浮力が大きくなります。また、液状化していない地盤では土粒子と構造物の摩擦などの働きが浮力に抵抗していますが、液状化した地盤ではこの摩擦力も期待できません。
このようなことから、地盤が液状化した場合には地中構造物が浮き上がりやすくなると考えられています。また、液状化により噴砂現象が伴うことがあります。このような液状化地盤の移動も地中構造物を浮き上がらせる要因になっている可能性があります。

Q11
液状化に伴う現象(メカニズム)と構造物の被害の関係をまとめてください。


A11
液状化による被害は、地盤内の過剰間隙水圧が増加したことによって、地盤の性質の変化やそれに伴う様々な現象によってもたらされます。
過剰間隙水圧の増加によって、地盤は強度を失い、また剛性も低下します。強度の低下は、支持力の低下や時より地盤の水平方向の大きな変位をもたらし、また剛性の低下は地盤の固有周期を長くし、地盤の揺れの変位振幅を増幅させます。
また増加した過剰間隙水圧が消散する際には噴砂・噴水を起こしたり、液状化が収まった後の地盤は沈下を生じます。下図にその現象と建物の被害をまとめました。



Q12
石油タンクの被害はどのようなメカニズムで起こるのですか。


A12
タンクの場合、基礎地盤が液状化すると、地盤沈下や水平移動によってタンクが傾斜し、内部の油が流出する恐れがあります。油の流出は大規模な火災につながり、周辺への影響が大きいため、タンク基礎下の地盤が液状化する可能性のある場合には、消防法によって対策が義務づけられています。
また地震によるタンクの被害については、液状化の他に「長周期地震動」が挙げられます。大型タンクのような大きな構造物(超高層建物や橋など)の固有周期は、数秒から十数秒であり、長周期地震動のように長い周期を持った地震が起こった場合、共振によってさらに大きな揺れを引き起こしてしまいます。また長周期地震動は、ほとんど減衰せずに遠方まで伝播する性質を持っているため、2003年の十勝沖地震(マグニチュード8.0)では、震源から約200kmも離れた苫小牧でもタンク被害が発生してしまいました。苫小牧では、長周期地震動によってスロッシング(液面揺動)を起こし、火災に至っています。この火災は全面火災となり、約44時間燃え続けるという危険な事態となりました。
※長周期地震動とは、長い周期成分(数秒から十数秒)をたくさん含んだ地震動のこと。

Q13
液状化が発生した場合、どのように復旧を進めるのですか。


A13
復旧は、被災規模や内容、重要性などによっても対策方法や手順等が変わりますが、下記のような手順を参考に復旧作業を行います。復旧作業は計画通りに進まないことが多く、臨機応変に対応することも必要です。

災害発生

応急措置:災害発生直後に2次的災害を防ぐために緊急措置を行う

概略調査:現地踏査、地盤調査など

概略対策の検討:対策範囲、本復旧・仮復旧などの検討

詳細調査・検討

復旧対策の検討:対策範囲、本復旧・仮復旧工法、復旧計画の検討

仮復旧、本復旧


■3. 液状化のメカニズム ■


Q14
砂は透水性が良いのにどうして過剰間隙水圧が発生するのですか。


A14
地震動は、おおよそ10〜20秒間に完結する現象です。砂は透水性が良いのですが、このような短時間では発生した過剰間隙水圧が消散することができません。水圧消散には概ね10ないし30分くらいの時間が必要です。したがって、実際の地震動をうける砂地盤は、ほぼ非排水条件のもとにあると考えられ、過剰間隙水圧が発生します。

Q15
液状化が発生する粒度範囲を教えてください。


A15

Q16
液状化した地盤は、また液状化するのですか。


A16
液状化層は緩く再堆積するので、再び液状化する可能性が高いと言えます。1964年新潟地震で液状化を生じた秋田県大潟村の八郎潟干拓堤防付近では、1983年日本海中部地震で再び液状化が生じました。また、本震よりも規模の小さい地震である余震によっても再び液状化することがあります。下図は、新潟地震から35年間に我が国で液状化を発生させた地震の数を示したものです。図中の●印は余震によって再液状化した場所があることを示しています。

Q17
液状化で人はおぼれるのですか。


A17
これまでに知られている液状化が直接的死亡原因となった事例は3例とされています。
これらの事例はすべて液状化により発生した地割れに落ちたことが原因で、この内1例が溺死であったと証言されています。

公的研究機関の施設公開において、ゴム長靴を履いた被験者が液状化地盤で沈下するのを体験するイベントがまれに実施されますが、その沈下量は高々くるぶし付近でした。
このように液状化で人が溺れる可能性は極めて小さいですが、噴砂が発生するなど液状化が著しい場所では地割れを伴う場合が多く、速やかに避難すべきであることは言うまでもありません。

Q18
自然地盤以外で、液状化しやすい場所はどこですか。


A18
例えば、埋め戻し部が浮上りなどの液状化被害をこうむる場合があります。下水道などは,道路に沿って開削しマンホールや管路を設置した後埋戻されています。下図は,2003年十勝沖地震による音別町の下水道マンホール浮上り量の分布を示しています。


