株式会社ユーグレナ 取締役 研究開発担当 鈴木健吾 氏

ミドリムシで食料、環境、エネルギー問題を解決したい

Q:どのような事業をされていますか。

A:当社はユーグレナ(和名ミドリムシ)という藻類を中心に活用し“人と地球を健康にする”ことを理念に、商品やサービスを提供しています。なお、ユーグレナは体長50μm程度で、葉緑体を使って光合成を行ない、鞭毛があって動きまわるという植物と動物の両方の性質を持っている藻の仲間です。

当社は、東京大学を中心とした長年にわたるユーグレナ研究開発の実績を生かし、代表取締役社長の出雲充と取締役マーケティング担当の福本拓元と私で、2005年8月に創業し、その4ヶ月後に沖縄県石垣島において、屋外大量培養に成功しました。

ユーグレナは、光合成によって二酸化炭素と水からエネルギー源である炭水化物を合成し、増殖します。この性質を利用して、複数の社会問題を解決することが我々の使命です。ひとつは食料問題。当社が食品用に培養しているユーグレナは、14種類のビタミン、9種類のミネラル、必須アミノ酸を含む18種類のアミノ酸、DHA、EPAを含む13種類の不飽和脂肪酸など59種類の栄養素を含み、高タンパクで高い栄養価を持った食品としての価値があります。当社は現在、培養したユーグレナを粉末化し、緑汁やサプリメント、クッキーなどの機能性食品や、ユーグレナエキスを使用したスキンケア化粧品を開発、販売しています。これらヘルスケア事業は当社の第一の事業として現在、収益の柱になっています。

2つ目は環境問題。培養するユーグレナの非常に高い光合成能力によって二酸化炭素を酸素に変換しますので、二酸化炭素削減による地球温暖化対策に寄与できます。

3つ目はエネルギー問題。当社は今、ユーグレナが持つ油分からバイオ燃料を精製する取り組みを進めています。現在、バイオ燃料の原料にはサトウキビやトウモロコシ、パームなど利用されていますが、これらの植物は耕作地において農作物と競合するため食料問題を引き起こしますが、農地を使わないユーグレナはこの課題を克服できる可能性があります。

Q:バイオ燃料をいすゞ自動車と共同開発しているそうですね。

A:両社でユーグレナ由来の次世代バイオディーゼル燃料の実用化に向けた共同研究契約を締結し、『DeuSEL®(デューゼル)プロジェクト』をスタートしています。また活動の第一歩として、ユーグレナから作られたバイオディーゼルを使用したいすゞの藤沢工場シャトルバスの定期運行を、今年の7月1日より開始しています。

また当社は、ジェット燃料の開発にも力を入れています。ユーグレナで飛行機を飛ばすことが目標です。


バイオリアクターによるユーグレナ(和名 ミドリムシ)の培養画像
バイオリアクターによるユーグレナ(和名 ミドリムシ)の培養

ホモロジーよりも多様性を重視した採用を行う

Q:まさに研究開発型バイオベンチャーですが、どのようなバックグラウンドを持った人材を採用されていますか。

A:バイオ系の修士、博士人材が多いですね。研究職のうち博士号を持っている人は3分の1程度、博士人材のうち新卒と中途の割合はおよそ半々です。“藻の研究をしている”ということは絶対条件ではなく、藻の研究に応用できるスキルがあることが重要ですので、ホモロジーよりも多様性を重視した採用をしています。例えば、植物や土壌細菌で土壌環境を浄化する研究をしていた方は、水の環境を浄化するという当社の研究テーマに通じるところがあり、採用の対象になります。まったく同じではなくとも、自分の研究テーマと想いを会社の研究テーマと思いに合致させられる。そういう志向の方こそ発見や発明をもたらしてくれると考えています。私たちは新しいサービスを世の中に提供しようとしているため、既成概念にとらわれない別の視点が必要なのです。


Q:バイオ領域以外でも採用はありますか?

A:例えば、流体力学を専門にする人の採用はあります。ユーグレナを屋外大量培養するには、ユーグレナを餌とするミジンコやプランクトンを発生させずにユーグレナだけが生育する環境を整えなくてはなりません。また、プールのなかで水と空気と培養液をいかに均一に混ぜられるかも重要です。大きな設備を作ってから上手くいかなかったでは損害が大きいので、設備を作る前にコンピューターで精度の高い流体シミュレーションをする必要があるのです。 また、遺伝子組換えのバックグラウンドを持っている方も今後、採用していきたいと思います。例えば油の原料となる特定の物質を体内で多く作るような遺伝子の操作ができれば、燃料生産効率が高まります。

石油精製に関しては石油会社と協業体制で行っており、これまで社内で専門家を採用することはありませんでしたが、今後はそうした企業の専門家と自由に技術的な話が出来る人材も必要だと考えています。

株式会社ユーグレナ 取締役 研究開発担当 鈴木健吾 氏

Q:採用に際して重視していることは?

