■地球環境と人間活動■
Q1.成層圏では高度とともに温度が上昇し、高度50km付近で最高温度を示すのはなぜですか。

Q2地球の大気に酸素が存在するのはなぜですか。

Q3.大気中の二酸化炭素の主な吸収源は何ですか。

Q4.大気中のガス状または粒子状物質が地表面に輸送される2つの過程とは。

Q5.エーロゾル中のカドミウム・ヒ素・セレンなどは、地殻成分に対する濃縮係数が高いのはなぜですか。

■地球環境にいかに取り組むか■
Q6.成層圏のオゾン量は自然の要因によっても変動するのですか。

Q7.北極域にもオゾンホールが出現するのですか。

Q8.塩素化合物以外にオゾン層を破壊する化学物質がありますか。

Q9.オゾン層破壊によって地上の紫外光量は実際に増加しているのですか。

Q10.破壊された成層圏オゾン層を人工的に修復することは可能ですか。

■地球環境温暖化問題■
Q11.大気中に多量にある窒素や酸素はなぜ、温室効果ガスではないのですか。また、二酸化炭素はなぜ赤外線を吸収するのですか。

Q12.大気中には温室効果とは逆の冷却効果を持つガスはないのですか。

Q13.全地球の平均気温の実測値はどのようにして求めたのですか。

Q14.過去の地球の大気中の二酸化炭素濃度はどのようにして測定するのですか。

Q15.地球温暖化は本当に起こっているのですか。

Q16.炭素の量から二酸化炭素の量を求めるには、どうすればいいのですか。

Q17.レッスン(「地球環境温暖化問題:6水蒸気や二酸化炭素の赤外吸収の波数」)の図で、600波数付近でHOとCOが重なっていますが、この境界はどうやって決めたのですか。

■グリーンケミストリー■
Q18.従来の化学合成とグリーンケミストリーにおける化学合成の違いは何ですか。

Q19.健康に有害な化学物質、たとえば、塩素化有機化合物を溶媒に使ってはいけないのですか。

Q20.トレードオフ関係(用語集参照)にはどんな具体的な例があるのですか。

Q21.持続的社会、循環型社会とグリーンケミストリーの関係とは。

Q22. グリーン度はどうやって評価するのですか。

■環境に優しい有機合成■
Q23.環境に優しい有機合成は、コストがかかるのではないですか。

Q24.水を媒体に用いる有機化学反応は、ただ有機溶媒を用いないということだけなのでしょうか。

■持続可能型社会の実現■
Q25.リデュースとリユースの違いは何ですか。

Q26.持続可能性で言われるトリプルボトムラインとは何ですか。

Q27.水はどこまで使ってよいのですか。

Q28.空冷はなぜ問題なのですか。

Q29.ヒトの健康への環境影響のことを教えてください。

Q30.人工物のリスクと天然物のリスクはどちらが大きいのですか。

Q31.環境リスクの大きさをどうやって評価するのですか。

Q32.今後の環境問題はどうなるのでしょうか。

Q33.持続可能性といっても、永久に継続する訳ではないのですね。

■リサイクルによる環境負荷の低減■
Q34.Reduceは経済と両立するのですか。。

Q35.環境にやさしい行為の判定法とは何ですか。

■環境問題の解決と環境税の機能■
Q36.環境被害を受けると医療費がかかりますが、医療費では図ることのできない精神的な痛みやストレスなども生じます。経済学において環境税を考えるとき、このようなものは考慮の対象に入れていないのですか。

Q37.外部費用には精神的な苦痛やストレスも含むということですが、そのようなものをどうやって測るのですか。それが測れないと環境税の水準もわからないと思うのですが。

Q38.レッスン(「環境問題の解決と環境税の機能」)の例では、車種別に走行距離に応じて環境税をかけることになっていますが、そのようなことは現実に可能なのでしょうか。

Q39.環境税の導入は、環境税さえ払っていればいくら汚染物質を排出してもよいということになるのでかえって環境によくないのではないですか。

Q40.環境税を導入すると、所得の低い人の負担が相対的に大きくなり逆進的になってしまい、よくないのではないですか。このような税は、結局、所得の大きい人を優遇することになるだけで、社会にとって望ましいものとは思えません。