■4. 液状化の再現方法■


Q19
液状化を再現する室内要素試験にはどのようなものがありますか。


A19
代表的なものとして、繰返し三軸試験、繰返しねじり試験、繰返し単純せん断試験などがあります。繰返し三軸試験は装置が単純で操作が比較的簡単であることから、最も広く用いられています。繰返しねじり試験は拘束条件を原地盤にあわせて再現できますが、装置も複雑で供試体も特殊なため、研究目的や特に厳密なデータが必要な場合に用いられます。繰返し単純せん断試験は装置が比較的簡便ですが、応力ひずみ分布が均一になりにくいことから、他の2つの試験に比べると用いられる頻度は少ないようです。

Q20
要素試験と振動台実験の違いは何ですか。


A20
要素試験は、地盤内の一要素を取り出した状態での液状化抵抗や変形性能を求める場合に用いられます。応力やひずみ状態が明らかであり、任意の拘束条件、加振条件で試験が可能です。地盤内から供試体を乱さないように採取しそれを試験することも可能です。一方、振動台実験は、地盤や構造物を模型で再現し、液状化対策効果や構造物の挙動を知る目的で実験が行われます。対策効果、地盤や構造物の挙動を知ることができますが、細部の応力ひずみ状態を知ることは難しく、むしろ全体的な挙動を知るのに適しています。また、地盤内の試料を乱さない状態で試験を行うことは一般的には不可能です。

Q21
振動台実験では、どのようにして振動を発生させるのですか。


A21
振動台を加振する方法には色々とあります。簡単なものでは、板ばねの上に台を載せ、それを揺するものがあります。高価なものでは、油圧アクチュエータという油圧で押し引きできるピストンで台を揺するものなどがあります。例えば、板バネに載せた台の加振方向は一方向となりますが、油圧アクチュエータによるものは、油圧アクチュエータを3軸方向(XYZ方向)に制御し揺することで実際の地震とほぼ同じ加振を行うことが可能です。例えば、正弦波加振を行う場合、一軸方向加振の振動台では必要とされる正弦波をそのまま用いれば済みますが、三軸方向加振可能な振動台では、一軸方向加振を行う際には、残りの二軸を制御する油圧アクチュエータも同時に動く必要があり、残りの二軸は振幅が0を維持するための制御が必要になります。なお、世界最大の振動台は、兵庫県三木市にある(独)防災科学技術研究所兵庫耐震工学研究センターのもので、振動台の大きさは20m×15mもあり、実大6層鉄筋コンクリート造建物の加振実験も行われています。

Q22
どうして遠心場での振動実験を行う必要があるのですか。


A22
地盤の変形特性は、拘束圧に依存します。一般的な振動台実験では、かなり大型なものを用いたとしても、深さ10mにもおよぶ実地盤の応力場(拘束圧)を再現できません。そこで、遠心加速度を模型に作用させて、模型地盤の自重を大きくさせることで、実現場の応力場を擬似的に再現させるわけです。重力加速度のn倍の遠心加速度を模型に加えると、模型寸法のn倍の応力場が再現できます。すなわち、実際の1/nの模型を用いた遠心場の実験を行うことで、実地盤の実験を模擬的に実施することが可能となります。

Q23
原位置振動実験の詳細を教えてください。


A23
2001年11月13日に北海道広尾群広尾町十勝港の第四埠頭埋立地において実施されました。実験は、午後2時20分に行われ、4800m2の敷地の地中257箇所に設置された爆薬(合計約840kgのエマルジュ爆薬)を時間差をつけて発破させることにより、約63秒間の振動を発生させました。実験サイトには、矢板式岸壁、杭基礎、埋設管などの構造物を設けるとともに、加速度計や水圧計などの各種計測機器を設置し、地震時に液状化した地盤による構造物への影響や地盤特性の変化などが計測されました。
この実物大実験での検討項目は次のとおりです。
・鋼矢板岸壁の地震時挙動
・浸透固化処理工法により改良された地盤の地震時挙動
・液状化による地盤物性の変化
・液状化現象の可視化
・音響透水トモグラフィーによる地盤探査
・深層混合処理改良体の地震時挙動
・地中構造物の浮上がり挙動
・側方流動地盤中の杭基礎および埋設管等の挙動
・GPSによる地盤の側方流動の観測
・液状化現象に伴う側方流動量の鉛直方向分布
・廃棄物埋立護岸(海面処分場)における遮水シートの耐震性
・精密写真測量を用いた液状化による側方流動地盤の挙動評価

