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■1.移動通信における基本的事項■
Q1.携帯電話とPHSは何が違いますか?
Q2.第3世代携帯電話はIMT-2000と呼ばれますが、どのようなコンセプトで標準化されましたか?
Q3.IMT-2000として標準化したシステムはどういう種類がありますか?
Q4.国際ローミングサービスとは、どういうサービスですか?
Q5.無線LANが第4世代の携帯電話となる説もありますが、今後携帯電話と無線LANはどのような関係となりますか?
Q6.携帯電話の適合周波数が5GHz以下といわれていますが、今後周波数の拡大の方針はありますか?
■2.移動通信の電波伝搬■
Q1.なぜ伝搬損失は距離や周波数の二乗で増加するのですか?
Q2.多重波はどうやって測定するのですか?
Q3.回折伝搬では移動機近傍のビル回折だけが影響するのですか?
Q4.移動通信として適用される許容伝搬損失はどの程度ですか?
Q5.ブレークポイントはなぜ存在するのですか?
Q6.イメージ法とレイラウンチング法とではどちらが良いのですか?
■3.移動通信のアンテナ技術■
Q1.隣り合うセルでは同じ周波数を利用できないのでしょうか?
Q2.街中で基地局が見えない状態でも通信できるのはなぜですか?
Q3.フェージングはどのようにして発生するのでしょうか?
Q4.電波放射の源は何でしょうか?
Q5.電波の出るタイミングを変化させるには、どのような工夫をすればよいのでしょうか?
Q6.手で持ったときの影響を小さくするにはどのような工夫が考えられますか?
■4.変調の概念とアナログ変調方式■
Q1.周波数変調方式が移動通信に適している理由は何ですか?
Q2.アナログAM方式(振幅変調方式)はどのようなシステムに使用されていますか?
■5.デジタル変調と復調■
Q1.飽和性の電力増幅器が適用できるとはどういうことですか?
Q2.携帯電話の変調方式で、欧州はGMSKを、日本と米国はQPSK系を採用した理由は何ですか?
Q3.QAM方式(直交振幅変調方式)は移動通信に適した方式ですか?
Q4.ビットとシンボルはどう違いますか?
Q5.OFDM方式(直交周波数多重方式)を用いている方式にはどういう方式がありますか?
■6.多元接続方式■
Q1.各多元接続方式はどのような移動通信に適用されていますか?
Q2.第2世代のデジタル携帯電話にTDMA方式が採用された理由な何ですか?
Q3.第3世代携帯電話でCDMAが採用された理由は何ですか?
Q4.CDMAにおける統計多重効果とはどういう意味でどのような特徴がありますか?
Q5.次世代の移動通信で検討されている多元接続方式はどのような方式ですか?
Q6.CDMAにおける符号によるチャネルの分離とはどういうことですか?
■7.メディアアクセス制御方式■
Q1.メディアアクセス制御で衝突回避ができなかった場合は最終的にどうなりますか?
Q2.携帯電話のコンテンションフリー方式はどのような方式がありますか?
Q3.有線LANにもCSMA方式があるといわれていますが、無線の場合と何が違いますか?
Q4.ALOHAはどこで提案された方式ですか?
Q5.スループットは、どういう定義ですか?
Q6.無線LANには、リアルタイムを保証する制御はありますか?
■8.通信プロトコルと情報伝送制御■
Q1.メディアアクセス制御はどのレイヤに属しますか?
Q2.インターネットと通信システムのプロトコルの関係はどのようになっていますか?
Q3.第3世代携帯電話ではターボ符号が使用されていますが、どのような符号ですか?
Q4.畳み込み符号で、符号化効率を簡単に変えられる方法があるといいますが、どのような方法ですか?
Q5.移動通信におてハイブリッドARQは採用されていますか。?
■9.システム構成と接続制御技術■
Q1.移動通信システムではどのような周波数が使われていますか?
Q2.一つの基地局がカバーするエリアはどれくらいの広さですか?
Q3.移動端末や基地局の送信出力はどれくらいですか?
Q4.電池の消耗を抑える技術には、間欠受信の他にどんなものがありますか?
Q5.携帯電話の会社を変えると電話番号が変わるのは何故ですか?
■10.データ伝送とモバイルインターネット■
Q1.TCP/IPとはどういうプロトコルですか?
Q2.回線交換ではなぜ64kbpsの速度が用いられますか?
Q3.第3世代移動通信のパケット伝送速度384kbpsはどういう速度ですか?
Q4.記述言語で、HTML、CTHML、WMLはどういう言語ですか?
Q5.IPを移動通信に適用する場合にどのような工夫がされていますか?
■11.これからの情報ネットワーク■
Q1.最近ドコモからスーパ3Gの概念が提案されましたが、これはどんなものですか?