■化学物質の総合安全管理■
Q41.天然の化学物質は、合成化学物質より安全ではないのですか。

Q42.事業者による自主的な安全管理は、罰則がなく、効果があがらないのではないですか。

Q43.化学産業界の自主的なレスポンシブル・ケアとISO14001とはどこが違うのですか。

Q44.化学物質の安全性とは何ですか、化学物質は基本的に有害ではないのですか。

Q45.レッスン(「化学物質の総合安全管理:10レスポンシブルケア活動」)の中で、12化学物質が表示されていますが、この12化学物質とは何ですか。


Q1
成層圏では高度とともに温度が上昇し、高度50km付近で最高温度を示すのはなぜですか。


A1
成層圏ではオゾンが吸収した紫外線が熱源となって、大気を暖めるためです。

Q2
地球の大気に酸素が存在するのはなぜですか。


A2
地球が誕生したころは、地球の大気も火星や金星と同じように、ほとんどが二酸化炭素でしたが、光合成を行う生物が発生して酸素が生成しました。
酸素は最初のころ、還元型の物質や鉱物の酸化に消費されましたが、やがて蓄積していきました。
その後、動物の発生によって酸素は減少し、長い年月のうちに現在の濃度に落ち着きました。
さらに、地球は液体の水を持つ惑星です。水の光分解によって、酸素が生成したという説もあります。

Q3
大気中の二酸化炭素の主な吸収源は何ですか。


A3
緑色植物による光合成と海洋です。光合成は太陽光がある昼間に行われるので、大気中の二酸化炭素濃度は昼間に低くなります。
海洋での吸収は、表面水の温度が低いほど大きくなります。
さらに海水に溶けている炭酸イオンが二酸化炭素と反応します。

その他海水表面に棲む生物の光合成によって、吸収が行われます。


Q4
大気中のガス状または粒子状物質が地表面に輸送される2つの過程とは。


A4
1つは水滴や雪片に取り込まれ、降水や降雪として地表に輸送される湿式降下です。
もう1つは、直接地表に降下して物体に吸着したり、化学反応または生物学的な吸収によって補足される乾性降下または乾性沈着です。


Q5
エーロゾル中のカドミウム・ヒ素・セレンなどは、地殻成分に対する濃縮係数が高いのはなぜですか。


A5
エーロゾルの第一の発生源は、地殻岩石風化物(土壌の主成分)の大気への舞い上がりです。
海塩粒子や火山噴火など自然現象の寄与もありますが、エーロゾルが土ほこりだけなら、各成分の濃縮係数は1に近いはずです。
上記の元素は人間活動の規模が小さかった昔には、大気中にはほとんど存在しなかった元素ですから、現在濃縮係数を大きくしている原因は、化石燃料の燃焼や工業活動によるものと考えられます。


Q6
成層圏のオゾン量は自然の要因によっても変動するのですか。


A6
オゾンは成層圏で太陽光のエネルギーによって酸素から生成します。
11年周期の太陽活動(黒点)の変動に伴って、放射されるエネルギー量が変動するため、オゾンの生成量も周期的にいくらか変動します。
地球のオゾン全量の長期的な減少傾向とは、このような自然の要因による変動を差引いたものです。


Q7
北極域にもオゾンホールが出現するのですか。


A7
北極域は、まわりを大洋にかこまれた南極域とは地理的に異なり、南極域のように極域成層圏雲が何ヶ月も広範囲に安定して存在するような気象条件が現れにくいため、南極のように大規模なオゾンホールは出現しません。
しかし、最近、冬季とくに低温の年には北極域でも小規模なオゾンホール様のものがところどころで短期間観測されるようになりました。


Q8
塩素化合物以外にオゾン層を破壊する化学物質がありますか。


A8
成層圏のオゾンは太陽光の吸収によって分解するか、つぎのように微量成分気体(X)との連鎖反応によって破壊されます。
XO+O3→XO+O2 、XO+O→X+O2 。
微量気体Xとしては、Cl、OH、NOなどが主なものです。
もともと成層圏のClの供給源は自然起源の塩化メチルでしたが、20世紀後半以降、CFCをはじめ人工起源の塩素化合物が大量に加わりました。


