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化学反応の安全概論
Q1.反応による事故は反応工程だけで起こるのでしょうか。
Q2.反応工程で特に危険なのはどのような反応器でしょう。
Q3.危険性が大きいのはどのような反応でしょう。
Q4.実際の反応暴走事故はどのような原因で起きているのでしょう。
Q5.反応工程の事故を防止するための、プロセス上の留意点を教えてください。
重合・縮合反応
Q6.工業的な重合方法にはどのようなものがありますか。
Q7.連鎖反応による重合には、ラジカル重合以外にどのような重合がありますか。
Q8.逐次反応による重合には、重縮合反応以外にどのような重合がありますか。
Q9.重合反応による暴走が起こりやすい物質にはどのようなものがありますか。
Q10解重合とは何ですか。
Q11.物質の危険性を調べる具体的な手順は。
付加反応
Q12.不飽和結合やエポキシド以外で、付加反応の原料となるものはありますか。
Q13.なぜ原料フィード速度を大きくすると発熱速度が大きくなるのですか。
Q14.危険な重合反応が起こるを防ぐために、化学物質を利用することはできますか。
Q15.どのような不純物が混入すると反応が暴走するのですか。
Q16.付加反応の安全対策はこれだけで十分ですか。
酸化反応
Q17.過酸化物の評価はどうすればよいですか。
Q18.可燃性ガスの爆発範囲以上の濃度では爆発しないのですか。
Q19.適切な撹拌速度とはどういうことですか。
Q20.酸化反応の安全性評価で重要なことは何でしょうか。
Q21.酸化反応の安全対策で重要なことは何でしょうか。
還元反応
Q22.酸化と還元は同時に起こるはずなのに、なぜ還元反応といえるのですか。
Q23.還元反応を危険性評価は非常に評価項目が多いが、本当にそれだけ評価が必要なのでしょうか。
Q24.パラジウムカーボン触媒の自然発火とは具体的にどのようなものですか。
Q25.なぜ水素は通常のガスと比較して漏れや爆発に注意が必要なのですか。
Q26.漏れ防止の予防保全は具体的にはどのようなことをするのか。
ニトロ化、ニトロソ化反応
Q27.ニトロ化剤として混酸が多く用いられるのはどうしてですか。
Q28.バッチ反応とセミバッチ反応の選択はどのような基準で行えば良いのでしょうか。
Q29.反応以外の工程でも事故が起こっているが、どのような原因で起こっているのでしょうか。
Q30.反応中に撹拌機が停止したとき再起動するのは危険だと思いますが、このような時はどうすればよいのでしょうか。
Q31.副反応である酸化反応はどんな反応でしょうか。
Q32.SC-DSCに比べて蓄熱貯蔵試験の発熱開始温度の方が低くなっていますが、一般にSC-DSCの発熱開始温度よりどの程度の温度余裕をもって運転すれば良いのでしょうか。
Q33.連続反応にすればどうして安全になるのでしょうか。
ハロゲン化反応
Q34.ハロゲン化反応のうちでは、どれが最も一般的でしょうか。
Q35.オゾン層破壊でフロンという言葉をよく聞きますが、フッ素と関係があるのですか。
Q36.ハロゲン化反応の事故例が紹介されていますが、ハロゲンに特有の事故原因としてはどのようなものが考えられますか。
Q37.「暴走反応を想定した安全弁の設計(能力)」とはこれまで聞いたことがありませんが、どのようなことか簡単に説明してください。国内の安全弁メーカーに依頼すれば設計してくれるのでしょうか。
Q38.反応溶媒(トルエン)の仕込み量不足を確認できなかったことが要因の一つとされる事故例が紹介されていますが、このような事故を防止するために、反応器の仕込み量を確認する方法として、液面計以外にどのようなことが考えられるでしょうか。
ジアゾ化反応
Q39.ジアゾ化反応プロセスで、温水循環ラインに温水を流すのはどのような場合ですか。
Q40.ジアゾ化合物のように加熱・衝撃・摩擦で比較的容易に分解する物質にはどんなものがありますか。
Q41.物質の危険性を調べる具体的な手順は。