Q2.HSDPAで対象としているサービスは何ですか。音声は提供されますか?
Q3.HSDPAでは、定額サービスは提供されますか?
Q4.コアネットワークのIP化は進んでいるようですが、無線や携帯端末を含めたオールIP化の可能性はありますか?
Q5.アドホックネットワークの導入の課題や具体的な応用は何ですか?
■1.移動通信の基本技術■
Q1
携帯電話とPHSは何が違いますか?
A1
端末の送信電力、通信方式が大きく異なります。
PHS端末の送信電力は10mWで、携帯電話の場合は、世代やシステムによって異なり、最大600mWから2W程度です。
PHSの出力が小さいのは、デジタルコードレス電話をベースとしたからです。そのため、携帯電話が半径が数kmのマクロセル構成を基本としているのに対して、PHSは半径が数百mのマイクロセル構成を基本としています。
また、携帯電話は、送信と受信は異なる周波数を用いているのに対して、PHSは同じ周波数を用いています。携帯電話は集中制御型のシステムで、PHSは分散制御型のシステムです。
Q2
第3世代携帯電話はIMT-2000と呼ばれますが、どのようなコンセプトで標準化されましたか?
A2
固定電話並みに高品質であること、国際ローミングが可能であること、高速なパケット伝送を提供できること、SIMカードを用いることの4つが主要なコンセプトとして標準化されました。SIMカードは、携帯端末において加入者の情報を専用のICカードに記録し、どの端末でもこのICカードを挿入すれば、自分の端末として利用可能とするものです。
Q3
IMT-2000として標準化したシステムはどういう種類がありますか?
A3
IMT-2000として5つのシステムがあります。CDMAを用いた方式としてW-CDMA、CDMA2000およびTD-CDMAです。TDMAを用いた方式として、UWC-136およびDECTです。
W-CDMAは5MHz帯域幅を用いたシステムで、CDMA2000は1.25MHz帯域幅を用いたシステムです。TD-CDMAは、1つの電波帯域を送信・受信で交互に行うシステムです。
UWC-136は米国て提案され、その後、W-CDMAにマージされました。
DECTは、欧州のデジタルコードレス電話を高度化したシステムです。しかし、実際には適用されていません。
Q4
国際ローミングサービスとは、どういうサービスですか?
A4
番号を変えずに1つの携帯電話端末が国に跨って通信可能なサービスです。
第3世代携帯電話の標準化時点で、欧州の携帯電話GSMでは、既に実現していました。PDCでは提供されませんでした。第3世代の携帯電話になり、我が国の携帯電話も国際ローミングが可能となりました。
Q5
無線LANが第4世代の携帯電話となる説もありますが、今後携帯電話と無線LANはどのような関係となりますか?
A5
無線LANは、高速なデータ伝送をスポットエリアに提供するのに適しています。
しかし、広域なエリアや高速移動に対しては適していません。一方、携帯電話は本来広域なエリアで高速移動に対してサービスを提供することが基本です。また、携帯電話のデータ伝送の高速化は進みます。
しかし、経済性や収容能力では限界があります。したがって、両者は今後、互いに補完するシステムとして存在することになります。
Q6
携帯電話の適合周波数が5GHz以下といわれていますが、今後周波数の拡大の方針はありますか?
A6
我が国では、新たな周波数帯域として、1.7GHz帯域の導入が検討されています。また、TVの地上波デジタル放送の導入により従来のテレビ用の周波数に余裕ができ、携帯電話への利用に適用される予定です。
電波政策ビジョンでは、現在の帯域幅270MHzを5年後に330-340MHzに拡大し、さらに10年後に1.060-1.380GHzまで拡大する計画です。
■2.移動通信の電波伝搬■
Q1
なぜ伝搬損失は距離や周波数の二乗で増加するのですか?
A1
アンテナから送信された電波は球面状に広がって行きます。伝搬距離が2倍になると球面の表面積は4倍になりますので、電力密度は1/4になります。受信電力は電力密度に比例しますので、伝搬損失は伝搬距離の二乗に比例して増加します。
一方、周波数が2倍になっても電力密度は同じですから受信電力は変化しません。しかし、周波数が2倍になると同じ大きさのアンテナの利得は4倍になります。
このため、元と同じ利得のアンテナで受信する場合には、アンテナの長さが1/2、すなわち、受信面積に換算すると1/4になります。受信電力は電力密度に受信面積を掛けた値になりますので、伝搬損失は周波数の二乗に比例して増加することになります。
Q2
多重波はどうやって測定するのですか?