Q9
オゾン層破壊によって地上の紫外光量は実際に増加しているのですか。


A9
地上で観測される有害紫外光(UV−B)量は、オゾン全量のほか太陽高度角や、天候(雲量)、大気汚染の状況などによって左右されます。
他の条件が同じであれば、オゾン全量の減少に伴い地上のUV−B量は増加する筈で、実際に南極大陸や南半球の高緯度域ではオゾン減少時に紫外光の増大が見られます。
オゾン全量の減少がわずかな地域では、雲や大気汚染など他の要因の影響で変化がはっきりと見えないこともあります。


Q10
破壊された成層圏オゾン層を人工的に修復することは可能ですか。


A10
オゾン層破壊が地球のほぼ全域の上空で起きており、今後数十年間にわたって続くものと思われます。
もし成層圏に直接オゾンを供給して修復する技術があったとしても、必要量のオゾンを製造するための莫大なエネルギー、地球全域で今後数十年供給を続ける経費などを考慮すると実現不可能です。
また、成層圏のオゾン生成削減反応に何らかの形で介入することは、自然のバランスを乱してさらに予想外の環境影響を招くおそれがあります。


Q11
大気中に多量にある窒素や酸素はなぜ、温室効果ガスではないのですか。また、二酸化炭素はなぜ赤外線を吸収するのですか。


A11
水分子は、酸素原子1個と水素原子2個が共有結合して分子を形成しています。
また、酸素原子は非共有電子対を2つもっており、その電気陰性度の値は水素原子より大きい。
そのために、水分子は正の電荷分布の重心と負の電荷分布の重心がずれており、分子全体でかなり大きな双極子モーメントを示す極性分子です。
したがって、水分子は3種類の振動モード(3756 cm-1、3652 cm-1、1595 cm-1)をもち、すべての振動運動が赤外活性となり、赤外線を吸収したり、放射したりします。
一方、窒素分子や酸素分子は同一の2原子分子であり、伸縮振動をしてもその双極子モーメントはゼロのままです。したがって、赤外線を吸収しません。
また、二酸化炭素の分子も水と同様に3種類の振動モード(2349cm-1、1388cm-1、667cm-1)をもっていますが、前者の2種類の振動運動をしても分子全体の双極子モーメントはゼロなので、これらの波数に対応する赤外線の吸収・放射は起こりません。


Q12
大気中には温室効果とは逆の冷却効果を持つガスはないのですか。


A12
冷却効果を持つ代表的なガスはエアロゾルです。大気中の硫黄酸化物(SOx)は効率よく太陽光を反射して、地表に届く太陽エネルギーの量を少なくすることにより、冷却効果をもちます。
実際に観測された例は、1970年代のピナツボ火山の大爆発で舞い上がった噴煙中の大量のエアロゾル(SOxを含む)が大気中に滞留し、その冷却効果により地表の平均気温の低下が起こりました。
その際の観測値が画面(「地球環境温暖化問題:7平均気温の変動とシミュレーション計算との比較」)のグラフのへこみとして現れています。


Q13
全地球の平均気温の実測値はどのようにして求めたのですか。


A13
画面(「地球環境温暖化問題:7平均気温の変動とシミュレーション計算との比較」)の図の縦軸の棒は、The Jones et al. CRU(Climatic Research Unit)のデータを示しており、北半球と南半球の21カ所の地点(陸地と海洋)における年平均気温の変動を実測して、その平均値を取ったものです。実線はスムージング計算をした値で、約10年間の移動平均気温の変動を表しています。
なお、この画面の2番目の図では、気温の変動が0の基準は1800年から1920年までの平均温度としています。
シミュレーション計算の詳細などについては、Climate Change 2001:The Scientific Basis (URL, http://www.grida.no/climate/ipcc_tar/wg1/449.htm) を参照してください。