Q24
個別要素法でどのように液状化を再現するのですか


A24
個別要素法は、「剛体の球(二次元の場合、円)を土粒子(または土塊)のモデルとし、(1)接触判定、(2)重力や反発力等要素に作用する力の算定、(3)次の時間ステップにおける要素座標の算定を、繰り返し、全体として粒状体の挙動を再現する数値計算手法」です。要素がばらばらなので、斜面崩壊や土石流等の、超大変形問題を再現できることが他の解析手法と異なる大きな特徴です。レッスンの中でも、発破により地盤が飛び上がっていることがおわかりいただけると思います。
液状化シミュレーションでは、
a)要素の運動による間隙変化
b)間隙変化による水圧の発生
c)時間経過による水圧の消散
を計算し、水圧の勾配によって要素に生じる力を上記(1)から(3)の繰り返しで計算します。


■5. 液状化発生の予測方法 ■


Q25
様々な液状化判定予測のうち、どの方法を採用するかの選択・判断基準はありますか。


A25
様々な液状化判定法の中からどの方法を採用するかは、対象とする構造物(個々の構造物または堤防やライフラインのように長い距離にわたって連続するもの)、調査段階(予備または本調査、地盤改良前または後)、構造物の重要度、予測する具体的な内容(液状化発生の可能性、液状化後の塑性変形量、変形の構造物への影響、対策工法の評価)、地盤の形状(整形地盤または不整形地盤)、調査検討の経済性などによります。
液状化対策を目的とする場合、概略法だけで予測を行うことはほとんどありません。しかし、以下のような検討に、概略法は十分活用できます。
(1)広域にわたる河川堤防やライフラインの液状化対策を行う場合で、液状化の可能性のある地域をしぼり込み、次に簡易法や詳細法などにより検討する場合
(2)特定の地点に対する地盤調査に先駆けて液状化の可能性を検討し、液状化予測のための地盤調査計画を立案する場合
液状化予測では、経済性を考慮して、まず(a-2)と(b-1)を組み合わせた簡易法により液状化発生の可能性を検討することが多いようです。この際、地震時のせん断応力が土の液状化強度を上回れば(すなわち、液状化抵抗率が1以下となれば液状化と判断します。多くの基準はこのような手順をとりますがが、抵抗率が1に近い場合、これだけの検討で液状化発生の有無を判断するのは難しい場合もあります。そこで抵抗率の値または程度を示す指標などによって、液状化判定の検討方法を選択することも考えられています。すなわち、液状化抵抗率が極めて低ければ(例えば、2/3以下ならば)、詳細な検討を行うまでもなく、明らかに液状化すると考えて、対策を検討することになります。一方、抵抗率がある程度(例えば、1.5)以上あれば、詳細な検討をするまでもなく液状化の可能性は極めて低いと考えられます。また、抵抗率がこの間にあれば、さらに詳細な検討を行って液状化の可能性および対策の必要性を検討します。この際、液状化強度をN値でなくサンプリング試料の室内試験から求め、再び図-3.1(b)の流れに従う方法、応答解析を行う図-3.1(c)(d)の方法などを使います。

Q26
最も多く用いられる予測手法はどの方法ですか。


A26
N値や粒度試験結果を用いる簡易予測法やFL値による簡易予測法が用いられます。しかし、水平成層地盤で、しかも構造物が存在しない地盤しか扱えないため、一般構造物や土構造物が存在する場合、複雑な地形や地層構造をした地盤に対しては液状化試験や地震応答解析を用いた詳細予測法が必要となります。

Q27
液状化の程度の予測は可能なのですか。


A27
地盤全体の液状化の激しさや程度を予測することは難しいため、液状化の程度を表す指標として、以下のPL値が提案されています。

ここで、FL(Z)は深さ方向の液状化抵抗率、W(Z)は深さ方向の重みで、積分区間(0〜H)は、深さ0〜20mで、W(Z)=10の等分布、またはW(Z)=10-0.5Zの三角形分布などが推奨されています。文献では、PLの値5, 20を境として、土質定数を変化させており、液状化の程度は、PL≦で軽微、5<PL≦20で中位、20<PLで甚大に対応すると考えられています。しかし、これらの値のもつ物理的意味が明確でないことから、より物理的な意味の明確な相対変位や沈下量などを指標とするほうが理解しやすいと考えられます。 
沈下量は、(1)密度が低いほど大きい、(2)最大せん断ひずみが大きいほど大きい、(3)有効上載圧にはほとんど無関係であることが示されています。この結果に基づいて、原位置における地震時の液状化による地盤の体積ひずみ量を推定するチャートが下図のように与えられます。横軸は換算N値、縦軸は式で与えられる応力比です。したがって、下図を用いれば簡易法と同じ情報で、各深度の液状化後の体積ひずみが予測され、それを積分して地盤沈下量が推定されるということになります。経験的に地盤沈下量のオーダーは、地震時の液状化層の相対変位と同レベルで、沈下量が大きくなるほど相対変位も大きくなると考えられます。また、沈下量や相対変位が大きいほど液状化の程度も激しいと考えられます。

