Q1.ウィルスは生物と呼べますか?
Q2.生命の起原を説明する学説にはどのようなものがありますか?
Q3.RNAが遺伝情報の起源とする根拠は何ですか?
Q4.RNAを遺伝情報に使っている生物はいまも存在しますか?
Q5.DNAの量は生物種によって異なっていますか?
Q6.単細胞生物(真核細胞)の体の大きさに限界があるのはなぜですか?
Q7.どうして核分裂は細胞質分裂より必ず先に起こることができるのですか?
Q8.核分裂の後、細胞質分裂が起こらない場合がありますか?
Q9.プライマーは、なぜDNAではなくRNAを使うのですか?
Q10.分裂前に核膜が消えるのはどのような仕組みなのですか?
Q11.単為生殖を行う生物として、他にどのような種があげられますか?
Q12.無性生殖よりも有性生殖を行う生物の方が繁栄している理由を実証した学説はありますか?
Q13.二倍体よりも更に染色体数の多い生物はいますか?
Q14.動物の生活環にはどのような特徴がみられますか?
Q15.精子は卵子の保護膜(ゼリー層)分子をどのように認識し、特定の種の卵子を識別しているのですか?
Q16.精子の核と卵子の核は、受精後どのように融合するのですか?
Q17.それまでゆるく付着していた細胞が、コンパクションの過程でなぜ細胞同士密着した結合ができるようになるのですか?
Q18.発生時における胞胚腔の役割とはなんですか?
Q19.原腸陥入時の細胞は、どのような仕組みで大移動を行うのですか?
Q20.異なる胚葉由来の組織でできた器官には、どのようなものがありますか?
Q21.誘導はどのようなしくみによっておこるのですか?
Q22.細胞が誘導される形式には、他にどのようなパターンがありますか?
Q23.哺乳類において、生殖腺が精巣または卵巣に分化する要因はなんですか?
Q24.外胚葉性頂提によって肢芽から肢が形成されるまでには、細胞間ではどのような相互作用が働いていますか?
Q25.種子の休眠をもたらす要因にはどのようなものがありますか?
Q26.種子に寿命はありますか?
Q27.植物の分裂組織はなぜ常に未分化な状態でいられるのですか?
Q28.各植物ホルモンはどこで産生されているのですか?
Q29.メンデルの実験が成功した要因は何ですか?
Q30.メンデルの法則は農業の分野でどのように活かされていますか?
Q31.純系の生物と、対立遺伝子がヘテロな生物にはどのような違いがありますか?
Q32.致死遺伝を示す例としては他にどのようなものがありますか?
Q33.「染色体地図」がつくられた意義とはどのようなものですか?
Q34.遺伝子以外の要因で性が決定する生物はいますか?
Q35.突然変異はどのくらいの頻度で起こりますか?
Q36.形質発現に及ぼす環境と遺伝の影響を調べる方法には、どのようなものがありますか?
Q37.ダーウィンが自然選択説を考えつくきっかけとなった出来事、また思想にはどのようなものがありますか?
Q38.アミノ酸の置換速度はどのくらいですか?
Q39.トランスポゾンはどのようにして見つかったのですか?
Q40.身の回りにあるものの中に、遺伝子組み換え技術はどの様に活かされていますか?
Q41.アポトーシスという言葉の由来と定義はなんですか?
Q42.形態形成に働くアポトーシスには指の形成の他にどのようなものがありますか?
Q43.生体制御に働くアポトーシスの事象にはこの他にどのようなものがありますか?
Q44.病理的現象に伴うアポトーシスの事象としてどのようなものがありますか?
Q45.テロメア部分の配列はどうなっているのですか?
Q46.テロメア短縮がなぜ細胞の老化や死につながるのですか?
Q47.生物種によってテロメアの長さは異なりますか?
Q48.テロメラーゼを導入すれば、老化した細胞も若返りますか?
Q49.癌細胞になるためにはどのような遺伝子が働くのですか?
Q50.寿命に関わる遺伝子には他にどのようなものがありますか?
Q1
ウィルスは生物と呼べますか?
A1
生物とは呼べません。ウイルスは、DNAあるいはRNAとそれを包むタンパク質の殻から成る微小な構造体で、他の細胞に寄生して増殖し、単独では自己増殖できないためです。ウイルス増殖に必須の反応である、DNAやRNAの複製、タンパク質の合成などは、感染した細胞の装置を借りて行われます。
Q2
生命の起原を説明する学説にはどのようなものがありますか?