Q14
過去の地球の大気中の二酸化炭素濃度はどのようにして測定するのですか。


A14
画面(「地球環境温暖化問題:4二酸化炭素とメタンや一酸化ニ窒素濃度の年次変化」)の1958年以降のデータは、C.D. Keelingらがハワイのマウナロア山で実測したものです(URL, http://cdiac.esd.ornl.gov/home.html)。また、南極点で観測されたデータも同様に載せてあります。両者の違いはマウナロア山におけるCO2濃度が1年間で増減しているのに対して、南極ではそれが見られないことです。これは、光合成の影響が出るかどうかに依ります。
過去の気候や環境の変化を記録しているものには、海や湖の堆積物、木の年輪、珊瑚、鍾乳石などがありますが、南極や北極にある氷床(大きな氷河の呼称)が最も良いサンプルであるといわれています。氷河は毎年降った雪(空気を閉じ込めている)が積み重なって、その圧力で氷になったものだからです。こうして、形成された氷床をボーリングで取り出して(氷床コアという)、これを分析することにより、CO2、メタンや一酸化二窒素(N2O)などの濃度を測定することができます。日本の南極観測は国立極地研究所(URL:http://jare.nipr.ac.jp/の南極観測のホームページを参照)の研究者によってドームふじ基地で氷床コアのサンプル採取を行い、2000 mの深さで約17万年前、2230 mの深さで約23万年前の大気の分析がなされています。また、氷床コアの空気に含まれている水分子中の酸素同位体である18Oと16Oとの存在比から、過去の地球の気温を推定しています。


Q15
地球温暖化は本当に起こっているのですか。


A15
この問に対しては、誰もが納得する科学的データ、すなわち地球全体の平均気温が人間活動(具体的にはCO2濃度の増加)に起因して上昇しているという根拠を出せるかどうかにかかっています。
現在、地球温暖化が起こっているとする根拠は、IPCCが示しているデータ(画面「地球環境温暖化問題:7平均気温の変動とシミュレーション計算との比較」の前者2図)で、「過去100年間の地球温暖化傾向は異常で、自然起源とする可能性は極めて低い」というコメントが出されています。このデータは、北半球と南半球にある21地点における平均気温の変動が最近上昇していることを、実測値とそのシミュレーション計算による再現で示しています。
そのモデル計算(同画面の2番目の図)は自然現象だけではなく人間活動(二酸化炭素を排出する)もファクターとして取り入れた結果、実測値とよい一致をすることが示されています。しかし、この温度上昇に都市化による影響や太陽活動の変化がどの程度正確に予測されているのかは判断し難いと思われます。
また、過疎地(イースター島)や極地(南極のアムンゼン・スコット基地やグリーンランド)における過去50年間の気温変動には顕著な上昇が観測されていないのも事実です(同画面の3番目の図)。
さらに、NASAの気象衛星NOAAが1979年から現在に至るまで観測し続けている大気圏(地上より1〜8 km)の温度データは温暖化傾向を示していません(http://www.john-daly.com/nh-sh.htm)。
したがって、「地球温暖化が起こっている」と結論するのは時期尚早と思われます。
なお、地球温暖化は起こっていないと主張するWebサイト(英文)を以下に挙げておきます。
http://www.greeningearthsociety.org/
http://www.co2science.org/
http://www.john-daly.com/


Q16
炭素の量から二酸化炭素の量を求めるには、どうすればいいのですか。


A16
炭素(C)の分子量(原子量)は12で、二酸化炭素(CO)は44です。したがって、二酸化炭素中の炭素の量は12/44となるので、炭素の量から二酸化炭素の量を求めるには、炭素量にその逆数44/12、約3.7倍すればよいのです。


Q17
レッスン(「地球環境温暖化問題:6水蒸気や二酸化炭素の赤外吸収の波数」)の図で、600波数付近でHOとCOが重なっていますが、この境界はどうやって決めたのですか。


A17
600波数付近のいわゆる“大気の窓”とよばれている水蒸気(HO)の吸収スペクトルは測定されているので、ピーク値で合わせて、COの吸収を見積もっています。。


Q18
従来の化学合成とグリーンケミストリーにおける化学合成の違いは何ですか。


A18
従来の化学合成では、主原料が目的生成物にどの程度効率的に変換するか、つまり、収率や選択性のみが注目されがちでした。
これに対し、グリーンケミストリーでは、収率、選択性に加えて、原子効率やE−ファクター、すなわち、主原料と目的生成物以外に使用されあるいは生成する物質の量、環境負荷、安全性についても十分な注意を払い総合的なグリーン度を評価して、よりグリーンな化学合成を目指します。