Q28
予測方法の違いにより液状化判定予測に違いは出るのですか。


A28
液状化の予測方法は各設計指針毎に異なり、それぞれの対象とする施設や構造に応じた適用となっています。従って、使用する目的に応じた指針を用いることが適切です。
しかしながら、2つの地形条件、7種の判定方法を比較した報告があります(また、地表面最大加速度は、各方法で条件が等しくなるように200gal に設定しています)。
なお、下図に用いた液状化判定手法の設計基準・指針類は、以下のとおりです。
(1)「港湾の施設の技術上の基準・同解説」(1979)
(2)「港湾の施設の技術上の基準・同解説」(1989)
(3)「港湾の施設の技術上の基準・同解説」(1999)
(4)「道路橋示方書・同解説−耐震設計編」(1980)
(5)「道路橋示方書・同解説−V耐震設計編」(1990)
(6)「道路橋示方書・同解説−V耐震設計編」(1996)
(7)「道路橋示方書・同解説−V耐震設計編」(2003)
(8)「建築基礎構造設計基準・同解説」(1974)
(9)「建築基礎構造設計指針」(1988)
(10)「建築基礎構造設計指針」(2001)
(11)「危険物の規制に関する規則」(1978):以下、危険物('78)
(12)「LNG地下式貯槽指針」(1979):以下、LNG('79)
(13)「鉄道構造物等設計基準・同解説−耐震設計」(1999):以下、鉄道('99)

(a)後背湿地の比較例
一般的にシルト質砂、砂質シルトといった細粒分を多く含んだ砂では判定方法によって結果に差が出ることが多い。

(b)埋立地の比較例
一般的に10mの深さになると差が生じやすくなる。
このように、各方法によって判定結果に違いが生じる原因は、方法が導きだされた元となったデータの違いや対象としている構造物の種類、重要度などの相違に起因していると考えられます。


Q29
限界N値を変えるパラメーターにはどのようなものがありますか。


A29
限界N値に影響を与える要因としては、(1)深度、(2)地震力の大きさ、(3)粒度分布が上げられます。従って、加速度、粒径等が限界N値を変えるパラメーターになります。ただし、限界N値はそれぞれの方法や各指針により違いがあり、適用条件を考慮して用いる必要があります。


■6. 構造物の被害推定技術 ■


Q30
開放型地盤流動はどのようにして発生するのですか。


A30
開放型地盤流動というのは、岸壁のように、背後地盤が埋め立てられていて前面地盤と高低差がある場合、地震動の作用とともに開放されている前面に岸壁が移動し、これにともなって背後の液状化した地盤が前面に流動する現象をいいます。
岸壁が水域側に移動する場合を例にとると、その原因となる外力はケーソン岸壁の場合は二つあります。
第一は、地震動が底面からケーソン岸壁に作用することにより発生する、ケーソン自身の慣性力です。
第二は、地震動が作用して岸壁背後地盤が液状化すると発生する、ケーソンへの水平方向の増加土圧です。液状化が発生していない場合は鉛直方向の圧力の方が水平方向の圧力よりも大きいのですが、液状化すると流体的な振る舞いをするため、静水圧のように鉛直方向の圧力とほぼ同じ圧力が水平方向にも作用し、水平方向の圧力は液状化発生前より増加するのです。
そして、これらの二つの外力を加算した力が岸壁底面の摩擦力を超えると、岸壁が海側へ移動することになります。
また、岸壁直下の地盤が液状化した場合は、それまで期待できていた底面の摩擦力も非常に小さくなることから、さらに大きな岸壁の移動と地盤流動が観測される場合があります。このような場合は地盤全体が破壊する可能性が高く、大きな被害が発生します。

Q31
液状化の判定・液状化地盤の地盤変位量の推定に、有効上載圧で補正したN値がよく利用される理由は何ですか。


A31
液状化の発生の有無の条件の一つに、地盤の締まり具合があります。地盤が密に締まっている場合には液状化が起こりにくく、緩い場合には液状化が起こりやすくなります。地盤の締まり具合を表す土質定数として相対密度がありますが、この相対密度を間接的に評価する指標として標準貫入試験から得られるN値があり、最もよく利用されています。
N値は、地盤の相対密度と、その地盤が上部から受けている土の圧力(有効上載圧)、の二つの要因に影響を受けます。すなわち、同じ相対密度の地盤でも、深くなるほどN値は大きくなります。そこで、N値から有効上載圧の影響を取りのぞくために、N値を有効上載圧で補正して、ある基準となる有効上載圧(例えば100kN/m2)に換算した値で示します。これを補正N値、あるいは基準化N値と呼びます。この補正N値から地盤の相対密度を求める経験式が提案されています。
液状化判定や液状化地盤の変位量推定には、地盤の液状化強度が必要となりますが、この液状化強度と地盤の相対密度とは強い相関があります。そこで、補正N値が求められていれば、室内液状化強度試験を行わなくても地盤の液状化強度を簡易推定することができ、また、補正N値が液状化地盤の変位量推定式のパラメータにも利用されるのです。