Q42.化学プロセスにおける爆発危険性のエネルギー危険度はどのように表しますか。
Q43.バッチプロセスの安全上の問題点とは何ですか。
反応危険性の評価
Q44.反応の危険性評価はどのような手順で行うのがいいのでしょうか。
Q45.事故例を調べるときの注意点にはどのようなことがあるでしょうか。
Q46.熱危険性評価を行う機器が3つに分類されていますが、その用途はどのように違いますか。
Q47.熱分析装置を使うときの留意点を教えてください。
Q48.断熱測定装置の特徴と利用分野を教えてください。
Q01 反応による事故は反応工程だけで起こるのでしょうか。
A01
反応事故とは非定常な化学反応により、熱や圧力などのエネルギーが発生したり、有害物質が生成してそれが容器外に漏れた場合に、人や設備に損害を与えたり、環境を汚染する事象をいいます。
ですから、反応工程だけではなく、化学物質の貯蔵中や輸送中にも発生します。その場合、原因の多くは化学薬品の誤混合によるものです。
また、廃棄物の処理やリサイクルでも、化学反応を伴う操作が増加していることから、反応事故の危険性は増大しています。
Q02 反応工程で特に危険なのはどのような反応器でしょう。
A02
反応工程では様々な反応器が使われています。危険性が最も大きいのはバッチ反応器だと考えられます。
バッチ反応器は、基本的に原料を最初に混合して反応を進めます。そのため異常反応や冷却の停止が起きても、原料の供給停止などによって異常反応への進展を止めることができません。
日本では医薬中間体などの製造が盛んになっていますが、そのプロセスで使われるのはほとんどがバッチ反応器です。
また、ファインケミカルは反応工程が複雑で、製品までに多くの反応を経ることが多いため、複数の反応を順次同じ反応器で行う、多目的反応器がよく使われます。この反応器には前反応の残さや触媒が残りやすく、これが異常反応の発生原因になることがあります。
Q03 危険性が大きいのはどのような反応でしょう。
A03
最も事故の起きやすいのは、大きな熱が比較的短時間で発生する反応です。重合、付加、ニトロ化やスルホン化、酸化などの反応が代表例です。
これらの反応では反応熱が容器内に蓄積しないように、冷却設計や撹拌効率のよい撹拌翼や撹拌速度などを考慮する必要があります。
また、反応温度や触媒の量なども、熱の発生速度に影響する重要な因子ですから、新規に開発された反応を実際のプロセスに移す前には、慎重に反応条件を検討する必要があります。
Q04 実際の反応暴走事故はどのような原因で起きているのでしょう。
A04
画面4で説明したように反応暴走は様々な原因による、反応の熱的な暴走が事故にまで発展したものです。
反応暴走が起きやすいのは、主反応が大きな発熱量と発熱速度をもち、何らかの条件で反応系の温度が上昇したときに、原料や生成物が分解などを起こしやすい反応です。
実際にはニトロ化反応やスルホン化反応で冷却や、撹拌が停止した場合に起きています。
また、重合反応の生成物は比較的安定ですが、重合自体の反応熱がきわめて大きいため、冷却設計や反応温度を誤ったり、触媒量が不適当だったりすると内部温度が異常に上昇して、溶剤やモノマーの急激な気化・噴出や重合物の分解が起きることがあります。
Q05 反応工程の事故を防止するための、プロセス上の留意点を教えてください。
A05
反応事故の防止のためには、原料や生成物、反応自体の熱危険性をきちんと評価し、適切な反応条件を設定することが重要です。
しかし、化学反応では誤操作や機器故障、不純物の影響などで思わぬ異常事象が起きることがあります。そのため、プロセス設計での配慮も必要です。
まず異常を検知するためのセンサーを適切な位置に設置すること、異常を検知した時に反応を停止するための緊急遮断弁、緊急冷却などを設けます。
また、圧力上昇に対応するために、安全弁や破裂板を組み込みますが、放出された化学物質を捕集したり無害化するための、キャッチタンクや水洗スクラバーなどが必要です。インドのボパールではこれらが機能しなかったために、悲惨な事故が発生したのです。