A:“熱意”と“誠意”を持っているか。それが必要条件だと思っています。熱意を持っている研究者は多いと思います。その上で、誠意を持っている人とは、自分が何のためにこの研究テーマを与えられるか、何のために給料が払われるのかを、理解して行動することができます。私が採用活動を通じてよく話すのは、“やりたいこと”、“出来ること”、“社会から必要とされていること”の3つの輪が重なる部分が多い人は、自分の力を発揮しやすいということ。その3つを重ねようと考えられるかどうかが重要です。この3つ目の“社会”を“会社”に置き換えられると、給料が払われる仕組みも理解できます。

株式会社ユーグレナという小さなベンチャーになぜ来るのかを考えたら、「一緒に世界を変えたい」とか「新しい社会を構築したい」っていう想いを持っているからこそだと思うのです。そうした想いがうすい方、「自分はこの研究がしたい」という意向が強い方は安定した企業に行くことが多いのではないでしょうか。当社は、面白い未来のある研究を主体的にやれる会社ですので、そこに協働できる人に集まって欲しいと思っています。

博士の経験、能力、こだわりはビジネスドメインでも必要

株式会社ユーグレナ 取締役 研究開発担当 鈴木健吾 氏

Q:修士と博士、博士でも新卒とポスドクの方で、活躍の度合いは違いますか?

A:やはり博士は、自ら研究計画を立てられる所が強みですね。また自分の研究してきた経験からこう思うなど、独自の意見が出てきやすい。業界にも精通していたりして、研究計画の立案や考察に活用できたりしますので、非常に重宝します。新卒とポスドクの差は、あまり感じないですね。


Q:博士であるから良くないこともありますか?よくアカデミックで研究してきた期間が長いから、こだわりが強すぎて企業には向かないのではと言われたりしますが・・・

A:そのこだわりが、問題解決に向けてアプローチするという意識であれば、むしろ歓迎します。発想や仮説検証のプロセスは、ビジネスドメインでも、研究ドメインでも、合理的に理解できる柔軟性があれば変わらないと思います。博士は頑固になっているというイメージが世の中にはあるのかもしれないですが、それはその人の性格次第ですから。ただ私は、そういうステレオタイプに語られるような博士の人には、あまり会ったことがありません。

Q:入社してからどのような研修がありますか。

A:新卒には、会社とはどういうものかを知ってもらうために、3ヶ月の集合研修があります。研究職であっても営業研修を受けるなど、会社がどういう仕組みでお金を稼いでいて、研究職はどの部分の役割を担っているかを理解してもらう。

また配属後は最初の研究開発から、スキルアップのための演習などはせず、自分たちが手掛けようとして手をつけられていないテーマなど、会社にとって価値がある研究をしてもらいます。


Q:実践的ですね。将来的に「この分野をやりたい」と自ら提案してチャレンジできるような環境はありますか?

A:あります。偉いから主張が通るといった組織ではありませんので、その人のバックグラウンドがどうであれ、価値のある提案であれば真剣に考えましょうというスタンスです。

研究者がそのように手を挙げる場合、さきほどの3つの輪のうちの、“やりたいこと”で、“出来る見込みがある”と踏んでいるものを持ってくるので、さらにそれが“社会から必要とされている”のかを一緒に考えて、合理的であると判断できれば、当社として自信を持って研究テーマに加えます。3つの輪が重なる研究は非常に効率的に、加速していくケースが多いのです。


Q:最後に、これから就職を考えている博士人材の方に一言メッセージを。

A:まずは“自分が何をやりたいの”を明確に人に伝えられるようにしたら良いでしょう。同時に、現時点で自分が何をできるのかも合わせて考えたらいいと思います。それは今できることでも、将来できることでもいい。例えば将来、自分がどういう経験を積んで、どういう環境を整えて、どうやってやりたいことを実現していきたいか。そして大切なのはそれが社会に必要とされていることであること。「この研究を続けていくと5年後、こういうことが実現出来ると思いますよ」と。そう語れたらいいと思います。

取材2014年7月