パラグラフ構造の読解

4-5論文読解のまとめ(その2)

それでは、パラグラフごとにこの文章を点検していきます。

(1)導入パラグラフ

①この研究の最終目的は、高速でしかも安定に歩行できるホッピングロボットの開発にある。②この様な歩行ロボットが完成すれば、歩行ロボットの応用範囲が広がるものと考えられる。③しかし、現状で我々が試作できているロボットは大きさ、重量のわりにアクチュエータの出力が小さく、ホッピングによる歩行は難しい。④そこで、本論文の目的はホッピング動作の元になる脚の跳躍動作パターンを決定するために、遺伝子的アルゴリズムを用いて解の探索を行い、現状で試作できているロボットに歩行の一連の動作を行わせることである。

著者は、冒頭の①で「目的は、高速で安定に歩行できるホッピングロボットを開発すること」と主張しており、これがこの論文全体を通して著者が主張したいことです。②と③では、その目標を掲げる根拠として、「完成すれば歩行ロボットの応用範囲が広がる」ことと、「現状ではホッピングによる歩行は難しい」ことを示していて、この2つの文がSSです。そして、④でTSの内容を「目的は、遺伝子的アルゴリズムを用いて、現状で試作できているロボットに歩行動作を行わせること」と具体的に言い換えており、この部分がCSとなります。導入パラグラフは、パラグラフ構造をベースに書かれています。②に明示されていない論拠も書き加えるとこのように書き直せます。

(1)導入パラグラフ(改変)

TS:研究の最終目的は、高速でしかも安定に歩行できるホッピングロボットの開発である。

SS1:この様な歩行ロボットが完成すれば、歩行ロボットの応用範囲が広がる。
跳躍して高速で歩行できるロボットは、歩行するだけのロボットより目的地に速く移動できるから。(SS1の論拠)

SS2:現状で試作できるロボットはホッピングによる歩行は難しい。
大きさ、重量のわりにアクチュエータの出力が小さいから。

CS:本論文の目的はホッピング動作の元になる脚の跳躍動作パターンを決定するために、遺伝子的アルゴリズムを用いて解の探索を行い、現状で試作できているロボットに歩行の一連の動作を行わせることである。

次に本体パラグラフ1と本体パラグラフ2について見てみます。

(2)本体パラグラフ

⑤ホッピングロボットの脚数は、1脚、2脚、3脚、4脚などが考えられる。⑥脚の本数が少ないと、接地部の面積を大きくするか、安定化制御を行わないと、転倒してしまう。⑦脚の本数を増やせば増やすほど安定になるが、安定となる最小の脚の本数が3脚である。⑧そこで本研究では3脚ロボットについての実験、解析を行うことにした。

⑨転倒し難さの面では、脚の面積を無視すると1脚、2脚では不安定、3脚では静止時には安定、脚の振り出し時には不安定となる。⑩4脚以上では常に安定となる。⑪以上の点から転倒しにくさの面では不利であるものの、質量低減と歩行ステップに関しては3脚が有利な点が考えられる。⑫そこで、ここで述べるような三足歩行ロボットの開発を行った。

この2つの文章は、いずれも歩行ロボットの脚の数について書かれています。前半の内容の理由が後半に書かれていて、いずれもTSにあたる文が冒頭にはありません。実際の論文では、このようなパラグラフに出会うことがありますので、パラグラフ構造のルールに従って書き直してみます。

⑧から、「3脚ロボットについての実験、解析を行う」という主張を取り出して、TSとして先頭に置きます。⑥⑦⑨⑩⑪は3脚のロボットを研究する根拠を具体的に説明した文章でSSにあたります。⑦は3脚を研究することを述べていて、⑥⑨⑩⑪はそうする理由を説明しています。ですから、キーワードである「3脚」を先頭に出して、主張と根拠が分かりやすいように少し大胆に書き直してみます。最後にCSとして⑫を追加するとこのようになります。

(2)本体パラグラフ1(改変)

TS:3脚ロボットについての実験、解析を行う。

SS1:3脚は、安定となる最小の脚の本数だ。
1脚、2脚は静止時も動作時も不安定で転倒しやすいから。
3脚は、静止時は安定で転倒し難いから。

SS2:3脚は、動作時は4脚以上より転倒し難さの面では不利だ。
3脚は脚の振り出し時には不安定になるから。

SS3:3脚は4脚より高速な歩行に向いている。
脚数が少ないと、質量が低減でき、ステップ数も減らせるため。

CS:三足歩行ロボットの開発を行った。

最後の段落は、前の段落とは関連のない「脚の伸縮方法の決め方」について述べていて、研究の内容に関連はありますが、それまでとは異なる話題について述べています。

⑬本研究で試作した様な軸対象構造の三足で歩行する生物は存在しないので歩行方法の決定が困難であった。⑭そこでこの三足歩行ロボットの制御に遺伝的アルゴリズムを取り入れ、脚の伸縮方法を決定した。⑮従来の遺伝的アルゴリズムはコンピュータで用いる2進数をそのまま用い、何ビットかのビット列を用いて、最適化対象に適用していた。⑯本研究で提案する遺伝子の表現法は、適用対象の量子化の大きさに合わせたn進数に変換することにより、柔軟な遺伝子のコーディングが可能となった。

そこで、パラグラフを変えて、ロボットの脚の制御方法に関する独立したパラグラフとして下のように整理して書き直してみます。

(3)本体パラグラフ2(改変)

TS:本研究では遺伝的アルゴリズムを取り入れて、三足歩行ロボットの脚の伸縮方法を決定した。

SS1:歩行方法の決定が困難だったから。
なぜなら、試作した様な軸対象構造の三足で歩行する生物は存在しないから。(SS1の論拠)

SS2:適用対象の量子化の大きさに合わせたn進数に変換する遺伝子の表現法を用いるから。
なぜなら、適用対象が三足で従来の2進数を用いた遺伝子の表現法は適用できないから。(SS2の論拠)

著者が重要と考えて序文に記述した内容が把握でき、この先、どの点に着目して読み進めれば良いか目星をつけることができました。

パラグラフ構造をベースに、論証が明確になるように書き直してみると、その論文で著者が伝えたい主張が把握しやすくなります。また、TSの部分をつなげて通して読んでみると、著者がこの論文で書きたいことを効率よく把握することができるのです。

なお、この論文は、総合電子ジャーナルプラットフォーム「J-STAGE」で全文が公開されています。下記のURLにアクセスして全文を閲覧することができます。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsces/2000/0/2000_0_20000032/_article/-char/ja/

いかがでしたか。これで、本コースは終了です。本コースでは、最も重要と思われる基礎的な内容に絞って、科学論文をクリティカルに読むときに基本となる態度、論理的な探求や推論が行われているかを見極めるための知識について学び、その知識を例文に対して適用するスキルの練習をしました。このコースで紹介したクリティカル・リーディングに興味を持ったら、是非、参考文献として紹介した各書籍を読んで、より深く学んで欲しいと思います。そして、数多くの論文を効率よく、クリティカルに読み込んで、あなたの研究をより充実したものにするように取り組んでください。<了>

*注) 例文には科学的事実でない記述が含まれていることがあります。