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民間企業インタビューInterview

応用研究と基礎研究を行き来できる人材に期待

10年先の自分を想像して
会社とWin-Winの関係を築く。

エディットフォース株式会社

代表取締役社長
中村 崇裕 氏 博士(理学)

研究開発部門 基盤開発部 1課(DNA) 課長
倉田 哲也 氏  氏 博士(地球環境科学)

福岡県福岡市でゲノム編集事業を展開するエディットフォース社が求めるのは、専門性だけではなく、5年後、10年後のビジョンを描け、それが会社の方向性と一致する人材。代表取締役社長の中村氏は、就職を考える博士人材に「40代で何をしたいかを基準にキャリアを築いてほしい」とアドバイスを送ります。一方、研究開発部門で勤務する倉田氏は、自分の業務がダイレクトに成長につながる、ベンチャー企業ならではの魅力を語ってくれました。

世界に先駆けて
確立した独自技術を展開する
バイオベンチャー

— 事業概要についてお聞かせください。
中村:当社は九州大学発のバイオベンチャーです。創業は2015年。「New Tools Lead to a New World」をビジョンに掲げ、ゲノム編集の技術をもとにした各産業への展開を行なっています。ゲノム編集とは、ゲノム中の特定の遺伝子を破壊(ノックアウト)したり、外来遺伝子を狙った位置に導入(ノックイン)したりする技術のことで、この技術によって、迅速かつ効率のよい遺伝子改変が可能となります。
当社のゲノム編集事業の特徴は、当社が世界に先駆けて確立したPPR(Pentatricopeptide repeat)技術を用いている点です。この編集技術を利用することで、DNAを標的としたゲノム編集だけでなく、RNAを標的とした新しい編集技術のためのさまざまなツールを開発、提供することが可能となりました。

— 展開の事例としてはどのようなものがあるのでしょうか。
中村:メディカル、アグリ、ケミカルなどさまざまな分野に対応しています。当社の技術を使えば、品種改良の期間を5分の1から10分の1程度まで短縮することができます。これにより、中間コストの削減やマーケットのニーズに合わせた製品を迅速に市場に提供することが可能となります。農作物であれば、これまで品種改良に数十年単位かかっていた品種でも10年程度で改良できるようになりますし、創薬であれば、これまでマウスなどで行なっていた実験を、よりヒトに近い霊長類で行えるので、ドロップアウト率を大幅に削減することが可能となります。アレルゲンを除いた農作物をつくることもできますし、天然の魚類を牛や豚のように家畜化することもできる。産業の適用範囲はかなり広いと思います。

JREC-IN Portal は
Win-Winの関係を築ける人材を
見つけやすい

— 貴社において必要とされるのはどのような人材でしょうか︖
中村:基盤となる技術は確立されていますが、前述の通り、適用範囲が広く、それぞれのオーダーにおける運用上の改良が必要になるので、応用研究に限らず、基礎研究ができる人材も必要です。
採用に際しては、面接でプレゼンをしてもらうのですが、その内容よりも、質問が出たときに会話のキャッチボールが成立するかどうかを重視しています。それから、その人が自分のキャリアパスをどのように考えているのか。直近2年程度で即時的に必要なプロフェッショナルスキルを持っていたとしても、それだけでは雇用に至らないことも多いです。それよりも、5年後、10年後になにをしていたいのか。それが会社の目指す方向と合致していて、Win-Winの関係でお付き合いできるかどうかという点を重視しています。マネジメントに関わる可能性も高いので、実験に没頭して売上に興味を持てないようなタイプは向いていないかもしれません。
あとは思考を閉ざさないことですね。相手が予期しないことを言ってきたとしても、拒絶せずにレスポンスしようとしてくれる人材は、たとえそれまで就職経験がなかったとしても、企業でうまくやっていけると思います。
私が思う、企業における研究と大学における研究の違いは、「損益分岐点を超えているかどうか」です。投資した資金に対して順調に成長しているかどうか。当社の社員にはその視点を持っていてほしいと思います。自分がいま携わっている研究に対して、誰が投資をしてくれているのか、すなわち誰に利益を還元しなければいけないのか、という感覚は持っていてほしいですね。

— JREC-IN Portalを使って採用活動をされた理由は︖
中村:まず、このサイトを見に来る人は研究開発系の人材であるというフィルターがかかるので、求める人材像がマッチしやすいという点ですね。私たちが求める人材の母集団がすでに形成されているというのは大きなメリットです。民間の求人サイトやヘッドハンティング型の求人も行なっていますが、求める人材の範囲からはみ出てしまい、費用対効果が高くないことも多いですから、JREC-IN Portalのシステムはとてもありがたいですね。

クリエイティビティを発揮するためのキャリアを形成してほしい

— ベンチャー企業で働くことの醍醐味はどんな点でしょうか︖
中村:私はよく就職活動をしている方に「株価で考えてみてほしい」とアドバイスしています。株価が高い大企業に就職するということは、安定はするけれどそこからの飛躍はあまり見込めないということ。一方、ベンチャー企業に代表される、まだ株価が安い企業であれば、企業の成長に合わせて自分も成長していける可能性があるということ。例えるなら、ブランド品がほしいのか、自分の好きなものをガレージから探し出したいのか。これはパーソナリティの問題だと思いますので、無理をして自分のパーソナリティと合わない方向には行かない方がいいよ、という話はよくしますね。