Q06 工業的な重合方法にはどのようなものがありますか。
A06
工業的には懸濁重合、乳化重合、溶液重合、塊状重合などの重合方法が挙げられます。特に塊状重合の場合、異常時の温度制御が困難になるので注意が必要です。
Q07 連鎖反応による重合には、ラジカル重合以外にどのような重合がありますか。
A07
連鎖反応による重合は反応機構によってラジカル重合、イオン重合、開環重合に分類されます。イオン重合はさらにカチオン重合とアニオン重合に分類されます。
Q08 逐次反応による重合には、重縮合反応以外にどのような重合がありますか。
A08
逐次反応による重合は反応機構によって重縮合、重付加、付加縮合、開環重合に分類されます。
Q09 重合反応による暴走が起こりやすい物質にはどのようなものがありますか。
A09
次の表に重合反応暴走が起こりやすいグループを示しました。
Q10 解重合とは何ですか。
A10
ポリマーの熱分解の1形式で、重合と逆に活性末端から単量体が次々に生成していく反応です。
Q11 物質の危険性を調べる具体的な手順は。
A11
一般的には、まず、文献情報を用いて関連する潜在エネルギー危険性を調べ、おおよその潜在エネルギー危険性を推定し、また、必要によっては熱化学計算により潜在エネルギー危険性の予測を試み、ついで、エネルギー危険が予想されるものについて標準試験と対応関係のあるスクリーニング試験により潜在エネルギー危険性の一時評価を行い、最後にその確認のために標準試験を行うことです。
Q12 不飽和結合やエポキシド以外で、付加反応の原料となるものはありますか。
A12
あります。環状の化合物が直鎖状の化合物に変化するときには他の化合物が付加しているはずですから、付加反応になります。例えば環状エステルの加水分解も付加反応といえます。
また、水素結合や配位結合等のように比較的弱い力で付加する反応も付加反応と呼ぶことがあります。
Q13 なぜ原料フィード速度を大きくすると発熱速度が大きくなるのですか。
A13
原料をフィードすると、化学反応が起こり発熱します。このときの発熱量は、反応する化合物の量に比例して大きくなります。
原料がたくさんあれば反応する化合物の量も増え、発熱量は大きくなります。したがって、原料フィード速度を大きくすると、発熱速度も大きくなるのです。
Q14 危険な重合反応が起こるを防ぐために、化学物質を利用することはできますか。
A14
重合が起こるのを防止するために、重合禁止剤と呼ばれる化学物質を添加する方法があります。
重合に関与するラジカルが重合禁止剤と反応して安定化することにより、重合反応が抑制されます。
Q15 どのような不純物が混入すると反応が暴走するのですか。
A15
反応の種類によって、触媒となり得る不純物の種類や影響の大きさが異なるため、実際に熱分析装置を用いて測定してみないとわかりませんが、事故例としては、金属イオンや鉄錆、酸や塩基等の混入によるものが多数報告されています。
Q16 付加反応の安全対策はこれだけで十分ですか。
A16
いいえ、これだけでは不十分です。反応の安全を考える上で、「反応を暴走させないための対策」はもちろんですが、万が一暴走した場合に備えて「被害を最小限に抑えるための対策」も重要なポイントです。
危険な化学反応を行う際は、例えば圧力放散口を設置する等の安全対策(フェール・セーフ対策)も必要です。
Q17 過酸化物の評価はどうすればよいですか。
A17
過酸化物は、非常に不安定な化合物が多いので試薬などで入手が困難な場合があります。
過酸化物の場合、生成させないことが一番良いのですが、蓄積や濃縮した状態で分解することが非常に危険です。
危険となる過酸化物の濃度や分解する温度を熱量計などで把握し、その濃度や温度以下で管理することが重要です。
Q18 可燃性ガスの爆発範囲以上の濃度では爆発しないのですか。
A18
可燃性ガスの爆発は、支燃性ガス(酸素など)と発火源が存在した場合、可燃性ガスと支燃性ガスの反応(酸化)により発生する場合がほとんどです。(アセチレンやシランガスなどはこれには該当せず自己分解による爆発です。)