A2
一番分かりやすい方法は、指向性の鋭いアンテナを用いて、電波の到来方向を測定することです。しかし、この場合、1回反射までの伝搬経路は推定できます。2回反射以上の伝搬経路は推定できません。
そこで、一般的にはネットワークアナライザを利用して、伝搬路の周波数特性を測定します。伝搬路の周波数特性が分かれば、そのデータをフーリエ逆変換することにより周波数軸を時間軸に変換することができます。こうして得られたデータを遅延プロファイルといいます。
遅延プロファイルは多重到来波のレベルと到来時間差を表していますので、多重波の様子を測定する事ができます。
ただし、これでは電波の到来方向までは分かりません。電波の到来方向を含めて測定するためには指向性アンテナと組合わせて測定を行います。この場合到来時間差が分かりますので、多重反射波もある程度推定することが可能です。
Q3
回折伝搬では移動機近傍のビル回折だけが影響するのですか?
A3
伝搬路の途中に複数のビルが存在する場合には、総合の回折損失は各々の回折損失の和になります。
図に示すように、伝搬路内に#1〜#4の4つの建物が存在する場合、青の線で示す見通し線を遮るビルは#3以外の3つのビルとなります。
回折損失はこの3つのビルについて順次計算します。なお、回折損失はC1、C2、C4で示すクリアランス高に比例します。
伝搬路の途中に#2のビルのように際立って高いビルがない限り、クリアランス高C4が最大となりますので、一般的には携帯電話機の近傍ビルの回折損失が際立って大きくなります。
Q4
移動通信として適用される許容伝搬損失はどの程度ですか?
A4
市街地の移動伝搬路では自由空間伝搬損失に約40dBの付加損失があります。しかし回線設計を行う場合には、この値にさらにフェージングにより発生する雑音が通話時に許容できる程度の付加損失を加えます。
さらに、同じ様な市街地の伝搬路であっても、伝搬損失は微妙に異なります。
このため、同じ伝搬距離でも通信できる場所と通信ができない場所(不感地)とが存在します。サービスエリア内に発生する不感地の割合を一定値以下にするためもさらに付加損失を加えます。
結論として、受信機の熱雑音レベルよりも30〜40dB高いレベルで通信できるように回線設計をします。即ち許容伝搬損失としては、自由空間伝搬損失に70〜80dBの付加損失を考慮します。
Q5
ブレークポイントはなぜ存在するのですか?
A5
本文の下にある(画面下へのスクロール)図の上側は伝搬距離と相対レベルとの関係を示しています。
ここで、相対レベルとは、受信レベルを直接波レベルで規格化したものです。図の下側は上側に対応する位置で、平面大地上に設置された送信アンテナと受信アンテナ#1〜#3を示しています。#1の受信アンテナには、赤矢印で示す直接波と青矢印で示す大地反射波とが到来します。なお電波は大地で反射されたときに、180°だけ位相が変化します。
#1では直接波と大地反射波との伝搬路長差は大きくなります。しかし、伝搬距離が大きくなるのに伴い、伝搬路長差は小さくなります。伝搬路長差が変化すると直接波と大地反射波との位相差が変化しますので、図の上側に示すように受信レベルは周期的に変動します。
近距離では、伝搬路長差が大きいため直接波より大地反射波のレベルが小さくなります。したがって、受信レベルの変動幅は小さくなります。遠距離になると、伝搬距離に比例して受信レベルの変動幅は大きくなります。
#2の場所では伝搬路長差が半波長となりますので、受信レベルは最大値となります。
#2以遠では伝搬距離が大きくなるのに伴い、直接波と大地反射波との位相差がゼロに漸近し、お互いに打消し合い、受信レベルは直接波レベルよりも小さくなります。
#2まではレベル変動はあるものの、平均的なレベルは直接波レベルです。一方、#2以遠では直接波レベルよりも小さくなりますので、#2の伝搬距離dBをブレークポイントといいます。なお受信レベルが1となる、#3の距離をブレークポイントと定義することもあります。
Q6
イメージ法とレイラウンチング法とではどちらが良いのですか?
A6
イメージ法は、反射壁面などを鏡面とみなして、図(a)に示すように虚像を利用して受信アンテナに到来する全電波の経路を正確に計算する方法です。伝搬損失を計算するためには一番良い方法です。
しかし、例えば部屋の形状が複雑であったり、什器類が多数存在するような場合には計算機処理として反射面を探すのが難しく、伝搬経路を計算するのは容易ではありません。
一方、レイラウンチング法は、図(b)に示すように、送信アンテナから一定の間隔で全方向に電波を逐次発射して、その電波が反射壁面に到達するとそこで鏡面反射されるとして、さらにその先の伝搬経路を計算します。
この作業を電波のレベルが一定値以下になるまで繰り返します。この方法は計算機処理が簡単ですので、どんな複雑な形状の部屋や、什器類に対しても適用できます。このため、一般的にはこのレイラウンチング法が用いられています。
ただし、赤と青の電波で示すように、送信アンテナから一定の間隔で発射された電波が受信アンテナに正確に到達することは稀です。そこで、受信アンテナに紫色で示す一定の大きさのエリアを仮定して、そのエリアを通過する電波は受信されたことにします。このためエリアの大きさでレベルが異なるなど、イメージ法では生じなかった曖昧さが発生します。
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(a)イメージ法 |
(b)トレイラウンチング法 |
■3.移動通信のアンテナ技術■
Q1
隣り合うセルでは同じ周波数を利用できないのでしょうか?
