研究者人材データベース JREC-IN Portal
国立研究開発法人 科学技術振興機構

連携を生むのは場やしくみでなく、
個人と個人とのつながり

岩手大学 理事・副学長
岩渕 明

企業との連携体制を組んで助成金を申請し、産学連携の研究を進める。研究成果の実用化を目指す研究者であれば考える道だろうが、そもそも連携相手をどのように探すかというと、教授のツテや産学連携部署からの紹介というケースが多いのではないだろうか。研究者自身が主体的に連携相手を探すにはどうすればよいのか。岩手大学で地元企業との産学連携体制を立ち上げてきた岩渕明氏にお話をうかがった。

・最も大事なのは、人と人とのつながりである。

・連携をきっかけにして自らの専門を広げていくことで、次の連携が生まれる。

・自らのコアとオープンなマインドを持ち、交流を重ねる。

有志の集いから立ち上げた連携プロジェクト

 岩渕氏は岩手大学において、1993年に地域連携推進センターを、2003年に工学部附属の金型技術研究センターを立ち上げ、大学と地元企業とが密な連携を組んで研究を進められる体制をつくってきた。そのバックグラウンドにあるのは、岩手ネットワークシステム(INS)という、岩手県の未来を考える有志の集まりだ。

 1987年に設立したINSは、大学や企業、自治体の若手~中堅が集まり、岩手県をどのように活性化していくかを語り合う場だった。「『いつも飲んで騒ぐ会』でINS、なんていうくらい、酒を酌み交わしながら本音を話し合う場でした」。メンバーが友人を誘うかたちでさまざまな所属のメンバーが増えていき、県の職員が入ると地域への助成金のしくみを解説するなど、会としてのネットワークと知識が少しずつ膨らんでいく。

 同じ頃、岩手大学から地域連携を主眼とした研究センターをつくる構想が持ち上がったが、設立には共同研究実績が20件必要であり、当時の実績では不足していた。そこでINSメンバーの中から連携できる企業が手を挙げ、大学教員とともに助成金申請を行って実績を増やし、地域連携推進センターが設立された。「すべては、顔が見える相手と一緒に『こういうことをやろう』とタッグを組み、実行のための予算を獲得することから始まっています。Face to Faceの集まりは何より重要ですよ」。産学連携体制の立ち上げに最も大事なのは人と人とのつながりだと岩渕氏は話す。

専門にとらわれすぎず、自分の枠を広げよう

 金型に特化した研究センターが立ち上がったのは、地域連携推進センター長であった岩渕氏が地元企業を訪問する中で、半導体産業用などの精密金型を扱う企業が多いことに気づいたのがきっかけだ。1998年、そのうち6社との共同で金型製造の技術研究を核としたテーマで2億5000万円の助成金を獲得してプロジェクトを立ち上げた。そして2003年、プロジェクトを継続するため、大学としてセンターを立ち上げたのだ。

 金型技術研究センターでの研究テーマは、金型が錆びるメカニズムの解明や硬質材料の研磨技術、プレス加工シミュレーションなど、企業のニーズから始まるものばかりだという。自らの知識を現場に活かすチャンスを求める教員が所属しており、企業の求めるテーマに合った教員を連携担当として、研究を進める。

 「企業のニーズが自分の専門とずれていたとしても、少しでも重なる部分があるなら手を挙げていける人が、産学連携での研究を進めています。連携をきっかけに勉強して、自らの専門性を広げていっているのです」。岩手大学では、新任の教員に対してコーディネーターが企業とのネットワークを紹介する、という動きをつくり、さらなる産学連携事例を生み出していこうとしている。

個人が知恵を持ち寄り、ネットワークをつくる

 地域連携推進センターや金型技術研究センターとINSとは、共同研究の実施主体とネットワーキング組織という関係性を保ちながら、常に新しいプロジェクトを生み出すチャンスを狙っている。INSは金型以外にもCO2やトライボロジー、地熱利用など44もの研究会を抱え、多種多様な業種の企業が大学との連携を構築しているのだ。有志の小規模集会から始まった組織は、今や1100名以上の個人会員、140以上の法人会員が集う大きな組織に成長。そして昔から変わらず岩手県の未来を考えて流動的に動き続けている。「法人化の話もあったけれど、任意団体の方が、自由度が高いからね。土日に活動して、フォーラムを開催したり、ディスカッションしたりしながら、決まったかたちを持たずアメーバのように活動しています」。

 こうしたネットワーク組織を運営する一方で、岩渕氏は「ネットワークは個人に依存する」とも話す。人の集まる場があったからといって、その場に参加すれば連携体制をつくれるというわけでもない。組織の中の誰かと積極的に話し、共同研究プロジェクトを立ち上げるなど具体的に物事を動かしていくことを通してでないと、人と人との関係性はつくっていけないのだ。「今、大学と企業とをつなぐコーディネーターの必要性が訴えられていますが、一定の教育を受ければ誰でもコーディネーターになれるわけではありません。生来の性格による向き不向きもあるし、何かコアになる知識や技術がないと、新しい情報の良し悪しを判断する勘も働かないでしょう。そういった意味で、博士号を持ち、外交的な人が向いているかもしれませんね」。

 産と学の手を結び、新しい価値を生み出していくためには、研究者も、企業も、コーディネーターも、皆がオープンマインドを持ち、外に出て交流することが必要だ。その中で互いに重なる部分を探し、足りない部分を勉強で補い、それぞれができることを広げながらプロジェクトを立ち上げていく。そうすることで、新たな人材が興味を持って集まり、産学連携の大きな動きをつくっていくことができるのだろう。

(取材・文 株式会社リバネス 2014年1月15日取材)

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