Q1.原核生物と真核生物の細胞はどのように異なりますか

Q2.機能性RNAにはどのような種類がありますか

Q3.水に溶けるとはどういうことですか

Q4.生体構成分子間の連携はどのように制御されていますか

Q5.器官はどのように構成されていますか

Q6.生体の維持にはどのようなものが必要ですか

Q7.異化、同化の例として何がありますか

Q8.複雑な代謝ネットワークはどのように制御されているのでしょうか

Q9.全ての生物種の代謝経路は共通しているのでしょうか

Q10.代謝経路には実際に道のようなものが存在しているのでしょうか

Q11.代謝経路はなぜこのように複雑なのでしょうか

Q12.脂質だけで生存できないのはなぜでしょうか

Q13.電子伝達系においてなぜ酸素が必要なのでしょうか

Q14.エネルギーとは何でしょうか

Q15.二酸化炭素はどのようにして細胞の中に取り込まれますか

Q16.光の捕捉率はどれくらいでしょうか

Q17.光エネルギーによりどれくらいの水素イオン濃度差ができますか

Q18.なぜ光化学系複合体は2種類存在するのでしょうか

Q19.ATP合成酵素が回転することはどのようにして解明されましたか

Q20.水素イオン濃度差はどれくらいのATPを生成しますか

Q21.カルビン・ベンソン回路はどのようにして解明されましたか

Q22.珊瑚はなぜ植物のような形態をしているのでしょうか

Q23.C3・C4植物以外の種類も存在しますか

Q24.なぜ全ての生物が共通な構成物をもつのでしょうか

Q25.なぜタンパク質合成にRNAが介在するのでしょうか

Q26.セントラルドグマには逆方向の流れはないのですか

Q27.DNAの二重らせんはなぜ安定なのでしょうか

Q28.転写のメカニズムはどのような研究によって分かったのですか

Q29.なぜRNAではTの代わりにUを使うのでしょうか

Q30.どのようにして多様なタンパク質が生まれてきたのでしょうか

Q31.翻訳ルールが異なる例はありますか

Q32.恒常性はなぜそんなに必要なのですか

Q33.循環器系や内分泌系をもたない生物はどのように維持していますか

Q34.自律神経失調症とはなんですか

Q35.神経系と内分泌系の2種類あるのはなぜでしょうか

Q36.環境ホルモンはホルモンの一種ですか

Q37.血管を流れる物質はどのようにして各細胞に移動しますか

Q38.変温動物や冬眠の仕組みはどうなっていますか

Q39.風邪でなぜ発熱するのですか

Q40.生命にとって水や電解質がなぜ重要なのですか

Q41.糖尿病とはなんですか

Q42.なぜ刺激はパルス頻度として伝えられるのでしょうか

Q43.放出された神経伝達物質はどうなりますか

Q44.神経伝達物質が少なくなるとどうなりますか

Q45.反復運動はどのように制御されているのでしょうか

Q46.人工内耳とはどのようなものですか

Q47.平衡感覚とはどのようなものですか

Q48.痛みを感じたとき患部をさすると痛みが和らぐのはなぜですか

Q49.順応とはどのような仕組みですか

Q50.気管や消化管の粘液はどのようにして外敵を防ぐのですか

Q51.腸にはどのような細菌が生息していますか

Q52.破れた皮膚はどのように修復されるのですか

Q53.抗原はどのような物質で出来ているのですか

Q54.サイトカインを受け取る細胞ではどのような反応が起こっているのですか

Q55.B細胞の自己寛容はどのように行われていますか

Q56.免疫グロブリンE、マスト細胞はなぜ必要なのですか

Q57.紡錘体とは何ですか

Q58.細胞の組織化はどこが統制していますか

Q59.全ての細胞に寿命がありますか

Q60.血管新生因子はどのようなものですか

Q61.修復タンパク質はどのようにDNAを修復しますか

Q62.Rb遺伝子と転写因子はどのようにして解離しますか

Q63.ドラッグデリバリーはどのようにして標的を絞りますか


Q1
原核生物と真核生物の細胞はどのように異なりますか


A1
動物や植物などの真核生物と、細菌などの原核生物とでは細胞構造は大きく異なります。真核生物の細胞は、DNAを保存する核をもち、DNAは核膜によって細胞内の他の部分と隔てられています。一方、原核生物は核を持たず、DNAは核膜によって隔てられていません。

