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■1. アナログ回路の基礎知識■
Q1.回路網の計算手順は?
Q2.デシベルの絶対値表現でほかに例は?
Q3.-6dB/oct 表現のほかに例はあるのですか?
Q4.フィルタの種類は?
Q5.周波数特性と過渡応答特性の両方の必要性は?
Q6.平均値がゼロでないのはなぜですか?
Q7.SPICE解析の解析の種類は?
■2. 回路素子と電子部品■
Q8.半導体ってなんですか?
Q9.拡散電位ってなんですか?
Q10.アバランシェ(Avalanche)ってなんですか?
Q11.hfeとhFEはどう違うのですか
Q12.負荷線(動作点)ってなんですか?
Q13.B:基板ってなんですか?
Q14.チャネルってなんですか?
Q15.エンハンスメントってなんですか?
Q16.スレショルド電圧ってなんですか?
Q17.鳳テブナンの定理ってなんですか?
Q18.乗数・k・Mてなんですか?
Q19.電磁環境ってなんですか?
Q20.周波数比帯域とは何ですか
Q21.サージ電圧とは何ですか
■3. 要素技術■
Q22.接地形式の選択の基準はなにですか?
Q23.MOSの基本接続特性の違いは?
Q24.R1とR2の設計値の決め方は?
Q25.差動増幅回路の特長はなにですか?
Q26.能動負荷回路の特徴はなにですか?
Q27.定電流回路の特徴はなにですか?
Q28.負帰還回路の種類は?
Q29.負帰還回路における電圧利得の誤差とは?
Q30.異常発振周波数の目安はどの程度なのですか?
Q31.温度の影響を受けやすい部品は?
Q32.異常発振と間違いやすい雑音とは?
Q33.異常現象測定時の注意点は?
■4. 増幅回路■
Q34.CMOSオペアンプの利点は?
Q35.スルーレートとは何ですか?
Q36.同相信号除去比とはなんですか?
Q37.オペアンプでスピーカーを駆動できますか?
Q38.BTLアンプとは何ですか?
Q39.D級増幅器の効率はなぜ良いのですか?
Q40.発振はなぜおこるのですか?
■5. 電源回路■
Q41.レギュレータがコンバータとも呼ばれることがあるのはなぜですか。
Q42.反転型レギュレータとはどのようなものですか。
Q43.スイッチングレギュレータはどうして効率がよくなるのですか。
Q44.バンドギャップリファレンス(BGR)のもとになる電圧VBEとはどういうものですか。
Q45.電源回路の補助技術として、そのほかにはどのようなものがありますか。
Q46.白色LEDの点灯になぜ定電圧制御は用いないのですか。
■6. データ変換回路■
Q47.ディジタル変換の周波数特性はどのようになっていますか?
Q48.ディジタル変換のダイナミックレンジはどのようになっていますか?
Q49.ディジタルデータのサンプリング周波数とビット数にはどのような例がありますか?
Q50.ΔΣ(デルタ、シグマ)変調にはどのような特徴がありますか?
Q51.変換回路動作時に精度に影響するものには何がありますか?
Q52.アナログ回路で使われるベタアースとはどのようなものですか?
■7. 高周波回路■
Q53.部品の大きさや部品間の距離を無視してよい周波数の目安を教えてください。
Q54.インピーダンスのいろいろな「タンス」について教えてください。
Q55.分布定数回路のスタブとは何ですか?
Q56.負荷に最大電力を供給できるのはRs=0のときではないのですか?
Q57.50Ωや75Ωに整合することが多いのはなぜですか?
Q58.寄生発振はどうやって止めるのですか。
■1. アナログ回路の基礎知識■
Q1
回路網の計算手順は?
A1
電流が一巡する方向を決めます(図の例では、時計回り)。次に、電流の一巡する方向の起電圧を加算します。また、電流の一巡する方向の抵抗の電圧降下を加算し、両者が等しいとすれば、式が得られます。閉回路であることと、電流の向きによる電圧降下の極性に注意する必要があります。
Q2
デシベルの絶対値表現でほかに例は?
