株式会社シグマクシス ナレッジマネジメント部 ダイレクター 河津敬 氏

顧客とのコラボレーションで急成長する

Q:御社の事業概要について教えてください。

A:当社は2008年、三菱商事とRHJインターナショナル(元米投資ファンド リップルウッド・ホールディングス)が共同出資して設立した経営コンサルティング会社です。事業戦略の立案、M&Aなど、いわゆる戦略コンサルティングファームが担う領域から、業務改革、組織改革、システム導入など、一連の経営に携わる課題全般に対してワンストップでコンサルティングを提供しています。創業から6年が経ち、社員は400名を超え、昨年12月に東証マザーズに上場しました。今後はコンサルティング領域だけでなく、蓄積したノウハウを活かして新たな事業も立ち上げていく予定です。


Q:急成長されていますね。御社の強みや差別性はどこにありますか?

A:プロジェクトの成果が確認できるところまでやりきる、というところにあります。頼まれた領域をサービスとして請け負う、あるいはあるべき姿を提示して終わり、という形ではなく、成果を出すことにコミットしています。これは、ひとことで言えばコラボレーションの関係性でお客様とお付き合いするということです。そのひとつの典型例として、シグマクシスはコンサルティング業界では珍しい、成果報酬型契約の方式も導入しています。通常は、受注する時点でフィーを決めて契約し、狙った成果が出ても出なくてもお客様はそのフィーを支払う、という形ですが、成果報酬型は当初最低限度のフィーで開始し、成果が出たらその分多めのフィーをいただくという、ある意味リスクと成果を互いにシェアしてプロジェクトを進めていくものです 成果の測定が難しい戦略プロジェクトや組織再編プロジェクトなどの場合は、成果ではなく、お客様満足度評価に応じて最終的な請求金額を変動するということをしています。お客様の満足度が低ければ10%値引き、満足度が高ければ10%の上乗せをさせてくださいという形ですね。

株式会社シグマクシス ナレッジマネジメント部 ダイレクター 河津敬 氏

Q:それでは、本当は満足していても低く評価して値引きさせられませんか。

A:確かに、お客様からも、「わざと低い点数にすれば10%ディスカウントできるじゃないか」と驚かれます。しかし、そこはお互いの信頼です。われわれが一生懸命働いて本当に成果が出せたら、正当に評価いただけるものです。実際にほとんどのケースでよい評価を頂戴しています。お客様と一緒に価値を共有していこうという方向性を徹底する姿勢が大事なのです。

一般的にコンサルティング会社は、各分野の専門家がステップに応じて仕事を引き継いでいく“分業制”が多いですが、我々は案件の最初から最後までを見通して、戦略に強い人間、業務に強い人間、テクノロジーに強い人間を組みあわせてプロジェクトチームを組み、最初から最後までお客様とワンチームで伴走していくスタイルを取っています。そういう深く、長い関係性を築いていくことも弊社の特徴であり、評価頂いているところでもあります。

博士も修士も学士も横並び。採用の理念はダイバーシティ

Q:コンサルタントはみな経験者採用ですか?

A:未経験者も多数います。社員400名のうち約350名がコンサルタントであり、その約3分の1は新卒採用者です。

創業時から会社を拡大することを念頭において新卒採用を行ない、2010年に1期生が入社、毎年20名から40人の新卒採用をしています。

今年5期生が36名入社して研修中です。博士人財は毎年1名から2名入社しています。

Q:博士人財は計画的に採用されていますか?

A:全くしていません。私たちの人財採用の理念はダイバーシティが基本にあり、新卒採用に際しては学位、出身大学、国籍、性別など一切のスクリーニングは行ないません。ですから、博士人財を戦略的に採用することはないですし、逆に言えば門戸も閉ざしていません。公募に応募してきた方すべてをフラットに選考します。結果として、博士人財が修士や学士と一緒に入社しているということです。全体の約1割が博士、約3割が修士、約6割が学士ですね。当社では学士だろうと修士だろうと博士だろうと、また何歳であろうと、最初は最もジュニアなコンサルタントとしてスタートし、お客様から頂くフィーも全く同じ、すなわち最初の給料も全員同じです。手当もありません。そこからどう成長して自分のレベルを上げていくかは本人次第です。

採用基準は“物事を構造化して捉える力”と“コミュニケーション力”

Q:選考はどういった点を重視しているのでしょうか?

A:我々の事業への適性ですね。ひとつは物事を構造化して捉えることが出来るかどうか。ある現象の上位概念を考えて、そこから展開して広く多くの可能性を模索していく、というのがコンサルティングの重要な思考プロセスです。一つの思考の中で一つの論理展開、一対の因果関係だけで思考を完結させてしまうと、一見辻褄があっているようなのですが、別のところにある重要なものを見落としてしまう。最良の結果を導くには、論理を構造的に捉える思考力が重要なのです。

もう一つは何と言ってもサービス業ですから、お客様に対して誠実かつ信頼を持ってもらえるように接することができるかをどうか。コミュニケーション力を重要視します。

この2つの基準のうち、両方の素地があれば二重丸で採用します。ただそんなパーフェクトな人はそういるわけではないので、凹凸があってもよいですが、どちらかが秀でてなければ採用は難しいですね。