A2
雷の放電による高分子有機化合物の合成が有力といわれています。
他には宇宙から、特に彗星から有機物が飛来したと考えている人たちもいます。実際、彗星の核にはアミノ酸等の有機物の存在が確認されています。
DNAの二重らせん構造を発見したクリックは、地球上では希少のモリブデンが生命に必須であること、さらに宇宙年齢は百億年を超えており、三十数億年前に地球上に生命が現れるまでには、少なくとも1回はヒト以上に高度な知的生物が進化する時間があったことを考慮して、地球上の生物は地球外の生物が意識的に送り込んだ原始生物を起源としているという説を唱えています。
Q3
DNAの量は生物種によって異なっていますか?
A3
この表は、1組のゲノムに含まれる塩基対の数を比較したものです。一般に、ゲノムのサイズは細胞の大きさに比例することが分かっており、ほとんどの真核生物は、細菌よりはるかに多いDNA量です。
しかし、ヒトのゲノムのほとんどはタンパク質や機能分子を作らない非コードDNAです。大腸菌ではゲノムの11%がそうした非コードDNAですが、ヒトではゲノムのおよそ98.5%にも及びます。
Q4
RNAが遺伝情報の起源とする根拠は何ですか?
A4
現存生物が登場する前、地球上にはRNA世界が存在したという説があります。現在の細胞が持つリボザイム(触媒作用をもつRNA)やmRNA前駆体スプライシングなどの特徴は、RNA世界で代謝の主役だったRNAを介した複雑な相互作用のネットワークの子孫だとする考えが、そのRNA説の裏づけとなっています。
Q5
RNAを遺伝情報保存に使っている生物はいまも存在しますか?
A5
RNAを遺伝情報保存に使っている生物は存在しません。
ただし、遺伝情報を持つ構造体である『ウイルス』には、RNAを遺伝情報保存に使っているRNAウイルスがいます。ウイルスは遺伝子の断片を包んだカプセルのようなもので、自分だけでは代謝・増殖・世代交代ができず、すべて宿主細胞に寄生して行うため生物とはみなされていません。
RNAウイルスには、インフルエンザウイルス、エイズウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、ムンプスウイルス、コロナウイルスなどがあり、1本鎖RNA構造のものと2本鎖RNA構造のものがあります。
Q6
単細胞生物(真核細胞)の体の大きさに限界があるのはなぜですか?
A6
それは細胞の体積と表面積の比率に関係があります。細胞の大きさが増していくと、それを包む細胞膜の単位体積当たりの表面積の割合が極端に低下していきます。そのため、1個の細胞が大きくなりすぎると、その体積を維持していくだけの物質のやりとりができなくなってしまいます。
Q7
どうして核分裂は細胞質分裂より必ず先に起こるのですか?
A7
核の分裂によりすべての染色体が分離する前に、細胞質の分裂が起こらないよう2つの機構が働いています。
一つは、核分裂に必要なタンパク質を活性化する機構が、細胞質分裂に必要なタンパク質の一部を不活性化していると考えられています。もう一つは、細胞を2分割する収縮環の形成に、染色体を両極に分離した後に残る中央部分の紡錘体が必要とされ、中央部紡錘体ができるまでは収縮環は細胞質を分裂できない仕組みになっています。
Q8
核分裂の後、細胞質分裂が起こらない場合がありますか?
A8
細胞によっては、細胞質分裂を行わずに核分裂を複数回行うものがあります。例えばショウジョウバエの初期胚では、最初に13回の核分裂が細胞質分裂なしで起こります。その結果、6000の核を持つ一つの巨大な細胞が生まれ、核は細胞表面に一層に並びます。この後、一回の細胞質分裂でいっぺんに大量の細胞が生まれるのです。
このほかにも、破骨細胞や栄養芽細胞、肝細胞、心筋細胞などで細胞質分裂のない核分裂が認められ、多核化した細胞を生じます。
Q9
プライマーは、なぜDNAではなくRNAを使うのですか?
A9
プライマーを合成する酵素は比較的エラーを起こす頻度が高く、10の5乗個あたり1個以上の割合で誤った塩基を取り込むと言われています。プライマーRNAは複製過程でDNAに置き換わる時に修復されます。が、DNAがプライマーとして使われると、置き換わる必要がなくなるので、誤って取り込まれた塩基がそのまま残り、重大な変異となる可能性が高くなるのです。このため、進化の過程で、プライマーとしてDNAではなくRNAを選んだと考えられています。
Q10
分裂前に核膜が消えるのはどのような仕組みなのですか?