A2
無線通信では、1μVrmsを0dBの基準にした dBμがあります。家庭用のオーディオ機器などでは、音声信号レベル1Vrmsを0dBの基準にした dBVがあり、ほかに、音圧レベルの絶対値表記などもあります。
Q3
-6dB/oct 表現のほかに例はあるのですか?
A3
dB/dec(ディケード)があります。周波数を1桁(10倍)したときの減衰が10分の1になる場合、-20dB/dec と表記されます。 なお、ディケードは、decadeであり、オクターブは、octaveを略した表現です。
Q4
フィルタの種類は?
A4
フィルタは、異なる周波数の信号を分離するための回路です。LCRなどの受動部品で構成される場合やRC素子とオペアンプを使用したアクティブフィルタが実用化されています。代表的には、低域通過フィルタ(LPF)、高域通過フィルタ(HPF)、帯域通過フィルタ(BPF)、帯域除去フィルタ(BEF)に分類されます。また、ディジタル処理による、ディジタルフィルタなどもあります。
Q5
周波数特性と過渡応答特性の両方の必要性は?
A5
周波数解析は、入力信号の周波数を変化して特性解析をおこないます。交流の小信号解析であるため、大信号動作については考慮されず、このために動作点の移動などによる影響を見逃しやすいことがあります。
過渡応答解析は、時間軸での解析で信号レベルを含めた評価になり、実動作に近くなります。ただし、時間軸解析では、周波数の可変や収束計算などにシミュレーション時間を要します。いろいろな手法を組みあわせて、回路評価をおこなうことが望ましい解析になります。
Q6
平均値がゼロでないのはなぜですか?
A6
特性のばらつきが±に発生する場合、設計目標値や規格値の設定で、平均値をゼロにすることが一般的です。ただし、設計誤差や製造ばらつきなどにより、数多くの平均値においては必ずしもゼロにならないことがあります。また、製造過程においては、平均値の変動などもあるため、平均値の許容幅を決める場合もあり、規格の上下限値の設定などでは、ゼロを理想値とすることがあります。
Q7
SPICE解析の解析の種類は?
A7
次のような解析が可能です。
・DC動作点解析、・DC解析、・AC解析、・過渡解析、・ノイズ解析、・スペクトラム解析、・モンテカルロ解析などがあります。
■2. 回路素子と電子部品■
Q8
半導体ってなんですか?
A8
半導体は電流の流れやすい導体と電流を流さない絶縁物の中間に存在するもので、材料にドーパントと言われる添加物を加えることで様々な働きをさせられます。
不純物を含まない真性半導体は抵抗率がシリコンの場合4kΩm程度の高抵抗な材料ですが、添加物の種類により抵抗率が下がり、結合格子に正孔(ホール)があるP型半導体と伝導電子があるN型半導体が出来ます。この二種類の半導体材料を使って様々な半導体素子ができます。
Q9
拡散電位ってなんですか?
A9
P型・N型の両半導体を接続すると、接続箇所のところの正孔と電子は結合し電流が流れない空白地帯が生じます。これを空乏層と言います。シリコン半導体では0.7V程度の順方向電圧をかけると、空乏層が縮小することで、電流が急増するようになります。この順方向電圧を拡散電位と言い半導体材料や添加物の量で、ゲルマニュームの0.3V程度から、GaN(白色発光ダイオード)の3V程度まで様々です。 また電気的には、空乏層はコンデンサを形成します。
Q10
アバランシェ(Avalanche)ってなんですか?