Q19
健康に有害な化学物質、たとえば、塩素化有機化合物を溶媒に使ってはいけないのですか。


A19
有害な有機化合物はなるべく避けることが原則ですが、リスク、つまり、毒性と暴露を定量的に評価してから使用の可否を判断するべきでしょう。
また、従来法より別の面で格段にグリーンになるのであればグリーンケミストリーとなる可能性が十分あります。


Q20
トレードオフ関係(用語集参照)にはどんな具体的な例があるのですか。


A20
現代の環境問題はいろいろな事象が複雑に絡んでいて、「こちらを立てればあちらが立たず」というトレードオフ関係がよくあります。
ある国で発ガン性物質の生成を防ぐため水道水の塩素殺菌を止めたところ、病原菌が増殖し疫病が蔓延したとか、また、省エネルギーのため部屋の密閉性をあげると、シックハウス症候群の発生が拡大するとか、多数の例があります。


Q21
持続的社会、循環型社会とグリーンケミストリーの関係とは。


A21
社会が持続的に発展し人類が質的に豊かな生活を享受し続けることは、人類の共通の目標といってよいでしょう。そのためには、社会基盤を構成する物質と材料を供給する化学・化学技術の役割は不可欠です。
グリーンケミストリーは、持続的社会に相応しい化学技術への転換を目的としています。
循環型社会は、それ自身が目的ではなく、持続的社会を形成するための一つの手段として考えられているものです。循環型社会といっても、実は、循環よりも消費量を減らすことの方が大事で、これはグリーンケミストリーの考え方に通じます。また、再利用しやすい化学製品をつくることはグリーンケミストリーの重要な目標の一つです。


Q22
グリーン度はどうやって評価するのですか。


A22
グリーン度はグリーンインデックスともいわれます。定量的な評価は難しいのが現状ですが、ライフサイクルアセスメント(用語集参照)を基本に、これに化学物質の安全性を加味して総合評価するのが普通です。また、危険性、毒性、エネルギー・資源消費の過度な点にとくに注目してチェックリストを作成し評価する方法もあります。
すでに、いくつかの化学企業では、これらの指標を開発方針決定の重要な指針としています。このようなグリーン度評価が一層広がることと、そのための広く利用される簡便な評価法の開発と公開が望まれます。


Q23
環境に優しい有機合成は、コストがかかるのではないですか。


A23
環境に優しい有機合成を達成するためには、いろいろなことを考え、実行する必要があることはレッスン(「環境に優しい有機合成」)で述べました。
確かに、原料を転換するなど、費用がかかる場合もありますが、大半はコスト削減に寄与するものです。
たとえば、無駄な工程を削減することは、時間ならびに余分な補助物質の節約になります。有機溶媒を用いないプロセスの確立は、有機溶媒の節約だけでなく、廃棄物質の削減に寄与します。このように、環境に優しい有機合成の確立は、コストの削減に寄与する。コスト削減を念頭において、研究を進めることは極めて大切なことです。


Q24
水を媒体に用いる有機化学反応は、ただ有機溶媒を用いないということだけなのでしょうか。


A24
疎水性の有機化合物が水中に存在すると、水素結合による水の構造を破壊することになり、これを復活させようとして、有機化合物を排除する力(疎水性相互作用)が働きます。したがって、水相では有機化合物に凝集力がかかり、有機化合物同士の付加反応が促進されることがあります。画面(「環境に優しい有機合成」:10水相反応」)で取り上げた反応は水相で行なうことで、促進される例です。


Q25
リデュースとリユースの違いは何ですか。


A25
リデュース(Reduce)とは、使用量の削減のことを言います。たとえば、毎日消費する紙の量を減らす、ガソリンの使用量を減らすなどを意味します。
それに対して、リユース(Reuse)とは、紙の使用量は減らさず、一度使った紙のインクを消して再使用するなどのことを意味します。
また、古紙を繊維に戻して、紙に再生する場合はリサイクル(Recycle)といいます。


Q26
持続可能性で言われるトリプルボトムラインとは何ですか。


A26
最近、経済関係でこのトリプルボトムラインという呼び名がしばしば使われるようになりました。持続性には、環境的側面、社会的側面、経済的側面の3つがあるという指摘がこの名前で呼ばれています。企業経営には、トリプルボトムラインを考慮する必要がある、といった使われ方です。