A10
有糸分裂の際に起こる核膜の断片化は、核膜内膜と結合して核膜を安定に保持している網目構造『核ラミナ』の崩壊によって始まります。この核ラミナの崩壊は、それを構成するタンパク質『核ラミン』のリン酸化が引き金となって起こると考えられています。このとき同時に、核膜内膜のタンパク質もリン酸化され、核膜孔複合体もバラバラになって細胞質に分散します。こうして核膜は完全に崩壊し、核内で膜や染色体に結合していなかったタンパク質は、分裂中の細胞質と完全に混ざり合ってしまうのです。
そして、有糸分裂が終わりに近づくと、核ラミンが脱リン酸化され核膜内膜のタンパク質と再結合し、染色体表面に核膜が再構成されます。
Q11
単為生殖を行う生物として、他にどのような種があげられますか?
A11
単為生殖を行う種は脊椎生物でも見つかっています。魚類ではフナの仲間のギンブナが、両生類ではキノボリヤモリが、爬虫類ではトカゲの一種(ハシリトカゲ属Cnemidophorus)が雌だけでも子孫をつくることが報告されています。
ギンブナは、その雄や近縁のコイの雄の精子によって卵の付活(受精準備としての表層の崩壊)が行われ、発生が開始されます。その際、受精が起こるわけではなく、精子の染色体は胚の発生に全く関与しません。
Q12
無性生殖よりも有性生殖を行う生物の方が繁栄している理由を説明した学説はありますか?
A12
1990年、オックスフォード大学のハミルトンらは、有性生殖と寄生者(ウイルスや細菌など他の生き物に寄生する有害な生物)との関係を研究し、有性生殖による遺伝子の組み換えは寄生者に対する抵抗性の発現であるという、『赤の女王』仮説と呼ばれる学説を発表しました。
生物は、寄生者の毒性から身を守るための防御の仕組みを持っています。一方、寄生者は、その防御の仕組みをどうにかして破り入り込んできます。
しかし、有性生殖を行う生物は、世代が変わるごとに遺伝子の組み換えによって、防御の仕組みをどんどんと変えていくため、たとえ寄生者が進化したとしても簡単には入り込めないようになっていきます。
このことが、生物にとって無性生殖よりも有性生殖のほうが有利である理由としたのが『赤の女王』仮説です。
Q13
二倍体よりも更に染色体数の多い生物はいますか?
A13
カエルのある種(Xenopus)の仲間にいます。<Xenopus.tropicalis>は普通の二倍体ゲノムを持ち、染色体数が18本のカエルですが、研究などによく用いられるアフリカツメガエル<Xenopus.laevis>は、その2倍のゲノムを持ち、染色体数は36個になります。更に、同じ仲間の<Xenopus.ruwenzoriensis>は6倍のゲノムを持ち、染色体数も108本に達します。
こうした染色体数の多い種は、進化の過程でゲノム全体の重複が起こった結果生じたものと考えられています。
Q14
動物の生活環にはどのような特徴がみられますか?
A14
動物の殆どは、一生を二倍体の時期で過ごします。一倍体である卵や精子などの配偶子が独立して生活する時期がありません。しかし、例外として二倍体の時期に無性生殖をする動物種がいます。ミズクラゲは受精卵から発生した二倍体の個体が分裂をして、エフィラとよばれる多数の二倍体の個体を生み出します。受精を介さずに無性的に発生したエフィラが成長して生体となり、有性生殖を行うのです。生活環のなかで、無性的に二倍体個体を生み出すものとして、他に単為生殖を行うアブラムシやミジンコなどが挙げられます。
Q15
精子は卵の保護膜分子をどのように認識し、自分と同じ種の卵を識別しているのですか?
A15
マウスの場合、卵の保護膜は、おもにZP1、ZP2、ZP3という3種類の糖タンパクでできていて、三次元的な網目構造を作っています。この糖タンパクの一つ、ZP3が、種の識別および生体反応の誘導に関与していると考えられています。そして、ZP3の特定のO-結合型オリゴ糖が精子レセプターとして働くとみられています。
Q16
精子の核と卵子の核は、受精後どのように融合するのですか?
A16
ヒトなど多くの動物では、受精の際、精子は卵の中に『核』だけでなく『中心小体』も持ち込みます。ヒトの未受精卵には、この中心小体がありません。
受精後、精子の核と卵の核は卵の中央に移動し、接触して核膜が互いにかみ合い染色体が複製されます。その後、中心小体が複製され、引き続き核膜の分散が起こります。次いで、複製して倍加した両配偶子の染色体が次第に統合され、1個の紡錘体の中央部に整列します。こうして融合した核は分裂し、2個の二倍体細胞を生じるのです。
Q17
それまでゆるく付着していた細胞が、コンパクションの過程でなぜ細胞同士密着した結合ができるようになるのですか?
