中外テクノス株式会社 取締役 環境事業本部長 村岡 裕彦 氏

世界的な課題である環境対策をサポートする事業を展開

Q:環境事業がメインの会社と聞いていますが、具体的にどのような事業を展開されているのでしょうか。

A:中外テクノスは一言で言えば、調査会社です。メインになっているのが環境事業で、環境分析、環境コンサルティングを行っています。特に、最近話題になることが多いCO2削減、地球温暖化防止に力を入れています。環境事業以外でも、道路・トンネルなど社会インフラの劣化や耐震性等の調査・計測、上下水道設備・ゴミ焼却場などの電気計装設備の販売・据付・保守管理、航空機・車両の設計時に必要となる強度・流動解析、金属・炭素繊維強化プラスチック材料の試験・分析、輸送機・機械の設計に関わる変位・振動測定など、広い分野で調査・分析サービスを提供しています。


Q:調査・分析以外の事業もありますか。

A:例えば、東京都のCO2排出権取引(キャップ&トレード)のお手伝いをしています。都内1300事業所(2015年)の取引をサポートしており、世界的に見てもかなりの規模のシステムです。


Q:研究開発はどんなことをされているのでしょうか。

A:福島原発の廃炉に向けた仕事をしています。廃炉用の遠隔操作ロボットや、放射性物質の拡散を防ぐ装置を開発し、どのように廃炉を進めるかを研究中です。今年の春には地元のメディアや、NHKでも取り上げてもらいました。開発拠点を今年完成させ、その中に原子炉格納容器の一部を実寸大で再現して、実験を進めています。この分野は高い技術力が必要で、今後さらに技術を磨いていきたいと思っています。

また、CO2モニタリングシステムの開発も行っています。地球温暖化防止のため、発電所で発生したCO2を地中に埋めるのですが、地中からのCO2の漏れを監視する必要があります。そこで、モニタリング装置を開発して、カナダの電力会社で現在実証実験を実施中です。この開発では博士人材が活躍しています。

中外テクノスは大手企業と違って、確固とした研究部門は持っていませんので、各事業部が必要な時に必要な人材を集めて効率的に開発するというスタイルです。これは中堅企業にとって、開発スピードと柔軟性の観点で良いシステムと思っています。

Q:開発スピードや柔軟性という点で良い開発例はありますか。

A:昨年入社した新入社員に何か新しいことをやってみないかと、自由にやらせてみたところ、クラウドファンディングの提案を出してきました。本業とは少し離れるのですが、今年の9月からサービスを開始しています。一種の社内ベンチャーですね。この事業は、中小企業に特化して、中小企業の隠れた技術を活用するために、民間から資金を集めて、製品化することが目的です。このシステムを使えば、ファンディング、製品化協力企業の発掘、製品化後の販売(E-コマース)まで一貫してサポートできますので、世の中のお役に立つのではと期待しています。

このような新事業立ち上げは、3年ほど前からトライしてきました。入社後10年位の社員に担当させたのですが、やはり入社して10年も経つと会社の枠に染まってしまうので、全く新規なアイディアを出してもらうという点では難しいと感じました。そこで新入社員に任せてみたところ、面白い提案が出たわけです。


中外テクノス株式会社 取締役 環境事業本部長 村岡 裕彦 氏

多様な人材を採用、新事業の立ち上げで博士人材の専門能力を期待

Q:今後特に強化したい分野は何でしょうか。

A:会社として力を入れているのは原子炉の廃炉関連事業ですね。先ほどお話ししたように、実験設備を専用で作りましたし、投資もしています。先の長い仕事ですが、これから廃炉となる原子炉も数多く出てきますので、基幹となる事業にしていきたいと考えています。この分野は技術者が不足しています。採用の努力をしているのですが、なかなか技術者が採用できず、困っている状況です。そこで、ロボット技術など関連する専門分野の博士人材もぜひ採用したいと思っています。また、新規事業の提案でも博士人材の専門能力、大学などとのネットワークに期待しています。そのため、博士人材については“ドクター手当”を付けて給与面でも優遇しています。


Q:その採用活動ですがどのようにされているのでしょうか。

A:年に20人から30人程度を採用しています。新卒の場合は学部、修士、博士と分けずに、大卒以上という枠で募集します。会社説明会を実施して、希望者に残ってもらい、グループ面談で絞り込み、2次面談、役員面談で決定します。成績証明書は提出してもらいますが、筆記試験は実施していません。専門分野の指定はしていないので、文系の方も応募されます。例えば、法律専攻で営業職に就くなどの例があります。

博士人材の応募も期待しているのですが、なかなか応募してもらえず、苦戦しています。また、学生さんは当社を環境調査会社と見ているようで、環境以外の事業に応募する人が少ないのが問題です。会社の内容をよく知ってもらい、博士も含めて多様な人材に来て欲しいですね。


