早稲田大学研究戦略センター 教授
松永 康氏
複数の研究者が連携して予算規模の大きな研究を進める、大型プロジェクト。その立ち上げには、研究者同士、また研究者と支援スタッフとの連携が必須となる。どのようなテーマであれば、大型プロジェクトに成り得るのか。また、どのような研究者が参加できるのか。早稲田大学研究戦略センターでリサーチ・アドミニストレーターとして活躍する松永康氏にお話をうかがった。
研究戦略センターの見立てによると、約2,000名いる早稲田大学の研究者の中で、研究グループをつくり、大型プロジェクトを発足し得るのは、わずか10名程度だという。その少数の研究者が満たす条件は、実績があり、大学の方針と国の方針に沿った研究を行っているというものだ。まずは自分の分野で、論文数や外部資金獲得実績、国際的な共同研究の実施など、数値で表せる実績を積んでいなければならない。このひとつめの評価軸をクリアした研究者を評価する次の軸が、大学が掲げる大方針との整合性だ。早稲田大学では2032年に向けて教育・研究の質を飛躍的に向上させることを目的としたWaseda Vision 150を打ち出しており、その中で大学として強化する重点領域研究を策定している。
「重点領域研究には3年間の学内予算をつけ、さらに大型の外部資金獲得を目指して育てていきます」。そのためには、大学の方針だけで進めるのではなく、社会や国の動きを見極めなければならない。文部科学省や日本学術振興会が設置する大型予算を狙い、文科省等とのディスカッションも行いながら、政府の大方針を学内研究評価の第3の軸として加える。実績、大学の方針、国の方針の3軸による評価をクリアする研究者を束ね、ヒアリングを行った上で、新たな学内組織を発足するのだ。
松永氏はさらに、これらトップ研究者たちがなぜトップたり得たのかを明らかにするため、彼らのキャリアについてヒアリングを行った。その結果、彼らはみな、地道に研究成果を積み重ねる努力をしてきていること、過去に何らかの視点の転換のきっかけがあったことという2つの共通点を持っていることが浮き彫りになった。
転換のきっかけは留学であったり、他分野での利用の可能性に気づいたことであったりとさまざまであるが、いずれの人材も専門分野を深掘りした先で、それを別の視点で活かす可能性に行き当たったのだ。たとえば、ある教授は湿式めっきが専門で、二次電池用の電極に関する研究を進めていた。それを、三次元界面の設計・制御やナノ粒子/溶液界面の制御といった固液界面反応の厳密な制御による新規材料創製という視点に切り替えたことが、効率的な電池やセンサ電極、磁気記録装置用の素材など用途を大きく広げることにつながり、大型予算獲得に至ったという。
社会のニーズや他の研究を俯瞰しながら、研究者が持つ専門性を、専門以外に展開して活かす道に気づくことができれば、自然と他領域の研究者との連携を設計し、研究を育てていくことができるのではないだろうか。
大型プロジェクトの期間終了後のことを松永氏にうかがうと、まずは生命現象の解明から創薬につながる研究へ、といったようにテーマを基礎から応用に進めて次のプロジェクト予算を狙うとしつつ、「国の予算を狙うのは多くても2回まで。その先は、企業との連携に進まなければなりません」と話した。「1980年代、さまざまな民間企業が基礎研究の重要性に気づいて研究所を立ち上げたものの、それらは90年~2000年代に次々と閉じられていきました。その結果、大学での研究との連携を求めるようになっており、企業と大学との距離は近づいています」。このような状況の中で、大型の公的資金を活用して成果を固めた基礎研究は、適切な市場性を持つテーマであれば、企業にとっても非常に価値の高いものになるだろう。
組織や国の方針を読み解いて実績ある研究者のチームを組み、さらに研究の価値判断を行って産業界への出口を設計する。それが可能なのは、どのような人材なのだろう。必要なスキルは一朝一夕に磨けるものではないことは間違いなく、そのキャリアには、「少なくとも大学で大型プロジェクトの代表研究者を務めた経験、あるいは企業、官公庁でマネージャーの経験が必要」と松永氏は考えている。自らの研究テーマを突き詰めた先に、その中で得た経験をもとに組織の研究全体を活性化する人材が増えれば、研究成果の社会実装を、今以上に加速させていくことができるのだろう。
(取材・文 株式会社リバネス 2013年12月11日取材)
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