Q2
機能性RNAにはどのような種類がありますか


A2
RNAのうち、タンパク質に翻訳されるmRNA以外で生体機能をもつものを機能性RNAと言います。翻訳を行うtRNAや、翻訳工場の役割を担うリボソームの構成物質であるrRNA以外に、近年さまざまな機能性RNAが存在することが分かってきました。microRNAはmRNAに相補的に結合し、遺伝子発現の抑制に働きます。この他にsnRNAやsnoRNAなどがあり、転写や翻訳などさまざまな現象に関わっています。

Q3
水に溶けるとはどういうことですか


A3
水は電荷の偏りのある極性分子です。そのため、電荷や極性のある分子は水の極性と引き合い、まんべんなく拡散します。一方極性のない分子は水と接することができず自らが塊を作り、拡散しません。これを水に溶ける、溶けないと言います。

Q4
生体構成分子間の連携はどのように制御されていますか


A4
生体内にはさまざまな分子が存在しています。例えばタンパク質の場合は合成後、細胞内輸送され適切な場所にたどり着きます。しかしそれでも比較的広い範囲に存在し、連携しあうべき分子同士が出会うことはある程度確率的である一方、確実に出会うための仕組みが存在しています。それは、分子数をある程度多くすることによって確率を高くすることと、分子の構造上、結合しやすい相手が決まっていることです。

Q5
器官はどのように構成されていますか


A5
似た細胞が連携し合うことで組織が形成されます。そして種類の異なる組織が連携しあうことで器官が形成されています。組織には、表面を覆う上皮組織と、筋肉組織、神経組織、そしてそれらを結合し全体の構造を維持する結合組織があります。

Q6
生体の維持にはどのようなものが必要ですか


A6
個体を構成する物質には、タンパク質、糖質、脂質、核酸、無機塩類、そして水などがあります。これらの物質が、細胞内小器官、細胞、組織、器官、個体を階層的に構成しています。これらの物質は、常に新しいものに入れ替えられることで機能し続けます。食物を通して取り入れられた物質は分解され新しい物質が合成されます。この代謝過程においては、分解によって得られた物質とともにエネルギーが蓄積され、合成の際にエネルギーが利用されます。生体内では代謝以外にもさまざまな反応や物質間の連携が行われており、温度や浸透圧、pHなどの内部環境因子も生体の維持にとって重要です。

Q7
異化、同化の例として何がありますか


A7
代謝過程はさまざまな反応が連続的に組み合わった代謝ネットワークを構成しており、個別の反応で見るか、複数の反応から構成されるブロックで見るかによって、それが異化なのか同化なのかが異なります。ここでは良く知られている反応ブロックの例を挙げます。異化反応としては例えば、糖質代謝経路や、光合成の電子伝達系があります。同化反応としては、光合成のカルビン・ベンソン回路などがあります。

Q8
複雑な代謝ネットワークはどのように制御されているのでしょうか


A8
代謝ネットワークを構成する各反応では、酵素タンパク質の力を借りて反応物が生成物に変化します。酵素タンパク質は、ゲノムに記述された設計図をもとに、さまざまな転写制御を受けて、必要なときに必要な量だけ合成されています。また合成された酵素タンパク質の活性は、温度やpHなどの環境要因によっても変化しますし、阻害物質などの影響も受けます。このように代謝ネットワークは、転写ネットワークや、環境要因、阻害物質などさまざまな相互作用のもとで、適切に制御されています。

Q9
全ての生物種の代謝経路は共通しているのでしょうか


A9
生物種ごとに代謝経路は異なっています。例えば生物種ごとにある反応物からある生成物を作るための反応経路が異なっていたり、極端な場合ある生物にはできる反応が別の生物には全くできない場合もあります。しかし生体を維持する基本的な反応はほぼ同じで、異なる部分がその生物種の特徴の原因と言えます。

Q10
代謝経路には実際に道のようなものが存在しているのでしょうか


A10
代謝経路という言葉や、代謝のネットワーク図、その精密な機能性などを見ると、生体内にLSI基盤のようなものが存在しているかと思います。しかし、実際は細胞内で反応物と酵素タンパク質が漂い、それらがたまたま出会うことで反応が進行し、次の反応に関わる酵素タンパク質がたまたまその場を通りかかるといった状況で進められています。この偶然は確率的に非常に低いわけではなく、反応物や酵素タンパク質がある周辺に存在しているからこそ、ほぼ確実に反応が進められています。

