Q1. リスクと危機の違いは何ですか。


Q2. 何故、リスク値が同じであれば、発生確率が小さく被害規模が大きいリスクの方が、より重要なリスクと認定されるのでしょうか。


Q3. リスク管理で重要なことは何ですか。


Q4. リスク分析やリスク評価は必ず行う必要があるのでしょうか。


Q5. 被害規模と発生確率でリスクを分類する場合に、いくつの領域に分けるか決まっているのでしょうか。


Q6. 社会的なリスクの受容性は、一度検討すればよいのでしょうか。


Q7. 一般市民とリスクコミュニケーションを行う場合には、何に注意したらよいでしょうか。


Q8. 組織として未然防止活動を行っており、過去に事故等が発生していない場合でも、危機発生後の対応を対象とする危機管理活動を行う必要はあるのでしょうか。


Q9. 放火のように直接原因が組織の外部にある事象も、危機管理活動の対象とするべきでしょうか。


Q10. なぜ危機管理マニュアルが必要なのですか。


Q11. 危機が発生した後の被害の拡大防止を対象とする危機管理では、危機発生前の準備は重要なのでしょうか。


Q12. リスク「保有」とリスク「許容」との内容の違いはどこにあるのでしょうか。


Q13. 例えば、A とBの双方がトレードオフの関係にある場合、トレードオフの解決の仕方で望ましいのは、次のどちらでしょうか。
・ A,B の両方が良好な結果を得られる解決方法を探す。
・ AかB のどちらかを犠牲にして、良好な結果をもたらす一方を選択する。


Q14. リスク対応の考え方としては、
(1)(リスク値=被害額×発生確率)<(対策に要する費用)の場合は、リスク保有、また
はリスク移転、
(2)(リスク値=被害額×発生確率)>(対策に要する費用)の場合は、リスク回避、また
はリスク削減と考えてよいのですか。


Q15. リスク回避・リスク削減のうち、どの対応策を選定すべきかについては、(対策の効果)/(対策に要する費用)=(効率)と定義した場合、基本的には効率の高いものを、複数の対策候補の内から選定・採用するべきであると考えてよいのですか。



Q1.
リスクと危機の違いは何ですか。


A1.
リスク(Risk)という概念は、使い方によって必ずしも定義が厳密に一致する訳ではありませんが、共通の性質として次の2つの性質を含みます。
・ 第1に、その事象が顕在化すると、好ましくない影響が発生するという性質です。
・ 第2に、その事象がいつ顕在化するかが明らかでないという、発生の不確定性に関する性質です。
また、危機(Crisis)とは、様々な緊急事態から発生し得る好ましくない影響であり、自然災害と人災に大きく分けることができます。このように、危機は顕在化した後の影響や被害に注目しているのに対して、リスクは発生の不確定性にも注目しています。
リスク管理と危機管理の違いに関しても、リスク管理は主に未然防止や事前の被害低減対策に注目しているのに対して、危機管理では発生した後の対応に注目していることが多いようです。

Q2.
何故、リスク値が同じであれば、発生確率が小さく被害規模が大きいリスクの方が、より重要なリスクと認定されるのでしょうか。


A2.
例えば、1年に1回1万円の被害が発生する場合と、1000年に1回の確率で1000万円の被害が発生する場合では、そのリスク値はともに年間1万円となります。しかし、その組織の資本金が100万円であった場合には、毎年1万円の被害が発生しても対応できますが、1000万円の被害が発生した場合には倒産する可能性があります。つまり、被害の大きい1000万円の被害は組織として受け入れることができないリスクとなり、1万円の場合よりもより重要なリスクとなります。
このように、被害規模が小さい場合には発生確率が相対的に高くても許容できることが多いものですが、被害規模が大きい場合には発生確率が相対的に低くても許容できないことがあります。このような理由から、リスク値が同じであれば、発生確率が小さく被害規模が大きいリスクの方が、より重要なリスクと認定されます。

Q3.
リスク管理で重要なことは何ですか。


A3.
リスク管理で重要なこととして、決断した結果に対しては、後悔しないで済むプロセスを踏むということがあります。後悔しないということは、自分が避けられないリスクについては仕方が無いと自信が持てる状況まで手を尽くすことです。工場に隕石が落下して、不運を嘆く人はいても、隕石対策を行っていなかったことに対して悔やむ人はいないでしょう。このように、組織の制約条件を踏まえて、どこまでのリスク管理を行うべきか、または行えるのか、ということを決めて、そのレベルまでリスクを低減する努力をすることがリスク管理では重要なのです。
どのレベルということは、リスク管理基本目的で設定します。

