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国立研究開発法人 科学技術振興機構

産学連携のカギは創造力とポジショニング

三重大学地域戦略センター センター長
西村 訓弘

研究成果を社会還元するひとつの道としての産学連携。産業界と研究界が手を取り合うことで生まれる新たなイノベーションに多くの人たちが期待を寄せ、さまざまな取り組みが行われているが、なかなか成果に結びつかないのが現状といえる。その中でも、多くの成果を出し続けている西村訓弘氏に、産学連携のポイントと研究者が持つべき視点をうかがった。

・産学連携を生み出すために必要なことは、連携の先にある世界を創造すること。

・研究、教育と並ぶ重要な役割として産学連携を設定することが必要。

・自身の研究をポジショニングすることができれば、進む方向が見えてくる。

世の中のニーズを汲み取り、研究成果の応用を考える

 「企業には企業の、大学には大学の目的があり、そこに向かって活動を展開しているんだから、普通に考えれば産学連携なんて起こるはずがない」。そう言い切る西村氏だが、三重大学に赴任してから約10年間、大小さまざまな産学連携事例を手がけている。その代表例が、ゼブラフィッシュを用いて多数の化合物から薬剤ターゲットの探索や評価を効率よく進めるin vivo ハイスループットスクリーニング系の構築だ。プラスチックディッシュ上に培養した限られた細胞種を対象に評価する手法では、生体との環境も大きく異なり効能や副作用の正確な測定ができない可能性がある。そのため、生物個体をまるごと用いるin vivoスクリーニング、さらにハイスループット化(省スペース、高効率化)された方法が製薬企業等で模索されていた。その背景から、西村氏は医学系研究科の田中利男教授が薬理学の基礎研究として行っていたゼブラフィッシュの疾患モデルに注目。ゲノム配列がヒトと80%の相同性を持ち、主要組織の発生や構造もよく似ているというゼブラフィッシュの特徴を活かし、化合物スクリーニングへの応用を提案した。設立された「三重大学メディカルゼブラフィッシュ研究センターhttp://pgx.medic.mie-u.ac.jp/mzrc/」では、その独自性を活かして基礎から応用まで幅広い成果が出始めている。

企業と大学、異なる歯車を噛み合わせる

 ゼブラフィッシュは受精後72時間・体長2mm程度の段階で主要臓器がそろい、省スペース多数個体飼育が可能なため、ラットやマウスなどの動物個体を使った場合と比較して1/1000以下のコスト、ハイスピードで化合物スクリーニングが実現できる。これは、産業界の要望にも十分応える特徴となる。加えて、田中教授の持つ疾患モデルも活用できることは、速やかな研究成果に結びつくことが予想され、実際に製薬業界や食品業界などから連携の申し出へとつながる事例が増えてきている。一方で、田中教授をはじめ三重大学側にとっては、自身の生み出した研究成果が社会の評価を受け、活用されていく過程を知ることができるとともに、共同研究により得られた「実社会に則した知見」は新たな研究テーマへと発展していく可能性を秘めている。

 このように、普段噛み合うことのない企業、大学が、西村氏のもとではガッチリとスクラムを組み、成果を上げていく。そのポイントは、連携の意義やその先に見える世界を明確に描き、導いていくことにある。

産学連携を対等な立場にする

 現状では、多くの大学において産学連携機関は、附属の機関として設置されている。しかし三重大においては、その立ち位置に大きな違いがある。ひとつめは、産学連携・地域連携を専門とする西村氏が教授職に就いている点。そして、ふたつめが産学連携機関を教育や研究と並ぶ重要なポジションとして位置づけている点だ。「産学連携の組織が添え物として扱われている間は、外部からさまざまな人たちが来たとしても、学内研究者との交流が生まれることはありません。だからこそ、大学の中の研究や教育と対等な組織として、平成21年4月に地域イノベーション学研究科を立ち上げました」。地元企業の経営者が多数入学し、持ち込まれた自社の課題に対して、学内の研究者との垣根を超えた議論が繰り返される同研究科。6年目を迎える今年は、新たな研究棟ができ上がり活動の幅がより一層の広がることが期待される。

社会との接点が、成長を促進させる

 たとえ基礎系の研究に携わっていたとしても、社会に役立たなかったら研究を続けてはだめだと、西村氏は自らの考えを話した。5年先でも10年先でもよいので、いつどのように社会に関わっていくのか、それを見出していく必要がある。「誰かが活かしてくれる」という考え方はもう通用しないのだ。「私たちがプロとして対応していきたいと思う先生は、社会のために役に立つことを常に考えながら、その立ち位置を客観的に見ている研究者です。目標を立てないままに研究していても、いつまでたっても社会に役立つ成果は出ません。逆に、目標がはっきりすれば、戦略が立てられ、いろいろ試していく中で必ず成果に結びつきます」。そのために必要なことは、いろいろな立場・考えの人と触れ合っていくことだという。田中教授の事例からもわかるように、外部の人や機関と少し話すだけで、自身の研究の立ち位置が明確になり、研究者の意識が変わっていくのを何度も目の当たりにしているという。「これから、最も成長性が高いのは、企業ではなく大学かもしれない。とてつもなく優秀な人がそろっているが、社会との接点がない。だから自分の研究のポジショニングができていないんです。そこの意識が変わるだけで大学は大きく変わるでしょう」。これは、三重大学に限った話ではなく、研究者個人としての意識を変えていけば、誰しもが社会に、そして産学連携につながっていくことを示している。

(取材・文 株式会社リバネス 2014年1月17日取材)

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