Q27
水はどこまで使ってよいのですか。


A27
環境汚染などの処理に水を使用することは、かなり有用な方法です。水は再生可能資源であることから、渇水時を除けば、使用そのものが環境負荷とは考えられないからです。しかし、河川などに放流する際には、汚染物の濃度を十分にに下げることが必要です。


Q28
空冷はなぜ問題なのですか。


A28
排熱を空気中に出すことによって、大気の温度が上がります。これが都会のように集中して起きると、ヒートアイランド現象というものが発生します。車のエンジンは水冷ですが、最終的には、ラジエーターによって空気で冷やされています。都市のヒートアイランド現象の半分ぐらいは、車による寄与だと言われています。


Q29
ヒトの健康への環境影響のことを教えてください。


A29
化学工業を原因とするヒトの健康への影響は、事故的な状況を除けば、ほとんど回避できる状況になりました。先日発表されたPRTRのデータによれば、トルエン、キシレンなどの放出は未だに多いのですが、過去数年で、放出量は激減しています。世界で一番厳しい、ディーゼル排ガス規制が2005年に実施されると、大気汚染のリスクも解決の方向に向かうでしょう。リスクがゼロになることは有り得ませんが、多種類の極めて小さなリスクが残るといった状態になるでしょう。


Q30
人工物のリスクと天然物のリスクはどちらが大きいのですか。


A30
国によって全く状況が違いますから、難しい問題です。日本に限り、発がんといったリスクに限れば、通常の食品のリスク、たばこのリスク、ウイルスのリスクが突出している状態ですので、天然物のリスクの方が、人工物のリスクよりも大きいと考えられます。しかし、アレルギーを対象としたときに、やはり小麦やソバアレルギーに強烈な症例がありますが、花粉症もディーゼル排気との関連性が議論されているように、答えは単純では有りません。


Q31
環境リスクの大きさをどうやって評価するのですか。


A31
最終的には、損失余命といったもので評価する方法があります。それによれば、先進諸国における日常生活を原因とする損失余命は、高血圧、過剰体重、運動不足、野菜不足といった原因によるものが大きく、飲料水や有害化学物質による損失余命は小さなものだとされています。大気汚染関係は、ディーゼル排ガスなど、まだ多少の問題がありそうです。


Q32
今後の環境問題はどうなるのでしょうか。


A32
最終的に持続可能性の問題に集約されていくものと考えられます。日本の環境問題は、化学物質による汚染で始まりましたが、これは世界的に見ると特異なケースです。他の国では、緑の破壊で始まっています。その緑とは、大昔はエネルギーと同義語でした。あらゆる文明は、最終的には、エネルギー切れによって終わると考えられています。現文明も、恐らく、同じことでしょう。勿論、それ以前に、核戦争などによる終末を迎える可能性も有ります。


Q33
持続可能性といっても、永久に継続する訳ではないのですね。


A33
勿論です。地球誕生時と今とでは、全く違った環境ですから、今後も超長期を考えれば、大きな環境変化があって、すべての生命は地球上から消えることになります。太陽と地球との関係から考えると、10億年後に地球上に生命はいないものと考えられています。なぜならば、太陽の活動が盛んになって、気温が50℃になると考えられているからです。しかし、人類の歴史数100万年に比較すれば、10億年は余りにも長い期間です。考える必要は無いでしょう。


Q34
Reduceは経済と両立するのですか。


A34
物質の使用量を下げるReduceを実行したら、経済が成り立たなくなるのではないか。これはしばしば問題になることです。持続可能型の社会では、資源をいかに有効に経済活動に活かすかが問題であり、できるだけ少量の資源で多くの経済的価値を生むような製品に切り替えることが必要です。このような試みに成功すれば、経済は再び発展することになります。


Q35
環境にやさしい行為の判定法とは何ですか。


A35
広島に行くのに、飛行機で行くべきか、新幹線で行くべきか。費用も時間も余り変わらない場合、環境負荷を考えるということも一つの選択肢になります。すでにFAQグリーン度をどうやって評価するか、で述べられているように、ライフサイクルアセスメントという方法論を使用するのが一般的です。ミネラルウォータと水道水の比較では、安全性も環境負荷も水道水の方が優れているのに、ミネラルウォータの販売量が増えています。どうも、環境負荷を考えるということが選択の際の指針にはなっていないようです。