Q11
代謝経路はなぜこのように複雑なのでしょうか


A11
ある物質から別の物質に変えるためには多くの場合エネルギーを必要とします。しかし生体内では化学工場とは違って一度に多くのエネルギーを使って反応を起こすと生体の温度が上昇し生体の維持そのものに問題が生じます。そのため、エネルギーを少しずつ使って反応を進めていると考えられます。

Q12
脂質だけで生存できないのはなぜでしょうか


A12
脂質も糖質と同様にその分解によってクエン酸回路の入力となるアセチルCoAを生成することができます。しかし、脂質だけでは、クエン酸回路においてアセチルCoAと反応することでクエン酸を生成するオキサロ酢酸が補えません。オキサロ酢酸は解糖系で生成されるピルビン酸から生成されるためです。

Q13
電子伝達系においてなぜ酸素が必要なのでしょうか


A13
糖代謝の電子伝達系では、電子運搬体NADHから電子が放出され、ミトコンドリア内膜上に並んだタンパク質複合体の間を次々と運ばれていきます。その際電子を放出する(酸化)側とともに、放出された電子を受け取る(還元)側が存在して初めて、電子伝達の大きな力が働きます。酸素は非常に強力な求電子性をもっており、電子伝達を起こす大きな力となっています。

Q14
エネルギーとは何でしょうか


A14
エネルギーの一般的な定義は、「他の物質に何らかの変化を起こさせる力」です。エネルギーには、光エネルギー、電気エネルギー、ポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)、運動エネルギー、化学エネルギーなどさまざまな形態のエネルギーがあり、これらの間で変換が可能です。例えば、物体を高いところから落とすと速度を得ますが、これはポテンシャルエネルギーが運動エネルギーに変換されたことを意味します。エネルギーの変換においては、エネルギーの形態は変わるものの、エネルギー量は保存されます。

生物は基本的には、分子の化学エネルギーを利用して生体活動を維持しています。そのために生体外から取り入れた物質を分解し、エネルギーをATPなどの形で化学エネルギーとして蓄え、合成の際にこの蓄えられた化学エネルギーを利用します。また植物は光合成を行い、太陽光エネルギーを巧みな方法により生体内で利用できる化学エネルギーに変換しています。

Q15
二酸化炭素はどのようにして細胞の中に取り込まれますか


A15
陸上の植物は、気孔と呼ばれる葉の表面にできた隙間から環境中の二酸化炭素を取り込みます。取り込まれた二酸化炭素は気相の細胞間隙を拡散し、光合成を行う細胞にたどり着きます。細胞内は液相になっているので、気相に比べ拡散率は極端に低いことから、光合成を行う葉緑体は細胞壁にへばり付くことで、できるだけ二酸化炭素が液相を通ることなく、葉緑体内にたどり着けるようにします。

一方、水中に生息する植物は気孔をもたず、葉全体から二酸化炭素を吸収します。

Q16
光の捕捉率はどれくらいでしょうか


A16
光合成の過程において、光は光化学系複合体にある光合成色素によって捕捉されます。しかし光合成色素がばらばらに配置され、光子がたまたま当たって捕捉されていては非常に効率が悪いので、光化学系複合体では集光アンテナの仕組みをもっています。光子が周辺で捕捉されても順々に光合成色素を伝わっていき、アンテナの中心に運ばれ利用されます。光子は10の-10乗秒以内に90%以上の効率でアンテナ中心に運ばれます。

このような仕組みにより、地球上に降り注ぐ太陽光エネルギーのうち約1%が植物の光合成に利用されています。

Q17
光エネルギーによりどれくらいの水素イオン濃度差ができますか


A17
光エネルギーは光化学系複合体にある光合成色素によって捕捉され、電子が放出されます。電子の放出とともに、チラコイド内の水2分子は酸素1分子と4個の水素イオン、4個の電子に分解されます。4個の電子がシトクロムb6f複合体を通過すると、8個の水素イオンがチラコイド内に移動します。よって、水2分子に対し、合計12個の水素イオンの濃度差が発生することになります。