A17
コンパクションとは、胚の外側に位置する細胞が扁平になって細胞間の接触を最大にし、密着結合することです。こうして球形の胚の内側と外側の細胞が、しっかりと区別されることになります。この細胞間の密着結合を制御しているのは、カルシウム依存性接着分子『E-カドヘリン』(またの名を白血球細胞接着分子L-CAMあるいはウボモルリン)と呼ばれる細胞表面分子です。カドヘリンの発現と消失は、コンパクションの段階だけでなく、動物の発生過程における細胞の再配置に重要な役割を果たしています。
Q18
発生時における胞胚腔の役割とはなんですか?
A18
胞胚腔には次の2つの役割があるのではないかと考えられています。
第1に、嚢胚形成の際、細胞の移動空間になります。そして第2に、上下の細胞の早すぎる相互作用を妨げる役割を果たしています。これにより皮膚や神経になる予定の細胞群を変化させないで保っていると考えられます。
Q19
原腸陥入時の細胞は、どのような仕組みで大移動を行うのですか?
A19
原腸形成には、主に3種類の細胞運動が関わっています。
1つは、胞胚の外壁を形成している上皮組織の細胞が扁平に広がる『伸展運動』、あるいは一方向に伸びる『伸長運動』です。原口から予定中胚葉が陥入する際の原動力になります。
2つ目は、細胞自身の『移動運動』です。中胚葉の形成の際には、この細胞移動が中心的役割を果たします。そして、自律的に細胞の移動が起こるには、細胞の自律運動能の発現、細胞の足がかりとなる細胞外基質の出現、その基質に対して細胞が接着する性質の発現などの条件がすべてそろう必要があります。
3つ目は、原口形成域にみられる上皮細胞層の『屈曲運動』です。この上皮細胞層の折れ曲がりによって原腸の陥入が引き起こされます。
出典:「図解生物科学講座 3.発生生物学(浅島誠 編)」p.71 (朝倉書店)
Q20
異なる胚葉由来の組織でできた器官には、どのようなものがありますか?
A20
『皮膚』と『消化管』は、2つの胚葉由来の組織から作られています。
皮膚は、外界と接する外側を覆う『表皮』と、その下の血管や神経が走る『真皮』の2層の組織でできていますが、表皮は外胚葉から、真皮は中胚葉から分化した組織です。
消化管の内腔に面した『粘膜上皮』は内胚葉に由来する組織ですが、その下にある内臓筋組織は中胚葉に由来します。
Q21
誘導はどのようなしくみによっておこるのですか?
A21
誘導が発生するには、細胞同士の間で情報のやり取りが行われる必要があります。
誘導を引き起こす細胞集団からは、サイトカインやホルモンなどの『誘導因子』が産生、放出されます。そして誘導因子は、その誘導因子と結合できる『受容体』を持った近くの細胞に働きかけます。
誘導因子が受容体に結合すると、受容体を起点とした細胞内のシグナル伝達経路が活性化され、目的の遺伝子の発現が促されます。その結果、分化誘導に必要な細胞増殖やタンパク合成が起こることになるのです。
Q22
誘導には、他にどのような形式がありますか?
A22
産生源から拡散した誘導因子が濃度勾配を作り、高、中、低の濃度に応じて標的細胞をそれぞれ異なった発生経路に誘導するという形式があります。こうした細胞の広がりに対して形態形成を促す誘導因子を『モルフォゲン』といいます。
このモルフォゲンの働きは、例えばニワトリ胚における四肢の発生において認められます。
肢芽の特定部位の細胞から分泌されたモルフォゲンは、肢芽の親指から小指に向かう軸に沿ってモルフォゲン勾配を作ります。すると、モルフォゲンの濃度勾配に応じて親指から小指まで、異なった指が形成されます。
Q23
哺乳類において、生殖腺が精巣または卵巣に分化する要因はなんですか?
A23
生殖腺の卵巣あるいは精巣への分化、つまり性別の決定は、性染色体によって行われます。
哺乳類の雌は2本のX染色体を持ち、雄はXとY染色体を1本ずつ持っています。したがって、Y染色体こそが性別を決める因子です。
Y染色体は、生殖隆起の体細胞を卵巣ではなく精巣へ分化誘導し、個体の性別を決めています。Y染色体上には、実際に精巣決定を促す遺伝子として『Sry遺伝子』の存在が明らかとなっています。
Q24
外胚葉性頂堤によって肢芽から肢が形成されるまでには、細胞間ではどのような相互作用が働いていますか?