Q32
液状化による建物のめりこみ沈下には、建物の重量は影響しないのですか。


A32
液状化による建物のめりこみ沈下は、建物の基礎地盤が液状化することにより、建物直下の地盤が建物の重量をささえきれずに押しつぶされ、沈下が発生することになります。したがって、同じ基礎地盤の上に幅が同じで重量(階数)の異なる建物が建てられた場合は、地震の揺れによる建物直下の地盤の液状化の程度が同じであれば、一般には建物の重量の大きい(階数の多い)ほうが大きく沈下するように考えられます。しかしながら、1964年新潟地震の被災事例ではその傾向は現れておらず、簡易推定法のチャートには建物の重量(階数)はパラメータとして考慮されていません。
これには二つ原因が考えられます。
一つ目は、地盤条件(地盤の硬さや土層の構成)、構造条件(基礎構造や地下階の有無)、地震動条件(基礎地盤の揺れの大きさ)が対象とした建物ごとに異なるため、建物の重量(階数)の影響が明確には現れなかったことが可能性として考えられます。
二つ目は、建物の重量が大きいとその直下地盤は拘束されて液状化しにくくなりますが、一方で同じ液状化の程度ならば建物の重量が大きい方が沈下量は大きくなるため、この二つの要因が相殺されて、建物の重量(階数)の影響が現れなかったことが可能性として考えられます。

Q33
動的FEM解析法とはどのような解析法ですか。


A33
FEMというのは、Finite Element Methodの頭文字を取ったことばで、有限要素法と訳されます。地盤および構造物を有限個の要素の集合体で近似し、要素ごとの支配方程式を作成し、それを基に全体の支配方程式を組み立て、初期条件あるいは境界条件を用いて解く近似解法が有限要素法です。数学的には、厳密な支配方程式すなわち微分方程式を近似的に解く方法であり、その扱いやすさのため、地盤の変形解析等、広く利用されている数値解析の一つです。
次に、静的解析と動的解析の違いは、支配方程式である運動方程式において、重力以外の加速度項を無視して解く場合を静的解析といい、重力以外の加速度項を考慮して解く場合を動的解析といいます。土木的な問題で例示すると、盛土の載荷は盛土が高くなるにつれて盛土荷重が増加しますが、運動方程式で判断すると重力以外の加速度項が無視できるため、静的解析で解くことになります。一方、この盛土に地震動が作用した場合は、重力以外の地震による加速度項を考慮しなければならないため、動的解析で解くことになります。

Q34
有効応力解析法とはどのような解析法ですか。


A34
地下水位以下の地盤の変形を解析する場合に、間隙水の浸透問題と土骨格の変形問題を同時に解く解析を有効応力解析といい、土骨格の変形問題のみを解く解析を全応力解析といいます。静的解析、動的解析のそれぞれについて、有効応力解析と全応力解析があります。液状化現象を追跡する場合は、地震動が作用している間は動的解析として、地震動終了後は静的解析として解くことになります。
液状化解析のプログラムには、前述の有効応力解析が採用されているプログラムと、全応力解析を準用して液状化現象を追跡しているプログラムがあります。後者は、全応力解析によりあるステップの土骨格の変形を解き、その結果(例えばひずみ量)を用いて過剰間隙水圧の上昇量を経験式等で求め、その結果を次のステップの土骨格の変形解析に反映させる、というアルゴリズムを用いる方法です。


■7. 液状化危険度マップ ■


Q35
ハザードマップとはどのようなものですか。


A35
ハザードマップとは、自然災害による被害を予測し、その被害範囲を地図化したものです。ある災害に対して、予測される災害分布、被害の拡大範囲および被害程度、さらには地図情報を利用して、避難経路、避難場所などの情報を図示するものです。
ハザードマップを利用することにより、災害発生時に住民などは迅速・的確に避難を行うことができ、また二次災害発生予想箇所を避けることができるため、災害による被害の低減に有効な情報となります。
日本では、1990年代より防災面でのソフト対策として作成が進められており、河川浸水洪水、土砂災害、地震災害、火山防災、津波高潮等のハザードマップが作成されています。

Q36
液状化危険度マップにおけるグレード1・2・3に関してもう少し詳しく解説してください。


A36
グレード1のゾーニングマップでは、縮尺1:200,000〜1:50,000の既往の地形分類図(地図)を用い、山地・台地等の明らかに液状化しない地域を除外し、液状化の検討を要する地域を抽出します。評価は液状化の検討を要する地域か否かを表示します。
グレード2ゾーニングマップでは、縮尺1:50,000〜1:25,000の微地形分類図から地盤表層の液状化可能性の程度を検討します。この微地形分類図は現地地形調査や航空写真の判読により作成します。液状化の可能性に関してランク評価(液状化の可能性 大、小、極小、ナシ)を行います。
なお、さらに詳細な判定はグレード3にて行います。グレード3ゾーニングマップでは、既存ボーリング資料収集及び地質解析により深度20m以浅の液状化による地盤被害の可能性を判定します。地図の縮尺は1:25,000〜1:10,000を用います。