一方水2分子の分解には8〜10個程度の光子が必要とされることが観測の結果得られています。

Q18
なぜ光化学系複合体は2種類存在するのでしょうか


A18
現存する生物種にも、実は光化学系複合体を1つしかもたない生物種が存在します。光合成細菌がそうで、光化学系複合体を2つもつ生物が水を分解し電子を供給しているのに対し、光合成細菌は硫化水素を電子の供与体として用いています。硫化水素は水に比べ、光化学系での電子の励起により大きな力を発揮します。そのため光合成細菌は、光化学系1つだけで十分機能できます。しかし硫化水素を必要とするため、火山など限られた生息地でしか生きていくことができません。

一方、陸上に生息する植物や藍藻などは、生息地が限られない一方、水を利用するため、十分な電子励起力を得るために、2つの光化学系を必要とするようになったと考えられています。藍藻は最初に水を利用した光合成を始めた生物種と考えられています。

Q19
ATP合成酵素が回転することはどのようにして解明されましたか


A19
ATP合成酵素は非常に小さな物質なので、その回転を直接観察することはできません。そのため、蛍光標識したアクチンと呼ばれる繊維状タンパク質ををATP合成酵素の回転軸に貼り付けることで、その回転を光学顕微鏡により観察することができました。

ATP合成酵素の研究は、ボイヤーによってその回転性が提唱され、ウォーカーにより立体構造が決定されることにより、進められてきました。この功績により彼らはノーベル賞を受賞しました。しかし彼ら以外の研究者の中に、先ほど説明したようにATP合成酵素が動いている様子を実際に観察したのは実は日本の研究者です。東京工業大学の吉田教授らのグループは、この観察を行い、逆回転させることにより、今度はATPが分解されることも確認しました。

Q20
水素イオン濃度差はどれくらいのATPを生成しますか


A20
8〜10個程度の光子の捕捉により、水2分子が分解され、12個分の水素イオンの濃度差が発生します。この水素イオン濃度差からATP合成酵素によりATPが合成される効率は、水素イオン12個当たり4個のATP生成です。また電子伝達反応において、水2分子の分解により、2個のNADPHが生成され、これは6個のATPに相当します。よって合計10個のATPを生成することになります。

Q21
カルビン・ベンソン回路はどのようにして解明されましたか


A21
1957年にカルビンとベンソンによる実験で解明されました。彼らは放射性同位体14Cでラベリングした二酸化炭素を植物に取り込ませ、一定時間後に植物内で合成された物質を調べることで、回路の構成物質を特定しました。物質の特定には、二次元クロマトグラフィーやオートラジオグラフィーなどが用いられました。

Q22
珊瑚はなぜ植物のような形態をしているのでしょうか


A22
珊瑚は刺胞動物の一種でイソギンチャクなどの仲間です。しかし見た目は植物をイメージさせます。
実は珊瑚には渦鞭毛藻が共生し光合成を行っています。渦鞭毛藻が光合成によって生成した有機物の多くは珊瑚が利用しています。そのため、光合成を行うのに適した形態をとるようになったため、植物に似ていると考えられます。
なお、海水温が上昇すると渦鞭毛藻が光合成能力を失い、珊瑚も色が抜け落ち死滅してしまいます。これを白化(はっか)現象といいます。

Q23
C3・C4植物以外の種類も存在しますか


A23
荒地などに生息する植物は日光を十分に得ることができますが、水分を十分に吸収することが困難な上、日中に気孔を開くとそこから水分が蒸発して失われます。それを防ぐために、夜間に気孔を開けて二酸化炭素を吸収して貯蔵しておき、昼間にそれを利用して光合成を行う植物が存在します。これをCAM植物といい、C4回路に似た回路をもちます。例えば、サボテン科やベンケイソウ科の多肉質の葉をもつ植物などがCAM植物に当たり、CAMはベンケイソウを表すCrassulacean Acid Metabolismの略です。

Q24
なせ全ての生物が共通な構成物をもつのでしょうか


A24
全ての生物は、20種類のアミノ酸をもち、A,C,G,Tの核酸によって遺伝情報を伝えます。またアミノ酸はその立体構造からL型とD型が存在し得ますが、生物はL型アミノ酸だけから構成されています。このように、多様な生物が存在しているのにも関わらず、共通した物質から構成されているのはなぜでしょう。 地球上に生命が生まれた頃にはD型アミノ酸をもつ生物や、現在の20種類のアミノ酸以外を使う生物もいたかもしれません。しかし進化の過程においてたまたま現在の組成をもつ生物が有利な状況になり生き残ったと考えられます。またその後、現在の組成をもつ生物が親から子へ、さらに何世代も渡り、進化を経て、現在の生物に受け継がれていったと考えられます。 現在この地球上には2億種類の生物がいると考えられています。しかし我々が知っている生物種はそのうちの1%以下、175万種ほどです。しかしこの共通性があるからこそ、生物を研究していく上でこの限られた種を調べるだけで多くのことを知ることができます。とは言っても、地球上にはさまざまな生物が生存し、共通ルールだけでは説明しきれない多くの例外が存在しています。