A24
肢芽の表皮の先端部はAER(外胚葉性頂堤)と呼ばれ、肢芽が伸長するために必要なオーガナイザーの役割を果たしています。AERは直下の進行帯と呼ばれる組織に細胞増殖因子を分泌し、肢芽の増殖をうながしています。
肢の前後軸(親指から小指に向かう軸)の決定には、肢芽の後部にある『ZPA(極性化活性域)』と呼ばれる部位が関与し、もうひとつのオーガナイザーの役目を担っています。
肢の形成は、AERとZPAから分泌される誘導因子の相互作用に、ホメオティック遺伝子群の調整作用が加わり進んでいきます。
図で示したのは、現在明らかにされている肢芽の形成に関わる誘導因子です。
Q25
種子の休眠をもたらす要因にはどのようなものがありますか?
A25
種子の休眠には、“種皮に原因のある種皮性休眠”と“胚に原因のある胚休眠”の2つのタイプがあります。
種皮性休眠を招く原因としては、<水分の吸収の抑制>、<硬い種皮が発芽を阻害>、<酸素の供給の制限>、<種皮に高濃度に含まれるアブシジン酸(種子や芽の休眠の開始や維持、ストレス応答の制御に働く植物ホルモン)による発芽抑制>などがあげられます。したがって、このような種子は種皮を取り除いたりすると、水と酸素があれば容易に発芽します。
また、胚休眠は、アブシジン酸などの発芽阻害物質が胚に存在すること、あるいはジベレリンなどの成長促進物質が胚に少ないことなどが、原因と考えられています。
Q26
種子に寿命はありますか?
A26
種子には寿命があります。種子の寿命は、植物の種類や保存状態によって大きく変化します。
一般的に種子は、乾燥と低温により寿命が延びます。乾燥下で寿命が保たれる種子には、イネ・コムギ・オオムギ・エンドウ・トマト・レタスなどが挙げられます。また、低温下で寿命が保たれる種子には、ブナ・クリ・クルミ・茶・ビワなどが挙げられます。トマトやナスなどの種子は寿命が長く、4年から6年持ちます。一方、ネギやニンジンなどの種子は寿命が短く2年ほどしかありません。
イネの種子は室温では1年ほどでその発芽能力を失いますが、低温で保存すると発芽能力を10年以上維持することが出来ます。世界24カ国の代表的なイネ162品種の寿命を調べると、インド原産の品種には寿命の長いものが多く、日本の品種は一般的に寿命が短いことが判っています。
Q27
植物の分裂組織はなぜ常に未分化な状態でいられるのですか?
A27
茎端分裂組織の分裂組織を維持するメカニズムが遺伝子レベルで解明されています。
分裂組織の維持には、WUSCHELとCLAVATA3、CLAVATA1という3つの遺伝子が関わっています。この3つの遺伝子は、分裂組織の中でそれぞれ異なる細胞層で発現しています。
分裂組織は、芽の頂端部分の表面に近い細胞の層から下に向かって3つめの細胞の層までの範囲にあります。
分裂組織の下には、WUSCHEL遺伝子を発現する細胞群があり、上部の分裂組織を活性化させるシグナルを送っています。分裂組織が活性化されると、今度は分裂組織の中でCLAVATA3遺伝子が発現し、下部に向かってWUSCHEL遺伝子の発現を減少させるシグナルを送ります。CLAVATA1遺伝子を発現する細胞はCLAVATA3遺伝子からのシグナルの受容体として働きます。
このようなフィードバックによって、植物の分裂組織は一定の大きさを維持しながら未分化な状態を維持しています。
Q28
各植物ホルモンはどこで産生されているのですか?
A28
オーキシンの主な合成部位は茎端分裂組織と若い葉、未熟な果実と種子です。サイトカイニンは根端分裂組織を主な合成場所とし、ジベレリンは主に茎端や若い葉で合成されています。また、維管束植物では根の根冠から頂芽まですべての組織に存在するアブシジン酸が、葉緑体やアミノプラストを含むすべての細胞で合成されます。そしてエチレンは、高等植物のほとんどの組織で合成されますが、一般的には分裂組織の周辺や節が最も活発に合成しています。
Q29
メンデルの実験が成功した要因は何ですか?
A29
ひとつには、メンデルが以前に学んでいた統計学の知識を、エンドウの交雑実験に導入したことがあげられます。こうした生物の実験解析に客観的な確率を重視する統計学のアプローチを試みることは、当時まだ誰もやっておらず100年あまりも早かったのです。また、本格的な実験に入る前の予備実験で、純系のエンドウを数多く得たことも、成功の要因のひとつです。もうひとつは、生物の形質のうち対になる形質に注目して実験を行ったことが要因としてあげられます。
Q30
メンデルの法則は農業の分野でどのように活かされていますか?