Q37
地震の大きさを表す加速度(gal)と震度、マグニチュードの違いを教えてください。


A37
地震大きさを表すgal(ガル)とは、地震の揺れの強さを表すのに用いる加速度の単位のことです。1ガルは毎秒1cmの割合で速度が増す事(加速度)を示しています。980ガルは1G(地球重力)となります。
地震の強さを考える単位としては、1cm動く速度を示す、カイン(速度)という指標もあります。1カインとは秒速1センチのことで、例えば超高層建物を設計する場合では25カイン、50カインの2段階の地震の強さをめやすとして構造を検討します。
また、震度というのは、各地点において、どのくらいの大きさの揺れが届いたのかを示すもので、マグニチュードというのは、地震の規模を表すものです。
震度とは、ある地点での、地震による揺れの度合いを大きさで分類したもので、日本では、揺れの度合いを10階級(0、1、2、3、4、5弱、5強、6弱、6強、7)に分けた「気象庁震度階級」というものが使われています。
なお、マグニチュードが1増えると、地震のエネルギーは約32倍になります。2増えれば、エネルギーは32倍の32倍ですから1000倍になります。

Q38
GISは日常のどんなところで利用されていますか。


A38
地理情報システム(GIS, Geographic Information System)は、コンピュータ上に地図情報やさまざまな付加情報を持たせ、作成・保存・利用・管理し、地理情報を参照できるように表示機能をもったシステムです。
単なる地図との違いは、データを利用者が地図上に作成したり編集が可能な事、特定な目的を持った地図を容易に作成できる点などがありますが、最も大きな特徴である機能は空間検索機能です。
空間検索機能とは、指定した範囲の中から特定の地物や情報を検索したり、道路などのネットワークの最短経路検索を行える機能です。近年普及のめざましいカーナビゲーションシステムは、この機能を利用しています。
なお、GISの近年の発展の背景にはデータベースの整備がありますが、複数のデータベースに格納されたデータをを容易に利用できる環境は、情報交換にXML (GML/SVG) が用いられるようになってきた事も大きな要因です。XMLは異なるシステム間で特別なコードを書く量を削減し、データのやり取りを容易にすることが期待されています。
※XMLは汎用的に使うことができるマークアップ言語です。 マークアップ言語とは、コンピュータ言語の一種で、文章の構造(段落など)や見栄え(フォントサイズなど)に関する指定を、文章とともにテキストファイルに記述するための言語です。

Q39
ライフラインのハザードマップ作成はどのような効果がありますか。


A39
ライフラインに関するハザードマップ作成により、あるエリアの地震時の地盤変位を面的に評価し、マップ化することで、ライフライン系線状地中構造物のミクロ的(任意の断面)ではなくマクロ的(任意のエリア)な耐震診断を実施することができます。これにより、以後の耐震対策事業計画(耐震対策優先順位付け、対策実施箇所選定)に活用できます。
また、地盤の情報、地中構造物の情報等をGISを活用したデータベースを作成することにより、耐震補強だけでなく従来の維持管理用データとしても活用できます。
このように、ハザードマップ作成にGISを活用する事で、耐震診断結果および他の地理情報等を重ね合わせ、ハザードマップとして活用することが可能となります。これらは事業者が使うだけでなく、利用者にもインターネットでその情報発信も可能となります。

Q40
ハザードマップ作成上の課題はありますか。


A40
ハザードマップは、現時点で想定しうる災害状況を図示するものですが、自然災害相手だけに発生地点や発生規模などの特定にまで及ばないものも多く、また予測を超える災害発生の際には必ずしも対応できない可能性もあります。
また、ハザードマップの作成は進みつつありますが、必ずしもすべての地域での整備が行われているわけではありません。これらは以下の理由によるものと考えられます。
・作成費用がかさむ:これは地形図などの基礎的なデータをたとえば市町村単位で一から作成するのではなく、都道府県単位で作成したあと、市町村単位で各々の分を作成することで軽減される可能性があります。
・ハザードマップで「危険度高」とされた地域から、「不安をあおる」「公表されると不動産価値の低下などの損害が起きる」との反論がありました。しかし人命優先やリスクを正しく知るという観点、危険度高地域から行政が適切な対応をしているかの監視が可能になる点、ハザードマップの有用性の認知により、この懸念は解決しつつあります。
なお、2000年の有珠山噴火の際に、ハザードマップに従い住民・観光客が避難した結果、人的被害が防がれたことでこの有用性が注目されました。