A10
半導体素子に、耐電圧を超えて逆電圧をかけるとついには、電気的な破壊が起き電流が流れ出します。素子の中では電子雪崩 (electron avalanche)が起きて、強い電場の中で自由電子が加速されて半導体原子に衝突することで、新たな電子が叩き出され、これが電場で加速されてさらに別の原子と衝突して加速度的に電子数が増える現象が起きます。この現象を使ってフォトダイオードの感度を上げたり、定電圧ダイオードを作ることができます。
Q11
hfeとhFEはどう違うのですか
A11
hfeは小信号電流増幅率と言いバイポーラトランジスタではβと言われていました。hfeはhパラメータの一項目で、交流信号を使って測定され、周波数特性を持ちます。
一方hFEは直流電流増幅率といい、バイポーラトランジスタの直流ベース電流と直流コレクタ電流の比です。両者は微妙にその値が異なりますがほぼ同じ値を持ちます。
なお、βは時には直流電流増幅率の意味でも用いられます。
Q12
負荷線(動作点)ってなんですか?
A12
負荷線を使うことで、ダイオードや能動素子などの非線形回路の動作点(平衡点)が図解で容易に求められます。エミッタ接地の回路で考えると、コレクタ電圧が0Vの時の、コレクタ電流をIcとします。またコレクタ電流が流れないときは、コレクタ電圧は電源電圧Vccと同じになります。この二点を結んだのが、負荷線です。丁度、負荷抵抗の電圧電流特性をひっくり返したものとなります。
実際の動作点は負荷線と素子の特性曲線が交じる点となります。
Q13
B:基板ってなんですか?
A13
MOS-FETを半導体基板の上に構成すると、基板自体もゲートの役割を果たします。
これを、バックゲートとも言います。
特殊な回路構成では、バックゲートを活用した複合回路を組むこともありますが、通常はソースか接地に接続して使います。
集積回路では集積回路基板になりますので、回路的には接地となります。
Q14
チャネルってなんですか?
A14
FETではドレインからソースへ電流の流れる通路をチャネルまたはチャンネルといい、BJTのベース領域に対比できます。このチャネルに流れる電流値をゲート電圧で制御するのがFETです。nチャネル型FETはチャネルが電子で構成され、NPN-BJTと同じくドレインにプラスの電圧を加えて使いますが、pチャネル型FETではホールがチャネルを構成し、PNP-BJTと同じくマイナスのドレイン電圧で作動します。
Q15
エンハンスメントってなんですか?
A15
「エンハンストメント」と言うのは、ドレイン電流Idが流れるためには、チャネルがエンハンス(増える)されねばならいからです。「デプレッション」はその逆になります。
FETには、ゲート電圧を加えなくてもチャネルが構成され、ドレイン電流IDSが流れるデプレッション形と、ゲート電圧を加えることでチャネルが出来、ドレイン電流が流れるエンハンスメント形があります。
Q16
スレショルド電圧ってなんですか?
A16
エンハンスメント形FETで、チャネルが構成されドレイン電流が流れ始める電圧です。
厳密にはチャネル面(界面)がp型からn型に反転するなどの変化点で定義されます。
Q17
鳳テブナンの定理ってなんですか?
A17
どのような回路構成(Black Box)であっても、理想電圧源V0 と内部抵抗R0 からなる等価回路で評価できる、と言う定理です。図で二端子の開放電圧をV0として、ショートした時の電流を求めることでR0が算出でき、等価回路定数を定めることが出来ます。この定理により、非常に複雑な回路素子であるトランジスタなどの特性を単純化して示すことができます。
例えば、hパラメータなどの小信号等価回路定数を容易に求めることが出来ます。
Q18
乗数・k・Mてなんですか?
A18
電気回路は非常に範囲が大きい数値を扱います。(世の中で一番広いと言われています)
そこで、有効数字と乗数という形での表現をします。有効数字というのは誤差などを考えた時の必要最小限の桁の数字です。また乗数Nとは10のN乗を表す大きさで、有効数字と乗数で所要の数値を示します。よく使われる乗数は10の3乗を表すk(キロ)、10の6乗であるM(メガ)などの記号で表します。この様に三桁毎の区分けを持った、乗数の呼称を使います。
Q19
電磁環境ってなんですか?