従って反応する支燃性ガス(酸素など)が不足する状態となる可燃性ガスの爆発範囲以上の濃度では爆発しません。
但し、ガスが局在化したり空気が容器外より進入してくる場合もあるので爆発範囲以上の濃度で操作する場合充分注意が必要です。
Q19 適切な撹拌速度とはどういうことですか。
A19
液体や固体が均一に混合されなければ、反応も局所的に起こります。
またその反応で発生した熱も局在化して、ある部分だけ温度が上昇し、そこが引き金となって熱暴走することがあります。
突発的な停電による反応器などの撹拌機停止や復電後の撹拌機再開時にはこのような状態になりやすいので注意が必要です。
従って、適切な撹拌速度とは、反応が局所的に起きないように撹拌する速度をいいます。
Q20 酸化反応の安全性評価で重要なことは何でしょうか。
A20
反応全般に言えることですが、副反応や不純物の影響を含めた反応全体を評価することが重要です。
特に酸化反応は、反応熱が非常に大きいので熱的な評価を行うことが重要です。
発熱量、発熱開始温度、発熱速度などを把握することによりそれに対する対策が検討できます。
それ以外に使用する物質や生成する物質の危険性を把握すること。加えて気体の場合は、爆発範囲になる組成や最小発火エネルギーを把握して評価することが必要です。
Q21 酸化反応の安全対策で重要なことは何でしょうか。
A21
適切な組成や温度にコントロールすることが重要です。
そのためには、酸素検知器やガス検知器、温度計、冷却システムなどを二重化したり、誤操作しないようにする対策が必要です。
さらに標準状態から外れた場合の対策としてインターロックを導入することも必要です。
Q22 酸化と還元は同時に起こるはずなのに、なぜ還元反応といえるのですか。
A22
主原料が還元されるものを俗に還元反応と呼びます。
たとえば、ニトロベンゼンを水素で還元してアニリンを製造する場合、ニトロベンゼンは還元され、水素は酸化されます。このとき、ニトロベンゼンを還元してアニリンを作る、という表現と水素を酸化してアニリンを作る、という表現を比較してみると、前者の方が一般に不自然がない表現となります。
したがって、この場合は還元反応と一般に呼ぶことになります。
Q23 還元反応を危険性評価は非常に評価項目が多いが、本当にそれだけ評価が必要なのでしょうか。
A23
事故を防ぐためには評価は必要です。
還元反応による事故は大学の研究室から企業の大規模プラントにいたるまで、発生する可能性があります。
そのためにはインターネットや書籍の事故例や本教材でどのような危険が考えられるのかを知り、必要な試験を実施して評価を行う必要があります。
危険性評価が自前で実施できない場合は、必要に応じて公共あるいは民間の分析依頼を請け負っている所に依頼して行うことになります。
Q24 パラジウムカーボン触媒の自然発火とは具体的にどのようなものですか。
A24
パラジウムカーボン触媒は空気と接触すると酸化発熱して発火に至る危険性を有しています。
触媒活性を落とさないために通常は水で湿らせて保管し、更に窒素等の不活性ガスで封入して劣化を防ぎます。
使用後の触媒は反応液からろ過によって取り除かれ、触媒残さとして廃棄物となりますが、これを袋詰めにして屋外放置したりすると、徐々に乾いて酸化発熱し、火災に至ることがあるので、廃触媒は管理と処分を適正に行う必要があります。
Q25 なぜ水素は通常のガスと比較して漏れや爆発に注意が必要なのですか。
A25
水素は一般的な可燃性ガスと比較して分子量が小さく、拡散係数が大きいので大変漏れ易い気体です。
また、通常の可燃性ガスの最小発火エネルギーは0.2mJ程度であるのに対し、水素の最小発火エネルギーは0.02mJと1桁小さく、静電気で容易に着火します。
工場の廃棄ガス放出口から放散される水素ガスは雷雲が近づいたり、雪が降ったりするだけで着火することがあるほどです。
水素の火炎は一般に透明で見えないので知らずに近づいて大火傷をする恐れもあります。
Q26 漏れ防止の予防保全は具体的にはどのようなことをするのか。