A1
異なるセルに属する2個の携帯機が隣り合うセルの境目に来ると、同じ周波数を使っている場合には、混信を生じ、使用できなくなります。このため、隣り合うセルでは異なった周波数を使用しています。
しかし、CDMA方式では加入者の識別のために、周波数ではなくデジタル符号を使用しているため、隣り合うセルで同じ周波数を用いても混信が生じることなく通信することができます。
Q2
街中で基地局が見えない状態でも通信できるのはなぜですか? A2
携帯電話には、800MHz、1.5GHz、2GHzなどの周波数を使用しています。このような周波数帯の電波は、建物で反射したり、建物の裏側に回り込んだりしやすい性質を持っています。
移動通信では、建物の陰になって基地局が見えない状況を想定して、反射波や回り込み波を受信して通信ができる様に受信機の設計をしています。周波数がさらに高くなると、反射波や回り込み波の電波強度が小さくなるため、受信機の設計が困難になります。
Q3
フェージングはどのようにして発生するのでしょうか? A3
移動通信では建物からの反射波や回り込み波を利用して通信を行っていますが、これらの電波は様々な方向から携帯機に到来します。異なる方向から来た波(電波)が出会うと、定在波といって、1/2波長毎に強度が0になる状態が発生します。
様々な方向から到来する反射波や回り込み波の際にも、定在波が発生します。携帯機を持って移動すると、約20cm動くごとに電波強度が0になる状況が発生します。このように、頻繁に電波が減少する現象をフェージングと呼びます。
Q4
電波放射の源は何でしょうか? A4
アンテナの給電点では電流を供給しています。供給された電流が、導線や放射板に流れると、電波を発生させます。この供給された電流が電波の発生源となります。
電流を最も強く流す状態が、電波放射を強くすることになります。金属部の長さが1/2波長の大きさを持つとき、電流が最も強くなります。このため、ダイポールアンテナや平板アンテナの大きさは1/2波長に選ばれています。
Q5
電波の出るタイミングを変化させるには、どのような工夫をすればよいのでしょうか? A5
電波は給電線の中を通って放射器に供給されます。このため、給電線の長さをうまく調節することにより、電波の出るタイミングを変化させることができます。
例えば、800MHzでは電波の波長が約38cmになります。給電線の長さが38cmのものと19cmの2本の給電線では、19cmの方が電波の出るタイミングが早くなります。38cmのものと19cmのものとでは、出ていく電波の状態は正と負の逆相の状態となります。
Q6
手で持ったときの影響を小さくするにはどのような工夫が考えられますか? A6
携帯機を使用する際には、無線機部分を手で握ります。このため、無線機部分に電流が流れないようにアンテナを工夫する必要があります。
携帯電話のホイップアンテナでは、長さを1/4波長にすると給電の効率が最も高くなります。
このときには、ホイップアンテナと無線機の導体が一体となって電波放射に寄与していて、無線機にも大きな電流が流れます。
長さを少し長めの3/8波長にすると、ホイップアンテナ電流が放射の主体となり、無線機の導体部に流れる電流が小さくなります。この際、ホイップアンテナの電流の給電効率が悪くなる可能性が生じますが、効率を落とさないためにアンテナに調整回路を取り付けています。
■4.変調の概念とアナログ変調方式■
Q1
周波数変調方式が移動通信に適している理由は何ですか? A1
移動通信では、伝搬がマルチパスとなり、受信点では振幅や位相の異なる波の合成波となります。
したがって、受信波は振幅や位相変動を受けます。そのため、振幅を信号に対応させる振幅変調は適していません。一方、位相変動の大きさはそれほど大きくならないため、位相変調や周波数変調が適しています。
Q2
アナログAM方式(振幅変調方式)はどのようなシステムに使用されていますか? A2
現在使用されている主なシステムは放送です。具体的にはAMラジオです。
搬送波周波数は1000kHz前後で高くありません。周波数が低いため到達距離は長くなります。しかし、品質は高いとはいえません。
また、マルチパスの影響を受けやすいので移動通信には適していません。
■5.デジタル変調と復調■
Q1
飽和性の電力増幅器が適用できるとはどういうことですか?
