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国立研究開発法人 科学技術振興機構

正確性よりもわかりやすさを重視、
コンパクトにまとめたリリースを

日刊工業新聞社 論説委員 兼 編集局科学技術部 編集委員
山本 佳世子

研究機関から毎日のように出されるプレスリリース。メディアに研究成果を伝え、媒体に取り上げてもらうことが狙いだ。では、記者の目に留まり、取り上げられやすいプレスリリースとはどんなものだろうか。日々、科学技術に関する多くのプレスリリースに目を通している日刊工業新聞社の山本佳世子氏にお話をうかがった。

・新聞記事は相対的なもの。意外なネタが大きくなることもあれば、大きな成果がボツになることもある。

・プレスリリースは、ターゲットとする媒体を絞って、A4用紙2枚程度にコンパクトにまとめる。

・ゴールは、記者に記事を書いてもらうことではなく、記者を通して社会に伝えることである。

研究のインパクトと新聞記事の大きさは必ずしも一致しない

 新聞記事の形態は、大きく3つに分けられる。社会の新しい動きを追ったもので、紙面の中心を担う「ニュース」、特定のテーマについて、同じスタイルで継続的に採り上げていく「連載」、そして、コラムやニュースで報道された案件を、いくつかまとめて取り上げることなどで、特定のテーマを深掘りした「読み物」だ。プレスリリース(以下、リリース)の多くは、研究成果を「ニュース」として採り上げてもらうことを目的としている。

 連載や読み物は、会議によってテーマや担当記者を決め、早くから取材や調査などを始める。それに対してニュースは、日々の臨機応変な対応でつくられていく。翌日にどんな記者発表が控えているか、どんな記事が出せそうか、ということはある程度考えられているが、当日飛び込んでくる大ニュースもある。それを、各部に集まってくるすべての記事をチェックし、紙面のスペースを調整する「デスク」と随時やり取りしながら、その日の紙面に載せる記事を決めていくのだ。「本来なら大きく取り上げられるべき研究成果が、たとえば政治や経済などの大きなニュースとぶつかったことによって、ボツになったりとても小さな扱いになってしまったりすることもあるんです」。リリースの内容と記事の大きさは必ずしも一致しないのだ。

 一方で、「リリースが記事になりにくい時期」というのも存在する。「年末、年度末はものすごく混みます。12月半ばにリリースが来ても、他にもたくさんニュースがありすぎて、せっかく書いてくださったリリースも端から捨てる、ということもあります」。研究成果なら年明け1月のリリースでも問題ないものもたくさんあり、「もったいないですね」と山本氏。また、木曜日・金曜日といった週の後半に出したリリースの場合、その日の紙面からはみ出して後ろに送られた結果そのままボツになる可能性も高いという。

リリースは、相手を絞ってコンパクトにまとめる

 新聞記者の一日は忙しい。「自ら見つけたニュースや1か月後の特集記事の取材に出かけ、調べものをして、という活動をベースにしながら、日々のニュースを追いかけています」。20分間しかない空き時間で、ニュースを1本書かなければならないときもある。そんなとき、パッと見ただけで「ポイントはここだな、それなら前文はこう書いて、見出しはこんな感じにしてもらおう」、というところまでイメージができるリリースでないと、ごく短時間で記事を書くことはできない。

 たくさん届くリリースの中から、どれを取り上げるか。判断するポイントのひとつ目は、タイトルを見て「これはおもしろそう」と思えるか。そして、枚数が多すぎないかだ。枚数が多いリリースは「見るのが億劫ですし、実際に見る時間もないのです」。分量が多くなってしまう要因のひとつとして、「いろいろなメディアに取り上げてほしい」という欲求があるのでは、と山本氏は話す。「専門誌にも、全国紙の科学部にも、地元の新聞にも取り上げてほしい。しかし、媒体によって記者の持っている知識や取り上げたいポイントは異なります。それをひとつのリリースですべてカバーするために、とにかくたくさん書いてしまっているように思います」。それよりは、A4用紙2枚くらいにその成果のおもしろさを圧縮して書いてもらった方が記者へのアピールになる、と山本氏。「たとえば、『全国紙に載せてもらうのは難しそうだから、地域色を足して地元紙メインのリリースにしよう』とか、『これはとても大きな話だから全国紙向けにつくって、地元紙のほうは参考として流そう』というように、焦点を絞った方が、リリースも書きやすいですし、誰向けの資料なのかわからないと、結局どの記者も扱わない、という残念な結果になることもあります」。

自分の研究と社会との関わりを、メディアを通じて考える

 ときどき、掲載された記事を見た研究者が「本文は正しいのだが、見出しがややセンセーショナルで困った」というケースがある。実は、見出しは記者ではなく、新聞社の「整理部」という部署のスタッフがつけている。「整理部は、記者が書いた記事だけを見て見出しをつけることがほとんど。つまり、何も知らない一般の読者はこの記事をそういうふうに見ている、ということなんです」。見出しは、その記事を社会がどう見るかを象徴している。「だから、研究内容を記者にわかってもらって、記事を書いてもらうところが最終じゃないんですね」。研究機関にとって、記者はリリースをもとに研究成果を記事にしてくれる大事な役割の人だ。しかし、「記者を通して社会に伝えている」ということを忘れないでほしい、と山本氏は話す。自分の研究が社会とどう関わっているのか、それを知るきっかけとしてもプレスリリースはよい機会になるだろう。

(取材・文 株式会社リバネス 2014年1月21日取材)

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