A30
遺伝的に遠い個体で、純系個体同士を交配すると、そのF1世代には親個体よりも優れた個体が生まれてくることがあります。この効果を雑種強勢といいます。
両親から次世代へ伝えられる遺伝子の中には、有害な劣性遺伝子が数多く含まれていることがあります。近縁的な交配を続けると次世代個体の遺伝的多様度は単純なものとなるため、これらの有害な劣性遺伝子の表現型が出てきやすくなります。一方、遺伝的にかけ離れた個体同士で交配すると、劣性遺伝子の形質発現は優性遺伝子によって抑えられます。
雑種強勢の効果は、家畜やイネなどの品種改良など、農業の分野で広く応用されています。
しかし、雑種強勢の効果はF1世代にのみにしか現れず、F2世代以降はメンデルの法則に従って様々な劣性の形質が分離してくるため、同じ品質の系統を毎年維持するには同じ品質の親個体を毎年維持して同じ組み合わせで交配し続けなければなりません。このように掛け合わせて両系統の優性を引き出す技術をハイブリッド技術といいます。例えばトウモロコシでは、ハイブリッド技術の企業化によってハイブリッド品種が普及し、ほとんどの生産農家では、それまで自家採種だった種子が、毎年買う購入資材となっています。
Q31
純系の生物と、対立遺伝子がヘテロな生物にはどのような違いがありますか?
A31
ある対立する形質に対する遺伝子をA,aとすると、「純系」とはAA,aaのように、対立遺伝子が同じものです。すなわち、「純系である」とは、ある同じ形質を持つ親同士の交配から生まれる子孫(個体またはその集団)が、何代にもわたって全て親と同じ形質を持つことを指します。これに対し、Aaのように対立遺伝子が異なるものをヘテロといいます。
純系の生物は、遺伝学的な解析をする場合に作られます。
ある特定の遺伝子の機能を調べたい場合、人為的にその遺伝子に突然変異をおこさせ、正常な遺伝子を持つ個体と比較し、その遺伝子に異常がある場合にどのような影響が表れるかをみます。
この解析を純系個体間で行うと、比較する両純系個体間では片方の個体がその突然変異を起こした遺伝子を持つ以外はすべて遺伝的に同じなので、その突然変異の影響を厳密に比較することができます。
この解析を遺伝的にヘテロな個体間で行うと、比較する両者間では調べたい突然変異遺伝子のほかにも遺伝子がいくつか異なっているので、厳密にその影響を見る事ができません。
Q32
致死遺伝を示す例としては他にどのようなものがありますか?
A32
致死遺伝を示す例には、優性遺伝子のホモで致死作用を示す『カイコの無半月紋遺伝子』や、劣性遺伝子のホモによって致死作用を持つ『ヒトの血友病』があります。
Q33
「染色体地図」がつくられた意義とはどのようなものですか?
A33
染色体地図を作成することである遺伝子が染色体のどの辺りにあるかということをつきとめることができます。しかし、その位置を厳密に特定するには、実際の塩基配列を調べる必要があります。ある突然変異の原因遺伝子を同定する場合、染色体地図をできるだけ細かく決めて、おおよその位置を推定し、その周辺の塩基配列を調べ、ある遺伝子の機能に重大な影響を及ぼす突然変異が起こっていることを突き止めるというのが、一般的な方法です。
Q34
遺伝子以外の要因で性が決定する生物はいますか?
A34
性が性染色体ではなく、環境要因によって決まる生物がいます。
カメやワニの多くでは発生の特定の時期の温度によって性が決まります。ある種のカメでは、卵を28℃以下で保温すると全ての卵から雄が孵化し、32℃以上で保温すると雌が孵化してきます。
また、湿地に住むミシシッピーアリゲーターでも性は卵の保温期間のうち7〜21日目の間に決まります。このワニでは、卵が34℃近い環境である土手に産み落とされるとすべて雄になり、30℃近い環境である湿地内で産み落とされると全て雌になります。
Q35
突然変異はどのくらいの頻度で起こりますか?
A35
平均的な突然変異率は、1遺伝子あたり配偶子100000個に対して約1個と考えられています。したがって、ヒトの配偶子1個あたり40000から50000の遺伝子対が存在すると推測されることから、ヒトは誰も新しく生じた突然変異を3,4個持っていると考えられます。
Q36
形質発現に及ぼす環境と遺伝の影響を調べる方法には、どのようなものがありますか?
A36
双子を多数集めて形質や病気を調べると、遺伝子と環境がどの程度影響を及ぼしているのかが分かります。一卵性の双子は遺伝的には全く同じですから、双子間での違いは遺伝的な要因より環境要因が強く影響していると考えられます。一方、二卵性の双子は遺伝的に異なっています。したがって、一卵性の双子が二卵性の双子より一致率が高い形質や病気は、遺伝による影響が大きく、一卵性と二卵性の双子で一致率に差があまりない場合は遺伝の影響は小さいことになります。また、一卵性でありながら別々の家庭に育った双子を調べることができれば、環境の影響の程度を評価することができます。例えば、身長は遺伝の影響を強く受け、体重は環境の影響を強く受けることが分かっています。
Q37
ダーウィンが自然選択説を考えつくきっかけとなった出来事、また思想にはどのようなものがありますか?