A1
電力増幅器は、あるレベルまでは、入力信号の大きさに比例して出力信号が大きくなります。この範囲を線形動作といい、この範囲で電力増幅器を適用した場合、線形電力増幅器と呼びます。
一方、入力レベルが過大となると、出力のレベルは比例せず飽和してきます。
この範囲まで適用する場合、飽和性電力増幅器と呼びます。飽和性電力増幅器は、入力が広い範囲まで適用できるので電源の利用効率が高くなります。振幅に情報が含まれない変調方式に適用した場合、電源の効率を高くできます。
Q2
携帯電話の変調方式で、欧州はGMSKを、日本と米国はQPSK系を採用した理由は何ですか?
A2
国による考え方の違いです。欧州では、周波数利用率よりもバッテリーの寿命を重要視しました。
一方、我が国や米国では、周波数利用率を重視しました。その結果、それぞれの国の考え方に適合した方式が採用されたのです。
Q3
QAM方式(直交振幅変調方式)は移動通信に適した方式ですか?
A3
QAM方式は、振幅にも情報が含まれているため伝送効率は高くなります。ところが、振幅変調は移動通信に適した方式ではありません。少しの振幅変動が誤りをもたらすためです。
しかし、移動通信も常に受信レベルが変動するとは限りません。伝搬の品質が良い場合にQAMを適応的に利用することは考えられます。
そのため、16QAM方式は、高速のパケット伝送において、品質が良い場合に適用されることとなりました。
Q4
ビットとシンボルはどう違いますか?
A4
ビットは情報量の単位で、情報伝送速度はビットレートです。これをbpsまたは、bits/sと表します。
一方、シンボルは、情報を伝送する波形に対応します。情報を乗せる入れ物といってもいいでしょう。
たとえば、長さTの矩形の波形を考えます。 ±1の振幅の矩形波形とすると、2つの状態となるので1ビットに対応します。
もし、±1と±2の4つの振幅とすると4つの状態となるので2ビットに対応します。どちらもシンボルの長さは同じですが、伝送できる情報量は異なります。シンボルの速度をボーレート(Baud/s)といいます。
Q5
OFDM方式(直交周波数多重方式)を用いている方式にはどういう方式がありますか?
A5
5GHz帯を用いたIEEE802.11aという無線LANに適用されています。 また、地上波デジタル放送でも適用されています。第4世代の携帯電話では、本方式が基本となるよう検討が進められています。
■6.多元接続方式■
Q1
各多元接続方式はどのような移動通信に適用されていますか? A1
携帯電話方式では、FDMAはアナログ携帯電話に、TDMAは第2世代のデジタル携帯電話(GSM、PDC)に、CDMAは第2世代 (cdmaOne)および第3世代の携帯電話(W-CDMA、CDMA2000)に適用されています。
Q2
第2世代のデジタル携帯電話にTDMA方式が採用された理由な何ですか?
A2
最も大きな理由は、システムのコストを大幅に節減できることです。1つの基地局で複数の携帯機との通信を同時にできるため、従来の基地局の大きさやコストを大きく低減できることになりました。
次の理由は、セルの縮小化です。携帯機はTDMAの送信と受信以外に空き時間を持ち、周囲の電波状況やセル移行に必要なデータを通信中に取得できるようになりました。これをモバイルアシステッド・ハンドオーバ(MAHO)といいます。MAHOによりセル半径は数百mと小さくできるようになりました。それにより品質の向上と容量の向上に大きく寄与しました。
Q3
第3世代携帯電話でCDMAが採用された理由は何ですか?
A3
品質と容量を向上させることが1つの理由です。また、各セルに同一の周波数を割り当てることができるため、セルの増設に自由度が高いということです。
技術的には、高速かつ十分な精度で送信電力制御が可能となったことです。
さらに、種々の伝送速度を容易に設定できることも理由の1つです。
Q4
CDMAにおける統計多重効果とはどういう意味でどのような特徴がありますか? A4
CDMAは同一帯域の電波を複数のユーザで使用可能です。この場合、ユーザは常に情報の送信を必要としているとは限りません。すなわち、送信すべき情報がない場合、そのユーザは送信しません。
その間、他のユーザが使用可能となります。
ユーザの数が増えると統計的に空きの時間が多くなり、結果として収容可能数が増加します。 これが統計多重効果です。
音声の場合、実際に通話する時間は約3割とされています。したがって、統計多重効果により約3倍収容数を増加させることが可能となります。
Q5
次世代の移動通信で検討されている多元接続方式はどのような方式ですか?