Q25
なぜタンパク質合成にRNAが介在するのでしょうか


A25
地球の生命は実はRNAから始まったと考えられています。RNAはそれ自体、遺伝情報を蓄積することができ、また触媒能力も持つので、これだけで生命として活動することが可能です。実際現在でもレトロウイルスと呼ばれる生物種はRNAに遺伝情報を蓄積しています。

では逆に、なぜDNAは必要とされ、現在の生物種のほとんどはセントラルドグマに従いDNAに遺伝情報を蓄積しているのでしょう。これは、DNAとRNAの性質の違いにあると考えられます。RNAはDNAに比べ、非常に環境に弱く、遺伝情報の担い手としては不安定です。一方DNAは安定しており、そのためにより高度な機能をもつ生物種への進化には遺伝情報をDNAに蓄積することが選択されたと考えられています。

Q26
セントラルドグマには逆方向の流れはないのですか


A26
ほとんどの生物種は、DNAにその遺伝情報を保存し、DNAからRNAを転写し、mRNAの情報からタンパク質を合成します。このDNA、RNA、タンパク質の一方向の情報の流れを、Francis Crickによってセントラルドグマと名づけられました。

しかしこのセントラルドグマを満たさない生物種が存在することがその後発見されました。レトロウイルスは、DNAを持たず、遺伝情報をRNAに保存し、逆転写酵素によってRNAからDNAを合成し、それを利用しています。ヒト免疫不全ウイルス(エイズウイルス)なども、この一種です。

Q27
DNAの二重らせんはなぜ安定なのでしょうか


A27
DNAは、2本のヌクレオチド鎖が塩基どうしの水素結合によって結合し合います。アデニンに対してチミン、グアニンに対してシトシンが水素結合します。
また、ヌクレオチドは糖とリン酸、塩基から構成されており、糖とリン酸は親水性ですが、塩基は疎水性のため、塩基の部分が生体内で水と接しない構造をとります。具体的には、2本のヌクレオチド鎖が結合し、はしご状になることで、塩基は糖とリン酸に左右を囲まれた状態になります。さらにらせんを巻くことで塩基は糖とリン酸によって包まれた状態になり、四方の水から塩基が隠れ、DNAは安定化します。

Q28
転写のメカニズムはどのような研究によって分かったのですか


A28
転写にはRNAポリメラーゼやさまざまな転写因子タンパク質が関わっていることが知られています。またDNA上にはこれらのタンパク質が認識し結合する、特別な配列パターンをもつ箇所が存在することが知られています。このような事実の発見はどのようにおこなわれたのでしょう。存在そのものが知られていない状況では、ターゲットとすべき対象すら分からないので、片っ端から候補となるものを除去する操作を行い、その変化を観察することでターゲットの特定を行ってきました。例えば、DNA上の配列パターンを人為的に改変してみて、転写が行われなくなるか、転写量が変化するかを観察し、変化があればその人為的に改変した配列部分が転写に関連していたことが分かります。

Q29
なぜRNAではTの代わりにUを使うのでしょうか


A29
DNAとRNAとでは、アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)は共通していますが、DNAではチミン(T)を使う代わりに、RNAではウラシル(U)が使われています。なぜRNAではTの代わりにUが使われるのでしょう。あるいは逆にDNAではUの代わりにTが使われるのでしょう。 これは正確には理由が分かりません。しかし塩基の特徴を見てみると、シトシンはウラシルに変化しやすく、もしDNAでもウラシルを用いていると、もともとのウラシルなのか、シトシンから変化したウラシルなのか区別ができません。そのため、別のチミンを利用していると考えることができます。

Q30
どのようにして多様なタンパク質が生まれてきたのでしょうか


A30
進化の過程において、ゲノム配列の一点変異とともに、ゲノムの重複や、スプライシングパターンの多様化などが起こりました。このような多様化により、類似するが詳細機能が異なる、多様なタンパク質が生まれるようになったと考えられています。