■8. 液状化対策技術 ■


Q41
対策工法の環境対応性とは具体的にどのようなものですか。


A41
環境対応性とは、市街地で問題となる騒音・振動などの施工環境への対応性を目的としたものや、リサイクルの視点からの建設発生土や再生砂・砕石などの有効活用による環境負荷低減を目的としたものも含んでいます。
サンドコンパクションパイル工法に代表される従来の締固め工法は、施工時に振動・騒音を伴うため、市街地などでの適用に限界がありましたが、最近は静的なサンドコンパクションパイル工法など、低振動・低騒音の工法が実用化されて適用範囲が拡大しています。ただし、地盤の締固めに伴い地盤が変位する可能性もあるので、近接施工の際には十分な検討が必要です。
固化工法は騒音・振動が少ないことから既設構造物の近傍、あるいは直下で使用されることがありますが、事前の許容変位の確認、施工中の構造物や周辺地盤の変位を計測する必要があります。また、固化工法ではセメントなどの安定材を使用して地盤を化学的に安定処理させますが、事前に室内配合試験において六価クロム溶出試験を実施し、環境基準を超えないことを確認することが義務付けられています。
排水工法は、低振動・低騒音での施工が可能で、近接構造物に変状を与えることが少ない工法です。





Q42
締固め工法にはどのような特徴がありますか。


A42
締固め工法は液状化対策として最も多くの実績があり、対策効果がこれまでの地震で実証されており信頼性の高い工法です。サンドコンパクションパイル工法によって締固められた地盤では、地震時に過剰間隙水圧が発生しにくくなるほか、「ねばり」が期待できることが指摘されています。兵庫県南部地震では、設計で想定した外力を上回る地震動を受けたにも拘わらず、改良地盤における液状化の発生の痕跡が見られなかったという報告もあります。

Q43
固化工法にはどのような特徴がありますか。


A43
1995年の兵庫県南部地震以降、液状化の判定基準が厳しくなり、さらに、構造物近傍・直下での対策の要望が増えたことなどから、密度増加工法などの適用困難なケースが増えています。固化工法は非常に大きな液状化抵抗までの改良ができ、粘着力が付加されることから土圧低減もでき、かつ施工中の振動・騒音が少ないという特徴を有しており、固化工法の重要性が増しているのが現状です。

Q44
石油タンクの改良範囲の決定はどのように行いますか。


A44
簡易法による石油タンクの改良では、「危険物の規制に関する規則」より改良範囲Lを改良深さの2/3(ただし、5m<L<10m)としていますが、固結工法により改良率78.5%以上の改良を行う場合は、タンク直下のみの改良範囲とすることが認められています。

Q45
グラベルドレーン工法に使用する砕石の材料特性に決まりはありますか。


A45
間隙水圧消散効果は、排水材の透水性によって大きく左右されます。透水性を高める場合には、粒径あるいは開口径を大きくすればよいのですが、大きすぎる場合には目詰まりによる透水性の低下が生じ液状化防止効果を低下させることがあります。グラベルドレーン工法では、粒度の異なる材料による透水試験結果をもとに単粒度の7号砕石などが用いられています。


■9. 既設構造物の液状化対策技術 ■


Q46
既設構造物下の地盤が液状化する場合は必ず対策しなければならないのでしょうか。


A46
タンクなどは法律で対策することが義務付けられていますが、それ以外については構造物の保有者が決めることになります。構造物を使用しながらの対策には多くの制約があるので、まず構造物を移設することができるかを考えるべきです。

Q47
既設構造物基礎下の地盤改良(液状化対策)方法について詳しく教えてください。


A47
既設構造物直下の液状化防止が可能な工法としては、地盤を削孔して薬液を注入する固化工法があります。恒久的な溶液型薬液を使用し、その薬液が砂粒子間の水と置き換わりながら浸透し、地盤を固結させる工法です。注入管を鉛直、水平あるいは斜めに建て込み、薬液を注入するので、既設構造物に影響を与えずに直下の液状化対策が施工できます。代表的な対策工法として浸透固化処理工法や多点浸透注入工法が挙げられます。

Q48
高耐力マイクロパイル工法とはどのようなものですか。


A48
マイクロパイル工法とは、小口径(φ300mm以下)の場所打ち杭や打ち込み杭の総称です。地山を削孔して鉄筋・鋼管などの鋼製補強材を挿入し、グラウト材としてセメントミルクまたはセメントモルタルを注入して築造します。1950年代に煉瓦、石造りの寺院、教会などの歴史的建造物の補修や基礎の補強から生まれた技術であり、ヨーロッパを中心として発達しました。マイクロパイルの特徴としては、ハンドリングの良い小口径鋼管等を補強材として用いるため小型機械で施工が可能であり、空頭制限や狭隘地、山岳傾斜地、地下空間等の厳しい制約条件下での施工に対応できることが挙げられます。

Q49
シートパイルによる液状化時の変形抑制が鉄道盛土に適用された事例はありますか。


A49
想定される東海地震の影響圏内を走行する東海道新幹線の盛土が受ける被害を最小限にし、所定の耐震性能を満足することを目的にシートパイル締め切り工法が施工されています。この対策工法の設計法などは、過去の地震被害事例の分析、模型振動実験および数値解析などを総合して構築されています。対策工の施工は高速の列車を走らせながら行うことになるので、走行安全性の確保が最重要課題となります。また、線路の上空には架空線などがあるため、作業空間に制約があります。よって、事故防止のためにシートパイル打設機械の高さを高くすることができないので、シートパイルは1枚ものではなく、短いものをボルト継手により継ぎ足しています。
また、シートパイルやタイロッドなどを施工する時に盛土や路盤、軌道に沈下が生じることがあるので、常にこれらの状態を計測して管理しながら施工する必要があります。さらに、シートパイル打設時の振動が周辺地盤に伝播して周辺の構造物などに障害が生じることもあるので、そのようなことが予測される場所では、圧入式の打設機械を使用しています。