A5
次世代の移動通信では100Mbpsオーダの伝送速度の実現を目指しています。
その場合、マルチパスに伴う波形歪みを克服することが必要です。等化器を用いるか、並列伝送することが必要です。後者の場合は、OFDM方式が有望です。
一方、各セルに同一の周波数を割り当て可能とするため、CDMAとの組み合わせが考えられます。すなわち、OFMDとCDMAの組み合わせであり、マルチキャリアCDMA方式が次世代の多元接続として有望な方式です。
Q6
CDMAにおける符号によるチャネルの分離とはどういうことですか?
A6
本文の下にある図の例で説明します。CDMAでは、伝送するときに符号を置き換えます。
図ではユーザAの+1信号は複数の●で、-1の信号は複数の○に置き換えます。同様にユーザBの+1の信号は複数の▲で、-1は複数の△に置き換えます。
今、ユーザAが信号+1を、ユーザBが信号-1を伝送するとします。これらが同時に伝送されたイメージを図の器で表しています。
雑音として、ユーザAの信号-1である○や、ユーザA、B以外のユーザの信号である■が混入することがあります。
受信側では、Aの信号を取り出すとします。このとき、Aの信号を通すフィルター(ざる)を用いて検出します。●を通すざると○を通す2つのざるを通します。
ざるの出力を比較し、●が一定値以上あれば、+1が送られたと判断します。同様にBについても行います。
このように、複数の信号が同時に伝送されても、受信側でそれぞれに対応したざる(フィルター)を通すことにより所望の信号を取り出すことが可能となります。
CDMAで信号を複数の●や○に置き換える操作が拡散であり、受信側でフィルターを通して検出する操作を逆拡散といいます。
■7.メディアアクセス制御方式■
Q1
メディアアクセス制御で衝突回避ができなかった場合は最終的にどうなりますか? A1
送信した端末が、衝突したことを知ると、再度、送信を試みます。
しかし、何度かトライしても成功しなかった場合は、その送信の試みは破棄されます。
Q2
携帯電話のコンテンションフリー方式はどのような方式がありますか? A2
事前にチャネルを分離する方式はコンテンションフリー方式として分類されます。
具体的には、多元接続方式のFDMA、TDMA、CDMAはそれらの方式として分類されることがあります。
ただし、携帯電話では、別に持っているアクセスチャネルにより制御しているので、正確には、これらの多元接続方式は、メディアアクセス制御よりも多重化として分類した方が適切です。
Q3
有線LANにもCSMA方式があるといわれていますが、無線の場合と何が違いますか? A3
有線LANにおけるCSMAはCSMA/CDという方式で、無線の場合は、CSMA/CAです。
ここで、CDはCollision Detectionの略で、衝突検出です。有線LANの場合は、回線の電圧レベルを監視し、レベルが上がったときに衝突したと判定できます。すなわち、衝突を検出して直ちに送信を停止します。
しかし、同一周波数を用いる無線の場合は、送信しながら受信を行うことはできません。
したがって、衝突を回避する制御を導入することが必要です。CAはCollision Avoidance の略称です。
Q4
ALOHAはどこで提案された方式ですか? A4
ALOHAはハワイ大学のN. Abramson氏によって1970年にコンピュータ通信のために提案された方式です。
ハワイは多くの島からなり無線によって通信することが必要となったために考え出されました。
周知のように"ALOHA"はハワイ語で「こんにちは」の意味で、方式にその名前を付けました。
Q5
スループットは、どういう定義ですか? A5
スループットは、加わるトラヒックに対して、正しく運ばれたトラヒックの比です。したがって、大きい方が特性がいいということになります。
ただし、スループットのみを大きくすると、遅延が増大します。したがって、スループットと遅延の相反する条件を考慮して設計することが必要です。
Q6
無線LANには、リアルタイムを保証する制御はありますか? A6
米国のIEEE802.11eという委員会で、リアルタイム伝送を可能とする方式の標準化の検討が進められています。
基本的な考え方は、スロットを予約する方式です。それにより、常にチャネルが保証され、リアルタイム通信を可能とします。
■8.通信プロトコルと情報伝送制御■
Q1
メディアアクセス制御はどのレイヤに属しますか? A1
メディアアクセス制御は、レイヤ2のデータリンク制御に属します。移動通信では、データリンク制御は2つのサブレイヤから構成されます。
