※ これは事実を元に構成したフィクションです。
特定社会保険労務士 松林 慎二
※これは掲載時点での情報です。雇用制度は法律改正に伴い、変更される場合があります。最新の情報を常に確認するようにしてください。
2017年3月 制作
マンガ解説
応募書類の適正な管理と案内
履歴書などの応募書類は個人情報にあたるため、個人情報保護法に基づき適正に取り扱うことが必要です。しかし、正しく取り扱っていても、応募者に不必要な不安を与え、トラブルに発展する場合があります。このマンガの場合、応募書類を返却しないことで応募者から紛失の疑いを向けられることとなりました。この問題点は「返却しないこと」ではありません。「シュレッダーにかけて破棄してしまったこと」でもありません。
個人情報保護法によれば、応募書類の取り扱いには、
・第三者の目に触れさせないこと
・目的外の利用をしないこと
・利用目的達成後は、返却または確実に破棄すること
が求められます。その点、採用活動という目的が終わって応募書類を破棄しているわけですから、返却しなくても管理として不適切だったとはいえないでしょう。
では、何が問題なのでしょうか。それは、返却しないことの説明を求人公募情報や面接時に怠っていたことです。応募者からすると、自分の応募書類がどのように扱われるかは全く分かりません。応募者によっては、応募書類から個人情報が漏れることを心配することもあります。このマンガでは何の案内もなく応募書類が処分されてしまったため、井上さんは不安を感じ、求人機関が適切な管理をしていないのではないかと不信感を持ってしまっています。そうならないためにも、事前の説明で求職者に納得してもらい、信頼してもらうことが必要です。
求人機関の順守ポイント
求人公募情報には、応募書類を「返却するか、しないか」、返却しない場合は「確実に破棄・削除する」旨を明記するように心がけてください。破棄する場合、それまで第三者(同じ機関でも、採用担当以外は第三者にあたります)の目に触れないよう厳重に管理したうえで、そのまま捨てるのではなくシュレッダーにかけて破棄する必要があります。ただ、応募書類の中には、手間や費用がかかる論文の別刷りや、高額な著書の場合もあります。破棄するかはケースに応じて慎重に判断してください。
返却する場合は、できるだけ速やかな返送が求められます。過去に1年半近く経ってから返送されたという事例があります。返送までに時間がかかりすぎると、その間何かに情報を利用していたのかと不信感を与えることになります。また、他の応募者の書類が送られてきたという事例もありますので、送付する際は宛先と内容物の照合をしっかり行ってください。
求職者の皆様へ
現状、JREC-IN Portalの求人公募情報の大半は、応募書類の返却を行っていません。JREC-IN Portalでは、返却しない場合の応募書類については確実な破棄を求人機関へお願いしています。応募書類を返却してほしい場合は、書類送付時または面接時に伝えることをお勧めします。専門家コメント
採用時の履歴書について、求人機関に保管義務があるのかという問題があります。労働基準法第109条では採用後の書類保管3年義務がありますが、採用選考時にはこの法律は該当しません。ただし、職業安定法指針「平成11年労働省告示第141号」の「第4(求職者等の個人情報の取扱い)」には、履歴書を含む個人情報の取り扱いについて採用活動を行う機関が遵守すべき点が数多く明記されています。
これによると、求人機関は個人情報の適正な管理により「収集目的に照らして保管する必要がなくなった個人情報を破棄又は削除するための措置」を講じるとともに、求職者等からの求めに応じ、当該措置の内容を説明する責任もあります。
応募書類を破棄、削除する場合は、求人機関が責任を持って破棄する旨を求人公募情報に記載し、面接時においても直接本人に廃棄する旨を説明することで、トラブルを防ぐことができます。
特定社会保険労務士 松林 慎二
用語解説
(e-Govウェブサイト「個人情報の保護に関する法律」 :
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=415AC0000000057)
(e-Govウェブサイト「労働基準法」 :
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=322AC0000000049)
(厚生労働省ウェブサイト「平成11年労働省告示第141号」 :
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/dl/saiyo1a.pdf)
※これは掲載時点での情報です。雇用制度は法律改正に伴い、変更される場合があります。最新の情報を常に確認するようにしてください。
2017年3月 制作