Q36
環境被害を受けると医療費がかかりますが、医療費では図ることのできない精神的な痛みやストレスなども生じます。経済学において環境税を考えるとき、このようなものは考慮の対象に入れていないのですか。


A36
考慮の対象に入れています。外部費用には、医療費などの実際に発生した金銭的な負担だけでなく、被害から生じるストレスや精神的な苦痛などの直接金額で表示困難な被害も含まれます。また、現在の二酸化炭素が温暖化を通して将来世代に被害を及ぼす場合のように、将来世代に対して外部費用を及ぼす場合には、その費用も反映させて環境税を設定することになります。


Q37
外部費用には精神的な苦痛やストレスも含むということですが、そのようなものをどうやって測るのですか。それが測れないと環境税の水準もわからないと思うのですが。


A37
精神的な苦痛やストレスは直接金額で表示することが困難です。しかし、ヘドニックアプローチという手法を使えば、外部費用を推計することは可能です。
環境の違いは地価に反映します。閑静な住宅地では環境のよさを反映して地価は高くなりますし、大気汚染や騒音がひどい地域では、その環境の悪さを反映して地価は安くなります。
地価はさまざまな条件(大気のきれいさ、駅へのアクセスの便利さ、静かさなど)を反映して決定されます。複数の地点の環境変数と地価を比較することによって、統計的な手法を用いて、地価をそれぞれの要因に分解することができます。
これによって、特定の要因が地価とどのように関係しているかが分析できます。そうすれば、環境汚染の悪化の程度と、それによる地価下落の関係がわかります。このときの、地価下落が外部費用に相当します。


Q38
レッスン(「環境問題の解決と環境税の機能」)の例では、車種別に走行距離に応じて環境税をかけることになっていますが、そのようなことは現実に可能なのでしょうか。


A38
二酸化炭素排出量のように燃料消費量と汚染物質排出量が近似的に比例的な関係にある場合には、単位燃料消費量あたりの環境税を単位燃料消費あたりの外部費用に等しく設定すればよいのです。
しかし、NOxやSPMのように、汚染物質の排出量が燃料消費量だけでなく、車種にも依存する場合(たとえば、性能のよいNOx除去装置を積んだ車の場合には、そうでない車と比較して、単位燃料消費量あたりのNOx排出量が少ない)には、自動車の性能に応じて環境税を課す方が望ましくなります。その場合には、車検制度を利用すれば、以下のような手順で、より望ましい環境税を導入することも可能です。

(1) 車検のたびごとに自動車の距離計に記録されている走行距離を記録する。これによって、前回の車検から今回の車検までの走行距離が計算されます。

(2) 車検のたびごとに単位距離あたりの自動車からの汚染物質の排出量を計測します。

(3) 汚染物質の単位排出量あたりの環境税(たとえば、NOx1gあたりの環境税)を設定すれば、車種別に走行距離(前回の車検から今回の車検までの)に応じて環境税を計算することができる。これにより、同じ走行距離であっても、環境負荷の小さい車の環境税は低くなります。

(4) 車の利用者は計算された環境税を、車検の際に支払います。

(5) ただし、NOxなどのように実際の排出量が、走行状態(渋滞での走行と高速道路での走行の違いのように)に依存する場合には、正確な汚染物質の排出量を反映したものにならないという問題があります。この意味で、これは完全に理想的な方法ではありませんが、この方法より望ましい方法がない限りは、セカンドベストの方法としては有効です。

 