A37
ダーウィンには若い時期に、博物学者として『ビーグル号』で世界中を航海した経験があります。この航海の中で南米エクアドルのガラパゴス諸島に立ち寄ったダーウィンは、フィンチと呼ばれる鳥の形態が島ごとに異なっていることを発見しました。
当時ダーウィンは、地質学者ライエルが提案していた「地形は長い年月の間、常に動いている力によって変化してきた」という「斉一説」の考えの影響を受けていました。
これをもとに、ダーウィンはガラパゴス諸島のフィンチも元々同じ種類から、目に見えない常に動いている力によって分かれたのではないかと考えました。さらに経済学者マルサスの「世界的な食料供給が一定なのに対し、人口は加速度的に増加するためいずれ食料不足に陥る」という考えをヒントに、選択によって生物は進化するという自然選択説を考えました。
自然界において生物が食料不足に陥らないのは、何らかの間引きがされてその環境に適したものしか生き残らないからだと考えたのです。
Q38
アミノ酸の置換速度はどのくらいですか?
A38
例として、ヘモグロビンのアミノ酸置換速度を考えてみます。ヒトとウマの祖先が一億三千万年前に分岐したと仮定し、ヒトとウマのそれぞれが9個ずつアミノ酸を置換したとすると、平均千四百五十万年に1度アミノ酸置換が起こったと推測されます。
同じタンパク質であれば種が異なってもアミノ酸置換速度は変わりませんが、タンパク質の種類によって置換速度は異なります。
Q39
トランスポゾンはどのようにして見つかったのですか?
A39
トランスポゾンは、1951年にアメリカのカーネギー研究所のバーバラ・マクリントックによってトウモロコシで発見されました。彼女はトウモロコシの実にみられる班(ふ)に着目し、これがトランスポゾンの転移によるものであることを証明しました。トウモロコシの種子などに含まれるアントシアニンを作る遺伝子や、胚乳の黄色デンプンの遺伝子発現を制御する因子が、ある染色体から他の染色体に移動して、遺伝子の働きを調節することを明らかにしたのです。
この研究により彼女は1983年にノーベル生理・医学賞を受賞しました。
Q40
身の回りにあるものの中に、遺伝子組み換え技術はどの様に活かされていますか?
A40
医薬品や植物、農作物などの開発に、遺伝子組み換え技術が利用されています。
医薬品では、大量に生産することが困難であったヒトの生理活性物質(体の働きを調節する物質)などを細菌や培養細胞に発現させ、大量生産することが可能となっていて、それまで治療が難しかった疾患に対する有効な薬として医療の場に提供されています。代表的なものとして、糖尿病治療薬『インスリン』、抗ウイルス薬『インターフェロン』、赤血球造血薬『エリスロポエチン』などがあります。
植物では、害虫や農薬に抵抗性を持つ農作物が数多く作られていますが、環境や生態系への悪影響、人体への有害作用が懸念されるため、特に、遺伝子組み換え技術によって作られた『大豆』や『とうもろこし』などでは、販売にあたりそれを表示することが義務付けられています。
Q41
アポトーシスという言葉の由来と定義はなんですか?
A41
アポトーシス(Apoptosis)の語源は、ギリシャ語の「apo-(離れて)」と「ptosis(落ちる)」に由来し、「枯れ葉や花びらが落ちる」という意味を持っています。
アポトーシスはダメージを受けた細胞が受動的に死ぬのではなく、細胞死につながる遺伝子を積極的に発現させて死ぬプロセスであると定義することができ、最終的にマクロファージにきれいに食べられて終了します。
Q42
形態形成に働くアポトーシスには指の形成の他にどのようなものがありますか?
A42
形態形成に働くアポトーシスには、次のようなものが挙げられます。
(1)昆虫や両生類の変態:変態における不要な組織・器官の脱落
(2)口蓋の形成:口蓋原基組織が融合するときの余分な細胞の除去
(3)生殖器の形成:ウォルフ管またはミューラー管の退化
(4)神経ネットワークの形成:シナプスを形成しなかった神経細胞の除去
Q43
生体制御に働くアポトーシスの事象にはこの他にどのようなものがありますか?