A19
複数の機材があるとき、ある機材からの電源線や信号線を通じての伝導信号や機材からの無線線周波数の輻射によって、他の機器の動作が影響を受けること、また新たな機材が影響を受けることで、こういった問題を電磁環境と言います。
機材自身の内部でも同じような影響が出ることもあります。悪影響を防ぐためにはISOやJISなどの国内・国際ルールに則って、装置や回路の設計をすることが大切です。
Q20
周波数比帯域とは何ですか
A20
直流から超高周波まで、使える電子部品は稀です。
そのため、主にコイルトランスなどで、使える周波数帯域を示すときに使われます。
例えば比帯域が100と言うことは、100kHzから10MHzとか1kHzから100kHzまで、100倍の帯域幅を持っていることを示しています。もちろん技術が優秀であれば、比帯域が広がることとなりますが、一般的にそれだけ高価な部品となります。 なお、類似表現の比帯域幅は中心周波数に対する帯域幅を言います。
Q21
サージ電圧とは何ですか
A21
機器故障の原因の一つには、混触(電源とのショート)による異常電圧の印加や、信号ラインなどからの瞬間的な高電圧ノイズなどがあります。サージとは後者で、落雷時の地絡電流が誘導されてくるもの、信号線などの浮遊容量に溜まった電荷や人体に溜まった静電気などが一瞬回路に流れ込むものなどがあります。また、雷などで強い電磁界が発生し、電波となって回路の中にサージ電流を誘導させる例もあり、機器をしっかり導電体で覆いシールドすることが大切です。
■3. 要素技術■
Q22
接地形式の選択の基準はなにですか?
A22
入出力インピーダンスの違いと回路の構成のしやすさ、負帰還のかけ方などにより選択します。
それぞれの接地方式の特徴を活かして組み合わせることにより、各接続方式の短所を補うことが重要になりす。カスコード接続は、接地方式を複合化することにより、それぞれの特質を活かした接続事例の一つになります。
Q23
MOSの基本接続特性の違いは?
A23
表に示します。バイポーラトランジスタと似通った特性の傾向があります。
Q24
R1とR2の設計値の決め方は?
A24
VccをR1とR2で分割した添付の式がVBBになります。また、R1とR2の合成抵抗がRsに相当します。ベース電流の10倍程度の値をR1とR2に流すように設計するとhFEの影響が軽減できて、抵抗値設定の目安になります。ただし、抵抗値を下げると、入力段インピーダンスに影響がでてきますので、バイアス電流の安定度と増幅特性とのトレードオフになります。
Q25
差動増幅回路の特長はなにですか?
A25
下記が代表的な特長になります。
・差動入力の利得が大きく、同相利得が小さい。
・差動特性の対称性,相対性がよい。
・電源電圧変動や温度変化に影響されにくい。
・電源系やグランド系への信号のもれが少ない。
・同相信号に対する除去機能がある。
Q26
能動負荷回路の特徴はなにですか?
A26
電圧利得を大きく得ることができることや電源電圧の変動を受けにくいことがあります。
アナログICでは、特に低電圧対応に有効で、よく使用されます。
Q27
定電流回路の特徴はなにですか?
A27
定電流源の理想は、出力インピーダンスが無限大になり、電源電圧の影響を受けないことにあります。アナログICでは、高抵抗を作りにくいので、トランジスタで高抵抗の代替することや、能動負荷として使用されています。
また、共通した定電流源を基準にして、各回路へのバイアス電流として分配する設計がおこなわれます。
Q28
負帰還回路の種類は?
A28
基本の負帰還回路は、4種類になります。
入出力インピーダンスがそれぞれ変化します。
Q29
負帰還回路における電圧利得の誤差とは?
A29
1/βで期待される理想的な電圧利得と、実際に実現できる電圧利得間の誤差です。注意点は、電圧利得が増幅倍での数値比較になることであり、dBでの数値ではないことがあります。
Avo=60dBの例では、負帰還時の利得が、90.89倍になるために、-9.1%の誤差になります。
Q30
異常発振周波数の目安はどの程度なのですか?