中外テクノス株式会社 取締役 環境事業本部長 村岡 裕彦 氏

Q:会社を知ってもらうためのインターンシップ制度はあるのでしょうか。

A:2種類のインターンシップがあります。大学で単位となる2週間程度の長期のインターンシップと、会社訪問的な3日間のインターンシップです。後者は当社への就職を考えている学生に会社を知ってもらうためのものです。共に学部、修士、博士関係なく希望者を受け入れています。

Q:採用後のジョブマッチングはうまくいっていますか。

A:応募者の専門と採用後の仕事がぴったり一致することはほとんどありません。そのため、当社では応募書類に希望する仕事を指定してもらい、面談の際に相談して、内定を出す時に配属先と仕事を決めています。博士人材については専門分野での能力を期待しますが、専門分野の間口は広く考えています。例えば、ロボットの研究開発ができる人材を募集する場合は、専門がロボットそのものでなくても、多少でも関連するような専門で何ら問題ありません。


Q:中途採用についてはいかがでしょうか。

A:中途採用では博士人材を採用することが多いです。30分から1時間程度の面談で採用を決定します。中途採用の場合には目的がはっきりしており、専門分野、スキルを明確にして募集します。

今年はインド国籍の博士人材を採用しました。広島大学の先生から環境分析に従事していたインド人がいるが中外テクノスで採用を検討してもらえないか、というお話しをいただき、面談の結果、採用を決定しました。今後の事業での海外展開を考え、今後も英語の出来るグローバルな人材を新卒でも出来るだけ採用したいと考えています。


Q:広島大学とは普段からおつきあいがあるのでしょうか。

A:広島大学は地元の大学ですし、広島大学が中心となって推進している”未来を拓く地方協奏プラットフォーム”にも協力しています。これは、産官学がコンソーシアムを形成して、若手研究者の育成、地域の課題解決、イノベーション創成を目指している取り組みです。その活動の一つとして“未来博士3分間コンピティション”があります。博士課程の学生が自分の研究のビジョンや魅力を3分間で分かりやすく伝えるスピーチ大会です。当社では中外テクノスの認知度を上げることを目的に、“中外テクノス賞”を提供しています。受賞した博士人材を採用したいという目的も当然あります。


Q:採用面談で特に気をつけていることはありますか。

A:最近の学生さんの面接をしていると、良いと思う人はどの企業に行っても良いと評価されるようです。“明るい”、“ハキハキしている”、“自分の主張がしっかりしている”という方ですね。ただ、私は企業としてはそのような人だけではやっていけないと思います。“根暗だけど専門的には優秀な方”とか、“口下手だけども仕事をさせたら優秀な方”も必要で、私は評価して採用しています。プレゼンが上手くても研究が出来るとは限りませんし、ノーベル生理学賞を受賞された大隅先生のように基礎研究をずっとやる人も企業にも必要です。適材適所を考えて採用しています。

学生の方には英語の重要性を認識して欲しい

Q:博士人材に期待することとはなんでしょうか。

A:博士人材に期待することは専門性とその分野での経験です。当社では博士人材はほとんど中途採用で、採用の目的が明確ですから、その人のキャリアが必要とする専門能力と合致するかで採用の判断をします。ただし、研究開発はすべてが成功するわけではないので、方向転換するケースもあります。そのような場合は博士人材の課題発見能力、外部とのネットワーク、提案力に期待することになりますし、博士人材はそのようなスキルを持っていると思っています。例えば、当社ではバイオの研究者が多いのですが、新事業の候補として、次世代シーケンサを使った新しい遺伝子解析業務など新しいテーマを検討しているところです。

Q:最後に、博士人材にメッセージをお願いします。

A:博士人材に限らず、面接に来られた方によく言うことがあります。英語の重要性です。英語が弱い人が非常に多いですね。これから5年、10年先には国内で仕事をするにしても海外の人と働く機会が多くなります。私の事業部ではベトナムでの事業展開を進めていて、今でも英語で苦労しています。私自身も勉強していますが、この年になっての勉強は難しい面がありますね。若い人はグローバルに活躍して欲しいので、英語をぜひ勉強してもらいたいです。

また、博士人材の方には信念と自信を持ってやって欲しいと思います。テニュアトラックなど有期の仕事に就いている方が多いためかとも思いますが、自分のキャリアプランに何か迷いがあるのかなと思う時があります。専門分野での高度な知識と経験を持っているわけですから、自分が決断すれば民間企業でパーマネントな職に就くことも出来るはずです。実際に、当社で採用した博士人材はほとんどが大学などで有期の仕事が終わって応募された方です。

取材2016年10月