A26
まずはじめに、取り扱い物質の腐食性に応じた適正な材質を選定することから始まります。
取り扱い条件に応じた腐食速度から機器の耐用年数が決まり、予想を上回る速度の腐食が生じていないことを定期的に検査する必要があります。
検査は一般に、定期修理などで装置を止めた時に行います。
検査は肉厚測定やヒビ、割れの有無の確認等です。
なお、腐食速度は取り扱う物質のみによって決まるのではなく、温度や内容物の流れの影響を受けるので注意が必要です。
Q27 ニトロ化剤として混酸が多く用いられるのはどうしてですか。
A27
混酸によるニトロ化の特徴は、
(1)硝酸単独に硫酸を加えることにより反応が早くなる
(2)他のニトロ化剤より安価
(3)硫酸を加えることにより熱容量が増し、暴走反応による温度上昇を防ぐことができる
(4)濃硝酸と有機化合物との混合物は組成によっては爆発性物質となるが、これに硫酸を加えることにより爆発性物質から外すことができる
(5)生成ニトロ化合物を廃酸から分液により容易に分離できる
(6)混酸を用いると反応装置の腐食が少なく、通常のSUS材質が使用できる
等が挙げられます。
このため、混酸が多く用いられている。
一方、欠点としては
(1)廃希硫酸が多く発生し処理に困る
(2)反応性が高すぎて副反応が多い
等があり、これらの問題を克服するため他のニトロ化剤を用いることがあります。
Q28 バッチ反応とセミバッチ反応の選択はどのような基準で行えば良いのでしょうか。
A28
バッチ反応は、反応原料を1度に全量仕込んで反応を行うため、反応初期は反応速度が速く、反応の進行と共に原料濃度が下がって反応速度が遅くなります。
このため、反応器の冷却能力は反応初期でも十分除熱できる能力にしておかなければなりません。
また、反応途中冷却系の故障や撹拌機の停止など装置の故障があっても、反応を止めることができません。
これに対して、反応原料の一方を反応器に仕込んで、もう一つの原料を連続的に加えていくセミバッチ反応は、もう一つの原料の供給速度をコントロールすることで、反応速度がコントロールでき、装置の故障時の対応も容易になるので、ニトロ化反応のように反応熱が大きく危険性の高い反応には、バッチ式よりセミバッチ式の方が適していると言えます。
Q29 反応以外の工程でも事故が起こっているが、どのような原因で起こっているのでしょうか。
A29
反応以外には、蒸留、移送、貯蔵などの工程で事故が発生しています。これらの原因は、ニトロ化合物の温度上昇による熱分解によるもの、機械的摩擦熱によるもの、水滴落下衝撃によるもの、などで、いずれもニトロ化合物の危険性を十分把握していなかったため、管理不十分となり起こった事故が多いと言えます。
Q30 反応中に撹拌機が停止したとき再起動するのは危険だと思いますが、このような時はどうすればよいのでしょうか。
A30
撹拌機の再起動は、反応器内に未反応原料が蓄積していた場合、急激に反応を開始し、冷却速度が追いつかないことがあり危険です。そこで、撹拌機を再起動する前に、反応器内に未反応原料(特に硝酸)がどれくらい残っているか分析します。未反応原料が少なく一気に反応しても断熱温度上昇が問題とならない場合は、1〜2度撹拌を少し回して様子をみてから撹拌開始します。未反応原料が多く残っている場合は、一旦混酸を分液して反応器外へ抜き出し、このあと硫酸を仕込んでから混酸を滴下開始するのが良いと考えられます。いずれにせよ撹拌機停止後は、直ぐに撹拌機を再起動せず、操作を十分確認してから行う必要があります。
Q31 副反応である酸化反応はどんな反応でしょうか。
A31
TNBXそのものは、130℃では全く分解しない安定な物質と言えますが、混酸が存在するとその挙動は一変しています。
詳しい分析データがないので正確には分かりませんが、硝酸によって、t-ブチル基等の酸化されやすい原子団の酸化反応(側鎖反応)が始まり、温度が上昇するにつれてTNBX分子内のメチル基やさらにはベンゼン核の酸化分解(環酸化、開裂)が生じたものと推定されます。