A30
異常発振に特定の周波数領域はありません。
極めて低い極低周波から高周波領域までが対象になります。低周波発振は、多段接続された増幅回路で、電源系を介して発生することが知られています。電源インピーダンスを低く保つために、デカップリングコンデンサなどへの配慮が重要になります。
Q31
温度の影響を受けやすい部品は?
A31
あらゆる部品にそれぞれ特有の温度特性があります。回路動作や特性に影響を与えやすい部品としては、コンデンサと能動部品になります。
コンデンサも種類によって、温度特性が異なりますので、使い方や目的によって選択することが重要になります。例えば、高誘電率系のセラミックコンデンサは、一般に温度変化が大きく、大容量が得られるメリットがあるのですが、数十%の容量変化率になる場合があります。
Q32
異常発振と間違いやすい雑音とは?
A32
外部信号の混入や内部雑音があります。
特に、ディジタル信号が混在している場合、ディジタル信号の高調波成分と混同しないように注意する必要があります。
Q33
異常現象測定時の注意点は?
A33
オシロスコープやスペクトラムアナライザの入力インピーダンスに注意が必要になります。接続する回路に影響を与えないような高入力インピーダンスを選択する場合と、回路系に整合するインピーダンスを選択する場合があります。
インピーダンスのプローブを使用する場合でも、数十pFの容量成分が測定する信号端子に接続される可能性があるので、使用するプローブのインピーダンスが負荷となり、対象の測定回路に影響を与える可能性があります。
■4. 増幅回路■
Q34
CMOSオペアンプの利点は?
A34
バイポーラ入力のオペアンプに対して、CMOS入力のオペアンプは入力オフセット電圧や入力バイアス電流が小さいメリットがあります。また低電圧でも動作するため携帯機器など小型低消費電力用途に利用されています。
特にグランドと電源電圧にオペアンプの入出力レンジが一致するレール・ツー・レールアンプが低電圧化に有効であり広く用いられるようになりました。カスケード接続時にも動作レンジの損失がないメリットがあります。
Q35
スルーレートとは何ですか?
A35
スルーレートはオペアンプの応答性能(周波数特性)をあらわす指標です。入力に矩形波を入れて増幅すると、出力の矩形波の立ち上がり部分が傾きます。スルーレートはその傾きに相当し、出力電圧を立ち上がり時間で割った値です。一般にスルーレートが高いほどオペアンプの帯域幅がひろく周波数特性が良いとされます。
下図は増幅率0dBのボルテージフォロワーでスルーレートを測定する方法を示しています。
Q36
同相信号除去比とはなんですか?
A36
インスツルメンテーションアンプはグランド間の変動に影響を受けない差動増幅回路であり、二つの入力に同時に入る雑音の「同相成分を取り除く能力」に優れています。
この能力を同相信号(あるいは同相成分)除去比(CMRR:Common mode rejection ratio)と呼んでいます。二入力間の差成分には感ずるが同相成分には感じない割合を意味します。
オペアンプ単体では通常100dB前後です。
Q37
オペアンプでスピーカーを駆動できますか?
A37
一般にスピーカはインピーダンスが低く(4〜8Ω程度)、駆動電力(数百mW〜数十W)です。一方オペアンプの出力インピーダンスは大きく(数十〜数百Ω)、最大出力電流が小さい(数十〜数百mA)ので、パワーアンプと比べて充分な音量でスピーカを駆動することはできません。
しかし駆動電力の比較的小さい携帯機器用イヤホンは直接駆動することも可能です。
また、下図に示すようにオペアンプの出力段にトランジスタを追加し出力電流を増大させスピーカを駆動する方法もあります。
Q38
BTLアンプとは何ですか?
A38
BTL(Bridged Transformer Less)とは出力トランスがないという意味で、アンプが直接負荷を駆動する方式です。BTLでは反転アンプと非反転アンプの二つのアンプを組合せます。それぞれのアンプの出力を負荷に直結します。一方のアンプの出力に直流成分があっても、他方のアンプの直流成分と相殺してしまうので、スピーカーに直結できます。またアンプが二個になることで、出力電力は4倍になります。
Q39
D級増幅器の効率はなぜ良いのですか?
