論証探しの基礎

2-4根拠と主張の関係を保証する論拠

実験や観察で得られた経験的事実を根拠としていても、それが主張に対して論理的に結びついていることが必要です。主張に対して、根拠を示す際に、「その根拠から、どうしてその主張が成立するのですか」という質問に答える理由を、トゥールミンの論証モデルでは「論拠」といいます。

例文8
平成25年の日本国内の航空事故発生件数は11件で、道路交通事故発生件数は629,021件とはるかに多かった。だから、自動車を運転するより飛行機を使った方が安全である。
イラスト

例文8では、「自動車を運転するより飛行機を使った方が安全だ」が主張で、「道路交通事故発生件数のほうがはるかに多い」が根拠です。この場合、なぜ事故発生件数が少ないと安全だといえるのでしょうか。ここには、「事故発生件数は安全性の基準の1つだから」や「事故発生件数が少なければ、事故に遭いにくいはずだ」という「論拠」が隠れていることが推測できます。つまり、「根拠、だから主張、なぜなら論拠」という関係です。明示的には示されていなくとも、論拠がないと論証は成立しません。

根拠も論拠も、広い意味では主張を支える理由といえますが、トゥールミンの論証モデルではこの2つは明確に区別されています。根拠は、主張を導くための直接的な支えと位置づけられています。一方、論拠は、根拠から主張を導くときに、その導出に無理がなく、かつ両者の関係が正しいものであることを保証する役割を果たします。論拠は暗黙の仮定や隠れた前提である場合もありますので、すべての論証で必ずしも明示的ではありません。

例文9
オックスフォード大学の研究者が「今後10年で約50%の仕事がコンピュータによって自動化される可能性がある」という予測を発表した。だから、子供たちは今までとは違うスキルを学ぶ必要がある。なぜなら、今までと同じスキルを学んでも仕事がなくなる可能性があるからだ。

例文9の場合、「子供たちは今までとは違うスキルを身につける必要がある」という主張の根拠として、「今後10年で約50%の仕事がコンピュータによって自動化される可能性がある」という予測を挙げています。そして、それらを支える論拠を「今までと同じスキルを学んでも仕事がなくなる可能性がある」と示しています。この例文では、論拠にはこのほかにも、「今はまだ無い新しい仕事が生まれるかもしれない」や、「コンピュータで自動化する仕事は増えそうだ」など、複数推定できます。論拠が複数考えられれば、それだけ主張と根拠を強く支えることができます。

私たちが日常目にする文章には、論証の論拠が明示的に書かれていないこともあります。それはその論拠が、あらためて書くまでもないほど当然のことであることが多いからです。科学論文の場合は、ある理論モデルが論拠となっているのなら、そのことが序文に書かれています。

*注) 例文には科学的事実でない記述が含まれていることがあります。