1つがメディアアクセス制御サブレイヤで、他は論理リンク制御サブレイヤから構成されます。論理リンクサブレイヤは、送達確認、再送制御、データ圧縮などの機能です。
Q2
インターネットと通信システムのプロトコルの関係はどのようになっていますか? A2
インターネットは、通信システムの物理レイヤとデータリンク制御レイヤを縮退させネットワークインタフェースとして1つのレイヤとしています。ネットワークに相当する部分はインターネットプロトコル(IP)です。
またインターネットでは、その1つ上位にトランスミッションコントロールプロトコル(TCP)の機能を有しています。
Q3
第3世代携帯電話ではターボ符号が使用されていますが、どのような符号ですか? A3
ターボ符号は、2つの畳み込み符号器を用います。
1つは、情報の系列をそのまま畳み込み符号化を行い、チェックビットを発生させます。
もう1つの系列では、情報をインタリーブ(時間的に入れ替え)して畳み込み符号化を行い、チェックビットを発生させます。
送信の際は、チェックビットを交互に送信します。受信側では、最尤復号方法により、再帰的に何度も復号して信頼性を向上させます。仮の尤度を求め、それを基に尤度の精度を高めます。
この原理がエンジンの廃棄ガスを再利用するターボエンジンに似ているために、ターボ符号と命名されました。
Q4
畳み込み符号で、符号化効率を簡単に変えられる方法があるといいますが、どのような方法ですか? A4
パンクチャーリングという方法があります。
これは、符号化はそのまま行い、送信のビットを間引きして伝送する方法です。
受信側では、間引きされた部分にゼロを挿入して復号します。訂正能力は若干低下します。
しかし、符号化効率を簡単に向上できることが特徴で、よく利用されています。例えば、符号化効率1/2の符号に対して本技術を用いると3/4や7/8が実現できます。
Q5
移動通信におてハイブリッドARQは採用されていますか? A5
第3世代の高速データ通信としてHSDPA(High Speed Downlink Packet Access)という方式で適用されています。受信側で誤り検出をした場合に、チェックビットを増加させて再送する方式です。
これにより伝送効率を常時低下させずに信頼性を向上させることが可能となりました。
■9.システム構成と接続制御技術■
Q1
移動通信システムではどのような周波数が使われていますか? A1
自動車・携帯電話では、800MHz,1.5GHz,2GHzなどの周波数帯域が、PHSでは1.9GHz帯域が、また、無線LANでは2.4GHzや5GHzが用いられています。
今後のワイヤレスブロードバンド化に伴い周波数不足が懸念され、新たな周波数帯域の開拓が検討されています。
Q2
一つの基地局がカバーするエリアはどれくらいの広さですか?
A2
携帯電話では、都市部のエリアで半径数100mから数km、見通しの良い郊外エリアで半径数kmから数10kmの広さをカバーしています。
また、PHSでは半径数100m、無線LANでは半径50mから100m程度の広さをカバーしています。
Q3
移動端末や基地局の送信出力はどれくらいですか?
A3
現在、世界では第1世代のアナログ方式から第3世代のW-CDMAなどの方式がサービスされています。方式毎に移動端末の送信出力が異なりますが、移動端末の送信出力は最大で2W程度です。
また、基地局の送信出力は最大で数10W程度です。ただ、基地局の近くでは最大出力で送信する必要がないため、通信を行うのに必要な送信電力まで出力を抑える送信電力制御技術が適用されています。
そのため、移動端末の送信出力は通常、数10mWから1W程度の間で変化しています。また、基地局の送信出力も同様に変化しています。
Q4
電池の消耗を抑える技術には、間欠受信の他にどんなものがありますか? A4
送信電力制御技術があります。
移動通信システムでは、セルの周辺においても所要の通信品質が保たれるように基地局と移動端末の送信出力が決定されます。
しかし、基地局と移動端末間の距離が短い場合、電波が必要以上に強く受信されます。
これを避けるため、移動端末が通信を行うのに必要な送信電力まで出力を抑えます。これを送信電力制御技術と呼びます。
例えば、最大で1W程度の出力ができる移動端末も、送信電力制御により平均すると数10mW〜数100mWの出力になるため、電池も持ちが長くなります。
Q5
携帯電話の会社を変えると電話番号が変わるのは何故ですか?