A39
A級B級増幅器の場合、出力トランジスタのコレクタ・エミッタ間あるいはパワーMOSFETのドレイン・ソース間の電力損失によって、出力デバイス自体が発熱します。
一方、D級増幅器の場合、電流源のスィッチング動作で出力電流を制御するため、デバイスのオン抵抗以外の損失は発生せず、発熱の少ない電力効率の良い増幅が可能になります。
Q40
発振はなぜおこるのですか?
A40
一般に出力の一部を反転して入力に加算する負帰還を持つシステムは増幅度が安定し電源変動の影響を受けにくい特徴があります。一方、出力の一部を反転せずに入力に加算する正帰還を持つシステムは出力が時間と伴に大きくなり不安定になります。オペアンプの場合、増幅作用は高周波になるほど一次遅れシステムとしての性質が強く出るため、位相遅れが発生します。負帰還回路を持っていても特定の周波数では位相が180°,540°,900°...回転しその付近の周波数域では増幅度が盛り上り、ノイズを起因として固有振動が発生します。これが発振現象です。
■5. 電源回路■
Q41
レギュレータがコンバータとも呼ばれることがあるのはなぜですか。
A41
整流器は交流を直流に変換するのみで、その出力電圧には変動分が残されています。それに対して出力電圧の一部をフィードバックして一定の電圧になるように制御する仕組みがレギュレータです。このレギュレータのうちスイッチングレギュレータは、入力電圧の直流を裁断してパルスを作り、大きさの異なる直流電圧を出力するという直流から直流を作ることからDC/DCコンバータと呼ばれます。
Q42
反転型レギュレータとはどのようなものですか。
A42
オペアンプは多様な使い方がされ、必要に応じてプラスばかりでなく、マイナスのバイアス電圧でも作動させます。プラスの入力電圧からマイナスの電圧を作り出すレギュレータを反転型スイッチングレギュレータといいます。反転出力を出す仕組みの基本となる部分はインダクタになります。
Q43
スイッチングレギュレータはどうして効率がよくなるのですか。
A43
リニアレギュレータには入力電圧が常にかかるとともに、電流が流れ続けます。それに対してスイッチングレギュレータでは入力電圧がPWM生成回路によってOFFにされる時間があります。OFFの間はレギュレータには電流が流れないことから損失が発生しません。基本的にはこれによって効率がよくなります。
Q44
バンドギャップリファレンス(BGR)のもとになる電圧VBEとはどういうものですか。
A44
バイポーラトランジスタのコレクタにバイアス電圧をかけるとベース・エミッタ間に電位差を発生します。これがVBEと呼ばれるものです。これは温度の上昇と共に低下するので、単独では基準電圧として用いることができません。温度が上がると電圧が増大する熱電圧(VT)という仕組みと組み合わせることでほぼ一定となるので基準電源として使うことができます。
Q45
電源回路の補助技術として、そのほかにはどのようなものがありますか。
A45
バイポーラ型トランジスタにおいてはスイッチング素子のON時には大きな過渡電流が流れて、電圧との積で損失が発生します。それを防止するために過渡電流が流れている間は、電圧がかからないようにするUVLO(Under Voltage Lock Out)という回路技術も使われています。
Q46
白色LEDの点灯になぜ定電圧制御は用いないのですか。
A46
機器によっては定電圧方式による制御も行われています。しかし多数個を直並列にして使うバックライトでは定電圧で駆動する場合に較べて、定電流制御の方がLEDそのものの特性のバラツキによる明るさのバラツキを小さくできる利点があります。このため定電圧方式はあまり用いられません。
■6. データ変換回路■
Q47
ディジタル変換の周波数特性はどのようになっていますか?
A47
ディジタルに変換できるのは直流からサンプリング周波数の1/2までです。
サンプリング定理によって正しく復元できるアナログ信号の最大周波数がきまるので、変換できる周波数には限界があります。
高い周波数まで変換するには、サンプリング周波数も高くする必要があります。
Q48
ディジタル変換のダイナミックレンジはどのようになっていますか?
