中外製薬株式会社研究本部 創薬企画推進部長 森川一味 氏

独自の最先端研究とグローバルネットワークを強みに

Q:まず、御社の概要をお聞かせください。

A:日本橋に本社を構え、富士御殿場(静岡)、鎌倉(神奈川)、浮間(東京)の各研究所と工場3か所および営業支店11か所の国内事業所を有しております。スイスのロシュ社と戦略的アライアンスを組んで締結しており、国内外での医療用医薬品の展開や販路の拡大が実現した点、海外のメガ・ファーマが保有する大規模な化合物ライブラリーなどのインフラを共有している点も大きなアドバンテージとなっています。近年では、国産初の抗体医薬品である関節リウマチ治療薬を世界100か国以上で展開しており、また、現在申請中である非小細胞肺がんを対象とした新規低分子医薬品も有効性を示しており、さらに期待される医薬品の開発が進んでおります。

中外製薬株式会社研究本部 創薬企画推進部長 森川一味 氏

創薬研究の即戦力を中心に、ポスドク経験者のスキルを重視

Q:採用に関してはどのような方法をとられていますか。

A:キャリア採用では、Web上でのエントリー、適性試験、書類審査を通過した人財に複数回の面接を行うという流れです。新卒採用はこれに会社説明会が加わります。キャリア採用の場合は新卒採用と同じ職種を募集したとしても、求める経験や応募資格(リーダークラスなど)が異なります。

複数回の面接の中で、部長面接ではプレゼンテーションと質疑応答を行います。ここでは、これまでの専門分野の中でどのような研究をしてどのような成果をあげたのか、さらにはそこで発見した課題も明確にした上で、その両方を客観的かつ合理的に説明ができるかどうかが注目するポイントです。


Q:キャリア採用では、博士号保有者、もしくはポスドク経験者という採用条件もあり、企業として博士人財に価値を見出しておられると感じます。

A:研究者としてトレーニングされた博士号保有者、ポスドク経験者には即戦力となることを期待しています。研究本部の新卒・キャリア採用は、それぞれ合わせて年間十数名~数十名を採用しておりますが、その中の1/3~1/2が博士号を保有し入社しています。

ポスドク経験者においては、複数の研究機関での研究歴を有し研究者間での人脈が厚いということが、企業研究者としても好ましいことと考えます。国内外のラボで培った人脈は、創薬研究を行う上でも重要な社内外のネットワークの構築においてメリットがあると思います。また、様々な環境下で経験を積むというのは、その分多くの研究課題や指導者に触れる機会があるということですから、それは即ち視野の広がりや引き出しの数につながり、ポスドク経験から得られる価値は大きいと思います。

Q:博士人財の配属は、基礎研究がメインになるのでしょうか。

A:医薬品の製品化の過程には、図に示すように基礎的な研究から臨床に関与する研究まで複数の段階があり、それぞれの段階で専門性を必要とします。博士人財の活躍の場は必ずしも基礎的な研究に限られるわけではありません。開発部門でも薬理をはじめとした様々な専門的な知識を必要としますし、創薬工学の仕事においては機能に応じた専門的な技術や知識が必要になり、それぞれでポスドクのような訓練された研究者の活躍の場があると思います。さらには、医薬品の研究開発の経験を積んだ上で、医薬品の研究開発全体を理解して統括していくプロジェクトリーダー的な仕事も将来の活躍の場の一つであると思います。


中外製薬株式会社研究本部 創薬企画推進部長 森川一味 氏

Q:博士号保有者やポスドク経験者の活躍状況はいかがでしょうか。

A:研究本部では、海外研究所のポスドクを経験して、現在リーダーとして活躍している人もいます。また、多くの博士人財が各セクションにて能力を発揮し活躍しております。

専門性の追求とチームワークへの姿勢を評価

Q:博士人財に期待する専門性やスキルはどのようなものでしょうか。

A:創薬は、多くの専門分野からなる研究活動によって成立し、分子生物学、薬理学、遺伝子工学、有機化学、薬物動態学、毒性学など多くの学問の基に研究が進みますが、それぞれの分野で深い専門性を必要としています。入社後は異なる専門性を持つ研究者が一緒になって創薬に取り組むため、自分の専門以外の研究分野にも関心を持ち、また理解に努め学際的な視点でディスカッションを行うことも多くなります。入社までに個々の専門性をできるだけ深めておくことは重要なことではないかと思います。

加えて、研究論文の読解力を高め、各分野で起こっている最新情報を常にキャッチしておくことや、自分たちが行っている仕事を内外に説明できる力などは、研究者の姿勢として重要と考えます。


Q:必ずしも専門領域にマッチしていない人財の応募に関してはいかがですか。

A:前述した専門領域以外の方を除外しているわけではありませんが、「中外製薬の中で自分の専門性をどのように活かしていきたいのか」について、質問させていただくことになると思います。製薬企業の活動というのは組織横断的になりますから、個々の専門性をもって研究以外の部門でも活躍できる機会があります。研究で行う仮説を立て検証するというプロセスは、どの部門においても課題を抱え解決を図る上での基本となりますから、そこに対する姿勢は人財のベースになります。熱意のある方はぜひチャレンジしていただきたいと思います。

Q:最後に、博士人財へのメッセージをお願いします。

A:ひとつは先述したように自分のコアとなる専門性を確立し、その領域でのより深い知識とスキルを身に付けておいて欲しいということです。今まで積み上げてきたことのベースをさらに発展させる場が会社だという意識が重要だと思いますし、また自己研鑽できる環境もあります。

そして、我々の重視する点はチームワークです。周囲の人の話を聞き、自分のポジションを理解し、力を補い合い、互いの知識と行動をリスペクトし合うこと、そして部門や年齢などの枠を超えてコミュニケーションすることなど、全てがチームワークにつながります。 自分たちが携わっている仕事に対する社会的価値を理解すると、進むべき道が見え、自ずとモチベーションが高まります。世界中に薬を求めている人がいて、薬の開発、販売を通じてその思いに貢献できるのです。このことに誇りを持って共に進んでいくことを望んでおります。

取材2014年5月