Q31
翻訳ルールが異なる例はありますか


A31
ヒトなどの真核生物の細胞内には核にあるDNA以外に、ミトコンドリアにもDNAが存在しています。核DNAとミトコンドリアDNAの翻訳ルールは一部異なっていて、例えば、核ではUGAは終始コドンとなりますが、ミトコンドリアではトリプトファンに翻訳されるなどの違いがあります。これらの違いは、ミトコンドリアがもともと別の独立した生物で、進化の途中で共生したためと考えられています。

Q32
恒常性はなぜそんなに必要なのですか


A32
生体内では、体温、水分、浸透圧、pHなどの内部環境因子が一定に保たれます。これらの環境因子には、生体内のさまざまな機能や反応がきちんと起こるための適正範囲があります。例えば、代謝反応は酵素タンパク質の力を借りて進められますが、酵素は高温では立体構造が崩れ機能しなくなるなど、温度をある範囲内に維持する必要があります。

Q33
循環器系や内分泌系をもたない生物はどのように維持していますか


A33
循環器系は生体内の全ての細胞に酸素や栄養素を物質を運搬するための器官です。また内分泌系は循環器系を使って遠くの細胞に信号を伝達するための器官です。単細胞生物の場合は外界と細胞全面が接しているため、必要な物質は循環器系なしに得ることができます。では多細胞生物全てに循環器系や内分泌系があるかというとそういう訳ではなく、それらをもたない生物も存在しています。ただそのような生物は非常に薄っぺらい形をするなど、外界から直接全体に物質が自然拡散するようになっています。これに対して、循環器系や内分泌系を発達させることで生物は大きさや形の自由度を獲得しました。

Q34
自律神経失調症とはなんですか


A34
自律神経系は交感神経系と副交感神経系の2系統から成り、相反する作用を及ぼすことでさまざまな臓器の調節が行われています。しかし、2系統のバランスが崩れ、例えば副交感神経系が弱まると、イライラ感や不眠などの症状が起こり、交感神経系が弱まると、無気力、集中力の低下などの症状が起こると言われています。

Q35
神経系と内分泌系の2種類あるのはなぜでしょうか


A35
神経系による信号伝達は、感覚受容器からの信号伝達や生体内部状況の伝達、骨格筋の制御など、比較的高速に一度だけ伝達すればよい情報に用いられます。一方、内分泌系による信号伝達の場合は、遅くてもよく、持続性が必要な情報に用いられます。

Q36
環境ホルモンはホルモンの一種ですか


A36
近年環境ホルモンが問題視されています。正式には内分泌かく乱物質と言います。生体内で生産されるのではなく、医薬品や化学物質など人工的に作られ環境中に拡散したり、もともと自然界に存在する物質で、ホルモンと似た構造や機能をもち、生体内に入ることでホルモンのような作用を及ぼします。

Q37
血管を流れる物質はどのようにして各細胞に移動しますか


A37
血管は複数の層に覆われ、層は細胞が隣接して配置されることで構成されています。酸素や二酸化炭素は細胞の細胞膜を通り抜けることができます。一方栄養素などは細胞と細胞の隙間を通りぬけます。

Q38
変温動物や冬眠の仕組みはどうなっていますか


A38
私達恒温動物は意識的に温度調節をしなくても、ある程度の温度差であれば調節できる。これは自律的温度調節の機能が備わっているためで、この調節機能がない生物を変温動物と言います。変温動物の場合、私達が服を着込むなど行動性温度調節を行うのと同じように、日光浴をしたり水を浴びることで調節しています。変温動物は恒温動物に比べ代謝活性が低く、冬などではより代謝活性を弱めて維持するために冬眠を行います。

Q39
風邪でなぜ発熱するのですか


A39
風邪の多くは、ウイルスが体内に侵入した結果起こる症状です。体内に侵入したウイルスは免疫系が攻撃するとともに、免疫細胞が視床下部に働きかけ、ウイルスが死滅するように体温を上昇させます。視床下部には体温調節を司る部分があり、これが体温上昇を起こさせます。

