論証探しの基礎

2-1論証とは何か

このレッスンでは、クリティカル・リーディングを身につけるために、論理的な探求の方法として「論証」の探し方を学びます。文章をクリティカルに読み解くためには、文章と文章、文と文、語句と語句の意味上の関係性に注目して読む必要があります。そのために役立つのが「論証」という考え方です。ここでは「論証」を「何らかの理由をもとに、何らかの結論を出すこと」と定義します。(ここでは、結論を「最終的にまとめた著者の考え」という一般的な意味で使用しています。レッスン1で説明した論文の項目名の“結論”とは異なりますので注意してください。)

科学論文では、実験や調査から得られたデータに基づき、著者が主張したり結論を導いたりします。このようにデータを理由として、そこから主張(結論)を導くことを論証といいます。科学論文をクリティカルに読むためは、著者がデータなどを基にどのように論証し、主張するに至ったのかを読み取ることが必要なのです。論文全体で正しく論証がなされていなければなりませんが、個々の文章の中でも論証が行われていますので、それらのひとつひとつが論理的に正しいかどうか、細部まで吟味しながら読み進める必要があります。

例文1、例文2は、論証が成立している例です。

例文1
ダイヤモンドは、最も硬い物質だ。だから、強力な研磨剤として利用することができる。

例文1は「ダイヤモンドは、最も硬い物質」であることを理由に、「強力な研磨剤として利用できる。」と主張しています。観察に基づく事実を理由として主張しているので、この文章の論証は成立しています。

例文2
最新の研究成果は英語論文誌に発表されることが多い。だから、英語論文を積極的に読むべきだ。

また、例文2も経験的な事実を理由として主張をしていますから、論証は成立しています。「最新の研究成果は英語論文誌に発表される」という理由が本当であれば、「英語論文を積極的に読むべきだ」という主張も正しいといえます。

文章によっては、何かを主張しているように見えても、論証が成立していない場合もあるので、クリティカルに注意して読むことが必要です。

例文3
論文の投稿数は急速に増加している。また、論文の査読を行える研究者も限られている。投稿する論文は一般の人々に分かりやすく執筆する必要がある。

上の例文3は、一般の人々に分かりやすく執筆する必要があることの理由として、論文の投稿数が増えていること、査読を行える研究者が限られていることを述べていますが、よく考えてみると、投稿数が増加していることや査読者が限られていることから、一般の人に分かりやすく書くことは導き出されません。例文1や例文2と違って、理由と主張の間に直接には関係が無いので、例文3は論証が成立していません。

イギリスの分析哲学者トゥールミンの紹介画像 イギリスの分析哲学者トゥールミン

こうした論証のような表現は、実際の論文の中にも数多く登場しますが、書かれた文章をただ何となく読んでいるだけでは論証が成立していないことに気づかずに見過ごしてしまうことがあります。そこで、このレッスンでは、イギリスの分析哲学者トゥールミンが考案した「論証モデル」を紹介します。

トゥールミンは詳細で丁寧な議論を展開するには、6つの構成要素を含む論証が必要だと述べましたが、このレッスンでは科学論文の読解に大切な基本の3要素について説明します。1つ目は「主張(結論)」で、著者が最も伝えたい事柄です。2つ目はその主張を支える事実や証拠である「根拠」、3つ目は主張と根拠のつながりを保証する「論拠」です。(その他の3要素については用語集に簡単な説明があります。)今読んでいる文章に、論証モデルの各要素が含まれていることを確かめることで、正しく論証されている文章かどうかを見極めることができ、書かれている論理展開や推論を自分自身で評価しながら読むことができます。

*注) 例文には科学的事実でない記述が含まれていることがあります。