Q:博士は物事を構造化する力が長けているように思いますが、いかがですか。

A:極端ですね。理系の研究で仮説検証を繰り返す訓練がされていて、構造的な思考がきちんと訓練されている人は、少し話せばすぐに分かります。論理構造化力は他の学生よりしっかり構築されている。その思考の仕方をビジネスに適応していける人は成功しますね。一方、それが十分に身についていない人は、たとえ博士でも一本線でしか物事を語れないですし、「ほかの見方もあるんじゃないですか」という問いかけに対して反応できないですね。

コミュニケーション力については、最初はどちらかというと弱いという印象です。本人が優秀であるからでしょうか、人間関係を広くアグレッシブに築こうとするポテンシャルが強く感じられない。ただ、ちゃんと構造的な思考ができる人であれば、周囲とのコミュニケーションの取り方にも理屈があり、どうすれば相手との距離は詰まるのか、といったメカニズムを学んでいくと、コミュニケーション能力があがっていくように思います。ちなみに学部卒に多いパターンですが、構造的な思考が下手でも、コミュニケーション力が高い人は、訓練である程度構造的思考力を高めることができます。「あの人にとってもっとわかりやすく、なるほどねって言ってもらうためにはどういうストーリーが良いか考え見よう」とアプローチさせると、徐々に構造的に物事を考えるようになっていくのです。いずれも、トレーニング次第ということでしょうか。

自信と誇りを持って研究を突き詰めれば貴重な素質が身に付く

Q:博士人財で活躍されている方はいますか?

A:2010年に入社した女性は脳神経の研究をしていた生物学の博士です。11年に入社した男性も生物学の博士でした。この2人はすでに2段階のプロモーション(コンサルタントとしての昇格)をしていますが、これはとてもスピートが速いですね。当然プロモーションに伴って昇給もしています。


株式会社シグマクシス ナレッジマネジメント部 ダイレクター 河津敬 氏

Q:素晴らしいですね。最後に博士人財の方にメッセージをお願いします。

A:ご自身が今やっている研究に、自信と誇りを持ってもらいたいですね。それがこれから先の自分に役に立つとか立たないとか、就職に役に立つとか立たないとかでテーマを選んだり変えたりしているようでは、研究が究められるわけはないですし、研究の世界はもっと志が高いものであるはずです。

しかし、その延長線上で職に就けるかどうかはまた別の話です。コンサルティング会社で働くということは、研究してきた内容や知識がそのまま生きるということはまずありません。しかし、その一つの研究を究めていく課程で身につく方法論は、コンサルタントにとってとても貴重な素質です。

ですから、今現在研究者の身ならば、今やっている研究に誇りを持ってとことん突き詰めてやり切って欲しい。それが間違いなく自分の市場性を上げていくことになります。実際当社にいる博士は、研究を突き詰めた人ばかりです。尚且つ、その実績にまったく囚われていない。せっかく新しい世界に飛び込んできたのだから、自分より5つ年下の学部生と横並びであろうがゼロから頑張ります、という気持ちで臨める人が成長します。私たちが採用を躊躇するのは、「自分がやってきた研究はこれ、こういう経験をして、こういう知識を持っていて、それがコンサルティングという仕事にこういう理由で絶対活きると思います」というようなロジックを主張される人。視野が狭いと感じるのです。実際に、前者と後者では、私達のビジネスの世界では成長の仕方が大きく違います。そこを間違えないで頂きたいですね。

新卒で就職した社員からのメッセージ

入社してしばらくは戸惑いしかない日々でした。周りの人の考え方とか価値基準が、それまでいた世界と全然違いました。話が通じないんです。理学部大学院という特殊な世界に居すぎたせいかもしれませんが、私には社会の一般常識がなかったのだと思います。それまでは時間を気にせず、心ゆくまで研究すればいいという状況で、必要な時に必要なだけ話をすればよかった。ある意味で合理的でしたが、社会や会社の人間関係は、そこまで合理的なものではないですね。相手の感情など、いろいろ配慮して話さなければ通じない。しかし、その方法論がわからなかったのです。

ただ、その問題は仕事をするなかで次第に克服されていきました。最初に携わったプロジェクトが開発会社24社を束ねてシステムを導入するもので、私は調整をする役割でした。嫌が応にも非常に多くの人と付き合わなければならなかったので、その仕事の中で必然的に身に付きました。

経営コンサルティングの仕事をして感じることは、大学院で研究した内容が使えるわけではありませんが、研究の中で培われたアプローチや思考法が適用できる領域が、おそらく他の職業よりも広いということです。あえて同期と比べて私に強みがあるとすれば、数理的な背景があるものに対してキャッチアップするスピードですね。圧倒的に早いと思います。

経営コンサルタントに限らず、博士に対する需要は確実に高まっていると思います。私は2社しか受けていませんが、門前払いのような扱いは受けませんでした。博士だから就職できないということは、昔ほどはないと思います。ただ一つアドバイスするならば、本気で就職したいと思うのであれば、社会については無知な人間なのだから、そこは無知なものだと開き直ること。謙虚に一から学び直すつもりでやれば、最初の1、2年は大変だと思いますが、だんだん自分の戦い方がわかってくる。そうなれば今まで培ってきたものがぐっと生きてきます。もっと民間への就職をポジティブに考えてもいいと思います。

アシスタントマネージャー 戦略コンサルティング
畔柳 智明 氏
博士(理学)

アシスタントマネージャー 戦略コンサルティング 畔柳智明 氏 博士(理学)

取材2014年7月