— ポスドクの皆さんにメッセージをお願いします。
中村:自分が40代になったときになにをしていたいかで、今やるべきことを決めるべき、ということでしょうか。私が褒めるときによく使うのは「ハードワーキング」「プロダクティブ」そして「クリエイティブ」という言葉。ハードワーキングは学部時代の手を動かす研究に対して使います。プロダクティブは博士・ポスドク時代、ラボというシステムのなかでいかに生産性を確保できるか。クリエイティブは、40代になって自分でチームを持って業務を回すときに必要な素養です。ポスドクの皆さんには、40代になったときにクリエイティビティを発揮できることを目指してキャリアを形成してほしいですね。

— 40代になる前にクリエイティビティを発揮したい人はどうすればよいでしょうか。
中村:それは、ベンチャー企業で活躍することでしょうね。当社では、基本的に博士研究員は自分で手を動かしません。それは、会社の価値を高めるために、より高いクリエイティビティを発揮してもらうことを求めているからです。

節目ごとに
JREC-IN Portal を利用して
キャリアを形成してきた

— ここからは倉田様にお話をお聞きしたいと思います。まず、専攻されていた研究と、現在の業務の親和性についてお聞かせいただけますか︖
倉田:私が研究していたのは植物生理学です。なかでも植物の成長過程におけるメカニズムを調べるというベーシックな研究でした。そこでは植物に刺激を与えたときの成長を見るといった研究だけではなく、分子生理学的な要素や遺伝子工学的な要素も取り入れており、当社のゲノム編集事業との親和性はかなり高かったと思います。

— JREC-IN Portalを利用された経緯について教えてください。
倉田:このサービスが始まった直後、今から12〜3年前くらいから利用させていただいています。大学院修了後から日本学術振興会、理化学研究所、科学技術振興機構(JST)を経て大学に戻り、当社に入社したのですが、その間ずっと、次のキャリアを検討するタイミングでJREC-IN Portalを利用していました。 当社に応募したときには、アカデミアのポストだけではなく民間企業にも幅を広げてみようと思ったタイミングでした。その条件で検索をかけたところ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトがヒットし、その研究員に当社代表の中村が名を連ねていたんです。それを見て当社にコンタクトし、書類審査と面接を経て採用された次第です。

— それまでのアカデミアにおけるキャリアから民間企業に移ることを決めた理由は︖
倉田:いろいろな職種・形態を視野に入れて、日本のなかで研究開発ができるところ、しかもバックグラウンドを含めて親和性のあるところという条件から選んでみようと思ったのがきっかけですね。それから、アカデミアの採用条件は「准教授1名」のようなその分野のトップ、オンリーワンでないと応募できないといった求人も多かったのですが、民間企業を検索してみると、「若干名」といった単位での募集が多かったので、それも大きな理由でした。

価値を創造する仕事をして、
会社と自分を成長させていきたい

— 研究開発型ベンチャー企業で働くことの面白みや醍醐味についてお聞かせください。
倉田:「確立されていないという点でしょうか。1を100に伸ばす、100倍の価値をつくり出すという業務成果の振れ幅が魅力だと思います。それから、研究開発にどっぷり浸かるという環境ではない点。アカデミアや大きな企業だと、ひとつのセクションに入ると他のセクションと接触する機会は少なくなってしまいます。一方ベンチャー企業の場合は組織がコンパクトなので、営業や経営セクションの人たちと日常的に接して、その人たちの考え方や生き方を知ることができます。それは自分を成長させる上でとても大きいと思います。実は入社の際に、中村社長から「いきなり研究開発に入らなくてもいいよ」と言われたんです。営業や管理などのセクションをひと通り見て、最終的には自分で決めてもらえれば、と。このように多様な価値観を知ることができる環境は、まさにベンチャー企業ならではだと思います。
それから、アカデミアのポジションは最近、任期制が多いですから、「ここで終わり」というピリオドがあります。一方企業では、終わるか終わらないかは自分たち次第。自分がやったことがダイレクトに結果として戻ってくるので、大きなやりがいを感じられます。

— 入社して、それまでとギャップを感じたことはありますか︖
倉田:一番はスピード感ですね。圧倒的に早いです。ゲノム編集をさまざまな分野で活用するという大目標はあるのですが、そこに向かってステップを踏んでいく過程において、次のステップに進むスパンが非常に早い。結果が出たらすぐに次、という感覚です。
一方で、日々の業務では、思っていたより基礎研究の要素が高かったですね。企業ではもう少しやることが固定化していて、ルーチン作業をこなす業務が多いのではないかと思っていたのですが、必ずしもそうではなく、自分たちでアイディアを出して、新たなものを積み上げるクリエイティビティを要求されることも多いんです。それはいい意味で思っていたのと違いましたね。就職前はもっと淡々とした日々が待っているのかと覚悟していたのですが、そんなことはなく、エキサイティングな毎日を過ごしています。

— 今後の展望についてお聞かせください。
倉田:現状はまだ伸びしろに期待されていると思います。如何に自分の業務をビジネスとして成立させられるか、まずはその積み重ねですね。その先、このまま研究開発のセクションにいるのか、別のセクションに移るのかはわかりませんが、会社である以上、新たな社会的価値をつくり出して、投資してくれた方々には当然ですが、さらには社会に対し還元していかないといけませんので、そこに貢献していきたいと思います。