Q32 SC-DSCに比べて蓄熱貯蔵試験の発熱開始温度の方が低くなっていますが、一般にSC-DSCの発熱開始温度よりどの程度の温度余裕をもって運転すれば良いのでしょうか。
A32
一般に、蓄熱貯蔵試験(デュワー瓶試験)などの断熱熱量計で測定すると、SC-DSCよりも発熱開始温度が低くなります。
一般に100℃ルールと言って、SC-DSCの発熱開始温度から100℃低い温度取り扱えば断熱熱量計による試験は行わなくても良いといわれていますが、これも一概には言えず、熱分解反応の活性化エネルギーが低い場合は、さらに余裕が必要となります。
Q33 連続反応にすればどうして安全になるのでしょうか。
A33
連続反応は、バッチ反応に比べて、反応機内の未反応原料の濃度が低いので、冷却系の故障や撹拌機の停止などの緊急時には、原料の供給を停止するだけで、暴走反応を止めることができるため、安全と言えます。
Q34 ハロゲン化反応のうちでは、どれが最も一般的でしょうか。
A34
ハロゲンを含む有機化合物のうち、工業的な規模で最も大量に生産されているのは塩素化炭化水素です。
ハロゲン化合物には、有機化学工業上重要な製品あるいは合成中間体が多いので、ハロゲン化、特に塩素化は重要な単位反応の一つになっています。
一方、フッ素化炭化水素は特殊な物理的性質を持つため重要性が増加しています。
身近なところでは、フライパンの調理面をコーティングしているフッ素樹脂は、有機フッ素化合物のポリマーです。
Q35 オゾン層破壊でフロンという言葉をよく聞きますが、フッ素と関係があるのですか。
A35
フロンは和製語で、フレオンともいいます。
冷媒などに使用されるフルオロメタンとフルオロエタンの総称で、1〜3個の炭素、フッ素、塩素、水素が化合したフッ素化炭化水素の一種です。
一方、臭素とフッ素を含むハロゲン化炭化水素としてハロンがあります。
フロン類は化学的に安定で、腐食性、有害性が少なく、耐熱性が高く、不燃性であり、水に溶けにくいが有機物をよく溶かすため、冷凍機用冷媒、機械類の洗浄溶剤、消火剤などに広く使用されてきました。
化学的に安定なフロンですが、強い紫外線の照射により塩素ラジカルが生成し、これが、地球にふりそそぐ有害な紫外線を吸収してくれるオゾン層を破壊するということで問題になっています。
Q36 ハロゲン化反応の事故例が紹介されていますが、ハロゲンに特有の事故原因としてはどのようなものが考えられますか。
A36
ハロゲンは反応性に富むため、目的とする反応以外の予期せぬ反応による発熱、圧力上昇が考えられます。
また、ハロゲンは酸化性が強いため、有機物などの可燃物と接触すると、発熱、分解する危険性があります。
さらに、ハロゲンは有害性が強いため、大量に漏洩すると、周辺住民や環境に大きな被害を及ぼす危険性があります。
Q37 「暴走反応を想定した安全弁の設計(能力)」とはこれまで聞いたことがありませんが、どのようなことか簡単に説明してください。国内の安全弁メーカーに依頼すれば設計してくれるのでしょうか。
A37
現状の国内法規、あるいは海外規格で規定されている安全弁の能力は、いずれも暴走反応を想定していません。
これらは、液体や気体の単一相の放出のみを対象としています。
しかし、実際に、液相反応器や液体貯槽などで暴走反応が生じた場合は、安全弁から気液が同時に(気液二相流といいます)放出されます。
この場合、安全弁の口径を、気体で設計していると、排出能力が不足し、内圧が上昇して反応器などが破裂する危険性があります。
暴走反応を想定した安全弁の設計方法は、米国を中心に、1970年代から1980年代にかけて開発・実用化された技術ですが、残念ながら、国内の安全弁メーカーで対応できるところはありません。
2000年代になって、ようやく海外の規格にこの技術が導入され始めた段階です。
しかし、海外の大手化学会社では既に実用化されており、国内の大手化学会社でも、この技術を実際のプラントに適用しているところがあります。