Q50
排水機能付き鋼矢板について詳しく教えてください。


A50
排水機能を有する鋼管杭、鋼矢板などの鋼材を用いる工法で、構造的対策としての鋼材の機能・効果に加え、地震時に鋼材周辺地盤の過剰間隙水圧の上昇を抑えることにより、地盤の抵抗を期待しうる工法です。また、大きな地震動によって鋼材周辺を含む地盤が液状化した場合でも、地震終了後には周辺地盤の過剰間隙水圧を速やかに消散させ、構造部材としての鋼材の機能を早期に回復することにより、構造物や地盤変形を軽減する効果を期待するものです。
排水機能付き鋼材とは、鋼管杭、鋼矢板などに排水部材(孔部に土砂侵入防止フィルターが設けられた有孔溝形鋼やドレーンパイプなど)が設置されたもので、排水部材頭部には排出される間隙水の処理が必要ですが、その方法はドレーン工法とほぼ同様です。工法の特徴としては次のような点が挙げられます。
(1)排水部材が中空で間隙水排出時の抵抗が小さい。
(2)鋼管杭では構造物の支持杭、鋼矢板では土留め壁のけんようなど構造部材として活用できる。
(3)通常の施工機材で対応が可能で、対策に必要な用地が小さい。
(4)排水部材の配置が構造の配置に依存し、一般に、本工法単独では対象領域内の過剰間隙水圧を全体的に一定値以下に抑制する効果を期待するのは難しい。

Q51
タンクのような断面の大きな構造物に対しても鋼矢板を周囲に打設する対策効果はあるのですか。


A51
タンク下の地盤を鋼矢板によって円形状に囲む鋼矢板リング工法は、地盤のせん断変形を抑制し、液状化の発生および液状化によるタンクの被害を防ぐ工法です。工法の原理は、(1)鋼矢板リングでタンク下の地盤を拘束することによって、地震時の地盤せん断変形を低減させ、液状化発生を防止、(2)大地震時にタンク周辺で液状化が発生した場合に、タンク直下地盤の変形を鋼矢板リングで拘束し、地盤沈下に伴うタンクの過大な変形を防ぐことにあります。
大地震時に地上タンクの周辺地盤が液状化した状態で、本工法がタンクの被害防止工法としての有効性を確認する為に、実タンクでの地震観測、実地盤の応力状態が再現できる動的遠心模型実験が実施され、その有効性が確認されています。
タンクの規模によっては鋼矢板では十分な液状化防止は確保できない場合もあり、その場合の主目的は、土の流出防止です。


■10. 防災戦略への活用 ■


Q52
「防災基本計画」はどのような計画ですか。


A52
防災基本計画は、災害対策基本法の第34条第1項に基づき、中央防災会議が作成する防災分野の最上位計画です。指定行政機関及び指定公共機関はこの計画に基づき防災業務計画もしくは地域防災計画を作成します。

Q53
災害対策基本法はどのような法律ですか。


A53
災害対策基本法は、昭和34年に東海地方に大きな被害をもたらした伊勢湾台風をきっかけに制定された法律で、以下をその目的として掲げています。国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護するために、防災分野に関し、国、地方公共団体及びその他の公共機関を通じて必要な体制を確立し、責任の所在を明確にするとともに、防災計画の作成、災害予防、災害応急対策、災害復旧及び防災に関する財政金融措置その他必要な災害対策の基本を定めることにより、総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図り、もって社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的としています。

Q54
中央防災会議はどのような組織ですか。


A54
中央防災会議は、災害対策基本法に基づいて設置された重要政策に関する会議体で、内閣総理大臣を長とし、内閣府を事務局としています。

Q55
地震防災戦略とは何でしょうか。


A55
地震防災戦略とは、地震による構造物や人的な被害の要因を分析し、それに対する効果的な対策を立案するものです。大規模な被害が予想される地域では、被害想定をもとに人的被害、経済被害の軽減について達成時期を含めた具体的目標(減災目標)などをその内容としています。

Q56
東海地震および東南海・南海地震ではどのような被害が想定されていますか。


A56
平成15年に中央防災会議より公表された被害想定によれば、発生時刻などで被害状況は変わるものの、その最大値は、東海地震では死者約9,200人、全壊建物数約460,000戸、被害総額約37兆円、東南海・南海地震では約178,000人、全壊建物数約628,700戸、被害総額約57兆円とされています。また、これらの地震が同時に起こった場合、死者247,000人、全壊建物数約940,200戸、被害総額は約81兆円に達すると発表されています。