A48
ダイナミックレンジはビット数で決まります。
ダイナミックレンジとは変換できる最大の電圧と最小の電圧の比率をあらわします。より小さい電圧の変換ができる方がダイナミックレンジが大きいことになるので、ビット数が多いほどダイナミックレンジが広くなります。1ビットで2倍、すなわち6dBに相当するので、16ビットでは96dBのダイナミックレンジが得られることになります。
Q49
ディジタルデータのサンプリング周波数とビット数にはどのような例がありますか?
A49
音楽CDのフォーマットを例にすると、サンプリング周波数は44.1kHz、ビット数は16ビットです。
サンプリング周波数は、もともとCD開発時に使われていたVTR録音の画像の水平周波数から導かれる48kHz, 44.1kHz, 32kHzの中から選んでいます。これは人間の可聴周波数帯域がおよそ20Hz〜20kHzというデータ(聴覚曲線)からサンプリング定理を満たす周波数となっています。
ビット数は音楽鑑賞で十分と考えられるダイナミックレンジ(音の強弱)96dBに相当する16ビットとしています。しかし人間が感じるダイナミックレンジは約130dBといわれ、音楽の生演奏は120dBになるものもあります。この場合はCDの96dBに入るように音源のダイナミックレンジを調整したり、一方では24ビット(144dB)など多ビットで録音する機器もあります。
Q50
ΔΣ(デルタ、シグマ)変調にはどのような特徴がありますか?
A50
デルタシグマ変調を利用したA-D変換器の長所は、
(1)原理的に1ビット変換なので精度が良い(2)高い周波数のノイズの除去が容易でSN比が高くできる(3)分解能を高くできる(20ビット以上も可能) などです。
短所は(1)オーバーサンプリングのためサンプリングレートを高くとれない(2)応答が遅い などです。
最近は高速のディジタル回路の実現により高分解能の変換器には積分型に代わって使用されるようになっています。
Q51
変換回路動作時に精度に影響するものには何がありますか?
A51
理論的な精度以外に実際の回路では部品などの精度、温度特性やノイズなどの影響を受けます。
・部品(基準電圧IC、抵抗器やコンデンサなど)の精度と温度特性
・クロック回路(サンプリングや再生時)の精度と温度特性
・ノイズによるアナログ信号の変動
ノイズ源、発熱部品などをアナログ回路の近くに配置しないこと、アースの取り方などの対策も重要です。
Q52
アナログ回路で使われるベタアースとはどのようなものですか?
A52
プリント基板で、多層基板の内層ほぼ全面をアース面として用いることで、アナログの高周波回路で用いることが多いです。
実際には信号線、電源線があるので、それ以外を広くアース面とすることでシールド効果が期待できます。
プリント基板上の細い信号配線に対して、「べた一面」にアースをとることからこう呼ばれるようになりました。
■7. 高周波回路■
Q53
部品の大きさや部品間の距離を無視してよい周波数の目安を教えてください。
A53
回路仕様によるので一概に言えませんが、電気長がλ/10を超えたら注意が必要です。たとえば、2.4GHzの信号の波長は真空中で125[mm]であり、プリント基板上では信号の伝搬速度が遅くなるのでおよそ68[mm]です。よって、部品の大きさや部品間の距離が[7mm]を超えたら高周波設計が必要です。もちろん、精度を要求される回路や高調波の位相が問題となる回路ではλ/100を無視できないこともあります。ひとつの目安としてとらえてください。
Q54
インピーダンスのいろいろな「タンス」について教えてください。
A54
インピーダンスにはさまざまな「タンス」があります。抵抗はレジスタンス、インダクタはインダクタンス、キャパシタはキャパシタンスです。インダクタンスとキャパシタンスをあわせてリアクタンスと呼びます。レジスタンスは電力を消費し、リアクタンスは信号の位相を変化させます。レジスタンスとリアクタンスをあわせてインピーダンスと呼びます。
インピーダンスだけでも高周波設計は可能ですが、複素数を含むので、インピーダンスの逆数であるアドミタンスを併用したほうが計算が簡単になります。レジスタンスの逆数をコンダクタンス、リアクタンスの逆数をサセプタンス、あわせてアドミタンスと呼びます。インピーダンスは直列接続素子、アドミタンスは並列接続素子の設計や計算に向いています。これらを総称してイミタンスと呼びます。
Q55
分布定数回路のスタブとは何ですか?