Q38 反応溶媒(トルエン)の仕込み量不足を確認できなかったことが要因の一つとされる事故例が紹介されていますが、このような事故を防止するために、反応器の仕込み量を確認する方法として、液面計以外にどのようなことが考えられるでしょうか。
A38
反応器に液面計を設置する方法が、仕込み量を直接確認できる最良の方法です。
最近では非接触で液面を検出できる装置が開発されています。
液面計に代わる仕込み量の確認方法としては、反応器自体の重量を測定できるロードセルを設置する方法、液体供給配管に積算式の流量計を設置する方法、供給液体をいったんヘッドタンクに移し、ヘッドタンクから重力で反応器に供給する方法(ヘッドタンクには液面計か重量を測定できるロードセルを設置します)などが考えられます。
Q39 ジアゾ化反応プロセスで、温水循環ラインに温水を流すのはどのような場合ですか。
A39
通常ジアゾ化反応は発熱を伴うので、冷却水で冷却しながら反応を行います。
ただし、冷却水の温度を調節するために温水循環ラインに温水を流すことがあります。
Q40 ジアゾ化合物のように加熱・衝撃・摩擦で比較的容易に分解する物質にはどんなものがありますか。
A40
一般に有機系の爆発性物質は、爆発性原子団と呼ばれる、特徴的な原子団を有する場合が多くあります。
従って、これらの原子団を有する有機化合物ではその取り扱いに注意が必要です。
典型的な爆発性原子団には次のようなものがあります。
−N−O結合を持つもの
−N−N結合を持つもの
−O−O結合を持つもの
−O−X結合を持つもの
Q41 物質の危険性を調べる具体的な手順は。
A41
一般的には、まず、文献情報を用いて関連する潜在エネルギー危険性を調べ、おおよその潜在エネルギー危険性を推定し、また、必要によっては熱化学計算により潜在エネルギー危険性の予測を試み、ついで、エネルギー危険が予想されるものについて標準試験と対応関係のあるスクリーニング試験により潜在エネルギー危険性の一時評価を行い、最後にその確認のために標準試験を行います。
Q42 化学プロセスにおける爆発危険性のエネルギー危険度はどのように表しますか。
A42
化学物質の爆発危険性の程度を表すエネルギー危険度は爆発の発生確率と爆発の発現による影響度との積により表されます。
化学プロセスにおける化学物質の爆発の発生確率は、化学物質が持つ潜在エネルギー危険性のうち爆発の起こりやすさに関する特性である感度と化学プロセスにおける取り扱い条件との関係を基本とし、それに取り扱い条件の変動、設備及び装置の故障やヒューマンエラーの発生確率などから求められます。
Q43 バッチプロセスの安全上の問題点とは何ですか。
A43
一般にプラントの運転は注文生産という形で行われるため、プラントの運転は納期に合わせて行うことが多くあります。
このことは、取り扱い物質および化学反応等の危険性に関する調査検討が不十分で、化学反応時の相違に対応した適切な設備の選択、または設備の改良など必要な設備上の措置が十分に実施されず、または取り扱い物質、設備及び作業方法に対応した作業標準の作成及び当該作業標準にかかる教育が不十分なまま、プラントの運転が実施されることに結びつくおそれがあります。
物質が反応器や蒸留器など加熱を受ける設備内に比較的長時間滞留することがあるので、反応器などにおけるきめ細かい温度制御が必要です。
また、人手による作業の頻度が高いため、誤操作の可能性及び取り扱い物質への暴露の可能性があります。さらに、反応温度や生成物組成に変動が生じやすい為、通常行われている作業からは想定しがたい異常対応等の作業が生じる可能性もあります。
取り扱い物質が少量である場合が多いため、想定される異常事態を過小に評価し、防災上の対策が不十分となりがちです。
Q44 反応の危険性評価はどのような手順で行うのがいいのでしょうか。
A44
