パラグラフ構造の読解

4-4論文読解のまとめ(その1)

実際の論文は、完全な形のパラグラフ構造で書かれているとは限りません。著者がパラグラフ構造を守らずに書いている場合もあります。そのような場合は、文章の論証を確かめながら、パラグラフ構造に書き直して読んでみると、論証が把握しやすくなります。論文を読むときには、まず“序文”に注目して、論文全体の概略を把握すると効率よく読むことができます。

例文5は、実際の論文の序文を抜き出して、先行研究に関する記述等を省略した文章です。この例文のパラグラフがどのような構造となっているかを確かめてみましょう。

例文5
この研究の最終目的は、高速でしかも安定に歩行できるホッピングロボットの開発にある。この様な歩行ロボットが完成すれば、歩行ロボットの応用範囲が広がるものと考えられる。しかし、現状で我々が試作できているロボットは大きさ、重量のわりにアクチュエータの出力が小さく、ホッピングによる歩行は難しい。そこで、本論文の目的はホッピング動作の元になる脚の跳躍動作パターンを決定するために、遺伝子的アルゴリズムを用いて解の探索を行い、現状で試作できているロボットに歩行の一連の動作を行わせることである。
ホッピングロボットの脚数は、1脚、2脚、3脚、4脚などが考えられる。脚の本数が少ないと、接地部の面積を大きくするか、安定化制御を行わないと、転倒してしまう。脚の本数を増やせば増やすほど安定になるが、安定となる最小の脚の本数が3脚である。そこで本研究では3脚ロボットについての実験、解析を行うことにした。
転倒し難さの面では、脚の面積を無視すると1脚、2脚では不安定、3脚では静止時には安定、脚の振り出し時には不安定となる。4脚以上では常に安定となる。以上の点から転倒しにくさの面では不利であるものの、質量低減と歩行ステップに関しては3脚が有利な点が考えられる。そこで、ここで述べるような三足歩行ロボットの開発を行った。
本研究で試作した様な軸対象構造の三足で歩行する生物は存在しないので歩行方法の決定が困難であった。そこでこの三足歩行ロボットの制御に遺伝的アルゴリズムを取り入れ、脚の伸縮方法を決定した。従来の遺伝的アルゴリズムはコンピュータで用いる2進数をそのまま用い、何ビットかのビット列を用いて、最適化対象に適用していた。本研究で提案する遺伝子の表現法は、適用対象の量子化の大きさに合わせたn進数に変換することにより、柔軟な遺伝子のコーディングが可能となった。 入江寿弘・広瀬武志・伊藤堅,
「遺伝的アルゴリズムを用いた三足歩行ロボットの研究」,『日本計算工学会論文集』(日本計算工学会),2000年
より(一部省略)

この例文の理解のために、最初にいくつかの用語の意味を簡単に説明しておきます。「ホッピングロボット」とは「跳躍して移動するロボット」のこと、「アクチュエータ」とは「電気エネルギーを運動に変換する装置」のこと、「遺伝的アルゴリズム」は「生物進化の過程を模して最適解を探索するアルゴリズム」のことです。

この例文では、最初の段落の冒頭で「この研究の目的は、高速でしかも安定に歩行できるホッピングロボットの開発にある」と書いてありますので、この部分が導入パラグラフとなっていると考えて良さそうです。続く、3つの段落のうち、最初の2つは三足歩行ロボットを研究することの根拠を示しています。そして、次の段落で三足歩行ロボットの制御を行う方法について述べています。これらの部分が本体パラグラフとなります。そして、結論パラグラフにあたる文章は省略されているようです。

(1)導入パラグラフ

この研究の最終目的は、高速でしかも安定に歩行できるホッピングロボットの開発にある。この様な歩行ロボットが完成すれば、歩行ロボットの応用範囲が広がるものと考えられる。しかし、現状で我々が試作できているロボットは大きさ、重量のわりにアクチュエータの出力が小さく、ホッピングによる歩行は難しい。そこで、本論文の目的はホッピング動作の元になる脚の跳躍パターンを決定するために、遺伝子的アルゴリズムを用いて解の探索を行い、現状で試作できているロボットに歩行の一連の動作を行わせることである。

(2)本体パラグラフ

ホッピングロボットの脚数は、1脚、2脚、3脚、4脚などが考えられる。脚の本数が少ないと、接地部の面積を大きくするか、安定化制御を行わないと、転倒してしまう。脚の本数を増やせば増やすほど安定になるが、安定となる最小の脚の本数が3脚である。そこで本研究では3脚ロボットについての実験、解析を行うことになった。

転倒し難さの面では、脚の面積を無視すると1脚、2脚では不安定、3脚では静止時には安定、脚の振り出し時には不安定となる。4脚以上では常に安定となる。以上の点から転倒し難さの面では不利であるものの、質量低減と歩行ステップに関しては3脚が有利な点が考えられる。そこで、ここで述べるような三足歩行ロボットの開発を行った。

本研究で試作した様な軸対象構造の三足で歩行する生物は存在しないので歩行方法の決定が困難であった。そこでこの三足歩行ロボットの制御に遺伝的アルゴリズムを取り入れ、脚の伸縮方法を決定した。従来の遺伝的アルゴリズムはコンピュータで用いる2進数をそのまま用い、何ビットかのビット列を用いて、最適化対象に適用していた。本研究で提案する遺伝子の表現法は、適用対象の量子化の大きさに合わせたn進数に変換することにより、柔軟な遺伝子のコーディングが可能となった。

次の画面では、この例文の各パラグラフの論証を確かめながら書き直してみます。

*注) 例文には科学的事実でない記述が含まれていることがあります。