オリオン機械株式会社 専務取締役 開発本部長 吉岡万寿男 氏

産業機器や酪農機器の開発型事業を推進

Q:まず、御社の概要をお聞かせください。

A:もともとは酪農の搾乳機や真空ポンプを作る町工場からスタートしました。そこから牛乳を冷やす冷凍の技術が派生し、チラー、エアードライヤー、空調機、ヒーターなど、どんどん事業が広がっていきました。現在は酪農機器が約2割、産業機器関係が8割で、その産業機器関係の7割が冷凍、空調機器です。冷凍、空調機器は、どんな工場でも欠かせませんから、産業の様々な分野で当社の製品が必要とされています。

Q:これまでの人材採用の実績を教えてください。

A:毎年10人程を採用し、技術系は学士・修士が半々程度です。即戦力となる博士人材も欲しいのですが、マッチングに苦労していました。日本全国を回って採用するようなことができたら良いのですが、我々のような中小企業だとそこまでするのはなかなか骨の折れることだというのが本音なのです。 そんな折、信州大学が主催する企業と学生のマッチング会に参加したことがきっかけとなり、当時博士課程2年生だった学生をインターンシップで受け入れ、採用に至ったという事例があります。

インターンシップで博士人材のポテンシャルに手ごたえ

Q:その博士人材の採用は、どのような経緯でしたか。

A:マッチング会では、学生が企業の前でプレゼンテーションを行います。研究発表が主なのですが、私からの要望として「学生の人となりが分かるよう、自己紹介も織り交ぜていただくように」と大学側にお願いしました。というのも、研究発表だけに特化してしまうと、企業の人間でも専門の話を十分に理解するのが難しいのです。 出身地や趣味の話、将来の希望などを15分程度にまとめてもらい、個性や総合力に焦点を当てて傍聴していました。その場で光っていたのが前述の工学部の学生です。ハッキリとして明るさがありましたし、プレゼンを相手にわかりやすく伝えようとする姿勢がありました。かつ、野球をやっているなどの趣味も持っていて、表情もイキイキとしていて、非常に好感を持てました。

彼自身は金属材料を専門にして発電所のタービンなどの研究をしていたのですが、「研究の分野にとらわれず、企業で活躍したい」という考えを持ってくれていて、当社でのインターンシップに結びつきました。


Q:インターンシップの内容はどのようなものですか。

A:植物工場のエネルギー・熱関係を担当してもらいました。地元の名産であるブドウのハウス栽培で、暖房などの熱エネルギーを効率よく利用するための方法の研究をテーマとして与え、インターンシップ期間の3ヶ月で研究内容をまとめるというものです。 当然、顧客を意識することやコスト計算なども発生するのですが、大学での研究ではそこまで考えていなかったようで、新しい発見も多くあったようです。

また、「オリオンはディスカッションの時間が多く、多くの人とコミュニケーションを取りながら考えることができた点が良かったし、研究開発から製品化まで関わりながら現場に行く機会も豊富」と言ってくれ、入社への気持ちが大きくなってくれたようです。


Q:専門外の分野で仕事をされたわけですが、技術の違いやギャップを互いにどのように埋めていかれましたか。

A:エネルギーと金属材料ということで分野は違うのですが、金属製品は腐食が大きな問題となりますから、金属材料という彼の持っていた専門は一部では我々に欠かせないものでしたし、他の社員にアドバイスをしているようなシーンも見受けられて、これは非常に有益な人材だと見ていました。それに、アプローチの仕方や市場調査の方法など、ポテンシャルの高さを感じました。

もちろん、最終的に当社に就職していただけるかわからない部分はありましたが、大学院でしっかりと教育された博士人材のプレゼンテーションノウハウやデータのまとめ方、考え方などは当社の若い社員には勉強になるので、インターンシップとはいえ博士人材を採用したメリットは非常に大きかったと思います。

オリオン機械株式会社 専務取締役 開発本部長 吉岡万寿男 氏

Q:採用の過程はどのようなものでしたか。

A:インターンシップ終了後は大学に戻って博士論文を書くことが必要だったのですが、その間も連絡を取り合っていました。その間も入社の意思を持ち続けてくれていたことはありがたかったです。彼には「最終意思確認のため、一応は通常通り一次選考と社長との面談を経て、社長と私とで最終面接をするからね」という話をして、採用の流れに沿ってもらいました。


Q:インターンシップでマッチングした好事例だと思います。

A:書類選考だけなら「専門が異なる」と採用担当に弾かれてしまっていたかもしれません。しかし、実際に人材と会って意欲や協調性などを感じることも重要ですし、平均的に優れている粒ぞろいのチームではなく、時には個性的な人がいて、ムードメーカーがいて…という形で良いのではないかと思うのです。彼自身、インターンシップで得た視野から多くの研究に取り組むことができたと言ってくれていますし、我々も得るものが多く、互いにwin-winの関係になることができた好事例として受け取っているので、継続的にインターンシップの受け入れをしていきたいと思っています。

海外出張や短期駐在などで、積極的に世界へ発信

オリオン機械株式会社 専務取締役 開発本部長 吉岡万寿男 氏

Q:採用した博士人材のキャリアパスをどのようにお考えですか。

A:まず1年ほどは基礎を身に付けるため、課題と締め切りを与えながら研究・社内プレゼンを行います。その後は本人の希望も考慮しながら海外の技術部門のコントロール役として、タイ、中国、台湾などに1年間駐在します。現地に行くと営業から何から全部やるわけです。技術屋が行くと現地でも重宝されますし、成長・経験という意味ではとても大きな意味がありますね。その間も日本の技術部門とコンタクトを取りあい、3か月ごとに帰国しながらですので、技術や情報の面で後れを取るということもないようなスケジュールを組んでいます。

Q:博士人材に期待することは。

A:主に熱関係を専門とする人材はとても欲しいのですが、そもそも我々が博士の基礎力をとても評価しているので、「専門は他の分野だが、熱関係にも挑戦してみよう」というような志があればまったく問題はありません。また、オリオン機械は「産業機器、酪農機器の各市場でシェアNo.1を目指す」を経営戦略の柱として積極的な海外展開を行っており、先ほど言ったように海外と日本を往復しながら力を試していくことのできる体制も整えていますから、幅広い将来を描くことができると思います。


Q:最後に、就職希望者へのメッセージをお願いします。

A:学生の皆さんは自分の専門と異なる分野に挑戦することに不安を感じることもあると思います。しかし、当社には大学での専門分野とは多少違いながらもインターンシップを経て入社し、社内で高い評価を得ている先輩の例もあります。また、企業にはそれをバックアップする体制や先輩方もそろっています。

就職後の勤務地についても都会優先の方が多いように思いますが、地方には温泉や食べ物、登山、スキーなどそれぞれの場所に特徴があり、生活を楽しむことができると思います。

ぜひ、自信を持って新しい分野、新しい場所での生活にチャレンジして欲しいと思います。

取材2014年6月