Q39
環境税の導入は、環境税さえ払っていればいくら汚染物質を排出してもよいということになるのでかえって環境によくないのではないですか。


A39
そのようなことはありません。これまでのレッスン(「環境問題の解決と環境税の機能」)によってわかるように、環境税には、走行距離を減らす(すなわち、汚染物質の排出量を抑制する)インセンティブを与えるだけでなく、環境負荷の小さい車を選択させるインセンティブも与えます。環境税の導入が、それがなければ汚染物質排出抑制の努力をするインセンティブをもたない人や企業にも排出削減のインセンティブを与えることができるという点が重要なのです。
環境税が導入されなければ、良心的な人や企業を除いて汚染物質を削減するインセンティブをもちません。そのような中で、良心的な人や企業により削減努力が相当大きなものにならないと環境問題を解決することは困難です。つまり、環境税のない社会では、良心的な企業や人の環境保全のための負担を非常に大きくし、環境保全に協力しない人や企業ほど得をすることになります。このような社会は持続可能ではありません。
汚染物質の削減努力をしない人や企業ほど損をする社会を作ることが環境保全型の社会を構築するためには必要なのです。そのための手段が環境税です。環境税を導入しても汚染物質が十分に抑制されないのは、環境税が役に立たないのではなく、環境税の水準が十分高いものではないからなのです。環境税の導入は、自分の消費や生産活動が社会に及ぼす悪影響に対して自己責任を果たしてもらうための工夫なのです。


Q40
環境税を導入すると、所得の低い人の負担が相対的に大きくなり逆進的になってしまい、よくないのではないですか。このような税は、結局、所得の大きい人を優遇することになるだけで、社会にとって望ましいものとは思えません。


A40
確かに、環境税の導入にはそのような側面があるかもしれません。しかし、だからといって環境税の導入を諦めると、環境は決してよくなりません。
ここで注意しなければならないのは、所得の公平性の問題は環境問題とは別の問題であるという点です。所得の公平性の問題は、所得税制や社会保障政策によって解決すべき問題であり、環境政策によって解決すべき問題ではないということです。
環境政策を実施することによって、新たな別の問題(この場合は、所得の公平性の問題)が生じる場合には、同時に所得税制の見直しを検討することによって解決すべきです。たとえば、環境税の導入によって税収が増加するので、その分、所得税や法人税を減税すればよいのです。
重要なことは、2つ以上の政策目標(ここでは、汚染の削減と公平な所得分配の達成)を一つの政策手段(ここでは、環境税の導入)だけで達成することはできないということです。2つ以上の政策目標を達成するためには、それと同じだけの政策を実施しなければならないのです。


Q41
天然の化学物質は、合成化学物質より安全ではないのですか。


A41
天然の化学物質は人類が古くから使用しており、合成(人工)化学物質より安全性が高いのではないかといわれることがありますが、そうではありません。
天然、合成を問わず、すべての化学物質には、危険有害な性質があり、例えば、1回あたりの摂取量の大小で見ると、ふぐ毒のように超微量で毒性が現れるものがあるなど、必ずしも天然の化学物質が安全であるとはいえません。


Q42
事業者による自主的な安全管理は、罰則がなく、効果があがらないのではないですか。


A42
自主的な管理を確実なものとし、効果をあげるために、内部監査の実施、情報の公開、リスクコミュニケーションによる市民の評価などが行なわれています。


Q43
化学産業界の自主的なレスポンシブル・ケアとISO14001とはどこが違うのですか。


A43
いずれも、事業者による自主的な対応です。
レスポンシブル・ケア(RC)の特徴は、社長自らがRCの実施を宣誓し、RC活動方針を経営方針とすることです。RC活動は化学物質の全ライフサイクルにわたる「環境・安全・健康」で、総合安全管理と同じです。ISOは「環境」のみになっています。
ISOでは、認証登録がありますが、RCでは登録制度はありません。しかし、RCでは活動内容の妥当性などを検証する制度があります。


Q44
化学物質の安全性とは何ですか、化学物質は基本的に有害ではないのですか。


A44
化学物質の安全は、化学物質の危険・有害な性質(ハザード)とその性質によって危険・有害なことになる可能性(リスク)に分けて考える必要があります。
すべての化学物質は、ハザードをもっていますが、リスクが大きくならないように使用できれば、そのような条件下では安全であるということになります。
例えば、食塩は高血圧になるというハザードをもっていますが、1日の摂取量を10グラム以下にすると、高血圧になるリスクは著しく低くなり、安全であるとされています。


Q45
レッスン(「化学物質の総合安全管理:10レスポンシブルケア活動」)の中で、12化学物質が表示されていますが、この12化学物質とは何ですか。


A45
この12化学物質は、1996年5月に改正された、大気汚染防止法に基づく自主管理対象の有害大気汚染物質です。