A43
生体制御に働くアポトーシスの事象として
(1)正常細胞の交替として、血球細胞、表皮細胞、小腸や胃の上皮細胞の交替
(2)内分泌系の事象として去勢(アンドロゲン除去)による前立腺の萎縮
(3)免疫系の事象として、自己に反応するT細胞や一度増殖したリンパ球の除去、また細胞傷害性T細胞によるウイルス感染細胞や癌細胞の除去などがあげられます。
Q44
病理的現象に伴うアポトーシスの事象としてどのようなものがありますか?
A44
(1)ウイルス感染に伴うものとしてインフルエンザウイルスやHIV感染による細胞死
(2)癌組織内部での癌細胞死
(3)制癌剤や細胞毒素などによる細胞死
(4)放射線照射による胸腺細胞や小腸クリプト細胞の細胞死
(5)温熱療法による癌細胞死
などがあげられます。なおこれらの毒物、放射線、あるいは熱が引き起こす細胞死は、その程度の強さによってはネクローシスになることがあります。
Q45
テロメア部分の配列はどうなっているのですか?
A45
テロメア部分のDNAは特殊な繰り返し構造を持っています。ヒトを含めた哺乳類ではTTAGGGという6塩基の数千回の繰り返しからなります。ヒトの体細胞では、生まれたときに約10〜15kbp(bp=base
pair : 塩基対)程度の長さのテロメアを持っています。テロメアDNAの大部分は二本鎖ですが、末端部分は100塩基くらいの1本鎖でループを作っています。
テロメア末端がなくなると、染色体末端同士で融合するなどの異常が起きやすくなります。テロメアの役割の1つは、染色体を安定に保つことです。
Q46
テロメア短縮がなぜ細胞の老化や死につながるのですか?
A46
テロメアより内側には遺伝子が並んでおり、DNAがそこまで短くなると細胞は危機的な状況に陥ります。そこで、DNAがそこまで短くならないうちに細胞のG1期でチェックポイント機構が働いて細胞は分裂を停止します。テロメアが5kbp(bp=base
pair : 塩基対)以下の長さになると、テロメアのループが形成されにくくなり末端が露出します。すると、これを異常と認識してチェックポイント機構が働き分裂は停止します。
線虫(C. elegance)の変異体を用いた解析から、遺伝子レベルでテロメア短縮による細胞老化のメカニズムが分かってきています。
Q47
生物種によってテロメアの長さは異なりますか?
A47
生物種によってテロメアの長さは異なります。ラットやハムスターなどの齧歯類や、哺乳類のうちウシやブタなどではテロメアサイズは40〜50kbp(
bp=base pair : 塩基対)あり、一生の間に分裂限界に達することはありません。
これらの動物ではテロメア長が長いかわりに、その他の要因が老化・寿命に関わってきます。一方、ヒトでは生まれたときからテロメア長は10kbpしかなく、100年くらいで分裂限界に達する細胞が出てくるのでそれが老化・寿命に関わってきます。
Q48
テロメラーゼを導入すれば、老化した細胞も若返りますか?
A48
テロメラーゼ導入により細胞は若返ります。繊維芽細胞や血管内皮細胞ではテロメアが短くなった細胞にテロメラーゼ遺伝子を導入すると、分裂寿命が大幅に延長し、機能的にもほぼ正常なまま若い細胞のように旺盛な増殖を始めるようになります。また、テロメラーゼ遺伝子を働かなくしてテロメアが短縮したマウスでは傷の治りが悪く、テロメラーゼを強制発現させたマウスでは傷の治りが早いと言われています。
Q49
がん細胞になるためにはどのような遺伝子が働くのですか?
A49
正常な細胞では、がん遺伝子(増殖を促進する遺伝子)と、がん抑制遺伝子(増殖を抑制する遺伝子)が周囲の制御を受けて細胞周期を回し、細胞増殖が正しく行われますが、これら遺伝子が変異すると細胞増殖が何の制御もなく自律的に繰り返されるようになります。そしてテロメラーゼが発現すると不死化の性質が備わって、がん細胞が生み出されます。がん抑制遺伝子としては、P53遺伝子がよく知られています。
Q50
寿命に関わる遺伝子には他にどのようなものがありますか?
A50
線虫を使った研究から、他にも寿命に関わる遺伝子が見つかっています。線虫では、age-1と呼ばれる遺伝子が働けなくなった変異体では、寿命が延びることが判っています。
正常な線虫の寿命が20日ほどであるのに対し、このage-1変異体は1ヶ月ほど生き延びます。また、正常個体の産卵数は150個ほどなのに対し、このage-1変異体は20〜30個しか卵を産みません。寿命に関わるage-1遺伝子は、精子をつくるのに必要なfer-15遺伝子と同じ染色体上にしかも非常に接近して存在していることから、死と性の関連性を示唆するものと考えられています。
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