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国立研究開発法人 科学技術振興機構

成果を出し続けるための生き方を見つけ、他者の生き方も認めよう

物質・材料研究機構先端的共通技術部門 主任研究員
清水 智子

長い人生の中で、仕事と生活のバランスをどう取っていくか。どのような職業に就いても考える必要があるテーマだろう。終身雇用の枠が少なく、数年ごとに働く場所を変える可能性がある研究者という生き方であれば、なおさらだ。今回は、大学研究者の夫との間に子どもを持ち、自身も研究職を続ける物質・材料研究機構の清水智子氏に、出産・育児という女性の生活を一変させるイベントにフォーカスを当ててお話をうかがった。

・自分のスタイルや考えに合う、よい上司を見つける。

・人によって研究スタイルは多様。それを認めた上で、成果で評価する。

・数々のロールモデルからよいところを見習い、自分の生き方を考える。

働き続けるならば、尊敬できる上司のもとで

 清水氏が結婚したのは2006年、カリフォルニア大学バークレー校の博士課程在学中のことだ。すでに現在の夫と結婚しようという意志を固めていた当時、「卒業、結婚、就活、帰国という大きなイベントを同時期にしないように、先にできることからやっていこう」というのが学生結婚の理由だった。2歳上で、すでにポスドクとして働いていた夫とは、週末だけをともに過ごす、いわゆる週末婚の状態で研究を続け、2007年に博士号を取得。同時期に任期が終了した夫とともに帰国した。

 出産をしたのは、理化学研究所の川合表面化学研究室に勤めていた2008年11月。川合眞紀主任研究員(現 理事)に「私のラボにいる間に産んだ方がいい」と言われたのが出産を考えるきっかけになったという。出産前後には実験ができなくなるため、「結果を出せなくなってもいいんですか?と確認したのですが、『それでもいい。辞めないで、続けなさい』と言ってもらえたのは、とても恵まれた環境だったと思います」とその頃のことを述懐する。

 ワーク・ライフ・バランスを適切なものにするためには、自分の考えや仕事スタイルに合う先生・上司を見つけることが重要だと清水氏は話す。「この人のもとであれば働ける」と思える上司がいるかどうかは、職場を選ぶ上で大切な指標になるだろう。

自分のワークスタイルで、成果を出し続ける

 出産後、研究所への出勤時間にはそこまで大きな変化はなかったという清水氏。もともと8時30分に出勤して18時頃に研究室を出るというスケジュールであったのが、保育園に子どもを預けるために少し早く家を出て、迎えに行くために17時30分に研究所を出るようになっただけだ。ただ、学会や飲み会に行く回数は減らし、海外で行われる国際会議には年に1回だけ、本当に出る意味があると思う際にだけ出席するようにしたという。

 また、「細かい時間の使い方の効率を少しずつ上げていきました」と話す。子どもが特に手のかかる0~2歳の頃は、帰宅後に研究のことを考えることができない。だから、保育園から職場までの移動の間にその日の行動の優先順位を決め、研究室に着いてから真空ポンプの電源を入れ、PCの電源を入れた後でコートを脱ぐ、というように数分の待ち時間でさえ無駄にならないように行動するようになった。

 ゆっくりと丁寧に仕事を進めて長時間研究室にいるスタイルもあれば、できるだけ並行作業をして短い時間で仕事を進めるスタイルもある。「男女や出産・育児といった状況だけでなく、介護や、他の家庭の事情で研究の時間に影響が出る場合もある。ワークスタイルの多様性を認めた上で、生き方や仕事の進め方ではなく、成果で評価し合える環境であればよいと思っています」。その言葉通り、自身も成果を出し続ける、という決意が清水氏の表情からにじみ出る。

人それぞれの生き方を認め合おう

 清水氏は留学中に数多くの女性研究者と出会い、さまざまなロールモデルを見てきた。たとえば、子どもをひとり産んだ後に大学院に入学し、在学中に3人を出産、8年半をかけて学位を取得した女性。自分の目標を見失わず、意志を貫く姿が印象的だった。妊娠中にも授業を行っていた女性教員には、サポートするTAを増やし、つらいときには他の教員が自主的に授業を交代していた。制度面だけでなく、仲間をどうサポートするかを考えて行動する姿に共感した。そうした人生の先輩の姿を見て、「よいところをつまみ食いして、自分の生き方を見つけようとしています」と話す。

 また、自身だけでなく周囲の環境もよくしていこうと、男女共同参画に関する情報発信を続けている。「特に年配の男性の理解を得ることが大切ですね。自分の娘さんが同じ立場で悩んでいたら、どう助けますか?と問いかけてみると、理解してもらいやすいですよ」としたたかな一面も見せてくれた。

 今は、清水氏自身、家事は同じ研究者である夫と分担し、協力して子育てをしながら、研究者として生きている。「子どもを産んで、本当によかったと思います。産む前は不安だったけれど、こうやって身体を動かせるようになっていくんだ、こうやって言語を学んでいくんだって、成長のステップを見ているのがとても楽しいんですよ」。母として、研究者として、楽しみながら「自分の生き方」という道を拓いていく。「それぞれの人がそうして自分の道を歩みながら、個人個人の生き方を認め合って、お互いにサポートし合える環境をつくっていければいいですよね」。大変なときは、お互い様。仲間と支え合おうというひとりひとりの気持ちこそが、働きやすい環境をつくるのだ。

(取材・文 株式会社リバネス 2013年12月13日取材)

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