A55
スタブは反射波を積極的に利用した高周波回路で、フィルタ等に利用されます。図の例はオープンスタブとショートスタブです。入射波の一部はスタブの先端で反射し、遅延を伴って透過波と合成され、透過波の振幅や位相に変化を与えます。スタブの長さ、幅、および先端処理により合成条件が変わるので、透過電力特性を意図的に操作することができます。ω=1はスタブの電気長がλ/4となる正規化角周波数であり、オープンスタブでは入射波を遮断、ショートスタブでは入射波を透過します。LCを用いた集中定数フィルタと異なり、周波数軸で繰り返し特性となるのが特徴です。たとえば、オープンスタブはω=1, 3, 5, …で信号を遮断します。
このように、スタブにより高周波フィルタを実現することが可能ですが、反射波による入出力インピーダンスの乱れに注意する必要があります。
Q56
負荷に最大電力を供給できるのはRs=0のときではないのですか?
A56
おっしゃるとおり、Rs=0ではより大きな電力を負荷に供給できますが、最大有能電力の説明とは条件が異なります。最大有能電力とは信号源インピーダンスRsがある値として与えられているときに信号源から取り出し得る最大電力です。一方、ご質問の条件では信号源インピーダンスRs自体を小さくしていますので、負荷電力PlはRsが小さいほど大きくなります。
たとえば、信号源インピーダンスRs=50ΩのRF信号発生器から所望の電力を得るためには、負荷インピーダンスRLを50Ωにし、信号源から最大有能電力を引き出す必要があります。この条件では反射を生じないので、広帯域に安定した電力を得ることができます。しかし、Rsで全電力の50%を消費するので、総合電力効率は50%以下となります。そのため、パワーアンプ等の高出力系の回路ではRsを小さく設定し、総合電力効率を向上させています。最大有能電力と最大効率を得る条件は一致しません。
Q57
50Ωや75Ωに整合することが多いのはなぜですか?
A57
同軸ケーブル等の伝送路が50Ωや75Ωで設計されており、これらとインピーダンス整合するためです。これらの値は特性インピーダンスと呼ばれ、信号源インピーダンスや負荷インピーダンスを伝送路の特性インピーダンスに合わせると反射を生じません。
よく見られる50Ωや75Ωといった特性インピーダンスは、伝送路の通過損失最小化という観点で規格化されました。同軸ケーブルの通過損失は外部導体と内部導体間の絶縁体が空気や真空のときに最小となり、そのときの特性インピーダンスは約75Ωです。そのため、一時は75Ωがよく用いられましたが、絶縁体が空気だと機械的強度を保ちにくいので、比較的低損失なポリエチレンを利用するようになりました。絶縁体がポリエチレンのときの特性インピーダンスは約50Ωであり、現在では50Ωが主流となっています。
Q58
寄生発振はどうやって止めるのですか。
A58
高周波回路の評価中、意図せずに発振することがあります。これを寄生発振や異常発振と呼びます。発振を確認するためにスペクトラムアナライザ等の測定器を接続する際は、入力インピーダンスの高い高周波プローブを利用します。高周波プローブを利用しないと、測定器を接続したことにより状態が変わってしまうためです。
寄生発振を止める方法として、(1)電源の高周波インピーダンスを下げる(パスコンの強化)、(2)GNDの高周波インピーダンスを下げる(ベタアース)、(3)配線のリアクタンスを下げる(太く短く)、(4)配線間の結合量を下げる(距離を確保する、シールドする)、などが挙げられます。これらは雑音対策ととても似ています。
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