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国立研究開発法人 科学技術振興機構

社会の要請に沿うことが、 研究費獲得の第一歩

京都大学学術研究支援室 室長
田中 耕司

研究者として活動していく上で、最初の関門となる研究費の獲得。「研究者に伴走する」という表現を使う京都大学学術支援室では、研究費の申請から採択後のマネジメントまで多岐にわたるサポートを行っている。その中から、研究者が抱える課題とサポートを行う際の視点について、室長を務める田中耕司氏にお話をうかがった。

・採択された申請書だけでなく不採択だった申請書もあわせて網羅的に分析し、ノウハウを抽出する。

・研究費が公募された社会背景や意義を理解し、該当する研究が社会の課題に答えられるものであることを、申請書を通し審査員に伝えることが重要。

・適した研究費の公募に対して、効率よく応募するための情報整備を行う。

研究者と伴走するために

 京都大学には、学内での研究戦略方針を打ち立て実行していく「研究戦略タスクフォース」や、研究成果を産業界と結びつけていく「産官学連携本部」、研究成果をさまざまな対象に向けて学外に出していく「広報室」など研究を支援していく部署が多数ある。そのような中、「リサーチ・アドミニストレーター(URA)を育成・確保するシステムの整備」事業を受けて、2012年より正式に発足したのが京都大学学術研究支援室(Kyoto University Research Administration office; KURA)だ。「産学連携や研究成果の社会還元など、大学ごとにURAの業務や力点の置き方に違いがあります。私たちは研究現場により近く『研究者に伴走するURA』として活動を展開しています」。その大きなミッションは、研究推進に欠かせない外部資金獲得に向けて、提案書の書き方指導や各種手続きの支援などのPre-Award段階および、採択後に発生する研究費の会計管理や報告対応などのPost-Award段階での研究者支援、そして大学全体の研究基盤整備とされている。

 申請書作成の支援のために、KURAではどのようなことに取り組んできたのだろうか。研究者がひとりで申請書を作成すると、社会背景や目的が抜けた、自身の研究の魅力を盛り込んだだけの申請書を作成してしまったり、限られた時間の中で多くの公募に挑戦するために十分な準備ができていなかったりする。どんなにすばらしい研究でも「審査員に伝わる」申請書でなければ決して評価されることはない。そこで、過去に京都大学から提出された申請書の中で採択されたもの、不採択だったものを網羅的に分析することで、ノウハウを体系化した。さらにそのノウハウを冊子「科研費申請書の教科書~サステイナブルな研究活動を行うために~」としてまとめ、学内の研究者に配布した。その反響は大きく、申請書作成サポートに関する問い合わせがそれまでの10倍以上来ており、全体的に申請書のクオリティーは上がっていると田中氏は言う。

 また、書類審査が通った後にはヒアリングが控えている。審査委員に申請内容が伝わることを重視していた書類作成とは異なり、ここでは限られた時間の中でオリジナリティーや意義を的確に示していくための工夫が必要となる。そこで、プレゼンテーションのチェックをはじめ、想定質問への対応や他者との差別化に向けたアドバイスなどを含めた模擬面談なども行っている。

重要なのは、社会の要請を理解すること

 提出された申請書に対しアドバイスする際、KURAではある視点を重視しているという。それは、「なぜ、その予算があるのか?獲得することで何を成し遂げるか?」を考えることだ。「たとえば大型の研究費は、我々の税金を元にしているわけで、どういう経緯・狙いによって出された研究費で、採択された際は何をしなければならないのか。そこを明確にし、課題に答えなければなりません」。研究費の公募要領をよく読み込めば、申請書に必要とされる項目や視点などが明記されており、その社会背景をある程度知ることもできるという。研究活動・研究費獲得に向けたサポートを行っていく過程で、学内関係者の中に「研究者自身が研究の社会化と役割を考えること」に対する理解が深まっていく、それこそがKURAが設立された意義につながっていくと田中氏は言う。そのため、ただ資金を獲得するサポートに終わるのではなく、なぜそのファンドが出てくるのか、社会的背景や要望はどこにあるのかなどを分析し、自分たち自身が正しく理解するとともに、研究者に向けても配信をしていくようにしていると話す。

研究費へのアプローチを促進する

 拡大・整備途上であるKURAの業務は多岐に渡り、現在の体制には改善の余地はまだまだあるという。従来、科研費情報は研究推進課が、リーディング大学院等の大学院改革系の情報は学務課が、国際化に関する予算は国際交流課が、といったかたちでそれぞれ関連部局から事務や教員に情報が送られていた。研究者にとっては、自分の興味関心にかかわらず、メーリングリストで大量のメールが送られてきたり、実は重要な情報だったのだが関連部局のwebサイトにひっそりと掲載されていて気づいたら締め切り間近だったり......と、必要な情報を必要なときに効率よく手に入れることが困難な場面が多くみられた。KURAでも基盤研究(A・B・C)や若手(A・B)などの情報は広くメーリングリストでの周知を行い、大型の研究費に関しては、プロジェクトに必要と思われる研究者に対してピンポイントで勧誘を行うなどの対応を続けていた。そこで、あふれる公募情報の中から、興味関心などに合わせて効率よくアプローチできることを目指し、新たに研究環境基盤整備の一環として行われたのが外部資金公募情報サイト「鎗<やり>」の構築である。ここに各部局から、京大内にある公募情報のすべてが集約されていく体制を整えた。絞り込みやキーワード検索などで目的の研究費情報を手に入れることもできる。今後はGoogle Calendar等のスケジュールアプリとの連動や、E-mailアラート機能など、使用者のスタイルに合わせたカスタマイズを加えていくことで、より手軽に最適な研究費情報へアクセスできるようになっていくという。そこにKURAが行う的確なサポートが加わることで、京都大学全体の研究活性がさらに高まっていくはずだ。

 

(取材・文 株式会社リバネス 2014年1月13日取材)

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