Q40
生命にとって水や電解質がなぜ重要なのですか


A40
水は酸素原子1個と水素原子2個から構成されており、酸素側と水素原子側で電荷の偏りのある極性分子です。そのため、水分子同士が水素結合することで凝集し、表面張力が大きく、比熱が大きいという特徴をもちます。表面張力が大きいことは、毛細管現象によって、血管などでの循環がスムーズになる効果があります。比熱が大きいことは、熱しにくく冷めにくいことを意味し、体温調節にとって重要な性質です。 一方、ナトリウム、カリウム、塩素などの電解質は細胞内外で濃度差が維持されることで、浸透圧の調節や、神経伝達などに関わっています。

Q41
糖尿病とはなんですか


A41
糖尿病は、血糖値調節が効かなくなり血液中の糖濃度が異常に上昇した結果、尿中に糖が漏出する病気です。糖尿病の主な原因は、暴飲暴食などによって血糖値を下げるインスリンを生産する膵臓の機能が低下するためです。

Q42
なぜ刺激はパルス頻度として伝えられるのでしょうか


A42
刺激がその大きさに応じた電位差のまま伝達されると途中でノイズが混じりやすく情報の劣化が起こります。そのためパルス頻度というデジタル値に近い形にすることでノイズの影響を受けにくくしていると考えられます。

Q43
放出された神経伝達物質はどうなりますか


A43
放出された神経伝達物質は、そのまま放置されると常に信号が伝達され続けることになり、除去される必要があります。除去には分解酵素による分解と、放出したシナプス側による再吸収があります。

Q44
神経伝達物質が少なくなるとどうなりますか


A44
神経伝達物質の生産が減少すると、正常に信号が伝達できなくなりさまざまな症状が起こります。例えばうつ病は神経伝達物質の低下により気分の低下などが起こります。

Q45
反復運動はどのように制御されているのでしょうか


A45
例えば動物の胃の周期的運動など反復運動は多く観察されます。これらは毎回刺激を受けながら判断をし応答しているのではなく、生体内部に周期的パターンを発生するニューロン群が存在している例が多く発見されています。例えば2つのニューロンが互いに抑制し合う場合に交互にパルスを発生します。

Q46
人工内耳とはどのようなものですか


A46
人工内耳は、内耳の有毛細胞などに損傷があるために聴覚障害のある人に対し、それに代わる人工的な内耳を接続します。この人工的な内耳は音声分析装置と、それを電気信号に変換し、聴覚神経に伝える電極から成ります。

Q47
平衡感覚とはどのようなものですか


A47
平衡感覚は耳に存在する三半規管によって感知されています。三半規管は3つの半規管が互いに直交し、有毛細胞の線毛が傾くことで三次元的な傾きが認識されます。(右下図は、聴覚の有毛細胞の線毛ですが、平衡感覚の場合も類似した有毛細胞の線毛によって傾きが認識されます)

Q48
痛みを感じたとき患部をさすると痛みが和らぐのはなぜですか


A48
痛みの感覚とともに、軽い接触を感知すると、その信号が傷みの信号を抑制する入力を与えるためです。私達はそれを経験的に知り、怪我をしたときに無意識に摩るのかと思われます。

Q49
順応とはどのような仕組みですか


A49
繰り返しの刺激や、急激な刺激の変化に対し、変化後の刺激を適切に受容するように対応することを順応といいます。例えば、視覚において、急に暗いところに入ると最初は全く見えないが次第に順応し見えるようになってきます。これは、暗所に入るとまず全てのナトリウムチャネルが開いてしまい、微小な光を認識できなくなります。しかししばらくすると、開いたナトリウムチャネルからカルシウムが流入し、それがチャネルの閉鎖を行い、次第に光を識別できるようになります。

Q50
気管や消化管の粘液はどのようにして外敵を防ぐのですか


A50
気管や消化管の粘膜表面は粘液で覆われており、粘膜上の線毛の動きにより粘液は移動しています。そのため外敵は粘液に捕えられ、粘液とともに体外に排出されます。

Q51
腸にはどのような細菌が生息していますか


A51
腸内には、ビフィズス菌や乳酸桿菌などの、所謂善玉菌が生息しています。これとは対照的に生体に悪影響を及ぼす悪玉菌として、ウェルシュ菌やブドウ球菌などがいます。通常は善玉菌が大勢を占めることで、悪玉菌がはびこることを防いでいます。

Q52
破れた皮膚はどのように修復されるのですか


A52
まず出血している場合には、血小板の凝集と血管収縮によって出血が止まります。そして繊維芽細胞が分泌するコラーゲンを主とする肉芽組織が傷ついた細胞と入れ替わります。

