演繹的論証と帰納的論証

3-3帰納的論証の使われ方

ここでは、帰納的論証について説明します。

帰納的論証では、ある根拠から出発し、根拠に含まれていない内容を推測して主張を導き出します。そのため、その結論が必ずしも正しいとはいえなくとも、新しい情報が加わる点が演繹的論証と異なります。論証の根拠の提示や主張の導き出し方を飛躍させ過ぎないように注意が必要ですが、論証の構造を考慮して推論を進めれば根拠の中に含まれていないことを主張として提示することができます。

帰納的論証 ⇒
必ずしも正しいとはいえないが、根拠の中に含まれていない主張を提示することができる
例文5
コオロギは胸部に三節の体節と三対の付属肢を有する。(根拠①)
ハンミョウは胸部に三節の体節と三対の付属肢を有する。(根拠②)
アゲハチョウは胸部に三節の体節と三対の付属肢を有する。(根拠③)
だから、昆虫は胸部に三節の体節と三対の付属肢を有するに違いない。(主張)
例文6
キリンは7つの頸椎を持つ。(根拠①)
トラは7つの頸椎を持つ。(根拠②)
ヒトは7つの頸椎を持つ。(根拠③)
だから、すべての哺乳類は7つの頸椎を持つに違いない。(主張)

例文5と例文6を見てください。どちらの例も複数の根拠を示して主張を導出しています。例文5には「コオロギ、ハンミョウ、アゲハチョウは昆虫である」「三節の体節と三対の付属肢を持たない昆虫は発見されていない」という論拠が、例文6にも「キリン、トラ、ヒトは哺乳類である」「7つ以外の頸椎を持つ哺乳類は発見されていない」という論拠が隠れています。そしてどちらも、根拠には含まれない新しい事柄を主張しています。例外が見つからなければ、この論証はおそらく正しいといえるでしょう。しかし、実際にはナマケモノの仲間には6つの頸椎を持つものや、9つの頸椎を持つものが見つかっていて、「7つ以外の頸椎を持つ哺乳類は発見されていない」という論拠は間違いということになります。例文6は、論拠が間違っているのですから根拠と主張の関係は保証されません。

論証が成立していても、誤った内容の主張が導出されることを防げるわけではないということです。例文6のように、根拠が正しく、論証の構造が正しくても、論拠が誤っていれば根拠と主張の関係は保証されないので、主張が誤っているかもしれないと疑ってみるべきです。

*注) 例文には科学的事実でない記述が含まれていることがあります。