A5
現在、日本では080や090から始まる11桁が携帯電話に割り当てられています。
具体的には 080-123-45678 など 0A0-CDE-接続番号(5桁)から構成されます。
CDEは、事業者別識別コードと呼ばれ、各携帯電話毎に別々のコードが割り当てられています。他のネットワークから該当する携帯電話事業者へのルートを決める際に、0A0CDEだけでルートを決定する方式が採用されているため、携帯電話会社を変えると事業者の識別コードを変えなければならず、番号が変わってしまいます。
しかし、最近、事業者が変わっても電話番号が変わらないようにするため番号ポータビリティの検討が進められており、近い将来に実現する予定です。
■10.これからの情報ネットワーク■
Q1
TCP/IPとはどういうプロトコルですか? A1
TCPはTransmission Control Protocolの略称で、IPはInternet Protocolの略称です。
インターネットの基本のプロトコルで、IPはネットワークレイヤにおいて、アドレスに従って情報を転送するプロトコルです。
TCPはその上位のレイヤでエンドツーエンドに情報の送達確認をして、誤りの場合に再送要求して誤り回復を行うプロトコルです。固定インターネット用として標準化されましたが、今後は移動通信にも適用される方向です。
Q2
回線交換ではなぜ64kbpsの速度が用いられますか? A2
回線交換は、もともと電話の音声をデジタル化することから始まりました。電話の音声の帯域を4kHzとして、標本化の周波数は8kHzです。1標本に対して、8ビットサンプルとし、8kHz × 8ビット/標本で64kbpsとなります。
現在の技術を用いれば、16kbpsでも音声を十分な品質で伝送することができます。
しかし、当時の技術では、64kbpsでなければ十分な品質で伝送することができませんでした。それで、64kbpsが採用されたのです。
Q3
第3世代移動通信のパケット伝送速度384kbpsはどういう速度ですか? A3
回線交換の場合は、エンドツーエンドとして速度が保証されます。
しかし、パケット交換の場合は、伝送路をユーザ間でシェアするため、速度の保証はありません。ユーザ数によって速度は低下していきます。10人で使用すれば38.4kbpsとなります。
Q4
記述言語で、HTML、CTHML、WMLはどういう言語ですか? A4
HTMLは、Hyper Text Markup Languageの略です。テキストや画像をウェブ上に記述する規則です。インターネットの標準として利用されています。
CHTMLのCはCompactの意味で、HTMLのサブセットを用い、移動通信用として定義したものです。端末の画面の大きさを考慮して決められました。
WMLはWireless Markup Languageの略で、これもWAPフォーラムで移動通信用として定義されました。バイナリ形式であり、deck/cardの概念を持つ記述言語です。
i-modeはCHTMLを、WZwebはWMLを使用しています。これらは、XHTMLに統合されることが決まりました。
Q5
IPを移動通信に適用する場合にどのような工夫がされていますか? A5
IP情報を転送する場合に、常に送信元アドレスと送信先のアドレスが添付されます。IPv6では、このアドレスの長さが128ビットとなったため、情報の長さが短いと冗長性が大きくなり、転送効率が下がります。
転送効率を高めるために、アドレスを圧縮して転送する提案が行われています。これをヘッダー圧縮といいます。移動通信では、伝搬環境が変動することと、周波数に限りがあるため、このような工夫が必要となっています。
■11.移動通信の将来展望■
Q1
最近ドコモからスーパ3Gの概念が提案されましたが、これはどんなものですか? A1
当初は、第3.5世代から第4世代に移行する計画でした。
しかし、第4世代は、標準化として十分機が熟していないことから、第3.5世代の高度化としてスーパ3Gが提案されました。 伝送速度は、HSDPAの最大14Mbpsと第4世代の100Mbpsの中間の30Mbps程度を実現します。HSPDAと2010年に実現をめざす第4世代との間を埋める技術です。
Q2
HSDPAで対象としているサービスは何ですか。音声は提供されますか? A2
HSDPAでは、音声(電話)は提供されません。パケット型のリッチコンテンツが主な対象です。ストリーム型の映像は対象です。
基本的にベストエフォット型のため、リアルタイムとしての保証はありません。ストリーム型を圧縮したり、時間制限を設定することにより、サービス性を高めることが必要です。
Q3
HSDPAでは、定額サービスは提供されますか? A3
携帯機のブラウザに限定した定額サービスが提供されることになると思われます。携帯電話をパソコンに接続する定額サービスの場合、一部のユーザの使用頻度が非常に多くなり、チャネルが不足することになります。
したがって、周波数に限りがあるため、携帯電話などのマクロセル型の移動通信では、パソコン接続までを定額サービスにすることは困難です。
Q4
コアネットワークのIP化は進んでいるようですが、無線や携帯端末を含めたオールIP化の可能性はありますか? A4
現在進められているIP化はコアネットワークのコストの削減が主目的です。その上で、固定インターネットとの親和性をよくすることです。無線部分は、高速移動への対応やヘッダの冗長性、プロトコルの冗長性などが課題です。
個々の提案が行われています。しかし、周波数余裕の問題が大きな障壁です。移動通信の環境条件を考えられるコアネットワークのIP化が限界です。
これに対して、無線LANのように停止した条件の場合は、無線部分を含めIPによるデータ転送は既に行われています。
Q5
アドホックネットワークの導入の課題や具体的な応用は何ですか? A5
導入の課題は、無線方式やインタフェースの標準化です。無線LANではWiFiというアライアンスにより相互接続の保証が行われ、急速に普及しました。現在は、まだその段階に達していません。
ルーティングに関して、インターネットの標準化機関でMANETという形で標準化が進められています。
しかし、MACレベルの検討が不十分です。特定なねらいを対象としたシステムでは、高速道路において車々間の通信の検討が進められています。
また、センサーを組み合わせたネットワークは今後の応用としての可能性が高いです。
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