Q4.
リスク分析やリスク評価は必ず行う必要があるのでしょうか。


A4.
可能な限り行う方が良いですが、必ずしも行う必要はありません。
リスク特定を含め、リスク分析やリスク評価は、最終的には優先順位の高いリスクに対してリスクの低減や削減等の対応を検討するために行います。リスクの取りこぼしが無いように、また合理的に検討を行うために、これらの作業は重要と言えます。しかし、これらの結果から導かれる優先順位の高いリスクや対応は、現場を良く知っている専門家等の話し合いの中で導かれる結果と同じ場合や、予めある程度分かっている場合もあります。時間や費用の面等から、リスクマネジメントの基本フレームに沿って検討が困難な場合には、フレーム通りに行わない場合もあり得ます。

Q5.
被害規模と発生確率でリスクを分類する場合に、いくつの領域に分けるか決まっているのでしょうか。


A5.
幾つの領域に分けるかは決まっていません。被害規模および発生確率それぞれの分割数も決まっていません。一般的に分割数は、そのリスクの算定精度と連動するものですが、ランク分類の考え方においてはあまり細かな分類は必要ありません。発生確率は対数の尺度である場合が多いようです。
また、被害規模と発生確率を分割した後の、各エリアの取り方も任意に定めることができます。この場合、リスク値が参考となりますが、リスクはあくまでも参考値であり、「リスク評価の考え方」でも触れた通り、実際的には発生確率よりも被害規模の重みを大きくする場合が多いようです。

Q6.
社会的なリスクの受容性は、一度検討すればよいのでしょうか。


A6.
社会的受容は、正負両面の効用を勘案して下される合理的な選択という面ばかりでなく、時代や価値観に流れの中で変動する社会心理学的な現象であり、一定不変なものではありません。このため、1度検討すればよいというものではありません。
地域や場所が変わっただけでリスクが受容されなくなることもありますし、同じ場所でも個人差によって受容される場合と受容されない場合があります。また、以前は社会的に受容されていたリスクが、最近数年で受容されなくなったという例も少なくありません。このため、地域や時代、個人差を考慮して、その都度リスクの受容性を検討し、受容性が低いと判断された場合には受容性を高める努力が必要となります。

Q7.
一般市民とリスクコミュニケーションを行う場合には、何に注意したらよいでしょうか。


A7.
リスクコミュニケーションの効果は、送り手の要因よりも受け手側の要因の方が強く影響します。また、メッセージおよび媒体の要因についても、受け手がどう感じるか、ということが重要となります。このため、一般市民とリスクコミュニケーションを行う場合には、受け手である市民のリスク受容の特徴を踏まえてリスクコミュニケーションを行う必要があります。
一般市民のリスク受容の特徴としては、例えば次のような特徴があります。
・ 1つ目の特徴は、市民が受け入れるリスクのレベルは、専門家よりも非常に小さいということです。
・ 2つ目の特徴は、市民は発生確率が低くても、被害規模が大きいリスクは受容しない傾向があるということです。
・ 3つ目の特徴は、リスク受容はその人の知識や情報量、情報処理能力、価値観、性格、性別、年齢、職業などの違いにより、個人差があるということです。

Q8.
組織として未然防止活動を行っており、過去に事故等が発生していない場合でも、危機発生後の対応を対象とする危機管理活動を行う必要はあるのでしょうか。


A8.
組織として未然防止活動を行っており、過去に事故等が発生していない場合でも、危機管理活動を行う必要があります。
危機を完全に防止するためには、対象となる施設や活動そのものを無くしてしまう必要があります。この意味で未然防止活動は万能ではありません。また、過去に事故が発生していない場合でも、将来の事故が起こらないことを保証するものではありません。過去は幸運にも事故が起きていなかっただけかもしれませんし、組織を取り巻く環境や運転条件等が変化した場合に事故が起きないとは限りません。犯罪に巻き込まれる可能性もあります。
このような理由から、未然防止活動と共に、危機発生後の対応を対象とする危機管理活動も必要となります。