反応事故は主として化学反応によって発生する熱や圧力の異常により生じます。そこで、新規の反応を開発したり、それを実用化する前にそのエネルギー危険性をきちんと評価する必要があるのです。事故の原因が多様な要素の組み合わせであることが多い化学安全では、過去の事故に学ぶことが重要です。事故例などを調べ、熱化学計算によって大まかな発熱量を把握した後、種々の熱量計によって危険性評価を行います。化学反応は反応条件やプロセスが様々ですから、最終的には経済性をも加味した工程条件に対応する評価を行います。また、評価の際には最悪の事態が起きる条件を念頭におくことも重要です。
身近なところでは、フライパンの調理面をコーティングしているフッ素樹脂は、有機フッ素化合物のポリマーです。
Q45 事故例を調べるときの注意点にはどのようなことがあるでしょうか。
A45
化学事故の防止のために、過去の事故例を調査することの重要性が認識されて、多くの事故データベースが公開されています。そのいくつかを参照画面で紹介しています。最も使いやすく、得られる情報が多いのがBretherick博士が収集して整理した書籍です。日本では「危険物ハンドブック」という名称で翻訳され、入手することができます。また、いくつかのデータベースはWEB上で自由に閲覧できます。米国の連邦機関であるCBSは世界中の化学事故を、速報的に毎日公開しています。また米国内で起きた重要な化学事故は専門家による解析を行い、その報告書も公開しています。リレーショナル化学災害データベースは、日本の化学事故を収録しています。いくつかの事例は事故の流れを時系列的に記述しています。また、原因物質の熱分析データやプロセス図を記載している事例もあります。事故データベースには教訓を含むものもありますが、事故例から安全の知恵を引き出すのはユーザー自身なのです。
Q46 熱危険性評価を行う機器が3つに分類されていますが、その用途はどのように違いますか。
A46
最も利用されやすいのが熱分析装置です。わずか数ミリグラムの試料で、原料や生成物の分解などによる、異常な発熱の発生温度や発生エネルギーを測定できます。また、不純物の影響や反応熱などを知ることができる場合もあります。しかし、反応の危険性は物質単独の状態より複雑で、試料量や冷却能力、撹拌効率、試料の滴下速度などによっても変化します。断熱熱量計や反応熱量計は、それらの条件に対応して危険性を評価するためのものです。比較的少試料の試験で安全が確認された反応は、実用プロセスへ移行します。実用プロセスでは安全性だけではなく、経済性も求められます。反応効率と安全性を両立するような操作条件の設定には、比較的大容量(リットル単位)の反応熱量計が利用されます。
Q47 熱分析装置を使うときの留意点を教えてください。
A47
熱分析装置はミリグラム単位の試料を用いて、物質の熱的特性を測定する装置です。物質のエネルギー危険性評価では示差走査熱量計(DSC)が最もよく利用され、消防法の5類危険物の判定にも使われます。DSCは微量の試料で熱危険性を感度よく測定できる、優れた装置ですが、いくつか注意するべき点もあります。まず、試料容器の材質です。通常はステンレス製の容器が使われますが、反応性の高い物質ではステンレスが触媒作用を示すことがあります。また、アルミニウムは塩素などのハロゲン化合物と反応することがあります。これらの試料を測定する場合、金メッキしたセルやガラスセルを使うといいでしょう。試料量が少ないため、秤量や測定中に試料が気化してしまい、危険性を少なく見積もることもあります。秤量や試料の置き方でも誤差が生じやすいので、複数回の測定が必要です。
Q48 断熱測定装置の特徴と利用分野を教えてください。
A48
断熱測定装置としては画面6のARCが広く使われています。通常はステンレスやチタンのセルを試用しますが、これらの金属が触媒作用を示すこともあります。測定容器は密閉型なので、試料を詰めすぎると、分解しやすい物質では爆発して装置を壊すこともあります。用途としては、反応工程で冷却機能が停止したときの危険性や、自己反応性物質などが想定外の高温にさらされたときの危険性評価などに利用できます。また、堆積物や断熱材に含浸した化学物質の蓄熱危険性の評価などにも有効です。
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