Q53
抗原はどのような物質で出来ているのですか


A53
抗原の種類には、ウイルス、細菌、寄生虫などがあります。細菌の細胞表面には特徴的な部位があり、これを抗体が認識して免疫が働きます。例えば、グラム陰性細菌の細胞表面にはリポ多糖と呼ばれる鎖がたくさん張り付いています。

Q54
サイトカインを受け取る細胞ではどのような反応が起こっているのですか


A54
サイトカインを受け取る細胞表面には受容体があり、そこにサイトカインが結合することで、細胞内にシグナルが伝達されます。その結果、転写を制御し、さまざまなタンパク質を合成することで、抗体を生産したり、細胞そのものの性質を大きく変化させたりします。

Q55
B細胞の自己寛容はどのように行われていますか


A55
B細胞の多くはヘルパーT細胞の刺激を受けることによって初めて活性化されるので、T細胞さえ免疫寛容を受けていればB細胞は免疫寛容の必要はないと考えられていました。しかし、T細胞なしに活性化されるB細胞も存在することが明らかになり、B細胞にもT細胞と似た自己寛容の仕組みが存在することが分かってきました。

Q56
免疫グロブリンE、マスト細胞はなぜ必要なのですか


A56
免疫グロブリンEがマスト細胞の表面に結合することによって、マスト細胞はヒスタミンなどの強力な物質を分泌します。これはアレルギーの原因となりますが、通常は寄生虫の攻撃などに活躍していると言われています。

Q57
紡錘体とは何ですか


A57
細胞周期のM期において、複製されたDNAが分離しそれぞれの細胞に引っ張られるための装置を紡錘体と言います。紡錘体は微小管の一種で、細胞分裂時以外には細胞内部の構造を維持するために役立っています。微小管はチューブリンというタンパク質が秩序正しく並び、中空の管が形成されています。

Q58
細胞の組織化はどこが統制していますか


A58
細胞間のシグナル伝達は、隣り合った細胞同士の細胞接着分子を介した伝達以外に、近傍細胞間のサイトカイン伝達、遠隔細胞間のホルモン伝達などがあります。このように局所的に相互に作用し合いつつ、ホルモンのようにマクロに制御する仕組みを組み合わせて、細胞の組織化は行われていると言えます。

Q59
全ての細胞に寿命がありますか


A59
細胞は体細胞と生殖細胞に分けることができます。生殖細胞とは卵細胞や精細胞など生殖に関わり遺伝情報を次の世代に伝えるための細胞です。例えば精細胞は一生のうちで限りなく細胞分裂することで多くの精子を生産しています。そのため、生殖細胞では細胞分裂の制限がないように、テロメラーゼが発現しており、テロメアが常に修復されています。

Q60
血管新生因子はどのようなものですか


A60
血管は複数の層に覆われ、層は細胞が隣接して配置されることで構成されています。血管新生因子はサイトカインの一種で、血管に分岐を作り伸ばす作用をもちます。血管新生因子には血管内皮細胞増殖因子などさまざまなファミリーが存在しています。

Q61
修復タンパク質はどのようにDNAを修復しますか


A61
DNA損傷には、塩基置換や欠失、切断、塩基修飾、架橋などさまざま種類があります。そのため、それを修復する修復タンパク質にもそれに応じてさまざまな種類があります。例えば、損傷箇所を発見するタンパク質、損傷箇所を切断するタンパク質、切断された損傷箇所を塞ぐタンパク質など、さまざまな修復タンパク質が連携し合っています。

Q62
Rb遺伝子と転写因子はどのようにして解離しますか


A62
Rb遺伝子から合成されるタンパク質はE2F転写因子を結合する部位とともに、サイクリンからの刺激を受けるリン酸化部位があります。サイクリンがこの部位をリン酸化するとRbタンパク質は構造変化を起こし、E2Fから離れてしまいます。

Q63
ドラッグデリバリーはどのようにして標的を絞りますか


A63
ドラッグデリバリーを実現するためには、薬剤を包む媒体が、生体内を通り抜けられるように非常に小さく、高い水溶性を示し、構造が安定で、生体に悪影響が出ない、そしてできるだけ標的に集中する特徴を持たせる必要があります。そのために、ナノテクノロジーなどの技術が用いられ、例えば、人工的なリン脂質膜で覆うリポソームによる運搬方法などが考え出されています。