Q9.
放火のように直接原因が組織の外部にある事象も、危機管理活動の対象とするべきでしょうか。


A9.
組織に直接の責任が無い事象でも、危機管理活動の対象とする必要があります。
部外者の放火により施設が火災になる場合でも、維持管理の不備により火災になる場合でも、自らの施設や周辺住民の生命や資産も危険にさらされるため、これら守るべき対象には変わりはありません。原因に関わらず周辺への被害が発生した場合には、組織の活動を停止せざるを得ない可能性もあります。
また、実際に経営状況が悪化している場合でも、悪意によりインターネット上で根拠の無い経営悪化のうわさが流された場合でも、組織としての株主や顧客への対応や責任が変わるものではありません。
以上の例からも分かるように、危機管理活動の対象としては、組織に直接原因がある事象と共に、外部に原因がある事象も対象とする必要があります。

Q10.
なぜ危機管理マニュアルが必要なのですか。


A10.
優秀な危機管理担当者とよく訓練された優秀なメンバーがいて、そして適切な準備が行われていれば、マニュアルが無くても、危機時に適切な処置を行うことが可能かも知れません。しかし、実際には容易ではありません。
優れた危機管理体制を目指すためには、事前の準備と危機時の対応レベルの確保が必要となります。そのためには、関係者に分かり易いように、危機に対する検討を含めた事前準備の道筋を明らかにしておくことが必要でしょう。また、危機時にメンバーの資質によって対応が異なることの無いようにすることも必要でしょう。
このような危機管理活動における組織や個人の活動を補完するために、危機管理マニュアルが策定されます。

Q11.
危機が発生した後の被害の拡大防止を対象とする危機管理では、危機発生前の準備は重要なのでしょうか。


A11.
危機管理活動では、危機が発生する前の準備は非常に重要です。何事でも準備無くして、望ましい結果は期待できません。
事前に検討や準備を行っておかないと、予想外の出来事に対応できないとか、誰が何をやるか分からなくなってしまう等、本当の危機時に問題が露見することになります。
最近の企業不祥事を見ていると、「こんなことになるとは思ってもいなかった」という経営者の声を耳にします。また、事態がどのように進展するか、何が起きるか、が分からないため、倒壊するビルのような危険な場所で救助活動を行ってしまった例もあります。
危機管理活動は通常業務と異なり、よく知っていることや慣れていることを行うものではないため、きちんと準備をしておかないと、いざという時に適切な対応ができなくなることを認識する必要があります。

Q12.
リスク「保有」とリスク「許容」との内容の違いはどこにあるのでしょうか。


A12.
リスクを許容するか否かは、リスク基準に従って判断することがある程度可能なものですが、リスクを保有するかどうかは高度な経営判断を伴うこともあり、許容できないものでも最終的に(一時的には)保有するということがあり得ます。

Q13.
例えば、A とBの双方がトレードオフの関係にある場合、トレードオフの解決の仕方で望ましいのは、次のどちらでしょうか。
・ A,B の両方が良好な結果を得られる解決方法を探す。
・ AかB のどちらかを犠牲にして、良好な結果をもたらす一方を選択する。


A13.
トレードオフとは、AとBの2つの事象があった場合、一方の改善が他方の悪化に繋がる状態を言います。数理経済学的な使用法としては、両者に良好な改善策が無い状態を指しますが、現実にはその客観的評価が出来ないことの方が一般的でしょう。その場合、両者に良好な改善策を探求することが最も望ましいと考えられますが、それが無理な場合は何れかの犠牲を生じることは避けられません。

Q14.
リスク対応の考え方としては、
(1)(リスク値=被害額×発生確率)<(対策に要する費用)の場合は、リスク保有、また
はリスク移転、
(2)(リスク値=被害額×発生確率)>(対策に要する費用)の場合は、リスク回避、また
はリスク削減と考えてよいのですか。


A14.
社会的な影響までを踏まえた上での被害額が金銭換算できると仮定すれば、基本的な考え方としては、リスク値(=被害額×発生確率)の減少量と、対策に要する費用の大小で比較することが一つの指標となり得ます。例えば、年間10 億円のリスクであるものを、年間9 億円に下げるための対策として、5000 万円を支出することは妥当でしょう。しかし、注意しなければならないことは、これは基本的な考え方であり、必ずしも機械的に全てを定めることは一般的ではありません。

Q15.
リスク回避・リスク削減のうち、どの対応策を選定すべきかについては、(対策の効果)/(対策に要する費用)=(効率)と定義した場合、基本的には効率の高いものを、複数の対策候補の内から選定・採用するべきであると考えてよいのですか。


A15.
その通りです。このような算定により、効果の高い対策を採用することは重要なことです。このような検討が、「対策効果算定」であるということができます。